森の中で:D
「おい!今直ぐ隠れろ!ばあさんがそっちに向かってる!」
海斗が放ったその言葉は今の二人には何よりもの恐怖であった。
「隠れろって言ったって隠れる場所なんて無いぞ?」
「仕方ない、空、俺にいい作戦がある。あの婦人が扉を開けたその隙に外に出るんだ」
「それでいくか」
ヘンリーの提案に頷き二人はドアの近くに隠れた。
それからしばらくして老婆はドアを開け部屋に入って来た。
ヘンリーが一度ハンドサインを送ると二人はドアが閉まる前にその場から逃げ出した。
「危なかった。ナイス判断だヘンリー」
「どうもだ」
額に汗を滲ませた二人は海斗の元へと戻って来た。
「よく戻って来れたな。大丈夫だったか?」
「まあな」
「大変だったところ悪いが、あの扉の向こうで何があったんだ?」
空とヘンリーは自分が見た物を写真とともに説明した。
「ってことは俺たちあの婆さんに人間の肉を食わされてたって訳か?」
「おそらくな」
話を聞いた海斗はひどい吐き気に見舞われ思わずその場で嘔吐した。
「おい、大丈夫か?」
気遣う空に大丈夫だと伝える海斗は空の背後から老婆が来た事に気がついた、老婆の明らかにおかしい事を察した海斗はすぐさま立ち上がった。
「どうだい?薪割りは順調かい?」
「順調です」
「おうよ、俺たちに任せておけ」
老婆の形相が変わる。
「嘘をつくんじゃないよ!お前達あの扉に入っただろ?せっかく泊めてやったってのに好き放題やりおって、そのまま大人しくしてれば今頃ミンチになって私の腹の中だったというのに」
「ふざけんじゃねーよ!一体婆さん何者なんだよ!」
海斗の応答に答える老婆、いきなり自分の顔を引っ張り付けていたマスクを取る。
「私はね、とあるお方に頼まれてあんたらを殺しに来たんだよ」
中から出て来た女は、空達を殺すと言い出した。
「なぜそんな事をする?」
「はあ、仕方ないね脳の足りないあんたら人間に教えてやるよ。知らないだろうがあんたら人間は私たちクローンに管理されてるんだよ。勝手に外に出られたら困るんだよ。だから外に出た人間は殺すんだよ」
「じゃあ、ここに元々居た老婆は?」
「さあ、未だくたばってはいないんじゃない?あーあ、喋りすぎた、また上に怒られちゃう。もういいからとっとと死んでもらうよ」
「会とヘンリー準備しろ!戦わなきゃ殺される!」
女は目にも止まらぬ早さで海斗の元へ近寄る。
その刹那、海斗の頭を掴み地面に叩き付ける。
白目を剥きその場に倒れる海斗。
空は激怒し持っていた刀で女に切り掛かる。
「よくも海斗を!」
「いい太刀筋ね、でもまだまだよ」
空の振り下ろした刀は女の首元の手前で女の手で止められた。刀ごと空中に投げ飛ばされる空。その隙に背後から忍び寄り女の頭に銃を突きつけるヘンリー。
「動くな」
「あらなかなかやるじゃない。あんた名前は?」
「俺はヘンリーだ、お前こそ名を名乗れ」
「ヘンリー、ふふ、いい名前ね。そうね、私の名前、そんな物無いわ。強いて言うなら『B-63』それが私の製造番号よ」
そう言いその場から消える女。
同時に上空に投げ飛ばされていた空が落ちてくる。
空はヘンリーに受け止められ大きなダメージは無かった。
ヘンリーが後ろを振り返ると、もう其処に女の姿は無かった。
女が忽然と消えてから数時間経った。
倒れていた海斗は目を覚まし三人は例の扉へ向かった。
しかし、其処に扉は無く其処にはカレンダーと小さな棚があった。
自分が見た物が本当だったのかと空は自分自身の記憶を疑っていた。
ポケットに手を入れると其処には写真が何枚か入っていた。
海斗がトイレに行きたいといいトイレに向かうと其処には縄でしばられた一人の老婆がいた。
老婆によると昨日三人が来る前に見知らぬ女がやって来て其処で襲われ気を失っていたそうだ。
助けられたことに感謝し老婆は空達に一枚の紙を渡す。
それはまぎれも無く探している本の1ページだった。
「ご婦人、なぜこれを持っているのですか?」
「それはね、この世界がまだ奴らに支配される前に私のお父さんとその仲間達が1ページずつもって世界各地に逃げたからさ」
「だが、どうしてこれを俺たちに?」
「私のお父さんがこう言ったの。『いずれ三人の男がやってくる。もし彼らがやって来たらこの紙を渡してくれ。』ってね。これに書いてある事が今日の出来事と同じだったから、もしやと思って渡したんだよ。で、どうなんだい?これはあんたらが探してるものだったのかい?」
空が頷くと老婆はくしゃっと笑いその紙を空の手に渡した。
数時間の安息の後再び三人は車に乗り老婆と民家を後にした。
「いやー、まさか俺らが探してる本は世界各地に散らばってるなんてな」
「何呑気なことを言ってるんだ、結構大変な事だぞ?」
「分かってるって」
「ところであのB-63と名乗ったあの女一体何者だったんだ?」
「分からない。それにあの消えた扉も気になるな。なあ、海斗あの女についてなにか知らないか?」
大きな鼾をかいて寝る海斗。
「寝てるし。まあいいかヘンリー森は抜けれそうか?」
「もう抜けるぞ。ほら見ろアレが最初の目的地だ」
三人を乗せた車は森を抜け、次の街へと向かった。




