皇帝カルロスの件
今日もよろしくお願いします!
ウォーッ!陸!陸!嬉しい!
帝国には後2日で着くが途中中継港として帝国同盟国に寄り食料品や水、石油などの消耗品の補給だ。
それと同時に中継国の監察を行うのもハルクの重要な仕事だ。
それに航海ばかりの部隊の者達もこの日は交代で陸に降り、羽根を伸ばしている。
ダンも今日はその一人だ。
俺とバルトはハルクについてこの国の宰相と会談中だ。
ハルクは手慣れたもので要領良く相手に質問をして行くので昼食前には問題無く観察は終了だ。
「ところでそちらの」
話が一段落するとこの国の宰相殿が俺を見て声をかけた。
「はい、私ですか?何でしょうか?」
「美味しい魚料理を出す店が近くにあるのですが良ければ昼食を一緒にいかがですか?」
「えっ?あ・・」
「失礼、キッシュ宰相、まだ仕事がございますので」
横に座るバルトが俺の返事を待たずに答える。
「キッシュ宰相、彼女は私の許嫁です」
兄貴、口元笑って言ってるけど目、怖いから・・・それにその威圧はとても失礼だ。
「これは失礼を」
あ、凄くションボリした・・・・何か可哀想だな?
お父様くらいの歳だよね?やっぱり兄貴の方が失礼だよ?
「では失礼致します」
一応丁寧に頭を下げるとそれより深く頭を下げた宰相さんに見送られた。
宮殿の出口に向かう長い回廊を歩く。
周りにはこの国の貴族や兵士達も行き交うがハルクを見ると道を開け軽く会釈される。
「わぁ!誘われた!ひやぁ!凄い!」
「何で喜んでるんだよ、お前は?キッパリ断れ」
横を歩くバルトが軽く俺の頭を小突く。
あ、ちょっと怒ってる?
「ちゃんと人妻ですって言おうとしたわよ?」
「バカか、お前は?一晩の思い出を下さいってベットに連れ込まれるわ」
前を歩くハルクが俺に振り返りやっぱり頭を小突く。
「えっ?マジ?怖っ!大人怖っ!」
「お前は今世でも天然か?その容姿ならもう少し毅然としろ。まったく相変わらず人足らしか?」
ハルクが前を向き大股で歩きながら話す。
「何だよ?兄貴の方が身動きとれないくらい周りからモーション受けてんじゃん?」
「俺はキッパリ断ってる」
「その割にはアレンのあの態度は何なんだよ?それに元許嫁、補正かかってないか?まだ諦められてないだろう?アイリーンだっけ?」
「誰だ?それ?」
バルトが口を挟む。
「ああ、バルト。アイリーンは皇帝の妹でこの間レオリオ王子が見合いしたサロメの双子の姉らしい。ハルクも別に嫌いではないだろう?」
「・・・・アレンの奴か?まったくあいつも・・・俺はキッパリ断った。その気はない」
「どうだかね?アレンにはどう言った?あいつは俺を殺すって言ったよ?それくらいアレンでも兄貴が気になるんだ。アイリーンはどうだろう?サロメは?だから俺を呼んだんだろう?」
「違うな」
ハルクが止まりクルリと振り返ると俺にハッキリ言った。
「何が違う?」
俺も強く言い返す。
「止めろ。こんなところで兄弟喧嘩するな。只でさえ周りが注目してるだろう?街に下りてランチ食べに行くぞ。二人とも」
バルトがハルクと俺の手を引き歩き出す。
「ハルク、アレンがシルフィーヌを殺すなら俺がその前にアレンを殺る。シルフィーヌは俺が生涯を賭けて守ると決めた女だ。お前の親友なのだろう?アレンにもう一度言い聞かせてもらおう」
今度はバルトが大股で先頭を歩きながらハルクに言い放つ。
「ああ」
「へぇ~?えらく素直だ?」
「止めろと言ってる、シルフィーヌ。ハルクはお前の為に言ってるんだろう?」
「・・・・はい」
「へぇ?お前こそバルトには素直だな?」
「っさいよ!バカ兄貴!」
俺は横を歩く兄貴の肩を叩く。
「うるさいのはお前だ!亮!」
ハルクも負けじと肘で俺の頭を押して来た。
「何すんだよ!」
「お前がするからだろうが!」
「ああ!いい加減にしろ、お前ら!!」
あ、バルトが怒鳴った。めずらし・・・
その二日後のお昼過ぎに帝国の港に船は着岸した。
やはりこの世界、第一に君臨するだけある、港のその賑わいはオールウエイ港を遥かに凌ぐ。
やっぱり立地条件だろうか?大陸続きで利便性がいいのかな?我が国、王領の港もアントワート港も便利だがここよりは狭いからな。
「ハルク!やっぱり帝国は凄いね?船がひしめき合ってるよ?ああ、岸壁までの水深が凄く深いんだ?そうか、大型船でも乗り込めるからか」
