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新しいこの国の夜明けの件

今日も長い・・・すみません!

どうぞよろしくお願いします!

ハルクがホメロスに一撃を加えて捕縛した時、カシューダ王宮の中央広間では乗り込んだ解放軍が兵士達を見事制圧し、解放軍リーダーのホスが王族からの国民の解放と身分制度の廃止を声高らかに宣言したそうだ。


帝国軍が上手く制裁に入った事で城に残っていた貴族や神官、奴隷や兵士達もほとんど抵抗をすることなく大人しく従ったのが事をスムーズに運ばせた。

結果、多くの人々の命を奪う事なく無事、革命が成された事はこの国の歴史に残る偉業だと言えるだろう。



新しいこの国の夜明け--


色々な人々のこれまでの努力と思いが希望へと変わる素晴らしき日--


今日からこの国の新しい歴史が始まる。

今日からこの国の民は神に頼ることなく自分達の意思と力でこの国を作って行くのだ。

新しい指導者の下で--



解放軍と一緒に残ったダンが指揮を取り、整理に当たっている。

その捕虜の中にイムホテップ最高神官はいた。

ホメロス王の父王の代から仕えていたこの神官こそが全ての元凶だったのだ--






「トト、ケガはない?突き飛ばしてしまって」

「陛下こそ綺麗なお顔に傷が・・・なんとお詫びを・・本当に、本当に申し訳ございません!」


恐縮し俺の足元にひれ伏すトトの横に俺は並んでかがむと顔を上げさせた。


「大丈夫。ただ腫れてるだけだし」

俺は少しヒリヒリする頬を撫でながら笑った。


ハルクがホメロスの剣から俺をかばった時、咄嗟に顔を思いっきり地面に押し付けられたので右頬が赤く腫れ上がってしまっているのだ。


「・・・シルフィーヌ陛下・・・私はホメロス王がこの状態になるまで恐ろしくて、自分の命が惜しくて・・何一つ、王に進言できなかった臆病者でございます。願わくばホメロス王とこの身滅びる覚悟でございました・・・」


「助けたのは迷惑だったか?トトよ」

俺の横に来て立つバルトがきつい口調だ。


「いえ、バルト陛下、決してその様な意味では。ただ、自分は助けられる資格などない下僕にございます」

また頭を下げようとするトトの肩を俺は掴む。


「トト?貴方はとても勇気があるわ。酷い仕打ちをしたホメロスに貴方は王の威厳を持たせたままこの世から解き放とうと自分の命をなげうって抗議したわ?王の苦しい胸の内を、悲しみを、上手く吐露させたじゃない?貴方がああ言わなければホメロスは誰にも言えない怒りや不満を抱えたままその感情に押しつぶされるしかなかった。自滅したくても吐き出せなかった不安が身体に心にうず高く積もって何も出来なかった。でも、貴方に臣下の貴方に叱られてやっと人らしい感情を見せたじゃない?」


トトが俺の顔を見る。そしてバルトの綺麗な顔も見上げる。


「バルト陛下、貴方様を見た時、私は自分の罪深さをこの身に思い知らされた。これから私が申す事、貴方様には酷かもしれませぬ。ですがこれから先、貴方様がシルフィーヌ陛下を失われた時に決して避けられぬ事ゆえ言わせてもらいましょう。先王妃様が生きておられた時のホメロス王は貴方と全く同じ姿のそれは美しい王子でした。皆、カシューダの民は皆、貴方様の中に若き日のホメロス王を見ることが出来るでしょう」


「やはり似ているのだな・・・俺と」


「はい。とても。今のシルフィーヌ陛下の横に立つ貴方様と寸分違わぬ容姿にございました」


「では俺もあの様になるのだと・・・?」


「いいえ。確かに貴方様の中には怒りを発すると周りの空気を変えてしまわれる先程のような力がございます。しかし貴方様はシルフィーヌ陛下の声をちゃんと聴き入れ戻って参りました。我々もホメロス王が父王に手を掛けた時、そうすべきだった・・・アイヤ様がお止めすると楽観し、お止め出来なかったアイヤ様に全て罪を着せ、イムホテップの言葉を鵜呑みにし、ホメロス王が父王を殺した事を敵討ちだと正当化して自分達の身を守ったのです。シルフィーヌ陛下はバルト陛下の異変を感じた時に恐れもせず身を挺にして正気を取り戻させたと言うのに・・・そう、我々はホメロス王も父王も寄り添う神だと、必要な神だと言いながら守られているだけで守ってやろうとは思わなかった・・・だからあのお方はホメロス王は父王を手に掛けた時にその様なカシューダの民は守る必要はないと、もう自分は不要だと思われたのだとなぜ気づこうとしなかったのか・・・バルト陛下、シルフィーヌ陛下が貴方を見る目はとても慈愛に満ちている。そして貴方もそうだ。とても信頼を置いている。我々もそうであったはずなのに・・・我々も王を敬い王も民を・・・そう、我々が間違えたのは相手も一人の人だと言う事を忘れ、都合良く神格化させ、自分に出来ないことを相手に求めすぎて孤立に追いやったのです。神に寄り添う民だと・・・?ハハハッ・・・何をうぬぼれた事を・・・」

「そこまで自分達を卑下する必要はないわ?トト?それが人間よ?それはお互い様だし。私もバルトもそうなんだから。これから自分が何者になって何をしていけばいいのか、まだまだ模索中なのよ?」

