禁戒の件
ちょっと今度はダークです。
苦手な方はスルーでお願いいたします。
『セブンズ・ゲート』って・・・・
今更・・・?今更なのか?今更、何の試練なんだよ?
巨大な七つの門の前に立つバルトを俺は見上げた。
「なんだ?シルフィーヌ?」
「えっ?あ、いや・・・」
「ああ、あの尖がってるやつ、お前の苦手な奴出そうだな?」
「あ!!トト、ここ、霊園ってやっぱり出るのっ!?」
「えっ?出るって?何がです?陛下?」
「え・・・いや・・・・」
「いい。シルフィーヌ、俺が先に行く」
「ダメ!!バルト!お棺の中からムクッ!って包帯グルグル巻きで手を前にブラーンとした崩れかけのミイラが絶対ッ!!襲って来るんだから!」
サッサと行こうとする部下とバルトの上着を俺がそう言って引っ張ると怪訝な顔で振り向かれる。
「なんだよ?それ?」
「シルフィーヌ陛下、ミイラは死者の亡骸ですから動きません。それに魂が戻る為の大事な器ですからそのようなぞんざいな扱いは致しませんし棺は勝手に開きませんから」
トトがすぐさま俺に答えた。
するとそんな俺に呆れまた歩き出そうとするバルトを更に俺は引っ張る。
「じゃあ!スフィンクス!スフィンクスがなぞなぞ言ってきて答えらえなかったら前足で踏み潰されちゃうんだわ!答えは人間だから!バルト!」
「だから、なんだそれ?」
再度俺に振り返り、飽きれ顔のバルトに比べ部下達はちょっと困り顔だ。
「門番スフィンクスは確かにいますがそれも石像ですので動きませんですよ?初め四本足、次に二本足、最後は三本足は何か?って問答でございますよね?正解です。良くご存じですね?シルフィーヌ陛下」
「じゃあ!ピラミッドの入り口を開けたら王の呪いがかかるとか、『死者の書』があって読み上げると黄泉の門が開くとか!」
「だから!あの建物の中でのことか?お前、どこでそんな知識を得たんだ?とにかく、俺が先に行くから」
「シルフィーヌ陛下、残念ながらここは化け物の巣窟ではなく代々の王の体の保管場所であります。まさに〝棺”にございますよ?我が信仰の源で言うなれば聖地でございます」
「え?聖地になるの?そうなの・・・?・・・あ、そうなんだ・・・でも墓荒しとか盗賊が侵入しないように色々仕掛けがあるのでしょう?」
「ああ、それはございますがこのトトにお任かせ下さい。私はこの国の管理官でございますよ?この国の書は読みつくしております。もちろんピラミッドの設計図も記憶しております。無事、王の秘密部屋までお連れ致します」
「ほら、トトもこう言ってるだろ?さぁ、行くぞ」
部下達も俺を見て頷く。
「でもっ・・・だって、通路歩いてたら足元に一つだけ出っ張ってる石があってそれ踏んだら前から巨大な岩が転がってきて押し潰されたりとか、いきなり壁が開いたと思ったら矢が飛んで来てびっしり身体中に突き刺ささるとか、やっぱりいきなり壁がクルリとひっくり返って槍がいっぱい飛び出してきて串刺しにされるとか、突然、足元が崩れて深い奈落の底みたいな穴に落ちると落ちた床にも沢山針のように剣が立ってて、グサリッ!と身体中に刺さるのよ・・・?」
俺の言葉に部下達が一斉にバルトを見る。
「だから!!シルフィーヌ!なんなんだよ?それ!?」
「あ、それ、ございます」
トトが普通に答えた。
「「「あるのかッ?!」」」
俺とバルト、部下達までも叫んだ。
結局、バルトが先頭となった。
そして俺は部下の1人をハルクへの伝達係として宮殿に戻し、2人を門の入口に待機させると残りの部下達を連れ一つ一つの石像とオベリスクの間を歩いてピラミッドに向かう。
俺は石像の獣人を見上げ確認する。
やっぱり、そうだな・・・『セブンズ・ゲート』試練の門での各ステージのボス達だ。
「トト?この門、くぐる毎に〝徳を積む”のでしょう?」
俺の前を歩くトトは振り返るとニッコリ笑い答えた。
「シルフィーヌ陛下はどこまで知っておられるのです?貴女様は本当に不思議なお方でございますね?そのような民すら知らぬ神話の域の話を聞いてこられる。努力すれば叶うと言うおまけ付きでございますが後利益がございましたら墓にも参りたくなるでしょう?信仰心を仰ぐ為のただの仕掛でございますよ」
「だって、トトが『生まれ変わりの門』って言ったわよ?」
「それは『セブンズ・ゲート』の二つ名で門を全てくぐればピラミッドの正面に立たれるでしょう?聖地に立つ時は生れたての赤子のように清い無垢な心でお参りをしてもらいたいと言う願いを込めたのです」
なんだ・・・随分、現実的な事を言われたよ?
