月夜の晩にの件
よろしくお願いします!
グランドマッスルは混乱の中、本日は取り止めとなりシュナイダー近衛兵隊長の指揮の下、近衛兵を中心に警備兵達が闘技場の整備にあたり多くの観客を無事闘技場から帰宅させた。
またお父様が逃亡者の捕獲を指揮し、今、他の賊が潜んでいないか情報を集めている。
倒れた黒マントは15人、いずれも絶命し、国もバラバラでこのグランドマッスルに集まって来た輩を金で雇った烏合の衆であった。こちらもレオリオの護衛のマークスを初め何人かの負傷者が出た。
レオリオは怖がるセイラと王妃たちを宥め、バルトはシュナイダー近衛兵隊長に経緯を報告し、俺とルカはお父様に逃亡者の事などを報告していたら王族の安全の確保の為に先に王宮に送り届けるとの事で頭に止血用の包帯を巻いたマークスが俺を呼びに来た。
「お父様とお兄様の側にいたい」
「いや、王宮の方が安全だ。後で必ずルカと向かうから王子の側にいるんだシルフィーヌ」
お父様が俺の肩を掴んで言い聞かせる。
「・・・はい。お父様」
「いい子だ」
お父様が俺の頭を撫でる。
隣に立つルカに俺は抱き着く。
「お兄様、必ず来て?」
「もちろん。すぐ行くから」
ルカも俺を抱き締めた。
そんな俺達の所にバルトが走って来た。
「シルフィーヌ、俺がお前の護衛に着く。父上からの命令でもある」
「ありがとう、バルト。心強いわ」
お父様、ルカがホッとしていた。
「ケガはない?」
お互い同時に声を発してお互いの手を取り無事を確かめて安心する俺とレオリオを近衛兵達が王宮へと帰る馬車へと誘導する。
馬車には王妃、ラルバ国公妃、セイラを乗せ、俺はレオリオと一緒の馬に跨り近衛兵に囲まれ王宮に帰る道を移動した。
自分の前に乗せ手綱を持って大事に俺を抱き込むレオリオはわざと馬車に乗らずこちらを選んだ。俺の誘拐未遂を聞いたレオリオが心配して俺を離してくれなくなったのだ。
「ありがとう。僕を助けてくれて。僕の勇者様」
頭にキスを落とされた。
止めろ。周りの近衛兵達が見てるし。外だし。バルト後ろにいるし。
「当たり前の事ですから。レオ、皆の前ではやめて」
振り返り、見上げてちょっと睨む。
すると余計にキスをしようと顔を近づけてくる。
「レオ!もう・・・・!」
と下を向いて小さな声で抗議する。
「じゃあ、帰ったらね?」
しないからな。本当に。こんな時に何考えてるんだよ!さっきのセイラ達を守っていた格好いいレオリオはどこ行ったんだよ!
「国王陛下は大丈夫かしら?」
「父上も公務を取り止めて今王宮に向かっているそうだ。それに今回の目的はまだはっきりしていないからね?」
「だったら余計に王宮に私が行くのはどうなの?狙われたのは私なのよ?私のせいで皆が危ない目に合うのは嫌だわ。今回だって私だけをさらえばいいのに・・・・アントワート領に帰るわ」
「君は僕の后だよ?僕が守る。僕の側を離れるのは許さない」
「レオ、でも・・・・マークス達もケガを」
「王宮の方が君を守り易いし、近衛兵達の戦力を分散させるのはかえって危ないからね?シルフィーヌ、帰さないよ」
「・・・・承知致しました」
やれやれ、ヤンデレ全開だわ・・・・
「やけに簡単に入り込めたと思ったんだよな」
満月を背負い、王宮の俺の部屋の窓枠に腰掛けるのは昼間ハルクと名乗った黒マントの男だ。
今夜奇襲が有ることを予測して俺の部屋にレオリオ、ルカ、バルトが今俺の背後に武器を装備して待機している。
もちろんこいつと対峙している俺も腰に剣を装備した騎士姿だ。
「思い出したわ。貴方、私を襲った山賊よね?」
「ピンポーン!!」
やっぱり・・・思った通り転生者だ。
そしてこいつは・・・・
「感謝して貰おうか?ラルバ公国側妃に聞けば今日の奴らをけしかけた黒幕がわかるぞ?お前の時も山賊一掃出来ただろうが?」
そうか、ラルバ公国の世継ぎ争いか・・・それで度々、セイラと公妃はこの国に避難していたのだな・・・
「なぁ?それより。何してるんだお前は?ガキと恋愛ゴッコか?くだらない。さっさと俺の所に来い、亮」
やっぱりな。
「そっちこそ・・!!そっちこそ今どこで何してんだよ!」
思わず涙声だ。隠せなくてうわずってしまう。
「言ったら素直に着いて来いよ?」
「・・・・行かないし」
「連れて行くけどな」
被った黒マントを取り顔のマスクを下ろす。
綺麗な銀糸のような髪が月光に煌く。
双方の赤い瞳が強い眼光をはなち、高い鼻梁に二ッと口角があがった唇。
とても端整で綺麗な顔立ち。
そしてそのたくましい胸元をはだけるとそこには『王の印』があった。
俺の後ろの三人が思わず息を飲む気配がする。
無理はない。その大きさ、レオリオとバルトの2倍はある。
「俺は帝国軍第一部隊大将、ハルク・ワズナーだ」
だろうな。
