サロメの恋の件
「サンダー兄弟とは幼馴染なんですね?サロメ様も?」
今度は俺が入れ替わってサロメの髪に香油を塗りながら尋ねる。
「カルロスお兄様とアイリーンお姉様はとてもまじめなのよね?それにとても優秀。セル兄様だって、素行は悪いしすぐ解剖しちゃうかなり変人なところもあるけど、一番兄弟の中では優秀なのね?あれでも。凄く兄弟思いだし、仲いいし」
仲いい妹に凄い言われようだぞ・・・セルフィ・・・
「でも、私は人の3倍努力してやっと皇女やってるわけよね」
「あ、わかります。私もそうですよ?王妃教育、厳しいし上手く行かない。その時は逃げ出したくなりますよ。ほんとに。ふふっ」
「・・・・・だから、小さな時から何でも出来るハルクに憧れて。良く、セル兄様と一緒にハルク見に行ったなぁ?ハルクの館の庭で剣の練習してる4人、よく眺めてたの。だって、凄く楽しそうだったもの」
「ハルク、アレン、ダン、レイモンド?」
「そう。セル兄様とフリードとハルクの館の庭の大きな木の上にこっそり登って眺めてた・・・」
「結構、お転婆なのですね?サロメ様も」
「まあね?そしたらその4人が宮殿に遊びに来たの。私が5歳の時に初めて。憧れてた王子様が来てくれたって私舞い上がっちゃって。でもハルクがお姉様の手を取って笑った時にああ、いきなり失恋したんだ、私ってって思ったら何で初めて見た時に挨拶しなかったんだろう、私が先に出会ってたのにって。私、告白も出来ないで振られちゃって・・・」
ハルク8歳、アイリーン5歳で婚約か・・・?まあ、そんなもんだよな?普通は。
でも何で侯爵家とばして伯爵家なんだろうな?
「ハルクとアイリーンはその時に婚約を?なぜ、レイモンド様じゃなかったのです?アイリーン様の相手は順番ならレイモンド様では?」
「その時はね?お父様が、あ、先皇帝が大貴族の皆の子供達を会わせてみて初めに意気投合した者同士の婚姻が整えばいいだろうって事でたくさんの子供達も宮殿に招かれていたのよね?でも子供でもわかる訳よね?『印』持ちの者達の魅力は。やはり、ハルクは群を抜いて女の子に人気があって。まあ?その時にはもう、アレンがハルクの周りに集まる女の子蹴散らしてたわね?アレン、その時から好きだったものね?ハルクの事」
・・・・アレン、8歳の時にはもうハルクって・・・凄いなお前、ある意味筋金入り?
「ハルク、初めは嫌がっていたのにアイリーンお姉様が公爵家の娘、従妹なんだけどね?その娘にわざとジュースをドレスにかけられたのね?それで」
そうか、ハルクが助けたんだな?王道だ!なんて王道すぎる出会いだ!
「お姉様がその9歳の従妹に怒って」
ん?アイリーンが怒って???
「持ってた扇子で無言で殴ったの。その子の頭にジャンプして思いっきりバチーンッ!!って」
「は?」
ハリセン状態・・・???
「そしたらハルクがそれ見て吹き出したわけ。後にも先にもあんなに笑ったハルクを見たことないわ」
・・・・・なに、それ?
「周りの大人も子供もみんな、その場にいた人は突然のお姉様の行動にみんな固まっていたのに、ハルクが一人で大笑いしてアイリーンのドレスを自分のハンカチで拭いたの。それも『凄いね?凄いジャンプだね?今度教えてよ』ってお姉様に言いながら」
だから、なにそれ?俺とレオリオの方がよっぽど出会いはロマンチックだよな?
「普通、その時点ではドレスにわざとジュースがこぼされたなんてわからないじゃない?いきなり頭を扇子で叩くなんてのももう一つ意味が分からないじゃない?でもハルクはお姉様の行動が正しいって、一瞬で見抜いたわけよね?きっと、ずっと、お姉様の事気にしていたからよね?」
・・・いや、多分ヒロインに出会う為のゲームのイベントだったんだろうよ?それ。
けど、ゲーム通りなら泣いていじめられるヒロインをヒーローのハルクが助けるんだろうけど見事にヒロインのアイリーンはハルクの出番を潰したわけだ。しかしさすがにこのままでは5歳のアイリーンが悪者にされる事が目に見えて分かった兄貴は見過ごせなかったのだろうな?だからゲーム補正がかかったんだ。
「だから、その時にお父様がハルクを凄く気に入って『ぜひアイリーンを嫁に』ってハルクの頭をなでたのよ。だから・・・私、5歳で失恋したのに・・・」
「ハルクはアイリーン様と婚約解消して未だに求婚しない。だから私も巻き添え?」
ダンが言った怒りの言葉を思い出した。
「そう。好きな人に失恋して忘れたはずなのに未だに踏ん切りがつかない。でも、凄く気になるの」
「ハルクが?」
「ハルクもだけど・・・」
「レイモンド?」
「えっ!?そ、そんな事、言ってないわよ!」
「ってバレバレですけど?サロメ様。で?なんでサンダー兄弟には嫌われてるって?」
「うっ!」
俺に振り返った顔が真っ赤だ。それに言い返せないなんて・・・かわいい・・・。
焦ったすっぴんサロメはメチャエロかわいいぞ!!
