ダンの件
「おはよう!ダン小将」
「おはようございます。シルフィーヌ中将、バルト中将」
朝早くに昨日渡された軍服を着こんで甲板に出る。
ウオーッ!いい眺め!格好いいよ!軍服着込んだみんなが各々トレーニングだ。
「うわぁ!ダン小将の腕って凄くたくましいのね?格好いい!」
「止めろシルフィーヌ、皆、お前に注目してるから」
バルトが俺に注意だ。
ダンが少し赤くなる。
ダン小将は昨日俺達に船の中や簡単な海軍の生活習慣や仕事のスケジュールなどをとても丁寧に優しく教えてくれた。
ハルクの側近で子爵家出身、体はハルクと同じく大きく筋肉マッチョだが顔が甘いハンサムなので優しい熊さんだ。ちなみにハルクと同じ年の22歳。幼馴染みらしい。
「おはよう。早いな、二人共」
ん?ハルクだ。
うわぁ!格好いい!大将服肩に引っ掛けて腕組みして立つその姿は男の色気全開だな。
「おはようございます!」
そのダンの声に一斉に回りの隊員も挨拶が上がり敬礼だ。
「凄いね?大将殿」
「まあな。それよりヤバイな?シルフィーヌ。今日、何あるか知ってるか?」
「勿論だよ!」
今朝は早速の洗礼だよね?
うほぅ!腕が鳴るよ!もう、楽しみで仕方ないよ!
「その格好でやるのか?まぁ、俺は構わんがな?」
ハルクがニヤニヤしながら顎に手を添え横目でバルトを見る。
「俺は困るんだがな」
その視線にバルトがムスッと答える。
まぁ、確かにな?
なんで俺の着る軍服はこんなに胸とお尻がピチピチなんだ?腰はしっかり括れてるからよけいだよな?おまけに帝国の軍服は女性幹部用がちゃんとあるのだ。男性と違うのは下がスリットの入った膝下スカート。中に短パンちゃんと履いているがな。俺が歩くと見え隠れする太ももにみんな注目だ。
「なんでバルトが困るのよ?」
「わかってるくせに。どう思うよ?ハルク」
ハルクが、ブハッ!っと吹き出しアハハハ!と笑う。
周りの部下達の動きが一斉に止まりギョッ!としている。
「まあ、まあ、な?バルト。それじゃ、始めるとしようか?」
ハルクが声を張り上げる。
「さあっ!!今から始めるぞ!新入りとやりたい奴!!サッサと横一列に並べ!!」
おやおや?随分、雑だな?
まぁ、いいけど。
お?おおっ!!え~っと、30人はいるな?
えっ?ダンやるの?ふーん?
「さてとどっちからだ?」
ハルクがバルトに視線を移す。
「あ、ハイ!ハイ!私!私!」
俺が真っ直ぐ手を上げてピョンピョン跳ねる。
「あ、止めろ!シルフィーヌ、俺だからな!」
「やだよ!バルト!私だから!」
バルトに膨れる。
「シルフィーヌ行くか?」
そんな俺に兄貴はニヤリと笑いながら尋ねる。
「ハルク!俺だ!!」
バルトが一歩前に出る。
「待てよ、バルト。面白いからシルフィーヌからな?」
「ヤッタァーッ!」
「シルフィーヌ!」
俺は止めようとするバルトにベェーッて舌を出しサッサと剣を二本、両手で持って甲板中央に躍り出た。
すると挑戦者達は唖然とした。
多分、バルトが出て来るはずだと思ったよね~?ギタギタにしたかったよね~?
んふふ。残念だったよね?でもね?ガッカリさせないからさ!!
俺が二本の剣を軽く、ブ〇ースリーのヌンチャクのようにウォーミングアップさせると、みんなが息を飲む音が聞こえた。
ああ?速かった?見えなかったかな?剣の動き。
俺はニンマリ笑い、声を出す。
「ほらほら!!各自好きなタイミングでかかっておいでよ!!じゃないと~!本気で来なくちゃ殺しちゃうわよっ!!」
素早く俺が腰を落とし、二刀で構えると同時にハルクの号令が飛ぶ。
「かかれ!!」
一斉に声を張り上げ向かって来る。
一人目、右手剣で払い除け、二人目、左手剣で受け、回し蹴りで吹っ飛ばす。
上から降り下ろされた三人目の剣を右で受け前から来る四人目の腰を左手剣で払う。
わぁ!痛そ!!ごめんよっ!!
三人目の剣を下から押し上げ振り返り様に鳩尾に左手剣の柄をお見舞いだ!!
ぐぇ!って、ああ、白目剥いてるな?
