テントの中の件
今日もよろしくお願いします!
ひゃあ、雨でびしょ濡れだ・・・髪が背中に張り付いて流石に気持ち悪い。何より寒いな・・・
とにかく着替えだ、着替えっと。
うわっ、下着までビチョビチョだよ・・・あーあ。
まあ、仕方ないよな?小雨といえどずっと雨に打たれてたからな・・・
「シルフィーヌ、着替えが済んだら顔手当てするから早く着替えろ」
「あ、はい。バルト」
あれから後の事は部下達に任せて一先ず俺は先に顔の手当てだそうだ。
擦り傷だらけで凄く赤く腫れあがっているだけだが、膿んだりして顔だけ包帯グルグルミイラになるのはごめんだしな。
宮殿の近くに帝国軍と解放軍はいくつか簡易テントを張り、指令本部を宮殿内に設置するまではここで色々な打ち合わせをするようだ。
そしてその一角に俺専用のテントもある。バルトと一緒だが(バルトは俺の臣下だし俺を警護してるからな)幹部クラスとして十分な広さがあるのでテントの中を二つに区切って個々の部屋に分かれている。中は簡易なテントとは思えない程しっかり足下にも絨毯を敷いてベットもクッションがついてる王族贅沢仕様だ。(アレンと泊まったこの間の宿とは雲泥の差だ)
隣にはアレン、その隣にはハルク専用のテントがあるし、部下達が四六時中警護に回ってくれてるから安心だ。
でも、今、布で仕切っただけの隣の部屋ではバルトも着替えているわけだ。その、多分、裸で・・・
うーん、まあ?自分の部屋替わりだからな、仕方ないけど、仕方ないけど、な?・・・ちょっと・・・
今の状況って俺、シルフィーヌが長い髪を解いてタオルで一生懸命拭いてるわけだ。
で、隣の部屋でも同じ感じでバルトが着替えているわけだ・・・
「シルフィーヌ頭、拭いてやろうか?」
「え、大丈夫・・・・って、何言ってんの?」
咄嗟に振り返り返事をした俺の目の前にはランプの光に照らされて着替えているらしいバルトの逞しい身体のシルエットが部屋の壁がわりの布に映っている。
うわっ、目の毒だ・・・!何だよ、俺、何でしっかり見てるんだよ!・・・何、確認してるんだよ?確認してどうするんだよ!
無意識にレオリオと違うところ探してるなんて・・・!
急いで後ろを向いて自分の頭を必要以上にゴシゴシとタオルで拭く。
・・比べてたよ・・・俺、レオリオとバルトを・・・?
最低だ・・・
うわぁ!!ダメだ・・・恥ずかしい・・恥ずかしくて穴があったら入りたい!!
俺は頭からタオルをスッポリ被った状態で足下に屈みこんだ。
凄く、凄く、意識してる?・・・今更?今更、バルトの事・・・?
ああ、いやっ!違う!
そうだ!今、俺、裸だからだ!そうだ!うん!そうだ!確かに裸は無防備だからな!
うん!そう!着よう、サッサと服着るぞ!!
「シルフィーヌ」
「あ、は、は、い!!・・あ、まだ無理だから!!」
「ああ、まだいい。それより、髪、拭いてやろうかって?」
「えっ!!えっ!!いいっ!今拭いてるし!!それにまだ、その、身体も拭けてないしっ」
俺は急いでとにかく身体が濡れているのも構わず下着を着ける。
するとまた頭にタオルをスッポリ被り膝を抱えてしゃがみ込んでしまう。
「シルフィーヌ?」
「・・・・」
恥かしい・・・裸で言葉を交わしていたなんて凄く恥ずかしい・・・
ダメだ・・・身体は冷たいのに顔、異常に熱くなってきたよ・・
「シルフィーヌ?どうした?」
「・・・・・」
「シルフィーヌ?」
突然、後ろからフワリと毛布に包まれると抱き上げられた。
そして胸に抱かれる。
バルトの胸に。
それも裸の。
「バッ!!」
「大丈夫か?気分でも悪いのか?顔見せてみろ?」
「な、何でもないから!お、下ろして!!」
「そんな赤い顔して、身体は冷たいし熱あるんじゃないのか?」
バルトは俺のベットに腰を素直に下ろすと毛布に包んだままの俺を膝の上に抱え込み額をくっつける。
近い!近い!近い!
上半身裸で毛布越しに時下体温!!って、鼻血出そうだ!!
「ちがっ!!」
「ああ、熱はなさそうだが、顔の腫れが酷いな。先に顔見てもらおうか?服、どれだ?着せてやるから」
「いい!いいから!バルト!先に上着、上着!着て来なさいよ!私もまだ裸なんだから!!」
「お前がいつまでもノロノロしてるからだろ?いいから」
「いいから!ほんと、あっち行ってよッ!!」
恥ずかしいのとさっきのレオリオと比べてた罪悪感が込み上げてきて思わずきつい口調になってしまった。
しまった!
