輪廻は繰り返すの件
「摘まむもの持ってきたから、ほら、入れてよ?僕も」
そう言うとサッサとハルクの横にセルフィは座る。
そして持ってきたクッキーの缶を開け勝手に空いてるグラスに酒を注ぐ。
「なに?もう、リードとアレンは潰れたの?ほんとに弱いよね?『印』持ちってエタノールに」
「『印』持ちはアルコールに弱いのですか?セルフィ様?」
俺だけじゃないの???
「うん。そう。面白いほど酩酊する。ああ、バルト、潰れてるよ?シルフィーヌ。ハルクももうすぐだ」
えっ?あ、ダメだ。重い・・・あとはダンだけって・・・
「ダ、ダン?大丈夫なの?」
「ああ?ダンとサロメは普通の人間なのに異常に強いから不思議なんだよね?それに僕も。だって僕はいつもアドレナリン全開だからエタノールごときで脳の鈍化はしないさ?」
サロメが俺の耳に顔を寄せ囁く。
「たまに、まともになるから。お兄様が一番その点では面白いかもよ?シルフィーヌ」
「セルが一番、泣き上戸」
ダンも立ち上がると俺とサロメが座る長ソファの後ろを通りこっそり俺達に耳打ちをする。
そして俺にもたれて眠るバルトを抱き上げるとこれまた隣の寝室に運んで行く。
へっ?泣き上戸なの?セル?
俺のキョトンとした顔に
サロメがうん、うんと頷く。
なら・・・・
俺はまともなセルがみたくてのグラスにお酒を注ぎだす。
「ハイ、セルフィ様、どうぞ。あ、果物もありますよ?」
「あ、ハルク潰れた。ほんと、今なら首切れそうだな・・連れて行こうかな・・・解剖台・・・」
セルフィが膝の上にハルクを仰向けにすると首を人差し指で切るような仕草をする。
あ、完全に寝てるな・・・兄貴、ヤバいな。
「ダメよ?お兄様。ハルク解剖したらお姉様の子供一生見れないわよ?」
「あ・・・そうか・・・アイリーンの子供見たいしな・・・今日はもう、王の首あるから我慢しようか」
首!首って・・・部分で言わないでよ!セルフィ。
とりあえず、グッジョブ!サロメ!
「ハイ、今度はワインはいかが?セルフィ様?」
「ん、頂くよ?そんなに酔わせて僕をどうするの、シルフィーヌ?」
「本当はハルクの口からバルトと私の事聞きたかったのですが・・・無理みたいですよね?」
「僕が言うと皆、随分ショックのようなんだけどな?本当の事を言うだけなのにな?どんな言葉で言っても事実は変えられないじゃないか・・・それなのに・・・」
あ、なんか、もう、涙ぐんでる・・・?
よ、弱ッ!マジ、『印』持ち、アルコール弱ッ!!
サロメが立ち上がってセルフィを後ろから抱き締める。
俺も立ち上がって俺の席をセルフィに譲り、ハルクの横に腰を下ろすと頭を俺の膝に乗せた。
あ、爆睡。やっぱり疲れてるんだよな・・・みんな・・・
「あ、ハルクも寝たか・・・」
後ろからダンがハルクを覗き込む。
「ハルクはここで大丈夫よ、ダン。それより貴方は疲れてないの?」
「ん?案外しぶといから大丈夫ですよ?姫」
やっぱりダンが一番頼りになるんだよね。
「で、バルトの『印』の事、聞きたい?」
向かいに移りサロメにもたれて座ってるセルフィはちょっと落ち着いたのか俺に声を掛けた。
「あ、ぜひ、セルフィ様」
「バルトの『印』は〝救いの印″がないんだよ、シルフィーヌ。それって示す方向が解らないんだ」
「示す方向?人生の指針?」
「うーん?ちょっと違う。〝使命の印”があるからやるべきことはある訳だ。ただ、それをどうやって乗り越えるかの手掛かりが全くない」
「そんなのはセルフィ様が『印』を読み解けるから解るのですよね?私は自分の『印』がどんな使命を背負ってるかなんてわかってないのですから〝救いの印″を見ても読み解けないでしょう?だからあってもなくても同じではないのですか?」
「読むんじゃないんだ。見て理解するのでもない。身体が、記憶が、心がシルフィーヌの全てがそのように進むように出来てるんだ。持って生まれたそれには逆らえないんだ」
まさかキャラ一人一人のプログラムの内容?個々のデーターのプログラミングされた途中が抜けてる?じゃあミスなのか?それって、バグ?レオリオとバルトのキャラクタープログラムのバグなのか?・・・
いや・・・?主役級キャラの肝心なプログラムにバグなんて少ないはず・・・では?