後ろから斬りかかる五人目の首もとギリギリに、素早く左手剣を差し込み驚いたそいつも回し蹴りだ。
俺がピタリと両手を広げ止まると左右から同時に斬りかかる二人の鼻の穴に剣先が埋まっている。
周りの斬りかかる輩も一斉に動きが止まる。
「刃を潰していても鼻くらい軽くもいじゃうけど?いいかしらッ!?」
俺が声を張り上げると二人はそれでも同時に斬りかかる。
「あら、格好いいことッ!」
俺は手を交差させ、素早く剣を引くと一瞬で二人の胴に剣を討ち入れる。
二人がその場に崩れ落ちると同時にダンが俺に飛び掛かり俺の頭上に剣を降り下ろす。
おっと!速いな?
俺は剣を交差させその剣を頭の上で受け止める。
だが、その力、バルトの比ではないな!
ダンが両手で降り下ろすその一太刀はギリギリと俺の剣を押し込む。
しかし俺はダンの剣をダンの身体ごと跳ね飛ばした。
廻りの兵士達はまだピタリと止まったままだ。
ダンの手から剣が吹っ飛んでいた。
「もう一度」
俺が言うとダンは失神している兵士の剣を素早く拾うと下から左胸を突いてくる。
おいおい!楽しいじゃないか!
やるやるダン!
その一突きを俺は両手の剣の刃で挟んで止めた。
ダンが目を見開いて唖然としている。
俺がニヤリと笑う。
と周り連中が次々と手に持つ剣を落とした。
ダンもゆっくりと剣を引く。
するとその剣を足下の甲板にそっと置いた。
ん?
「それまでだ!!勝者、シルフィーヌ姫!」
ハルクが手を上げ大声で叫ぶ。
「えっ?まだだよ!ハルク!まだ!!」
「誰も姫とは戦わないそうだ」
「えっ?なんで?まだ残っ・・・・あれ?」
みんな一斉に俺に頭を下げひざまついていた。
目の前のダンもだ。
えっ?
仕方がないので剣を下ろした。
ちぇっ!!今からなんだけどな・・・・
「お前達!!いいか!シルフィーヌ姫に忠誠心を見せろ!」
ハルクの言葉にダンが
「姫、どうか貴女の臣下に」
と言うとみんな俺を見上げた。
えっ?
「シルフィーヌ姫に忠誠を!!」
と一斉に叫ばれた。
うわっ!すんげー感動!!てか、照れるぞ、これ!
「えっ!!あ!えっと、よろしくね?みんな。あの、とても嬉しいわ」
ってつい、恥ずかしくて両頬を押さえて笑うとみんなにガン見された。
何か、これ、前にもあったよな?ああ、あれだ。辺境伯領の時と同じかな・・・・?
あ、ダンの頬が赤くなったぞ・・・・?じゃなくて、
「あ、そうだ!バルト中将!!私以上だからね!!」
って俺が言うとみんな一斉にバルトに敬礼した。
俺が笑ってダンの手を引き立たそうとするとダンが
「姫、どうかダンとお呼び下さい。そして貴女の背中を私にお預け下さい」
と差し出した俺の手を両手で掬い上げ真剣な顔で乞われた。
うわっ!うわっ!騎士様みたいだ!格好いい~!!
「嬉しいわ?ダン。頼りにしています」
ってもう片方の手をのせ頷いた。
ダンの顔がほころぶ。
うわっ、かわいい!熊さんだ!熊さん!思わず俺も見つめてニヤケてしまった。
周りの隊員も一斉に「姫、姫、自分もです!」と叫びだした。
「あーあ、またああやって男を虜にするんだ・・・あれ、シルフィーヌは友情だと思ってるんだ」
部下達が次々にシルフィーヌに話しかけてるのを見てに満足そうに立つハルクにバルトは話しかける。
「それは質、悪いな?自覚がない分」
「知らないぞ。ハルク。部下みんな、かっさらわれるぞ」
「まさか」
顎を撫でながらククッと笑うハルクにバルトは真剣な顔で話す。
「今回の件で俺の父は自分の部下を宥めるのに随分苦労したんだ。シルフィーヌ姫を帝国に差し出すくらいなら戦うと言って近衛兵達は譲らなかった。みんなシルフィーヌの為なら死ねるそうだ」
「ほう?マジ?」
「帝国と隣接する我が国の辺境伯領の衛兵部隊、あいつらもシルフィーヌに忠誠を誓っている。数、把握してるか?それに俺の部隊もな。シルフィーヌは俺の嫁だと信じてるからな。今回正直、レオリオ王子が折れなければあいつの兄もハルクの首を狙っていたよ」
「マジかよ?笑えんな?」
「マジって本当っていう意味ならそうだ」
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