まあ?
ゲームのように門をくぐると異空間に繋がっていてこの石像の巨大な獣人達がだな、ドーンッ!!と待ち構えていて、いちいち闘って乗り越えなければいけないって大変だぁ~!って思ってたからいいんだけどさ?それに異空間、出せるものなら出してもらおうかじゃないか!って自棄になってたし。
部下達みんな食われてたらどうすんだよな?俺・・・
「トト、なぜホメロス王は人神ではなくなった?お前達の信仰する神とは違う異教を唱えたのか?」
先頭を歩くバルトが今度はトトに振り返りもせず尋ねた。
「我々の神は古くから形が変わります。その時々で祭る神の形が違うので他国からは多神教と間違われますが元は一つなのです。この『セブンズ・ゲート』の石像が代々の我々の神の姿。隼、朱鷺、猫、犬、牡羊、牛、そして人。今はホメロス王の中にその力が受け継がれておりました」
「過去形?ホメロス王の中からいなくなったの?」
「いいえ。シルフィーヌ陛下。ホメロスが汚した為、もう我々の神ではなくなったのです。自身の中に宿る、先祖代々受け継がれていたこの地を治める聖なる神の力をあの男は禁戒を犯し汚したのでございます」
「禁戒とは?俺とシルフィーヌの持つ力と同じなのだろう?神の力とやらは汚せばどうなるのだ?」
「聖なる力から邪悪な力へと変化をとげます。宿る器が汚れればその力はそれに同化してしまいます。ホメロスは自分の力を・・・恐ろしい・・・」
「あの石像のホメロス王は?もう変化した彼なの?何時の彼なの?」
「あれは王妃様を無くす少し前の姿です。まだ、変化しておりませんが兆しはございました。ちょうど5年前です」
「5年前?信仰を妄信しだした時期か?きっかけは王妃が亡くなった事か?」
「ホメロス王にとってアイヤ王妃は人生の全てでした。自分の内にいる神にホメロス王は祈った、アイヤ様を自分の命と引き換えにして蘇らせる事を。しかし、それはいくらホメロス王でも叶わなかった。王はそんな自分に絶望し、自分自身を邪神へと変化させアイヤ様の復活を祈ったのです・・・」
「まさか・・・?ピラミッドの中に安置しているのはアイヤ様の骸?」
さっき石像を見た時の嫌な予感が背中に這い上がって来る。
「わかりません。アイヤ様の棺は間違いなく宮殿の中の神殿に祀られておりました。しかし中身までは誰も確認できない状態でしたので・・・」
「人が復活など本当に出来るとホメロスは信じているのか?」
「バルト陛下、我が国の信仰では王の魂はいずれ元の肉体に帰って来ると信じられています。しかし、それは復活をすると言うことではございません。あくまで歴代の王に対する崇め称える気持ちに過ぎないのです。ましてアイヤ様は・・・・・・いえ、人は生き返る事はございません」
「なぜ、ホメロスに誰もその様に提言し諌めなかったのか?」
「提言した者は皆はその場で始末されました。暴君と化したホメロスは誰の言葉にも耳を傾けなかった・・・あの時にはもうすでに、すでに王は狂ってしまわれていた・・・」
「狂っていた?」
王妃が死んで人生が狂った王・・・・
「ホメロス王は先王妃であられる母君様をそれはとても愛しておられました。しかし母君様が突然亡くなられてしまわれると父君はすぐさまアイヤ様を後添いとして迎えられた。そこからホメロス王の人生は一変してしまわれたのです。義理の母親となったアイヤ様を愛してしまわれた。そして略奪したのです、アイヤ様を・・・父君に手を掛け、力づくで・・・この国で唯一、ホメロス王を罰することの出来た先王を切り捨てて」
出来るだけ抑えましたが・・・すみません。
お読みいただきありがとうございました。




