『バウンダリー』の件
今日もよろしくお願いします!
「うわぁ、やってらんね・・・くそ最悪」
俺は顔に手をあてソファに沈み込む。
「こら、そんな言葉使いはするな、亮。だが、今更ながら新ゲームの未知の世界とはな・・・」
「厄介だよ、兄貴。今回のこのゲーム、確か・・・」
「ああ、確かAI搭載型だったはず。俺達が相手をしているのはそのAIかもな?」
「何百パターンもの未来がプログラミングされていて、なおかつ、自分で学習をし修正してプレーヤーの先回りをし簡単にはクリアさせてくれないのだろう?そのAI搭載型ゲームってのは」
「それもオンラインゲームだから膨大なデーターから学びやがる・・・くそったれっ!!」
「兄貴の方が下品だよ?それに主役級が15人もいたよな?その人物一人一人が過去のトラウマを乗り越えてくゲームだったはず・・・どう太刀打ちすればいいんだ?」
「つまりだ、セルフィ、ミシュリーナは7回同じトラウマを試されて、で?8回目でやっと理想の環境を手に入れたと言う事か?『印』など関係なかった訳だ。二人は主役級の人物だった。そして今、新しく試されてるのは俺達か?」
「いや、この世界は二人のルートの総仕上げの最終舞台だろう、きっと。そこに俺達も主役級のキャラなのだが二人のルートではモブだろう?そのはずだったモブが言う事を聞かないで独自で動き出したわけだ。多分、AIが予測出来なかったバグが発生した」
「俺達と言う感情を持った虫か?亮?」
「ああ、プログラミングされているはずのモブなのにプログラミングとは異なる動きをしたから予測がどんどんズレ出したのだろう」
「その都度、その都度、修正をかけて来ているのはAIだから出来る事か?」
「多分ね。参ったな?どんどん学んで修正を掛ける速度が速くなってる。例えば兄貴とアイリーンの事、俺とレオリオ王子の事。ああ、俺、やっぱりレオリオに捨てられるのかな?本編とおりにAIが進ませるんならミシュリーナがやっぱりレオリオの妻になるのだろうか?」
「いや、ここはお前の知ってるゲーム『永久の誓いを君に』に類似したと言うか、多分、過去のゲームで評判の良かったキャラの話で〝if”の話を作り、バウンダリー、つまり相手との適度な心の距離感の保ち方と言えばわかるだろうか?それを学習して上手く選択出来ればトラウマを乗り越えられたと言う事になってクリア出来るのだろう。だから悪役令嬢のミシュリーナは断罪による婚約破棄から波及する未来を変える為に7回のチャンスが与えられた訳だ。そして8回目にこのストーリーならクリア出来ると学んだ」
「それってバタフライエフェクト現象じゃん」
「ああ、蝶の羽の振動が地球の裏側の出来事を変えるってやつか?そうだな、そんな些細な出来事が引き金になって大事に至る。はたしてどこからやり直せば理想の安心な未来が手に入るのか?ってな」
「それにミシュリーナの人生で学んだのは紗理奈ではなく、AI?」
「ああ、セルフィの人生で学んだのはセルフィではなくAI」
「だから、初めから違った環境も設定できる。ヒロインと悪役令嬢の顔を入れ替える事も」
「主人公たちの境遇さえガラリと変えられる。セルフィが庶民出身の科学者ではなく皇帝の異母弟だと言う設定も」
「そんな俺達が今存在しているこの世界そのものを作り変えられる相手に立ち向かって未来を変えるって・・・出来るのか?それって可能なのか?兄貴?」
「待てよ、亮。俺だってわからない。どうすれば俺が一馬でこの世界に留まれるのか・・・?ああ、そうだ?バルトの『印』は〝救いの印”がないんだよな・・・?それはプログラミングが抜けているって事だよな?つまり、AI自体が入り込めない未知の部分て事だよな?」
「それって・・・?レオリオも?」
「ああ、そう考えられないか?」
「いや、兄貴?それ自体が既に仕組まれた事だとしたら・・・?だってミシュリーナには『印』自体がなかったじゃないか?それに、『永久の誓いを君に』のゲーム本編には『印』は全く関係ないだろ?」
「この『バウンダリー』の登場人物設定では女性キャラにはもともと『印』がないと考えらえないか?」
「じゃあ、俺は?シルフィーヌは女なのになぜあるんだ?」
「わからん・・・が、それがバグの証拠にならないだろうか?それはセルに聞く方が早そうな気がするのだが・・・」
俺と兄貴はソファ越しに後ろのセルフィとフリードの様子を伺う。
あ、とうとう、床の絨毯で転がってるよ?二人で・・・
しっかり抱き合って添い寝状態だし・・・
「見るな、亮。お前にはまだ早い」
そう言うと兄貴が俺の目を片手で遮る。
「何だよ?兄貴だけズルいぞ」
俺はその手をどける。
「止めろ、その出歯亀根性」
