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待っていたモノの件

今日もよろしくお願いします!

暗闇の中に爛々と輝くバルトの瞳を覗き込み俺は叫ぶ。

「バルト!!帰って来い!!帰って来るんだ!!」

必死に肩を揺さぶる。


ダメだ・・・完全に呑まれている・・・・

どうすれば・・?どうすればいいんだ!?


そうか!!


両手をバルトの後頭部に回し髪に指をもぐらせ『王の印』に触れた。


「バルトッ!!」


一瞬で俺の体にバルトの激しい怒りが雪崩込む。


く!苦しい!!

それに熱い!!頭の中まで煮えたぎりそうな勢いだ。


ホメロスに対する怒り、トトに対する怒り、この国に対する怒り。

しかしその根底にあるのは抵抗も出来ず誰にも助けて貰えなかった犠牲者達の叫び。


ああ、ダメだ。

そこに心を持って行くと恨みしか見えなくなる。

怨恨にのみ込まれ、亡霊に操られるだけだ。


それほどこのバルトの凄まじい怒りの底には青く深い悲しみが淀んでいる。


俺も共感してしまえば呑まれてしまう。



俺はレオリオの時の怒りの落ち着かせ方を必死に思い出す。


この激しさに同化してはいけない。

呑まれてはいけない。

鎮火させなければ。

平常心を保ちバルトの怒りを融和させなければ。


「バルト、バルト、お願い聞いて、私の声を聞いて、私の声を!バルト!!」


俺は仁王立ちのバルトの首にぶら下がる様に抱き着くと無理矢理自分の胸にバルトの顔を押し付け耳許で囁く。


バルト、バルト、バルト、帰って来て。私の許に。

バルト、バルト、私には貴方が必要なの。一人にしないで。

バルト、私の側にずっといて。お願い、バルト。

帰って来るの!そして私を守りなさい!私を!バルト!!


心でも名を呼び、自分の気持ちをさらけ出す。

とてもバルトが大切だと思っているシルフィーヌの気持ちを全力で叫ぶ。


「バルトッ!バルトッ!帰って来て!!私の許に!!」





ポトリ。


一粒、バルトの顔に雨粒が落ちた。


ポトリ、ポトリ。


また、雨粒がバルトの頬に落ちる。


ポトリ、ポトリと俺の顔にも雨粒があたる。


その雨粒を追いかけバルトの瞳が俺の顔を見た。


それが合図のようにバルトの背後の太陽の輪郭が浮かび上がり徐々にゆっくりと太陽が輝きを取り戻し始める。

暗い空が明けていく。


バルトの瞳の輝きが弱まりはじめたのと同時に燃え盛るバルトの怒りが少しずつ引きはじめた。


「シルフィーヌ・・・?」


「そうよ、バルト」


共鳴しているバルトの熱が一気に引くと俺の気持ちがバルトに徐々に浸透していく。

バルトを大事だと、必要だと思う俺の気持ちが溢れ出す。

するとそんな俺の気持ちをバルトも素直に受け入れた。

苦しいのが一気に引く。

凄く体が楽になりとても満ち足りた感じが、いや、体が浮いたような感じが広がり思わずほっと息を吐いた。

凄く安堵したのだ。

バルトが腕の中に帰って来た事が嬉しくてたまらない気持ちが溢れた。


眼光が、消えた。


嬉しくて嬉しくて抱き締めた。


バルトは首にぶら下がる様に抱き付いている俺を両手で抱きあげ抱き締めた。


「シルフィーヌ・・・」


その黒曜石の瞳にシルフィーヌが映る。


ホメロスを許せない。


ええ、わかってるわ、私もよ。




雨粒が落ちるバルトの背後の空には完全に姿を表した太陽が輝いていた。






その太陽の光にキラリとなにかが反射し俺とバルトの頭上に降ってきた。


バルト!!


ああ!!


俺とバルトは一斉に左右に飛びのくとその降って来たものに対し腰の剣を引き抜く。

そして同時に降り下ろした。

しかし、その剣は凄い力で押さえ着けられる。


今、俺達の剣の切っ先はそいつの双方の手に持つ剣で地面に押さえ付けらえている。

いや、めり込んでいると言う方が正しいか。

いきなり空から降って来て俺達のまん中で俺とバルトの剣に自分の体重を乗せ押さえ着け石畳にめり込んでいるこいつは・・・



「!!ホ、ホメロス王!!」

トトが掠れる声で叫ぶ。



やはりか!!


俺とバルトが同時に心で叫ぶ。


その巨漢。肉の塊だ。


どこから飛んできたんだ!?こいつ!!


「ああ、騒がしい」


とても美しい、威厳を感じる声だ。

とてもその巨体から出ているとは思えない。


「静かに出来ないのか?」


まずバルトを睨み上げる。


!!


バルトの心の動揺が伝わってくる。



「なんだ・・・?お前・・・・?そうか、私のなり損ないか?」



「バルト!!そいつの声は聞くな!!」


俺が叫ぶと次は俺に振り向いた。


赤い短い髪に肉にまみれて血走ってはいるが光を放つ鋭い黒い瞳。


こいつがホメロス・・・ 

こいつが・・・


「んんッ!?」


俺を見るとそいつは唸りそして嬉しそうに笑った。


「やっと来た!」


双方の剣を引くと俺の前に立ち上がる。


その巨体、デカすぎる。

横にも縦にもデカすぎる。


プロレスラーか横綱なみだ。


5年前の石像の美しい顔は二重あごと頬肉が盛り上がり面変わりしている。

丸々と太った巨体は贅肉にまみれ手足が短く見える。


しかし、あの石像が湛えていた威厳はその様変わりした容姿にもかかわらず纏っていた。



「やっと、やっと来た。さぁ、我が神よ。願いを。我の願いを。さぁ、願いをかなえておくれ。私のシヴァ神よ」


ホメロスが俺に両手を差し出す。


雨粒が小雨になってきた。

太陽が輝いているのに雨の降りがひどくなってきた。


「我が神。私の最後の救い。さぁ、早く、さぁ」



キツネ雨だな・・・


いや、違う、間違えた。キツネの嫁いりか・・・


俺は頭を振りその雨に撃たれ冷静を保とうとした。



「聞こえているか?聞いているのか?シヴァ神よ?シヴァ!」 



「うるさいよ。お前」


「なんと・・・?!」


「黙れ。お前には話す権利なぞない。寄るな、触るな、話し掛けるな」


「なにを!!我に答えよ!!答えねばならぬぞ!!我が導いたのだぞ!!」




〝なり損ない″


よくもバルトに言ったな?



頭がガンガンして来た。

身体の血がすごい勢いで巡る。

眉間に何かが集中して行く。

剣を持つ手に力が入る。


「ああ、そうだ!!俺の破壊の神よ!!シヴァよ!!今すぐ答えよ!!」



「シルフィーヌ!!止めろ!!」


バルトの声が聞こえたような気がする。











お読みいただきありがとうございました!

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