昔話の件
今日もよろしくお願いします!
「ああ、どうしてこんなに・・・ああ、酷い・・・全くもって本当に!」
「悪かったな、ダン?けど頭、かち割られてるよりいいだろ?なあ?バルト?」
「ああ、間一髪だったよ」
「かち割るって!ハルク!酷い!それにダン、凄くしみるから!」
「姫、我慢です!それに今から湿布で冷やしますからもっとしみます。恨むなら怪我をさせたハルクに言って下さい」
ここは俺のテントの中だ。
あれから急いで着替えるとダンが救急箱持参でサッサと治療を始めたかと思うとハルク、アレンが勝手に入って来てこの状況だ。
なんで忙しいはずの幹部クラスが全員、俺の部屋に集合してんだよ?
そして何で俺の顔の話なんだよ?
まあ・・・?バルトには悪いが俺としては助かった・・・・
今日、俺っていろいろ、間一髪だらけだわ・・・
俺のベットに腰掛け顔の擦り傷をアルコールで優しく丁寧に消毒してくれてるダンが俺を挟んで同じ様に俺のベットに腰かけてるハルクを睨む。
そんなハルクは反省もせずどこ吹く風だ。
俺の向かいでは椅子に腰かけるバルトが治療されてる俺を見てちょっと安堵している。
「まあ、鼻も折れてないしな?俺はハルクが来てくれて感謝してるよ」
「ほら、みろ?バルトもこう言ってるぞ?お前からは何かないのか?シルフィーヌ」
ハルクが俺を見てどや顔だ。
「えっ?それ、自分で言うの・・・?ああ、ハイハイ、ありがとうございました!!大将殿!」
「鼻血出てたけどな?ダラーって。お前気が付いてなかっただろう?凄い顔だったぞ?」
バルトと並んで椅子の背もたれを胸に抱え込んで跨る様に座っているアレンがニヤニヤしながらそう言った。
「えっ・・?!マジっ!!」
俺、鼻血出してたって?・・・うそっ!!そんな顔、部下に晒してたわけ・・・?
「なんだ?マジって?」
アレンが問い返すので、急いでバルトを見た。
「アレン、シルフィーヌをからかうな。淑女に失礼だぞ?」
バルトが俺を見て首を振りアレンをちょっと睨む。
「アレン!!そうよ!!女の子に何言うのよ!!って何かヒリヒリするっ!ダン!」
「姫!大きな口開けない!湿布出来ないでしょうが?それに切り傷だらけですから沁みるってさっき言いました!」
「もう~っ!!、ダン~っ、何か酸っぱい臭いがするしベタベタで気持ち悪い~!!」
「酢が入ってるからあたり前です。それに殺菌効果もあるから我慢です、姫。それにハルクも反省!もうちょっとやり方あったでしょうが!ほんとにアイリーン姫だったらこんな扱いは絶対しないくせに・・・」
「おい?ダン、そのブツブツ文句言うの、止めろよ?」
おっ?ムッとしてるよ、兄貴。
「ああ、そうだよな?アイリーンだと怪我なんか絶対させないな?お前、シルフィーヌも可憐なお姫様だ。丁寧に扱えよ。これでもな?ああ、そうだ、ほら、あの時もアイリーンの事大事に抱えて連れて帰ったよな?ダン」
アレンが何か思い出したのかダンに同意を求める。
「15の時の話だよね?アレン」
お?子供の時の話か?
「何?ダン!聞きたい!聞きたい!」
「うるさいぞ。お前ら」
一人不機嫌なハルク。
「そうなのか?ハルク?」
バルトが身を乗り出して聞く。
うんうん、そこ、聞きたいよね?俺も絶対聞きたい!!
「15歳の時。ハルクが珍しく左手怪我してた時だったよね?国内でクーデターがあって皇帝の身代わりでさらわれたアイリーン姫をハルクが助けに行ったんだ。その頃は王家が二分していてすぐ救助に軍隊を派遣出来なかった。それを聞いたハルクが血相を変えて出て行った。それも単身で。私とアレンも馬で飛び出したハルクを必死で追っかけて、ね?アレン」
ああ、俺が山賊に襲われた後の話だよね?山賊に紛れたハルクの親指を噛んで怪我させたのは俺だからな?
