ワズナー家について
ちょっと短め、よろしくお願いします!
「止めろ!!バルト!!」
亮の声で俺は怒鳴る。
それでも俺を見るバルトの目はトロンとしてさらに頬が染まる。
うわっ、アイリーンと同じ感じだよ!
「愛してる、シルフィーヌ」
「だから!!違う!俺、今、亮だから!」
「シルフィーヌ」
顔、近い!近いから!
「わかった、わかったからバルト、落ち着こうか?ね?」
うわっ、止めろって!キスしようとするバルトの顔を両手で押し返す。
「離れなさい!!バルト!」
シルフィーヌの声で叫ぶ。
あ、止まった。
あ、凄くしょんぼりした。
あ、膝から下ろしてくれた。
良かった・・・・
って!!
今度は俺を座席に押し倒し思いっきり噛みつくようにキスをする。
更に肩と胸を押さえられ、馬乗り状態で起き上がれない。
やだ!!やめろッ!!
「ん!!ん!!」
咄嗟に俺はバルトの頬を殴っていた。
それも拳で思いっきりだ。
「・・・・え?」
バルトが間抜けな声を上げた。
「え?俺・・・?」
組み敷いた俺を見降ろし、おまけに自分の手が俺の胸を掴んでいるのを見て急いで離れる。
「うわっ!すまん、シルフィーヌ!」
「・・・バルト?・・・戻った・・・?」
俺も咄嗟に殴ってしまったのでバルトの頬に手を伸ばした。
「触るな、シルフィーヌ、まだ、余韻が残っている・・・」
急いで向かいの席に移動するバルト。
俺も身体を起こす。
ああ、手がジンジンする。痛い。でも、バルトの方が、
「大丈夫なの?バルト?」
「ああ、お前こそ大丈夫なのか?・・俺はお前を・・・?」
バルトが頬を押え、少し愕然としている。
「大丈夫。私は大丈夫よ、バルト。私が悪いの・・・また、私、変な感じだったのでしょう?バルトは凄く心配してくれたのよね?また倒れるかもって。バルトは何も悪くないって解ってるから大丈夫よ?」
「・・・すまない。もっとしっかりしなくてはな・・・・」
「こっちこそ、思いっきり殴っちゃった・・・ゴメン!」
ちょっと切り替えようとわざと明るい声で俺が言うと
「ああ、口の中が切れたようだ・・・。ホントに思いっきり殴ったな?それも拳でだし・・・・」
「えへへ?本当にごめんなさい。でもバルトがそれで正気に戻るなら他の人なら手を叩くだけで良さそうだわね?」
「止めろ!!使うな!絶対、他の奴の前ではそう言う状態にはなるなと言っただろう!?」
「・・・・はい。申し訳ございません」
うわぁ、マジ怖い・・・凄く凄まれたよ・・・
しかし、催眠術みたいだな?これ。
それに誰でも効きそうなんだよな?
「まあ!まあ!まあ!バルト様!綺麗なお顔が!冷やしましょ?とにかく冷やしましょうね?」
「申し訳ございません。アンナ様。犯人は私です」
「まあ!シルフィーヌ様が?殿方に手を上げるなんていけませんよ?」
ちょっと俺を睨んだこの銀髪に緑の大きな瞳の可愛いいご婦人はワズナー伯爵夫人、ハルクの母親のアンナ様だ。
俺たちがワズナー伯爵邸に着くとエントランスまで出迎えてくれたのだ。
昨日も夕方、ここに着いた俺とバルトを茶髪で赤い瞳のハルクそっくりなワズナー伯爵とこのアンナ様が大喜びで迎えてくれたのだ。ハルクは一人っ子で普段遠征ばかりだから俺達が来るのを凄く楽しみにしていた様だ。
「ワゥ!」
そしてもう一匹。今も俺の足下に絡みついている白の小型犬。
「タロ、ただいま」
ハルクのペットだが、前世で俺と兄貴が飼っていたタロととてもよく似ている。
それに名前も一緒だ。昨日初めて会った俺に不思議となついてる。
タロを抱き上げると一緒にバルトとアンナ様の後に着いてリビングに移動する。
ありゃりゃ、すっごく、赤く腫れてきてるわ・・・・・・
痛そっ・・・って周りの侍女達も凄く心配してるぞ?
そんな侍女達にテキパキと指示をして今はバルトの横に座り濡れたタオルでバルトの頬を押えているのはアンナ様だ。
そしてその瞳は机を挟んで向かいの席でミルクティーをすする俺を軽く睨んでいる。
う~ん、とっても可愛い顔だからお母さん、睨んでもちっとも怖くないんだけど?
「何があったのですか?シルフィーヌ様?」
「あの、アンナ様、殴ったのはシルフィーヌですが自分も悪かったの」
「えっと、まぁ、その?馬車で突然襲われたので、つい」
バルトと俺の言葉が重なる。
「えっ!」
アンナ様と侍女達が一斉にバルトをキッ!と睨む。
「冗談は止めろ、シルフィーヌ。笑えん」
そんなバルトは目だけをこちらに向けて俺を嗜める。
「ワゥ!」
急にタロが俺の膝から飛び降りるとガチャリとドアが開く。
「ああ、お帰りなさい。ハルク」
「お帰りなさい、ハルク様。早かったのね?」
「お帰り、ハルク。待っとけば良かったな?」
帰って来たハルクにタロが飛び着いた。
「只今戻りました母上。只今、シルフィーヌ、バルト。いや、皇帝とは時間が取れなかったのでな?馬で帰って来たんだ・・・それより、なんだ?痛そうだな?バルト。まさかお前、シルフィーヌを襲ったのか?」
タロを抱き上げると笑いながらハルクはソファにドカリと座るとタロを横に座る俺の膝に乗せる。
「ほら、ね?バルト、ばれちゃったよ?」
「止めろってシルフィーヌ、ほら、みんなが誤解するから。俺はそんな事しませんからアンナ様」
「そう、そう。普段はね?今日は魔が差したのよね?バルト?」
「そうなのか?バルト」
ハルクが軽くバルトを睨む。
「まぁ!!」
アンナ様とアンナ様の後ろの侍女達も身を乗り出した。
「違う!違います!アンナ様!シルフィーヌ!いい加減にしてくれ!」
「ごめんなさい。バルトは悪くありません。気分が悪くなった私をバルトが急に抱きかかえたので驚いて殴ってしまいました。お騒がせ致しました」
俺はみんなに頭を下げた。
侍女達が凄くホッとしている。
あ、もう、みんな、バルトのファンなんですね?
「いや、自分も悪かったのです。急に抱き締めたので」
やめなさい、バルト。
〝抱き締めた″なんて言うから侍女達が一斉に真っ赤になって鼻血出しそうなんだけど・・・・
何、妄想したんだ・・・
「まぁ・・じゃあ、シルフィーヌ様、今、ご気分はどうなのです?そう言えば・・顔色が・・・あら、大変だわ!真っ青じゃなくて?」
「ん?シルフィーヌ?どれ?」
ハルクも俺の顔を覗き俺の膝からタロを引き上げる。
ああ、さっきから頭が妙にガンガンするなと思ったら・・・
身体も妙にけだるい・・・・クソッ、今頃出て来たか・・・
「シルフィーヌ、部屋に行こう。少し休んだほうがいい」
バルトが立ち上がると俺の側に来て急いで抱きあげる。
「ん、バルト・・・お願い、連れて行って・・・・」
「ああ」
俺はバルトの胸で意識を手放した。
ありがとうございました!