「だから、バレてるよ?サロメ」
ハルクの色っぽい声で顔を近づけて言ってやる。
「・・・えっ?シルフィーヌ・・・?」
あ、止めとこっと。またフェロモン出たら困るし。
「それで?どうしてアレンには嫌われてると?」
「あ、ああ、そのね?失恋した腹いせにアレンに怒りぶつけたのよね?小さな時の私。多分、アレンの髪も羨ましくて、でもハルクはお姉様の菫色の髪が好きなのが悔しかったの。綺麗なアレンの金髪が勝てないなら私なんか相手にもされないって思うと無性に腹がたって。アレンに会う度、髪引っ張って。それを、見かねたレイモンドが『弟の髪は引っ張らないで?僕のならいいから』って。だから私レイモンドに甘えて髪引っ張って。でもレイモンドはその度に私の両耳をつまんで『早く忘れて僕の所においでよ?』って笑うの」
ある意味凄いぞ、レイモンド。サロメを手懐けるなんて。あ!あいつも筋金入りのタラシだったんだ・・・
「じゃあ、そのままレイモンド様のお嫁に行っちゃえば良かったんじゃあ?」
俺はサロメの髪に小さな水色のリボンを飾り付けて行く。
「隣国との対戦の時からレイモンドは私に何も言ってくれなくなって。お姉様がハルクに婚約解消されてから・・・多分レイモンドはお姉様が好きなのよ」
「そしてサロメ様もハルクが好きかも?」
「違うわ!初めに言ったわ!ハルクは私の憧れ。好きなのは・・・多分、レイモンド・・・。でも、今日みたいにハルクに名前を呼ばれるとやっぱり気になるし、シルフィーヌと踊ってたレイモンドには踊ってって言えない」
・・・・う~ん、恋って、第3者になると案外わかるんだな?
「あのう、やっぱり、サロメ様はレイモンド様が好きですよね?そしてレイモンド様もサロメ様が好き」
「え!?え?・・・どうして・・・?」
サロメがまた、振り返って俺をポカーンと見る。
「いや?だってレイモンド様はサロメ様がハルクを好きなのを知ってるから身を引いたんですよね?アイリーン様と別れたハルクにサロメ様が告白するの待ってるんですよね?だって、もしサロメ様が振られたら自分の所に来るでしょう?だから、長男なのにまだ結婚もせずに待っている。サロメ様に一度でも手を出しましたか?レイモンド様は。ハルクが戦場から帰ってから一度でも『早く僕の所においで』って言いましたか?言ってないですよね?それって待ってるんですよね?貴女が振られてまた髪引っ張りに来るの」
「・・・・え?・・・」
レイモンドに見せてあげたいよ?サロメ、その可愛い間抜け顔。
「嘘よ・・・そんな事・・・」
俺はそんなサロメの両耳つまんで言ってやった。
「嘘だと思うなら帰ったらレイモンドの髪を引っ張って、『ハルクに振られた』って一言だけ言ったら?きっと両耳つまんで言ってくれるから?ずっと貴女に囁いてた決めセリフ」
「うっ!」
あ、下向いた。あ、ちょっと泣きそうだ、サロメ。
でもまだ泣いちゃダメだぞ?これからが、仕上げ!仕上げ!
「じゃ、今からハルクのところ行って告白しますか?」
「え?え?え?・・・どうして?なんで?そうなるの?」
「行きましょう、行きましょう!ぜひ、今からレッツゴー!!そうするとハルクが好きかどうかわかりますからね!!」
俺がウィンクして手首を掴むとサロメを立たす。
「嫌よ!!無理!!絶対、無理!!」
「大丈夫、私がついてるから。じゃあ、行こう!」
「ちょ、ちょっと、待って、ほんとに!!心の準備!!シルフィーヌ!!」
俺は嫌がるサロメの手首をグイグイ引っ張ると廊下に飛び出し、向かいの兄貴の部屋に突進だ!!
「ハルク!!あのねぇ!!」
バタンッ!!とハルクの部屋のドアを勢いよく開けるとなぜか、バルトとアレンとダンにフリードもいた。
「バ、バカ!!シルフィーヌ!!」
「なにやってんだ!?お前は!!」
「え?何でみんないるの?」
そう叫ぶとバルトが立ち上がり、俺の所に駆け寄ると急いで上着を脱いで俺を包む。
「ん?あ!!」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!俺、スケスケピンクネグリジェのままだった!!
横では俺に怒鳴ったハルクも同じようにお揃いのスケスケ水色ネグリジェのサロメに頭から自分の脱いだ上着を掛けていた。
そうされたサロメはハルクが掛けた上着の前をしっかり掴み顔も下を向いて隠してはいるがその手を見ればわかるほど全身真っ赤だ。
「やっぱり、無理・・・シルフィーヌ・・・」
って俺に小さく呟いた。
いつも長いのに読んで頂き本当にありがとうございます!
サロメ、もっとツンツンの方がいいですよね?
ちょっとかわいくなり過ぎました~!!