「ああ、こいつ、本当にアイリーンの事となると」
「うるさいよ。二人とも、勝手に話すなよ。それに終わった話だ」
「え、それで?それでどうなったの?」
俺は話を終わらせようとするハルクの口を押えて黙らせた。
「アイリーンをさらってカルロス皇帝と帝国の政権を握る取引をしようと算段していたそいつを、ああ、もう爵位は剥奪して家は取り壊されたけどな?元大臣で公爵家、先帝の弟、つまり皇帝の叔父が首謀者だったんだよ。そう言ってしまえばお家騒動だったんだけどな?当時はあっちの方が大貴族達を多く取り込んでいたんだ。だから大っぴらにはカルロス皇帝も手が出せなかったんだ。そんな時にこいつは公爵の屋敷に武器も持たず丸腰で乗り込むと剣で向かって来る公爵の家の者を次々と殴り倒し最後は逃げ惑う公爵がアイリーンに手を掛けようとしたんだ。凄かったな?ダン?あの時のハルクは」
「ああ、ほんと。あの時のハルクは人ではなかったよね?神業。瞬間でアイリーンを公爵から奪い取るとアッと言う間に公爵は床で失神してた。何が起こったのか正直、わからなかったよ?」
「ああ、その後ハルクは何事もなかったようにアイリーンを抱き上げサッサと宮殿に連れ帰った。15歳のガキがものの数分で公爵家を壊滅させたんだ」
「・・・・・・ハルク、凄いね?」
「ああ、凄いな?ハルク」
俺とバルトが同時にハルクを見て言った。
「「カッコいい」」
「・・・もういいだろ?昔話は」
俺の手を口から離したハルクが面白くなさそうにそっぽを向いた。
「だろ?当時はハルクと俺達にはまだ別の使命があったからな?それが無事終わったら皇帝からアイリーンをハルクは貰い受けるんだって思ってた。結婚するんだと俺達はそう思ってたんだ」
「しゃべりすぎだ、アレン」
「ハルクは黙ってなよ」
ハルクの口をまた俺が塞ぐ。
「なのに、使命の旅に出る前に勝手にアイリーン姫と婚約を破棄したんだ、ハルクは。でもそれはアイリーン姫を待たすのが嫌なんだなって思っていたから無事帰ったら祝福しようってアレンを私は説得していたんだ。なのにだ、未だにハルクはアイリーン姫に告白しない。アレンはそんなハルクを諦めないで待ってる。とてもしぶとく。それで私もそれの巻き添え」
ん?何かダンの顔つきと言葉尻が険しくなってきてるよ?
「何だよ?凄くボヤキになってるぞ?ダン。俺はハルクがアイリーンを選ぶなら仕方ないと半分は諦めていたさ?でもさ?こいつ、急にシルフィーヌだし!」
アレンがハルクを見てこれまた険しい顔だ。
「何?アレン、アイリーンならいいんだ?」
俺はアレンに尋ねる。
「余計な事言うな!アレン!」
ハルクが俺の手を外してアレンを睨む。
「ハルクは黙ってなよ!いつもアイリーン姫をはぐらかして。姫が、シルフィーヌ姫が来てからアイリーン姫はハルクに積極的じゃないか!この間だってダンス、ハルクに自分から申し込んでたじゃないか?必死だよ?それって、ずっと、ハルクと一緒にいたいからじゃないか!」
ダ、ダン?結構ハルクに言うんだね?
「・・・俺はあいつを幸せには出来ない」
「幸せにしてってアイリーンがお前に一言でも言ったか?そんな事、アイリーンは言わないだろ?ダンの言う通り、あいつは何時でもお前と一緒にいたいだけなんだ。何でわからないんだ?」
アレン・・・それ、代弁するんだ・・・自分の気持ちは?アレン・・・
「・・・・・無理だ」
「「ハルク!」」
ダンとアレンが苛立つ。
ハルクが立ち上がる。
するとバルトがそんな緊迫した空気を破った。
「なあ?ハルクはまだ今日これから仕上げがあるんだ。ハルク、そろそろ時間だよな?」
「ああ」
「あ、私も行くわ」
これからホメロス王とイムホテップ最高神官の話し合いがある。
解放軍ホスとハルクが見守り役だ。
しかしバルトもそこに立ち会う事となった。
「ダメだ。お前はアレンとダンと一緒に司令塔になってろ」
「ああ、バルトの言う通り。二人を手伝って部下達に指示をし、明日の段取りをしろ」
「・・・二人で大丈夫なの?また、ホメロスが暴れ出したら・・・」
「それにケリを着けるのは俺の役目だ。なあ?ハルク」
「ああ、バルトにはいい経験の機会だ」
「じゃあ、尚更、私も」
「ダメだ。シルフィーヌ。必要ない」
キッパリそう言い切るバルトが俺は心配でハルクを見る。
「大丈夫。バルトなら乗り越えられる」
ハルクが俺を見て頷いた。
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