それに『王の印』はあるとは思っていた。だってこいつは5歳の俺の頭を殴って打撲させたからな。
「どうして?」
「亮だと気づいたか、か?あんなデカイ声である日ある日の輪唱、それも怒声で一人で歌ってるチビなんかお前しかいないだろ?まったくお前は!生まれ変わってもあの歌か?ククッ」
ああ、確かに山賊襲撃の前の晩、お父様とルカが先に帰るのが気に入らず宿泊先の旅館の廊下で歌ったかもしれないが・・・
「それだけで?それだけで5歳のそれも女の子を俺だって?」
「ああ。わかる。やっとこさ見つけたんだからな」
そう言うとニィと笑う。
止めろ、嬉しそうに笑うな・・・・
「なぁ?黙って来い。今ならそいつら殺さないし、お前まだバレてないし」
「今さら俺必要?その実力にその容姿にその印があれば何でも手に入るだろ?充分だろ?だから俺はあきらめろ。俺は行けないし行かないよ?」
「この世界を手に入れるのはたやすいが俺はもっと欲しいものがあるんでね」
「何だよ?」
「家族。だからお前だよ。お前がやっぱり一番やりやすい」
「止めろ!勘違いされるだろうが!今、俺、女なんだよ!お前の今の容姿に身分なら女も男も選り取り見取りだろ?真剣に口説けよ」
「ああ、怒った顔もかわいいな?今の女のお前も凄く気に入ったしな。やっと抱ける」
「止めろ!真剣、止めろ。寒気がするわ!」
「何でだよ?なんか問題あるか?」
「あるよ?おおありだよ?!兄貴」
「おう!愛してるよ、大事な弟」
そう、こいつは俺の兄貴だ。
間違いなく俺の兄の佐伯一馬だ。
あの地震にあったあの日、同じ声優で同じ仕事場所に同じ車に乗って移動していたんだから生きてるわけないわな。
「あのさ?俺、弟!!嫁は無理だから!当たり前だろ?無理に決まってるだろ?バカな事言うなよな?俺は一馬は兄貴だから好きなんだよ。弟!生まれ変わっても俺は一馬の弟だから!」
「いいよ?弟で。家族だからな。だから連れて帰る」
そう言うと素早く立ち上がり俺との距離を詰める。
速い、凄く速いぞ・・・・!
「ひ、一人で帰れ!」
「冷たい事言うなよ?たった一人の弟だろ?そいつらに未練があるのか?じゃ、殺すとしよう」
俺の両肩に手をかけ、俺の顔を覗き込む。
「止めろ!手を出したら容赦しないからな!相変わらずそう言うところ、徹底してるよな?帰れよ。いいから帰れよ!バイバイ兄貴、二度と来るな!」
俺は兄貴を睨み上げる。
「まあ、いいか。いつでも始末は出来るしな?それより今の話を聞いたそいつら、はたしてお前を許容できるかな?ククッ!所詮、理解出来ないだろうがな?だからな、亮?3日後に迎えに来る。頭のいいお前なら解ってるとは思うがな。間違えるなよ?」
「俺は行かない。この国で大事な人達を守ると決めたから。邪魔するなよ。サッサと帰れ!バカ兄貴!」
「おお、恐っ!ククッ、その顔もそそるし。亮、愛してるよ。帰ろう、俺と一緒に」
そう言うと兄貴は俺をいきなり抱き締め俺の頬にキスをした。
・・・・えっ?
・・・・・・・・今、チュッとかした・・・・?
・・・・・・・・・・・・おい、
なにしてくれてんの・・・・?なぁ?!一馬!!
キモいだろ!なにすんだよォオオ!!
俺は急いで顔をごしごし拭う。
何するんだ!!何するんだ!なんか、凄く、腹立つわッ!!
ハルクが後ろの三人に笑って手を振った。
「コロス・・・・」
「ん?亮?」
「コロス!コロス!コロス!」
俺は思いっきり兄貴の胸をドン!ドン!ドン!と小手突きで押して行き窓際まで押しきる。
「わかった、わかった。照れるなよ?亮。また3日後な?」
「二度と!!来るなァアアアアアアア!!」
思いっきり、窓の外に押した。
「またな?」
笑いながら落ちていった。
ここ、五階だけど、知るか!!
俺は兄貴が落ちて行った窓の外を確認する。
あ、やっぱり。窓の下誰もいないし、何も無い。
俺は窓枠を両手で掴みその場にへたり込む。
厄介だ・・・とても厄介だ。
兄貴は一筋縄では行かない。
欲しい物があれば手段は選ばない。
必ずモノにしなければ気が済まないタイプだ。
そして手に入らなければ抹消するタイプだ。
ああ、あれね、鳴かぬなら殺してしまえホトトギスって奴ね・・・・しかも帝国、大将ってか?らしいよ。兄貴らしいよ。国取りゲー得意だしな・・・・さて、どうしたものか?どうするよ?どうする俺?
俺の口から小さなため息がもれる。
「「「シルフィーヌ」」」
「うわっ!!、ハ、ハイッ!?」
身体が飛び上がった。
そして恐る恐る後ろを向くとレオリオ、ルカ、バルトが仁王立ちだった。
あ、忘れてた・・・・
やっと一馬が書けました。ここで毎日投稿は一段落。
毎日読んで頂いた皆様本当にありがとうございました。
次話からはゆっくり進めて行きたいと思います。(世間は師走に突入ですからね)
更新で見かけたらまた覗いてくださいね。




