ルカの気持ちの件
もう一話どうぞ。
「で?王子様はどうだったの?」
「えーとですね、どこから話せばいいのか・・・」
カップを手に取り喉を潤す。
あ、ミルクたっぷり、砂糖たっぷりだ。
ルカは俺の好みを良く分かっている。すごく機嫌が良くなる俺。
「とりあえず、婚約いたしました」
「とりあえずって何?いたしましたって何?」
うわ、すごく不機嫌な声だな・・・
「そこ?そこね。うーん?婚約は王子に押し切られたんですが・・・まあ、何か今は王子すごく乗り気なんですがその・・・将来?違う人とね、結婚したいな、なんて言われる日が来ると思うんですよね。その時私が立ち直れるように私の中ではとりあえずなんです」
「なんだそれ?嫌なら止めれば?お父様に進言してあげるよ」
「いえ、嫌なわけではないのですよ?都合もいいですし・・・その・・・王子様はその・・嫌いじゃないですし・・」
「じゃあ、とりあえず婚約でシルフィーヌは良いんだね?」
「うっ、はい。お兄様こそ将来はお父様の後を継いで宰相になられるのですよね?」
「シルフィーヌにそんな事まで言ったのかい?あいつ」
「だって、私に女宰相なんて無理ですよ。お兄様が側にいてくれなきゃ。ふふっ」
「何がおかしいの?」
「あ、ごめんなさい。お茶がおいしいなって。自分をしっかり見てくれてる人がいるのは幸せだなって思ったの」
俺はルカに微笑んだ。
「相変わらずシルフィーヌは呑気だね?他に王子は何て言ったの?」
「うーん、私が返事を渋ったら心変わりはしない、君だけを愛して大切にするって言ってくれました」
うわぁ、なに正直に報告しているんだ俺。きっと顔真っ赤だよね。
「ふん。シルフィーヌは直ぐに騙される」
「えっ、ち、違うもん。ひどい、お兄様」
うっ、そうかも。そんな事わかってるよ。
「王妃になるんだったらもっとしっかり考えなきゃダメだろう?シルフィーヌ」
「王妃様ねぇ・・・お兄様が宰相になられたらこの国の事、一緒にずっと考えていけますよね?まぁ、それもいいかなぁって」
ずるいけど、ここで上目づかいにルカを見てご機嫌取りだ。ずっと一緒にいたいのは本当なんだ。よその国なんか嫁ぎたくない。
「シルフィーヌが宰相になったら一生僕がアントワート家として守るつもりだった」
「はい、わかっています。アントワート家の総意はそこにあるのですね」
アントワート家はこの国の三大侯爵家の中でも群を抜いて豊富な領地に恵まれている。地下資源として石炭と鉱石、枯れることのない地下水脈、四季も一定の為、農作物も豊富だ。あと、小さいながらも他国との貿易港を構え王族とは主従関係を結んでいるが実質この国の政治を動かしているのは代々、アントワート家出身の官僚たちだ。
「今日レオリオ王子にお会いして感じました。夫にしたいのは王子だけだと。この国でアントワート家の一人としてあの人を守っていきたいのです」
「それがシルフィーヌの最良の選択?」
「はい。ダメですか?お兄様」
「ふーん。僕はシルフィーヌが僕の側にいて幸せなら良いんだ。ただ、とりあえずと最悪な事も想定するなら宰相を目指して欲しかった」
「宰相はお兄様が」
「分かった。最悪の場合は僕が何とかするよ。王家を跪かせてもね」
「やっぱり、そんな事考えてるし。参謀はやめてくださいよ?」
「シルフィーヌの為なら国の一つくらい操るなんて容易い事」
「はいはい、頼もしいお兄様でシルフィーヌは幸せです」
ハハハ、怖いわ、ヤンデレ。本当にしそうだわ。
ルカが俺の手を引いてソファーに仰向けに寝そべる。シルフィーヌをちょうど胸に抱き寄せる格好だ。俺に不安な事があればいつもこうだ。それが居心地良いと思う俺はずいぶん手懐けられたものだ。
「シルフィーヌ、お祖父様から『アントワート家としてこの国に生きるならば常に正しい選択をしなければならない。その選択がこの国の民を生かしていくのだ。あえて難しい道を選ぶ必要はない。まして自分を犠牲にすることは尚更あってはならない』と。お祖母様からは『常に自分に正直に。あなたを信じていますよ』って」
・・・・・・お、重い!重すぎるわ!俺を何歳だと思ってるんだ!?
俺がルカの胸で両手を握って思い詰めているとルカが俺の頭をぽんぽんしながらクスりと笑った。
「王子様が好きなんだろ?」
上半身を起こすとルカの顔を見下ろして大きく頷いた。
「じゃあ、お兄様と約束して?王妃になるまでは僕を一番に信じると」
「?お兄様を疑うことなんてないわ。王妃になっても絶対に」
ルカが嬉しそうに笑う。
「シルフィーヌの僕への信頼はどこから来るのかな?」
5歳の時、記憶が戻った時に俺の不安な心に一番寄り添ってくれたからだよ。あの時からこの世界でルカが側にいてくれるから何とか未来を受け止めてここで頑張るんだって思うようになったんだよ。
「まあ、そんなシルフィーヌだから僕は一生守っていくんだけどね」
俺を抱き締める。
うれしい。けど照れる。我が兄ながら妹に告ってるんじゃねえよ。そんな事は好きな女に言えよ。
「正直、シルフィーヌは勉強は出来るけど人と駆け引きが出来ない。そこが貴族として致命的。お母様も甘いものだ。王妃になれば王子がお前を守ると踏んだんだろうね?甘いよね?あいつには無理だ」
前言撤回。
魔王ルカの降臨だ。
「お兄様、今サラリとひどい事言ってますよ?」
「本当の事だからね?バカ正直夫婦じゃあ国は回らない」
分かってるよ!分ってるから宰相はルカなんだよね!
「ねえ、僕のかわいいシルフィーヌ、だからね?君が愛する夫を手に入れる為に僕がすることを信じて?」
ルカが俺の顎を掴んで見つめ合う。
「もちろん、信じますお兄様。でも例え私の為であっても誰かを悲しませることをお兄様がすることは耐えられないのですが」
俺は真面目な顔で答える。
「強い者が弱い者を踏み台にするのは当たり前の事だよ。だからこそ弱い者も守れるんだ。僕が間違うとでも?フフッ」
うっとりとした顔でさらに俺を抱き寄せ背中をあやすようにトントンする。
誰かの不幸の上に幸せは成り立つってか?少数の犠牲で多数を守るってか?やっぱり政治家らしいよ、アントワートの家系。
黒い笑いが漏れてるよ。怖いよ、ルカ。一番最良の道を選択してくれることを信じるわ。
あと、お母様が王子を選んだのはルカのシスコンをどうにかする為だと思うよ?
いつも読んで頂き感謝です!