「あ、」
「・・・・・・・」
「違うの・・・その、ごめん、バルト・・私だけ何か・・・バカみたい」
意識して・・・
思わず言葉を飲み込んだ。
何、言ってんだ・・・止めろ、バカ、シルフィーヌ!!
俯いてしまう。顔、真っ赤だ。嫌だ、こんなの・・・
「ああ・・・そうだな・・?悪い・・・俺が悪い」
「・・・・・・」
すると急に抱き締められて耳元で囁かれた。
「悪かった。お前をユリアのように扱わないと歯止めが利かなくなるから・・・わざと意識しない様にしてたんだ」
「えっ?」
思わずバルトの顔を見上げた。
うわっ・・・スッゴイ、醸し出してるんですけど・・その、男の色気って言うの?・・・何かクラクラするよ?バルト、カッコよすぎて・・・
「そんな、可愛い顔するな・・・シルフィーヌ」
「あ、いや、その、顔、腫れてるし、不細工だよ?今」
「お前、絶対にそれって、俺に対する防衛反応だよな?わざとだよな?そうやって話そらすの?今、マジ、意識してただろ?俺の事」
うわっ!!ばれてる!!どうしよっ!!どうしよっ!!
「ちがっ!!」
「ん?マジの使い方が間違ってるのか?」
「え、あ?、それ合ってるけど!ってちがっ!マジ違う!!」
「ん?違うのか?」
なんでそんなに嬉しそうに笑うかな?引き込まれそうだよ・・・ヤバい!ダメだ・・・俺!
俺はジタバタと手足を動かし否定する。
「って!!紛らわしい!!違うから!意識なんかしてません!!もう、下ろして!バルト!」
「いいのか?ベットに下ろすが?」
「え、いや・・・何もしないよね?」
「お前・・・今更、この状況でそれ言うのか?」
「いや、どの状況?」
「この状況」
バルトが俺をギュッとさらに抱き締める。
すると俺の胸のドキドキが止まらない。
恥ずかしい~
「もうっ!降参!バルト。だから放して?顔も治療しないと包帯グルグルのミイラになるんだから。お願い。それに服着て下さい。恥ずかしいから」
「俺を心配させた罰だ」
そう言うとバルトは大きな手で俺の髪をタオルで拭き始める。
「いい。自分でするから。でないとバルトが風邪ひいちゃうわ?」
俺は手を伸ばしバルトの手からタオルを奪おうとする。
「あいにく、健康だけが取り柄なんでな?ククッ。ああ、やめろ。頬に当たったらどうする。おとなしくしろ拭かせろ。少しだけこうしていたいだけだ。お前に触れていたい。お前の身体が暖かくなるまでだから」
真剣に瞳を覗き言われた。
ああ、ダメだ・・・バックがお花満開攻撃だ。
こんな赤い顔で怒っても絶対、無理っぽいし・・どうせ、聞いてくれない・・・
「・・・・・またそんな顔して・・・ズルい・・・もう!」
怒ってる俺にバルトはニッコリ微笑みタオルで頭ゴシゴシ再開だ。
なんでそんなに下心あるくせに爽やかなんだ・・・恐るべし、乙女ゲーム!!
今、俺は油断すれば襲い掛かられる可愛い子猫ちゃん状態なのにこんな事呑気に言うか?普通?
「シルフィーヌ、お前は俺に守られてろ。危ない真似するな」
あ、さっきの事だよね?・・・
「・・・・勝手に身体動いちゃったのよ・・」
「ああ、まあ、そうだろうな?お前ならそうするとわかっていたのに俺は止めれなかった」
「?バルトは私を守ってくれたわ?」
「いいや。ハルクがお前を助けた。俺は判断が遅かった・・・お前を一瞬、失ったかと・・・」
バルトはそう言うとタオル越しに俺の頭に額をくっつけ、じっとする。
俺を抱える手に力が入る。
「・・・・心配掛けてごめんなさい」
俺はバルトの頬に手を伸ばす。
「・・・もう・・・危ない事はしないでくれ・・・お願いだ、シルフィーヌ」
顔を上げると眉間にシワを寄せ切なげな眼差しで言われる。
「・・・ええ、もうしない。ちゃんとバルトに守られとくわ?だって酷い顔よね?私?」
俺はバルトを見上げちょっと笑った。
「・・・お前が無事で、俺は・・・」
俺の目を覗き込むバルトが言葉に詰まる。
バルトが俺の顎に手を掛け上を向かせる。
顔が近づいて来る。
身体ごとベットに押し倒されそうだ・・・
「姫ーッ!!お怪我は!!このダンが治療に参りました!!」
俺のテントの入口でダンの大声がした。
俺に覆い被さったバルトが急いで離れると顔を片手で抑え、ため息を付き怒鳴った。
「まだ!!着替え中だ、ダン!!直ぐだから待ってくれ!!」
ありがとうございました!