「ああ、ここは大陸を横断する海峡の入口でもあるからな。世界の主要国が各々の貿易の為必ず通る。お前の国もお前の領の船も良く出入りしているぞ」
「そうなんだ・・・そうか、凄いな・・・空路がないって大変だな。車や飛行機がない世界だもんな?」
オールウエイ国から今日まで船で二週間近くかかったもんな。この世界の航海は大変なものだな。
「くるま?ひこうき?何だそれ?さえきりょうの時の物か?シルフィーヌ?」
「ああ、そうだよバルト。移動手段なんだ。フフッ、でも言っても信じてくれないよきっと。私でもどうしてジェット機が空飛ぶか説明できないからね?」
「空?空を飛んで移動するのか?鳥なのか?」
バルトがカモメが飛ぶ空を見上げる。
青く澄んだ気持ちのいい空だ。
「ああ、そうだけどな?生き物ではなくて船と同じ人間の創作物だよ。車も同じ。どちらも鉄の塊だが凄い早さで移動する。くるまと呼ばれるモノは小さいモノでも馬が60頭で引いてるくらいの力と速さだからな?ククッ」
ハルクがバルトに説明する。
「想像がつかない・・・」
「いいよ、バルト。必要ないから。この世界には。な?兄貴」
「ああ、バルト、この世界には必要ない。この世界はこの速度で時間が流れるからいいんだよ」
兄貴も空を見上げ、カモメが目で追う。
ああ、この世界はこれだから楽しいんだよ・・・きっと
「二人の世界って何よ?教えてよ?シルフィーヌ?」
突然、後ろから俺を抱き寄せたアレンに顔を覗き込まれた。
「あ、アレン?聞きたい?」
「聞きたいな?ぜひ、聞きたい。じゃなきゃ、シルフィーヌ殺すからね?ハルク」
そう言う今度は横に立つハルクの肩にもたれてハルクの顎を持ち上げる。
「アレン、今晩ベットで教えてやるよ?」
「うわ、ハルク!」
「うわ、ハルク、そっちか・・・・・・・」
俺とバルトが一瞬でハルクとアレンから離れる。
「大人って不潔!」
俺は口元を押えて言ってやる。それも涙目で。
「えっ、いや、俺とハルクはそんな事は・・・・!」
アレンがちょっと焦って俺達に向き直り手を振って否定をしようとする。
アレンについてだが初めの印象は最悪だったが本当に兄貴が言う通り、真面目で素直でおまけにこのようにとても照れ屋だった。
だからアレンは相変わらず俺をいじめているつもりらしいが俺は気にせずなついている。
まあ?アレンの気持ちはお構い無しだが。
「アレン、あいつら笑ってるからな?お前ほんとに遊ばれてるから・・・止めとけよ」
ハルクがアレンの肩をポンポン叩く。
いつの間にか来たダンが後ろで吹き出した。
「え?・・・えっ!またか!クソガキ!」
「お下品!!アレン!綺麗な顔台無し!BOO!BOO!」
俺は右手親指を下げて眉を潜めてブーイングだ。
「シルフィーヌ、お前が下品だ、止めろ!」
ハルクが真剣に俺に怒鳴った。
「あ、ハイ!ごめんなさい!」
俺も咄嗟に謝る。
うわっ!前世の行儀にうるさい兄貴健在だよ!
箸をきちんと持てとかお辞儀はきちんと腰を折れとか、電話をこちらからかける相手には会社名でも必ず敬称を付けろだとかだ。
まあ、今思えば俺をきちんとした社会人に育てる為でもあったんだろうけど。
兄貴も俺も中学から大人に混じって仕事してたからな。結構つまらん事で注意されたもんな。
そんな俺とハルクを見てアレンとバルトとダンが意味が分からずキョトンとしていた。
あ、こっちではブーイングはこうしないのね?
帝国の宮殿に着くと早速、俺とバルトは皇帝と謁見だ。
お互い正装に着替え『玉座の間』のドアが開くと両側にはこの国の官僚がズラリと並ぶ。
俺は中央を堂々と歩きその一歩後にバルト、その後にハルクとアレンが続く。
正面の玉座には13代皇帝カルロスがふんぞり返り、その左右には二人の女性が立ち俺を見降ろす。
随分なお出迎えだな?えらく仰々しい。そんなに歓迎される意味が分からないな?
綺麗に斬り揃えられた短い黒髪に鋭いがハッキリした茶色の二重の瞳、凛々しい眉が協調した面長なその顔は、とても自信に溢れている。
身体つきも随分とたくましいな?カルロス皇帝はなかなかの貫禄だ。とても29歳とは思えんな?
俺が淑女の礼をし、名を告げると上から下まで舐めまわす様に見る。
「よく来た。そして噂通りに美しい。この国に腰を落ち着けてはどうだ?ああ、今宵は二人でじっくり話そうではないか?閨でな?」
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