辺境伯と家族と兵士達についての件
サングリット・ヘルダー辺境伯は眼孔鋭いとても威厳のあるたくましい体躯のまぁ、平たく言えばいかついおっさんだ。さすが猛者連中の総まとめ。
これからあのルナ姫が産まれるとは・・・・
うーん、ファンタジー・・・・
「ああ、若い頃のナターシャによく似ているな。お祖母様御夫婦はご安泰かな?」
ヘルダー伯が笑いながら俺に尋ねる。
「はい。お陰さまで。祖父母も変わりなくとても元気で過ごしております。あ、手紙預かってます。祖母がお会いしたがっておりました。仲がよろしかったのですね?」
「ああ、これでもお祖父様の恋仇だよ」
「それ、もうちょっと詳しくお願いします」
「ん?ああ、やっぱり、ナターシャそっくりだな!」
ガハハと豪快に笑われ、後でなと肩を叩かれた。
痛いよ!
辺境伯領の話が出るとお祖母様がさっさとヘルダー伯に手紙を書き俺を預かってもらう約束を取り付けたのだ。
その際、お祖父様がそんな寒い所に一人で長く滞在しなくてもと渋ったのはそう言うことだったのか・・
お祖父様、悪いが凄く面白そうだよ!
あ、そうだ。
「あのう?ユリアス様、お願いが・・・・」
「なんだい?」
「シルフィーヌ、ちょっと待て」
バルトが俺の腕を引く。
「ん?バルトも一緒にお願いしてよ?」
「ああ、太刀稽古の事だよな?バルトと一緒でいいんだろう?」
ユリアスが承知していると笑って返す。
「わぁ、嬉しいです!出来れば兵士達と一緒に実戦も習いたいです!!」
「えっ!?」
バルトとユリアスが声をあげた。
「さすがナターシャの孫!面白い!いいぞ!いいぞ!」
ヘルダー伯がガハハっと笑ってまた俺の肩をバンバン叩いた。
だから痛いよ!おっさん!
それにさっきから何か重いんだが・・・・ん?
「あ、あなたたち!離れなさい!」
ルナ姫?
おっ?
俺のコートの後ろに何かぶら下がってる?
ああ、このコート、狐の尻尾が着いてるからな?
その尻尾を二人の子供が引っ張っていた。
「狐のお化けだ!こいつ!」
「違うわよ!女ぎつねよ!」
お、良く似てるけど男の子女の子だよな?セーラ位だから五歳位か?ああ、双子だな?
「離さないと食べちゃうわよ?」
俺は上半身をひねってガッシリ両方の頭をつかみ妖しく笑ってやった。
「わ~っ!」
二人で頭を振って俺の手を振りほどくとルナ姫にすがり着く。
「申し訳ない。シルフィーヌ様、ルナの弟のサングリートと妹のリリアナです」
ユリアスが先に謝る。
「申し訳ございません。こらッ!あなたたち、ごめんなさいは?」
ルナ姫が怒ってる。フフッ、かわいいな。
「だってお化けだもん!!そいつ!」
「そうよ!お化けよ!」
「サングリート!リリアナ!」
ルナ姫が真っ赤な顔で大きな声を上げる。
「お前達」
ヘルダー伯がそう言うだけで
「ごめんなさい!!」
二人は俺の前に駆けて来てちゃんと頭を下げた。
「フフフっ!何でお化けってわかったの?」
俺は屈んで二人を覗きこむ。
お、どっちも可愛いな。ルナ姫そっくりだぞ?
何で俺、お化けなんだ?ダメだ、吹き出しそうだ。
二人は手を繋いでその綺麗な黄金の瞳で俺を真っ直ぐ見上げ、真剣に叫んだ。
「お前、光ってるから!」
「うん!尻尾も生えてるし!」
光ってる?
ん?
俺は自分をキョロキョロと見るがわからない。
「どこ光ってるの?」
「全部!!」
「丸く全部!!」
えっ?わからん?
ユリアを見るが首を振る。そうだよね?
「怖い?私の事?」
「うん!!」
えっ?怖くないよ?
「そっか・・・・お友達になれると思ったのにな・・」
「なる!!」
二人即答。
「えっ?なってくれるの?」
「なる!!」
また、二人即答。あ、笑った。ニヘラァ~って!かわいい!!
「よろしく~!」
かわいいから二人とも抱き締めたら二人ともぎゅっと抱きついてなつかれた。
「お化けの友達だ!」
って。
しかし、光ってるってなんだよ?