「逆らえない???自分の意思では?」
「そう。自分が持って生まれた未来は変えられないんだ。だから、そのために〝救いの印″がある。その使命を遂行する為に己が欲するモノ、それが、それを手に入れれば」
「入れれば?」
「消滅出来る」
消滅・・・?死の事か・・・?
「・・・・・ホメロスは死んだわ?でも、〝救いの印″は手に入らなかったのではないのですか?」
「違う。ホメロスは肉体を失っただけ。死んでいない」
「え・・・?」
意味が分からない・・・?まさか・・・ゾンビ化・・・うわぁ、背筋がめちゃくちゃ寒くなってきた!!
「肉体が朽ちても永遠に魂が彷徨い続けるんだ。そして輪廻を繰り返す」
「まさか?・・・過去の記憶を持ったまま・・・?」
「ああ、ずっとだ、ずっと」
無限地獄・・・そうだ、『ウロボロス』と聞いた時この言葉を連想したから悪い事だと思ったんだ・・・
「今世がダメなら来世でやり直せるのではないのですか?」
ミシュリーナの紗理奈を思い出す。何故、紗理奈はミシュリーナを繰り返してるんだ・・・?
「やり直せない。生まれ変わる世界がある限り地獄が続く」
「意味が?・・・では、逆は?手に入れると二度と生まれ変わらない?」
「ああ。二度と」
「それって・・・どうなんですか?」
「シルフィーヌ、記憶をずっと持ち続けて同じ世界に同じ姿で生まれる事が永遠に続くんだ。そして同じところで同じ失敗を犯す。いや、そう仕組まれる」
・・・それは・・・それって・・・コンティニュー???
って事は、ゲームのシナリオ道理に進めばクリア出来るって事だろ?
紗理奈は悪役令嬢の運命が解ってたからそれになりたくなかったからフラグを折ろうとした。
それが?それがそもそもの間違い???間違ったからゲームがコンティニューされてまた始まる?
悪役令嬢の運命はBADENDだけど自分の役を素直に全うしたら終わる訳だ・・・
紗理奈は初めから逆らわずに悪役令嬢をやり遂げたはず・・・だってはじめの覚醒は断罪途中だと言った。
ちゃんとシナリオ道理だ・・・?意味が解らない・・・?
「そんな事、どうしてわかるのです?セルフィ様?」
「僕がそうだから。僕が今世、8回目」
「えっ??」
8回目・・・?
紗理奈と同じ・・・?
「セルフィ様・・・?」
「でも、今回は違う。前回7回までとは違う。今世はみんな仲良しなんだ。カルロスもアイリーンもサロメも。母上だって、父上だって、僕を嫌わない。こんな僕を受け入れてくれる。それに・・・ハルクが、全く違うんだ。知ってる英雄のハルクじゃないんだよ?容姿は一緒なのに中身が違う。だから・・・凄く戸惑った。それに君だ、シルフィーヌ。君もだ。君なんて今までは存在しない。君の国も存在していなかった。誰なんだい?君は。いや、ハルクと君は何なんだい?」
「セルフィ様はこの世界が7回ですか?」
「やっぱり他の世界があるのかい?まさか・・・君達が・・・?」
「その事は上手く説明できないです。ただ、違う世界で私とハルクは兄弟でした。ハルクは兄、俺が弟です。俺達が兄弟だった世界ではこの世界は絵本の中のおとぎの国です。我々はこの国のある人物の物語を映像で楽しむことが出来た。例えば、ハルク。ハルクの人生を物語として見て感じて動かして体験できる世界」
「い、意味がわからないわ・・・?私の人生も・・・?」
「ええ、サロメ様の人生も今の私、このシルフィーヌの人生も」
「ああ、僕の話でも眉唾ものなのに・・・さらに信じがたい・・・」
「信じてくれとは言わないが、ハルクとは兄弟です。ハルクは佐伯一馬。俺は佐伯亮」
「あ、さっき、ハルク、〝リョウ”ってシルフィーヌのこと呼んだわ?聞き間違いだと思った・・・」
「本当の事のようだね?・・・」
「ええ、それに俺と同じ世界から来た女の子でセルフィ様と一緒でこの世界8回目の友達がいます」
「なんだって?!僕と同じ!?じゃあ、その子にも『印』が?」
「いいえ、彼女には無いのです。この『印』は今世初めて見るそうです。セルフィ様は?」
「初めから、1回目からある。だから・・・僕は〝救いの印”を手に入れる事が出来なかった・・・リードを・・死なせてしまったんだ・・・この手で・・・」
なんだって・・・??
今日も長いのにお読みいただきありがとうございました!!




