怒りの件
今日もよろしくお願いします!
「こんなに狭かったのね?」
「ああ、二人とも背が伸びたからね」
俺の手を引いて前を歩くレオリオがあの日と重なる。
初めて会った王宮の緑の迷路を二人で散歩だ。
婚約してから毎年俺の誕生日にくれるレオリオの華紋の薔薇が欲しいとねだったのだ。
レオリオの尖った耳を見ながら着いて行く俺はあの日、この耳が赤くて自分だけが意識しているんじゃないんだって気付いて凄く嬉しかった気持ちを思い出し噛みしめた。
「ねぇ?今日は迷わないの?王子様?」
「おやおや?今日もヒールが高いのかな?僕のお姫様は」
レオリオが振り返って笑う。
「フフッ、踵、折れそうよ?」
俺も首を傾げて笑う。
「それは大変だ。じゃあ、ちょっと休もうか?」
「はい。あ、バスケット下さい。敷物ありますから」
俺はレオリオが持ってくれていたバスケットを受け取り迷路の壁となっている生垣にもたれられるように敷物を敷いてレオリオと並んで座る。
「何、持ってきたの?」
「アントワートの本館には果樹園がありまして今年も沢山実りました。中でもベリー系が特に出来が良かったのでベリーのタルトを焼きました。果物のタルト、お好きですよね?」
「ああ」
「それとこれはレクサスが教えてくれたハーブティー、凄く爽やかで美味しいんです。甘いタルトと相性も良くて私は大好きなんです。お口に合ったらいいのですけど?」
俺は蓋付きの瓶を二つ取り出しレオリオに選択させる。レオリオが素直に取ろうとするので離さず
「待って。私が毒見を致しますから」
と言って蓋を開けた。
「シルフィーヌがどちらも作ってくれたんだろ?」
「はい。もちろんです。貴方の口に直接入る物ですから」
「じゃあ、毒見なんていらないよ」
「信じてくれて嬉しいわ。でも、それはちゃんとしなくてはね?」
俺が口に含むとレオリオがいきなり顔を寄せて来たかと思うと唇を重ね俺の口に含んだハーブティーを飲んだ。
「んっ!レオ、毒見にならないわ」
何するんだ、急に!びっくりしただろ!
「必要ない」
レオリオがまた口の中に舌を押し込んで来る。
こらっ!止めろ!お茶、こぼれるだろ!それに生垣に壁ドンみたいになってるだろ!
「んっ・・・レ、んっ・・・レオ、や・・・もう、こぼれ・・・」
俺の口から唇を離さず器用に手から瓶だけを取り上げる。
唇は離さずまだしつこく俺の口内を舐めまわしている。
こいつ、本当にこう言う事させると積極的だな。
ちょっと、止めろ、身体に力入らなくなってきただろ!
うわーん!また、されるがままだ!
やっと唇を離してくれた時には俺はクッタリだ。
「ん、美味しいよ」
それはハーブティーか?それともシルフィーヌか?
「・・・・もう・・レオ、いきなりしないでっていつも」
「ん?今度は飲ませてあげるからね?シルフィーヌ」
止めろ!お前はキャバクラ通いの酔っ払い親父か?
「ちょっと、タルト食べて落ち着いて下さい。はい、どうぞ」
俺が口元にタルトを持っていくと素直に食べた。
「んっ、美味しい」
良し!!やったね!!俺はニヤケてしまった。
意外かもしれないが前世から俺は器用な方で料理も俺が作って家族に振る舞うのが好きだった。
だから今世も忙しい合間を縫ってストレス発散の為にアントワート家本館の料理長に教えてもらい家族や使用人達に振る舞っているのだ。
「良かった。お口に合って・・・」
「うん。本当に。また作って?」
「はい。嬉しいな。頑張っちゃおうかな?」
「・・・・・・・」
「ん?」
あ、ダメだ、また何か欲情してないか?こいつ。
「ハーブティー、飲んで?ハーブティー、はい!レオ、はい!」
自分の瓶のふたを開けて口に持っていくと目は俺を見ながらだけどどうにか飲んだ。
まったくこいつの頭の中にはシルフィーヌしかないのか?・・・
切り分けたタルトを美味しそうに次から次へと頬張り平らげていくレオリオを眺めるのはとても幸せな気分だ。
「それ、食べないの?」
最後に残った俺のかじりさしのタルトを指す。
かじった所を切り分けようとすると
「そのままでいいから食べさせて」
ちょ・・・お前、甘えすぎだぞ?