次の日、朝早くから兵士達と同じ訓練を受けさせて貰う為に借りた軍服を着込み(なんと女性用がちゃんとあるのだ!)バルトが来るのを待っているのだが・・・・
うーん。ヤバイかも俺・・・・
「可笑しくない?ちゃんと着れてるこれ?」
バルトを部屋に引っ張り込み確認する。軍服って結構着るの難しいんだよな。
外、さすがに寒いからここの軍服は防寒着代わりにもなっているし中々丈夫そうだ。だけどサイズがな・・
「お、お前、それはちょっと・・・・」
そう言いながらバルトは頬を染め視線をそらす。
「やっぱりダメかな?キツいのよね?胸。腰はぴったりなのにな・・」
そう、腰、変にくびれてお尻デカイし、胸なんか凄く強調してるわな・・・・
「うーん、寒いしな・・サイズ直してからで良くないか?シルフィーヌ明日からにしよう」
「やだよ!初めが肝心だよ!バルトと一緒に今日から練習する!」
「しかしその格好は・・・・俺が困るんだよ」
何でそこ、声小さいんだよ?
「何で困るのよ?」
「返すな」
顔押さえてそっぽ向かれた。
「だから、凄く似合いすぎだから。それに胸がキツくて動きにくいだろ?それに動くとなんだ・・その・・猛者どもの餌食だしな」
・・・・・・・・
俺はその場でジャンプしてみる。
「やめっ!シルフィーヌ!」
うーん、簡易なコルセットしてるのにブルンッ!だな・・・弾けそうだな・・・・
「止めろよ・・・」
バルトの顔真っ赤だ。
ふーん・・・・成る程、その反応・・・・
ふーん・・・・
「ちょっ!待てよ、お前また何か企んでるだろ?」
「え、やだな?んふふ?別に?」
ちょっと面白いかも!
「シルフィーヌ様、早いね?ああ、バルトもおはよう」
「ユリアス様、おはようございます!」
「ああ、兄上、シルフィーヌ共々よろしく頼むよ」
おお、シュナイダー兄弟、本当に軍服似合いすぎ!
メチャクチャ格好いい!
「うーん、軍服、そう着こなして来ましたか・・うーん・・」
あ、ユリアス迄困ってるか・・・・
「おう!早いな」
うわ、ヘルダー伯まで来たよ。こっちは貫禄だ。
「おはようございます。ヘルダー総督」
バルトと二人で腰を折る。
「お早う。ああ、本当にこれなら二人共使えそうだ・・・・よし、ユリアス、ダリとゼータを呼べ」
「いきなり、幹部クラスですか?」
「ああ、下手をすると殲滅されるからな。あと、部下をグラウンドに集めろ。全員だ」
「承知」
ユリアスが走って行く。
ヘルダー伯は俺ら二人を見下ろしニヤニヤしている。
「肩慣らしだ。思いっきりやれ」
何?いきなり何始まるの?いいの?この格好でも?
あれ?バルト頭抱えた。
「シルフィーヌ、洗礼だ」
せんれい?・・・・せんれい?あ!洗礼!腕試しのことね?度胸試しの事ね!
「キャッ!やった!ウェルカーム!!だよ!」
「何?」
「いや、楽しそう!!やりたい!やりたい!バルト!」
「だろうな?顔見たらわかるよ」
「頼もしい姫さんだな!」
ヘルダー伯がブハッと吹き出した。
「俺の部下どもをちょっくら遊んでやってくれ!」
ってまたガハハ笑いで肩バンバン叩かれた。
だから痛いって!
城内、中央に位置する兵士達の練習場は広く雪は積もっているがサラサラ雪で動きやすい。また今薄暗いながらもカラッとしていて空気が澄んでいるためかあまり寒さは感じない。
そのグラウンド中央に俺とバルト、少尉のダリとゼータが剣を構えている。
デカイ。二人ともガッシリマッチョで背2メートル楽々越えてるよね?
あ、俺見てる。そうだよね?こんな小娘に何で自分がって思うよな?ん?あ?おい!ダリの野郎、俺に笑ったぞ!それ、バカにしてないか?ゼータ!お前さっきから俺の胸ばっか見てないか?!
「バルト、ダリやっていい?」
「そっち、いくか?」
「ああ、なんなら一人でやってもいいけど?」
「いや、あいつは俺にやらせろ。お前に食い付きすぎだ」
「じゃあ、ゼータよろしく」
ヘルダー伯が大声を上げる。
「かかれ!!」
同時に俺とバルトがダッシュでお互いの相手に突っ込む。
ダリが構えようとした途端に俺はもうダリ剣を振り払っていてダリの頭上に飛び上がりあっけに取られているダリの肩に両足を付け着地すると上から頭に剣を突きつけた。
「動くな」
真横でバルトもゼータの脇腹に一太刀で気絶させていた。
「動くこともかなわぬか・・」
ヘルダー伯が顎ひげに手をあてニヤリと笑う。
「これ程とは・・・・」
ユリアスの顔が強ばる。
廻りを取り囲んで観戦していた兵士達からも動きが止まり息を飲む音しか聞こえない。
「さぁ!次は誰かしら!?私を楽しませて!!」
俺が不適に笑い叫ぶとヘルダー伯も叫んだ。
「姫がご所望だぞ!お前達!名乗りを挙げろ!!」
今日も読んで頂きありがとうございました。




