カシューダ王国の件
今日もよろしくお願いします!
ワズナー伯爵邸に着くと二人の酔っ払いは使用人達に担がれて眠ったまま自室に運ばれた。
俺は二人の重さと酒臭さに耐え、体がプルプルになり立ち上がれなかった。
まるで生まれたての子羊ちゃんだ。ハズイわッ!
そんな俺を部屋まで抱き上げて運んでくれたのはワズナー伯爵だ。
心配するアンナ様に恐縮する俺を見てちょっと嬉しそうに「娘もいいな」ってワズナー伯爵はつぶやいた。
次の日の朝早く伯爵の部屋からの凄い怒声に邸内の皆が飛び上がった。
俺も足下に来たタロを抱き上げたほどだ。
波〇さんの、バッカも~ん!!級だ。
そう、昨日の酔っ払い二人がワズナー伯爵に雷を落とされたんですね。
恐いッ!!恐いわ!!俺ならトラウマになるわ・・・・
その後しばらくすると二人は俺の部屋にやって来て平謝りだ。
「すまない、亮」
「悪かった、シルフィーヌ」
うわっ、本当に凄く起こられたみたいだな?
ションボリ耳が垂れたワンコになってるよ、二人共・・・・
けど、俺も許さんからな!!
「もう!二度と二人とは一緒に行かないから!!ダンかアレンと行きます!」
俺はむくれて顔をそむけてやる。
「もう、シルフィーヌといる時は飲みすぎないようにする。約束する」
バルトが眉間にシワを寄せ片手で額を押えながら頭を下げる。二日酔いのようだ。
「知らない!!」
「ちゃんと酒のセーブをするから。この通り」
ハルクも頭を素直に下げた。
「本当にもう!!凄く重かったんだから!何であんなに飲んだのよ?信じられないわ!」
「えっ?まあ・・・その、なんだ・・・なぁ?バルト」
「ん?ああ、まぁ?お前がいてハルクがいて、アレンもダンもさ、いて、何か楽しかったかな?」
「ああ、そうだな。久しぶりかな?王宮であんなに飲んだのは」
「何、それ?」
そりゃ、俺だってみんなが仲いいのは嬉しい事だが・・・・
「じゃあ、みんなで飲みに行きなよ?私は留守番しとくから」
「シルフィーヌがいるからハルクは寛げるんだよ、なぁ?ハルク?」
「ん?・・・ああ・・・まぁな?」
「何だよ?いつも一緒のアレンとダンがいるじゃん?何言ってんの?」
「まぁ、そうなんだが・・・・何かあいつらとは結局仕事の話になるからな」
ああ、そうか・・兄貴はこの世界ではハルクとしてはあんまりハメが外せないかもな?
あれ?そう思うと不思議だな?
兄貴は前世では家で仕事の話はあんまりしなかったな?
何か俺の話ばっか聞いてくれてたよな?
「兄貴、シルフィーヌが話す事は退屈じゃないのか?」
「いや?・・・どうしてだ?」
「いや、亮の時は兄弟だし育った環境が同じだったから何か俺、兄貴が愚痴とかつまらない話も聞いてくれるのが当たり前だと思ってた・・・けど、今は違うだろ?何か無理して俺に合わせてないか?」
「いいや、亮といる方が自然だな。亮といる方が俺はやっぱり素でいられるんだ。お前と話す俺が本当の俺なんだ」
「・・・兄貴、俺、やっぱり、兄貴と離れた方がいいと思うよ?俺もほんとは身分とか家柄とか貴族のやり取りとか苦手だから兄貴といて日本にいたみたいに自然体がいいよ?でもさ?俺は兄貴も大事だけど今の家族もバルトもレオリオ王子も大事なんだ。ハルクだってワズナー家大事だからここにいるんだろう?ならアイリーンとちゃんとハルクとして向き合いなよ?」
「シルフィーヌ、お前、いつも結論早すぎ。一年あるだろ?ちゃんとハルクの気持ち、アイリーンに持ってけよ?俺も協力するから」
バルトが眉間を押えながら俺の頭をポンポンした。
「あ・・・うん。そうだね?・・・うん、確かにバルトの言う通りだよね?うん」
「なぁ?お前ら・・・・楽しんでるだろ?俺とアイリーンの事」
「当たり前じゃん」
「当たり前だ」
バルトと二人ハルクを見てしたり顔だ。
そんな俺達にハルクは飽きれ顔だったが少し笑った。
うわぁッ!サブッ!
「で?首尾は上々?」
真っ暗な丘の上から解放軍がいる建物を遠眼鏡で覗き見る。
帝都から東に船で二週間近くかかったこの場所にある前世で言えば古代エジプトのようなまだ奴隷制度がまかり通っているこのカシューダ王国は次のハルクのターゲットだ。
帝国と同盟を結んでいない国をいかにして傘下に加えるか工作するのもハルクの仕事だ。
ハルクはこの国の低級層である奴隷や傭兵、商人の中からリーダー格を選び出しいくつかの組織を作り上げ身分解放を歌う解放軍を結託させて内戦を起こさせ現王族や上級貴族を揺さぶっているのだ。
そう、まさに国盗りゲーム。兄貴これ得意。
昨夜、帝国軍の船はこの国の沖合に停泊し、ハルクと俺を含む帝国海軍第一部隊は小舟に別れ暗闇に紛れて上陸し、ここまでの暗路を歩きで移動してきたのだ。
「ああ、五日後だ。この国が俺の手中に収まる瞬間をお前達に見せてやるよ?亮、バルト」
俺の横で腹ばいになり同じく遠眼鏡を覗き笑いをかみ殺しているハルクが答えた。
「奴隷解放軍のあのリーダーはハルクの犬か?」
三十代半ば黒髪で浅黒い肌の男が建物の二階の窓越しに見える。
「飼われている方が楽だからな?所詮、この国の連中が解放されるのは王族からだけだ」
「まあ、妥当だな。いきなりの身分解放はこの国の秩序を乱し混乱を招くだけだ。まずは解放軍の手で今の王を王座から引きずり下ろし王政を打破させあのリーダーをこの国の指導者に据えるか?帝国軍としては解放軍を上手く手引きしてこの国の再興を手助けし統治させなければな?そして国民をわけ隔てなく教育していけばいい。まぁ、その国復興に貢献した帝国のありがたみを国民に思う存分教育して手懐ければいい。ああ、そうか、邪魔な貴族は皆、先に一斉排除か?」
「ピンポーン!」
「兄貴らしいよ。あのリーダー、どこまで使える?」
「カリスマ性があるからな?お前の読み通り国の代表に据えてやっても行けそうだ。ある程度、頭も切れるし判断力もある。まあ?帝国に盾突くほどの余力を持たせないがな」
ククッと兄貴が笑う。
「いいんじゃないか?見せしめに王の首、取るか?テンション上がって一気に攻め落とすわ。じゃ、帰って城攻め算段しますか?」
「亮はやっぱり話が早いな?ククッ」
「シルフィーヌ」
「ん?何?バルト?」
同じく俺の横で腹ばいになり遠眼鏡を覗き込むバルトが口を開く。
「いや・・・・」
そうか、しまったな。ゲーム感覚で兄貴と話してしまったな。
バルトにとってはストレート過ぎたかもな・・・
「バルト、後で話をしようか?」
ありがとうございました!