「お腹空いてたんですか?」
そう言いながらも口元に持っていく俺も甘いわな。
だって一ホール完食だぞ?よく食べるな。
ハーブティーも飲んでレオリオは満足気だ。
「御馳走さま」
「お粗末さまです。そんなに喜ぶと思わなかったわ?フフッ」
レオリオに手拭きを差し出す。
さあ、話を始めようか。
俺は前世で習得した『仕事魂』を自分に吹き込む。
必ずやり遂げる、投げ出さない。
そう、俺が声優の役になり切る呪文だ。
「レオ?初めて会った時、プロポーズしてくれたでしょう?」
「ああ、うん、あの時は絶対君を頷かせるんだって必死だったな・・・今、思えば、フフッ・・よく出来たものだなって自分でも思うよ?」
可笑しそうに両手を後ろについて生垣にもたれ空を見上げて笑うレオリオ。
「そうなの?私、鈍感で全然、プロポーズだって気づかなくて・・フフッ・・でもレオでもそうなのね。安心したわ」
「僕でもって?何が?」
「だって、レオは何でもスマートにやりこなすじゃない?ダンスも剣術も勉強もたくさんの人の前に立っても動じもしないで淡々と物事をこなすし・・・王子様って凄いなぁって。いつもね?心の中で拍手してるのよ?でも、私の事ではやっぱり無理してくれてたんだ・・」
本当にこいつは何事も堂々とやりこなす。恥ずかしがり屋のシルフィーヌはいつもこいつが出来る事は自分も出来なければ将来、隣には立てないだろうと思って王妃教育を受けているのだ。
「いつも緊張してるよ・・・君の側しか安らげない」
そう言うと横に座る俺の膝に頭を載せてきた。
俺は仰向けに俺の膝で目をつぶったレオリオの頬を撫でた。
「何か話があるのだろう?」
目を閉じたままレオリオが尋ねる。
ハハッ、本当、感がいいな?
「ええ」
俺は肩から羽織っていたショールを落すと襟ぐりが大きく開いたドレスの胸のリボンを解いた。
レオリオの無防備な右手を掴むとコルセットを着けてない左胸にあてた。
「何を」
驚いて起き上がろうとするレオリオの胸を押さえこみ顔を覗き込む。
「私の心に嘘がないか確かめて。一緒に共鳴して私の心にはレオしかいないことを確認して」
「なぜ?」
レオリオの目を真っ直ぐ見下す。
「バルトと共鳴したわ」
俺の膝の上のレオリオの目が大きく見開かれると左手で顔を隠した。俺が掴んだ右手が強張る。
「触らせたのか?」
これまで聞いたことがない声だ。
こんな低い声は前世の俺でも他の役の時で怒っている時しか出さない。
そう、それも凄く怒っている時の声色だ・・・
「いいえ、私が触れただけ」
「・・・・・・なぜ勝手に触る?」
「共鳴すると思ったから」
「やっぱりバルトが好きなんだな」
「私が夫にしたいのはレオ、貴方だけ。貴方が確かめて」
レオリオの温かな大きな右手が俺のドレスの胸元をかき分けるとたわわな左乳房が剥き出しとなった。
その乳房を思い切り掴まれる。
痛みと同時に凄い勢いの熱波が襲ってくる。
一瞬で共鳴した。
怒りだ。
レオリオの凄い怒りの感情が俺の胸を外から内から燃え尽きさせてしまいそうな勢いで雪崩込んできた。
「うっ!」
そして俺の中のレオリオを好きで好きでたまらない感情とせめぎ合う。
きつい!きつくて体が可笑しくなりそうだ!
俺は胸を掴むレオリオの右手に両手を重ねて体を折り曲げる。
余りの熱の苦しさにレオリオにすがったのだ。
目を瞑って必死に耐える俺の頭に声が聞こえる。
愛してるのは俺だけ!愛してるシルフィーヌ!抱いていいのは俺だけだ、俺のだ!やらない!シルフィーヌは俺のだ!誰にもやるものか、シルフィーヌは俺の女だ!やるものか!こんなに愛してるのに!愛してるのに!