更に頭を抑え込まれ、下に向かされる。
「なんだよ?失礼だな?誰がのぞきなんてするかよ?だけど二人は恋人同士じゃないんだろ?じゃあ、この先が気になるじゃないか?特にセルフィは"大事なフリードをこの手で亡くした”と言ったからよけい気になるんだよ」
「なんだって・・・?そんな設定はないぞ?なんだ?それは?」
「え・・・?ないの?兄貴が知ってるゲームにはないんだ?その設定」
「ある訳がない。主要キャラが主要キャラ殺してどうする?お互いの力を合わせなければ国は守れないだろうが?桃太郎の鬼退治と同じだ。犬・猿・キジのお供は外せないだろう?」
「なに・・・?じゃ、それって・・・やっぱりセルフィってキャラじゃなくてゲームのストーリー自体が初めから全然違うって事か・・・?ワザとセルフィにトラウマを与えた?」
「悪役令嬢の母親が殺された時のようにか?お前の母親を俺が助けたことによりお前のフラグは間違いなく折られた」
「ああ、そうだ。そのおかげで俺は兄のルカとは凄く仲がいい。本当はルカに〝お母様はお前をかばったせいで死んだ”と罵られ家族から絶縁状態に追い込まれるはずだった。そしてそんな侯爵家から早く連れ出して欲しくてレオリオ王子に固執していくはずだったんだ。アイリーンも5歳の時に大勢の前で辱めを受けたにもかかわらず、ハルクの助けを必要としなかったらしいね?自分の手で火の粉を振り払える勇敢なお姫様みたいな設定だよな?だから本当はハルクはヒロインには相手にされる予定ではなかった」
「ああ、あいつは俺なんか必要ではないんだよ、本来はな?・・・一人で何でも立派に乗り越えられるんだ。なのに・・・」
「兄貴、その話、後でゆっくり聞くよ?今、俺が言いたいのはこの物語には今の俺達であるハルクとシルフィーヌはいらないって事だよね?台本通りのモブであるシルフィーヌとハルクが必要だったんだ」
「ああ。お前のその『印』が女のシルフィーヌにあること自体が間違いなくそう言う意味なのだろうな」
「じゃあ?ミシュリーナの紗理奈はやっぱりレオリオと結ばれたかった・・・?」
「なあ?亮?その紗理奈って子は苗字なんて言った?そして何歳で亡くなった?」
「え、紗理奈?田代。それで・・・えっと?あ、19歳って言ってた」
「なあ?俺達が今いるこのゲームに共通しているのは〝全て同じ会社の作品″だと気がついてるか?」
「ああ、それは気づいていたよ。キャラクターのデザイナーも同じ人物だと紗理奈が言っていたしな」
「その、ゲーム会社の総監督の人、覚えているか?俺達兄弟の声を聞いて男性キャラクターのイメージを作って行くのだと言っていた。そして俺達の声をすごく褒めてくれていたよな?ロト、ハルク、そしてレオリオ王子のイメージ通りだと言われたの、覚えてないか?その田代優弥監督に」
「タシロユウヤ監督・・・?ああ!ゲームのイベント会場でインタビュー形式の紹介の時に話したよね?確か俺らの声のファンだと。妹が凄くファンで教えてくれたからだって・・・まさか・・・?紗理奈って田代優弥監督の妹・・・?」
「・・・そうか・・・だからかもな・・・?」
「だから?・・・兄貴?なんだ?」
「だから、バルトとレオリオ王子には〝救いの印”がないんだ・・・」
「意味が・・・?兄貴?」
「亮、お前の『印』が二人の〝救いの印”なんだ」
「待ってくれ、兄貴。確かにシルフィーヌの祖国、オールウエイ国の初代王アーサーもレオリオとほぼ変わらない『印』でアイシスと言う『印』を持った女性と結婚して今の国を建国した。だからアーサー王がレオリオなら『アイシスの印』に変化したシルフィーヌがレオリオ王子の番かもしれない。でも、でもだ。じゃあ?同じ『印』を持つバルトは?バルトはどうなるんだ?俺がレオリオの妻になればバルトは誰が救うんだ?そんなの、そんなの可笑しいじゃないか?なんで、『ウロボロス』は二人いるのに〝救いの印”は一つしかないんだ・・・?そんなの、そんな設定・・・可笑しいよ?・・・受け入れない!俺は絶対に受け入れない!」
兄貴が俺の両肩を掴み揺さぶる。
「落ち着け、亮。その事は他に何か方法があるはずだ。田代優弥監督はそんな事はしない。レオリオ王子もバルトも救える方法がきっとある。そして俺も、お前もだ」
「俺は・・・どうすれば・・・兄貴・・・?」
「そうだな・・・?まずは帝国に帰りカルロス皇帝に俺は長期休暇を貰おうか?そしてお前とバルトの一時帰国許可。それでミシュリーナに、田代紗理奈に会わせてくれないか?」
次はアイリーンとハルクの行方を先にお届けしたいな。
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