アイリーンの件
今日もよろしくお願いします!
足を組み頬杖をつき、ニヤリと笑うカルロス皇帝は俺を威圧するようにその眼光で射抜く。
ああ、俺を怒らせて『王の印』持ちか試してるな?
「恐れながら皇帝陛下、私は既にオールウエイ国皇太子レオリオの妻にございます。ご遠慮申し上げます」
俺も背筋を伸ばしたまま真っ直ぐカルロスを睨み返す。
「まあ!お兄様に、皇帝陛下になんて無礼な!」
俺から向かって右。
赤い縦ロールの長い髪に大きな茶色の瞳、赤い唇が白い肌に映えとても艶めかしい美女がカルロスの肩を掴み身を乗り出しこれまた凛々しい眉を歪ませ叫ぶ。
ああ、こいつがサロメか?
キャラが俺と一緒の悪役令嬢じゃん?
「ふふっ、止めなさい、サロメ。お兄様もからかわないの。シルフィーヌ姫はまだ子供ですわ」
今度は左に立つ美女がカルロス皇帝の肩に手を添える。
紫色のとても美しいウエーブのかかった髪に紫水晶のようなこぼれそうな瞳。こちらも色白で口元に扇子を添え俺を見てクスクスと笑う。
そしてこいつがアイリーン。
ヒロインだな?見た事あるわ。
「お姉様!いくら主要国王族だと言ってもお兄様に無礼は許せませんわ」
サロメが俺を睨んだままだ。
すると皇帝が突然大きな声で笑いだした。
俺もニヤリと笑う。
「ああ、サロメ、いい。アイリーンの言う通り冗談だ。気を悪くするな。シルフィーヌ姫もだ。だが、さすが『印』持ちだな?お前が見込んだ姫は流石にいい度胸だな?ハルク?」
「皇帝陛下、シルフィーヌ姫は我が妻に向かえる予定です」
俺の後ろからのハルクの声にどよめきが起こる。
サロメとアイリーンも目を見張り固まった。
「ハルク」
カルロスが口を開くと一斉に静寂が訪れるが空気は緊迫したままだ。
「一年後に姫に聞くがいい。せいぜい他の者に取られない様にな?ああ、本当に『印』持ちなのだな?それも黄金色とはな・・・面白い。ああ、姫の連れもか?成程な・・・これは・・・ふむ。シルフィーヌ姫、ハルクがそなたを守る。そして一年後、そなたの意向を聞こうではないか。まあ、それまではその連れとこの国で学び考えるが良い。そなた達はいずれ良い王となるであろう」
「アイリーンの前で何言ってくれてるのよ?」
玉座の間を出るとこれからお世話となるハルクの屋敷に向かう為、長い宮殿の廊下を歩く。
俺は不機嫌な声で後ろを歩く兄貴にさっきの続きだ。
すると俺の横を歩くバルトが先に答えた。
「ああ言わなければお前の争奪戦がこの国で起こる。皇帝も牽制しただろう?」
「ちゃんとレオリオ王子の妻だって言ったわ!」
「シルフィーヌ、あれじゃあ、余計に未婚、既婚を問わず、お前を欲しがる貴族や他国の王族たちが名乗りをあげる。ハルク、手っ取り速く俺の嫁って事にしとけば良かったかもな?」
アレンが笑いながら横を歩くハルクに言った。
「アレン、俺は本気だ。シルフィーヌは俺の家族にする為にこの国に向かえた」
「いくらお前でも既にシルフィーヌは一国の次期王妃だぞ?無理を言うな。いい加減目を覚ませよ、ハルク」
バルトも振り返るとアレンに頷く。
「ハルク、シルフィーヌは俺と一緒に一年後オールウエイ国に帰る。諦めてもらおう」
「ああ!違う!俺の言ってるのはアイリーンだよ!見たか?兄貴!アイリーンのあの真っ青な顔!」
俺も歩く足を止め、ハルクに振り返る。
「あにき?」
ハルクの横のアレンがキョトンとする。
「終わった話だろうが!」
ハルクが俺に怒鳴り返す。
「あー!!もう!本当にめんどくさいわ!明日非番だろ!行くからな!アイリーンとこ!」
「行かないし!」
「あ?行くんだよ!このバカ兄貴が!」
「ばかあにき?」
またアレンがキョトンとしている。
「行かない!」
俺とハルクが掴み合いをしそうな勢いで睨み合う。
「とにかく帰るぞ」