と怒りまかせに叫んでいる。
俺は必死でレオリオに呼びかける。
私も、私も、愛してるの、愛してるわ、レオリオ!
と。
しかし、熱波は引かない。焼けつくされそうな勢いに俺は怯みそうになる。
「うんッ!」
身を捩って呻いている俺をレオリオが身を起こし、膝に抱き上げた。
俺の顔を覗き込むレオリオの顔は歪み大きく見開かれた瞳が揺らいでいる。
「あ、愛してるの・・・レオ!お願いよ!聞いて・・!私の心の声!聞いて!レオ!」
「ああ・・・シルフィーヌ!」
レオリオも苦しいのに心配して名を呼びながら俺を抱き抱えた。
俺は目を瞑り一生懸命に叫び返す。叫んで自分の心をさらけ出した。
あなただけ、あなただけよ、私にはあなただけよ、レオ・・・!
と。
すると突然、嘘のように熱が引き始めた。
頑なに拒否されていた心をすくい取られたようだ。
すると内側から優しくなで回すような気持ちよさが押し寄せてきた。
これは・・・・快感だ。
体が興奮状態だから一気に喘ぎ声が競りあがって来た。
今度は恥ずかしくて顔を押さえて喉を仰け反らせる。
恥ずかしい・・声が漏れる。
「うんっ・・やぁ・・ああ、レ、レオ・・んっ・・お願い・・・お願い・・私を捕まえていて・・」
「シルフィーヌ!!」
レオリオがいきなり俺の左胸に顔を寄せ、右胸もはだけられ撫で廻される。
初めての快感に自分の声とは思えない色っぽい吐息が漏れて体がびくびく麻痺している。
恥ずかしい、恥ずかしい、おかしくなる・・・・こんなの・・・こんなの・・・・恥ずかしすぎる・・・・
青空の下でなんておかしくなる・・・・
・・・恥ずかしい・・もう・・もう・・・・
「かわいい、かわいいよ、僕のシルフィーヌ。感じまくりだ。ああ、その声、もっと、もっとだ、シルフィーヌ」
気持ちいい、とろけそうだ、愛してる、シルフィーヌ・・
「あ、やぁ・・・・レオ、恥ずか・・ん、レオ、おかしくなるわ・・おかしいの・・・・んっ」
ああ、かわいい、かわいい、かわいい、もっともっと乱れさせて、気持ち良くして、そして・・・俺の物に
「それ以上聞くな!シルフィーヌ!僕の声を!」
いきなりレオリオが耳朶を噛んだ。
俺は思いきり声をあげた。
なんだ?唇に何か・・・なんだ?・・・・ああ、タロか・・
またペロペロ、舐めるなよ、わかったよ、朝なんだよな?お腹すいたか?
いい、わかったって、起きるよ。ドックフードだな?待って、瞼が上がんないから、待って?・・・・しつこいよ・・・・ん?タロ?頭デカイ?ん?・・ん?ん?人間?えっ?
兄貴・・・・?えっ・・?
目を開けると目の前一杯にレオリオの顔があった。
「えっ?」
「気がついた?んっ・・・・」
「んっ・・・・やぁ、レ・・ん・・・・」
返事を待たずにレオリオが舌をねじ込んで頭を抱えて苦しいくらい俺を抱き込んで激しいキスを繰り返す。
ああ、俺、一瞬気が飛んだんだな・・・・
それでもレオリオのキスに応えるのは自分にキスをしているのがレオリオで凄く安堵したからだ。
やっぱりレオリオが凄く好きだ・・・・
嬉しくてレオリオに自分からすがりついて抱き締める。
もう、レオリオの心の声は聞こえないけれど俺はレオリオがこうして求めてくれるのがたまらなくて頭を抱き締める。
すると急に顔が離された。
俺は息が切れ切れだ。
「・・・・レオ・・・・?」
あぐらをかいた上に俺を抱き込むレオリオは俺の頭を胸に抱き締めた。
そして無言だ。
「レオ・・・・?」
「・・・・・・・・」
ああ・・・・そうか・・・・やっぱり、無理なのか・・・・
心が共鳴してお互い確かめあってもやはり俺を許す事はできないのだな・・・・
次回続きます!