トトが少し笑い、俺に頷く。

「・・・・バルト陛下、今の貴方様にはこのお優しいシルフィーヌ陛下がいらっしゃる。しかしいつか別れが来た時に貴方様が第2のホメロスとなっても不思議ではありません」

「トト、それ、違うでしょう?バルトとホメロスは決定的に違うでしょう?覇王色の色が。つまり持って生まれた資質が」

「・・・ええ、はい。そうです。違います。バルト陛下は赤、ホメロスは白にございました」

「白だと・・・?」

「はい。白。自分が無いのです。だから染まりやすい。そして無垢でもある。だから良き精神を持てばより正義を貫き神格化し、悪しき精神を患えば黒く邪神となるのです」


「トト?貴方が心配しているのはバルトではないでしょう?私よね?」


「シルフィーヌ?」


「バルト、トトが心配しているのは私よ。私が怒ってホメロスに剣を振りかざした時に私の覇王色が変わったのでしょう?」


「・・・・シルフィーヌ陛下・・・」


「ハルクは私をセクメトと言ったわ?私はそう言う物なのよねぇ?トト?バルトが横にいないと私は(タガ)が外れた化け物となるのでしょう?」


「シルフィーヌ!それは俺だ!」


「違うわバルト。貴方は正義心が強いだけで人を引き裂いたりはしない。貴方の剣は人を守る剣。貴方の怒りは常にその人を思っての怒り。貴方の行動は全て自分の為ではなくて周りを思っての事。良き王になるのは貴方よ。バルト」


「シルフィーヌの怒りも俺を思っての怒りだった!ホメロスに向けた怒りは俺の為じゃないか!?」

「・・・そうです。シルフィーヌ陛下、貴方の中には表裏一体の善と悪が存在する。まさに愛する人の為なら神にも悪魔にもなれる・・・だから、」

「だからこそバルトは私に必要なのよね?トト。だからバルトに嘘をついてまで私の側に」

「嘘ではございません!貴方様方はお互いなのです。シルフィーヌ陛下にバルト陛下の正義が必要なようにバルト陛下にはシルフィーヌ陛下の慈愛が必要なのです。正義は行き過ぎるととんでもないものに化ける。いつも正しくありたいと思うあまり融通の利かない思い込みの激しいかたくなを押し通す。そしてそんな自分の正義にがんじがらめにされいずれは押しつぶされるのです!父が母を殺したと思い込んだホメロス王のように!」


「・・・悪いがトト、シルフィーヌも。俺はそんなに弱くない。なぜなら俺にはどんなに卑怯だと言われても構わないほど欲しいものがあるからだ」


「・・・ホメロス王はアイヤ様を父王から奪い去った・・・貴方様がシルフィーヌ陛下を思う以上に愛しておられました」


「違うな?トト。俺はホメロスがアイヤを愛した以上にシルフィーヌを愛してる。なぜなら俺はシルフィーヌが幸せになるならどんなことでも叶えるからだ」


「・・・ホメロス王はアイヤ様に裏切られた・・・」


「違うぞ、トト管理官とやら」


「「ハルク!」」


向こうでアレンと部下達に指示を出していたはずのハルクがバルトの後ろから声をかけた。


「アイヤ妃はホメロス王を間違いなく愛していたよ。いろいろ、お前の上官のイムホテップに吐かせたよ。ただ、不器用な二人はお互いの本当の心を確認するすべを知らず勘違いしたままアイヤ妃が自殺をしたのだ。自国を奪った先王に恨みを持ち、ホメロスの愛を利用してホメロスに実の父親殺しをさせた罪に耐え兼ねたそうだ。その事でホメロスはアイヤ妃の愛を疑ってしまったのだ。自分を愛しているなら自分を置いてなどいけるわけがないと思っていたのに、また母と同じ様に最愛の人に先立たれたのだからな?だがな?バルト、お前は違う。お前はホメロスとは全く違う。お前はシルフィーヌが何らかの理由でお前を置いて行けば間違いなく弔い一生墓を守るのだろう?」


「ああ、もちろん。だがその前に死なせない。その様な事態にも陥らせない。俺がシルフィーヌを幸せにするからな?」


「ククッ、いい臣下を持ったな?シルフィーヌ」


「臣下の前にバルトは私の親友なんだから当たり前よ。一生手放せない私の大事な宝物なのよ」


「・・・・・お強いのですね?皆様は・・・うらやましい。本当に。王に仕える私共にその覚悟が少しでもあったならと・・・悔やまれます」

トトは唇を噛みしめて俯く。


「トトとやら。悔やむならそのお前のカシューダの民の優れた能力と知恵をこの国の再建に奉仕してもらおうか?今日からのこの新しい国造りの為、生き残ったカシューダの民の為にお前が必要な人間となれ。生きてこの国でカシューダの血を絶やさぬ様、未来に紡いで行け。その事がお前の使命だ。生きて未来のカシューダの子供達にこの国を返す事がこの国の信教の基盤なのだろう?では俺が命ず、生きてこの国を導く先駆者の一人となることを」


ハルクが声高々にトトに言い放つとトトがなんとも言えない顔で俺を見る。


俺は無言で頷く。


すると今度はバルトを見上げる。


バルトも頷くと強い口調でトトに言った。


「トト、シルフィーヌに助けてもらった命、無駄にすると俺が許さない」


「・・・・はっ!!その言葉、その(めい)、しっかと、しっかと賜りました!!」


トトが震える声だが俺達を見上げ、はっきりとそう言った。


その頬には光るものがあった。





  






お読み頂きありがとうございました!

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