バルトが俺とハルクの手を思いっきり掴むと凄い力で引っ張って歩き出す。
「来いよ?アレンも」
「あ?ああ、バルト・・・なんだよ?お前ら?それ・・・?」
アレンもブツブツ言いながら着いて来た。
ぽってりとしたピンク色の唇がとても色っぽいアイリーンは昨日俺が時間を下さいと申し入れをすると快く今日のこの時間を指定してくれた。
ここは王宮、アイリーンの部屋だ。
アイリーンは昨日のように堂々としているが俺と一緒に来たハルクを見ると顔を少し強張らせた。
「アイリーン、久しぶりだ。元気そうだな?」
「ハルク様もご活躍、聞き及んでおります。とても・・・いえ、お元気そうでなによりです・・・」
少し瞳を伏せながら徐々に頬を染めるアイリーンをハルクも見つめた。
「・・・ああ、そうだ。これを」
ハルクが上着のポケットに手を入れるとアイリーンの手にそれを載せた。
「まあ・・・!かわいい・・・頂いても?」
手のひらには2羽のクリスタルのウサギが乗っていた。
「ああ」
「・・・・うれしい・・・」
消え入りそうな小さな声で呟きながらも口元には笑みが広がる。
ハルクもそんなアイリーンを見て微笑む。
なんだ・・?上手く行ってるんだけど?それに本当にお似合いだな?
そりゃ、そうだよな?ヒロイン、ヒーローだもんな?
うわ、アイリーン、顔真っ赤だし・・・兄貴もいい雰囲気だよね・・・?
やっぱり、気付いてないけどゲーム補正かかってるよ?二人とも。
「ああ、アイリーン、俺はこれからまだ皇帝に報告があるから先にバルトと失礼するがシルフィーヌ姫が話をしたいそうだ。よろしく頼む」
「あ、はい。承知いたしましたわ。ハルク様」
ハルクが軽く俺に手を上げるとバルトも後で迎えに来ると俺に告げて一緒に出て行った。
「庭に百合の花が咲きましたのよ?シルフィーヌ姫のようにとても可憐ですわ。ご覧になる?」
アイリーンが俺に親切に対応してくれる。とてもサロメと双子とは思えない穏やかさだ。19歳だそうだ。
まだって言うか、結婚していてもおかしくない年齢だからやっぱりハルク思ってるんだよな・・・
「はい。是非」
「では、参りましょう?」
奥宮の中央に位置するこの庭園は皇族が招待した客しか入ることの出来ないプライベートスペースのようだ。そんな庭園の一角にいろんな色の百合が咲き乱れている。
こんなに沢山咲くと可憐ではないがな・・・
他にも色とりどりの花が咲き誇っているから見ごたえ充分だな。
「とても手入れが行き届いた素晴らしい庭園ですね?それに良い香りです」
「ええ、兄の自慢ですわ」
「皇帝陛下の?ほう、ロマンチストなのですね?」
「ふふっ、あれでなかなかの詩人ですのよ?」
「シジン?シジン・・?えっ!詩人!?」
メルヘンか!?メルヘン皇帝って・・・似合わねぇ・・・
「しっ!内緒ですわよ?」
って、今二人きりだけどね?
ふふっと笑って唇の前に人差し指を立て、小首を傾げるそのしぐさがとても色っぽかわいい。
さすがヒロイン。目が奪われるよ。
「シルフィーヌ様はハルク様の事で心配してくれてるのですよね?私が気にしていないかと」
ああ、なんだ・・・感もいいじゃん?良かったよ?ゲーム通りの天然じゃなくてさ?
「ええ、ハルク様の言った事は違いますから。私を守る為の周りへの牽制ですわ。皇帝陛下と同じ。お分かりなら話は速いです。ちょっと安心いたしました」
「いいえ・・・ハルク様は本気ですわ・・・。それに私はもうハルク様とその様な気持ちをどうこうする間柄ではございませんわ」
おや、下向いた。
強がりだよね?
「・・・・昨日初めてお会いしたばかりの私が意見するのは失礼だと重々承知しておりますが」
「ハルク様とは終わっておりますわ。シルフィーヌ様」
毅然とアイリーンが言い切った。
ありがとうございました!




