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初めましてじゃあないの?の件

よろしくお願いいたします。

王子がサッサ、サッサと右に左にと折れながら緑の迷路を進んでいく。

もう、かれこれ歩き出してから半時ばかり経たないか?


まさかね?迷ってないよね?


「大丈夫だよ。迷ってないから。もうすぐだから」

「!?」

俺、声に出してた?

驚いて立ち止まる。つないだ手に引かれ王子が振り返る。

「ああ、歩き疲れちゃった?」

「あっ、いいえ。立派な庭園迷路(ガーデンメイズ)なので迷ったら帰れるのかしらと思っていたところ王子様が迷ってないとおっしゃられたので私、声に出ていたのかなとびっくりしてしまいましたの」

と正直に言葉にする。

すると王子はにっこり笑い、

「レオリオ」

「えっ?」

「レオリオだよ、シルフィーヌ」

「えっ!」


・・・・・・・・・・・・いきなり呼び捨てですか?


まさか俺にもそうしろと?


「・・・・・」


ダメだ、これ。


18歳になったレオリオ王子がヒロイン口説く時に言うセリフだわ。それもヒロインの顎を持ち上げてキスしそうな距離で言うやつだ。前世の俺が言ったんだから間違いない。

そうしてこう続けるんだ。

「僕のかわいいお姫様、もう、すぐにでも君にこの思いを打ち明けてしまいたい。しかし、今のままでは君を困らせるだけ。早く何とかしなければ」

そうなんだ。

恋い焦がれたヒロインに永遠の愛を誓うために悪役令嬢との婚約破棄を決意する場面だ。


やーめーてーっ!!


もう何にも言わないで!いきなりそんなのひどすぎる!


だってまだ王子11歳だよね?18歳までまだ7年もあるよね?まだ言わないよね!?


「僕のかわいいお姫様


いやーぁぁぁぁっ!!やーめーてーっっっっ!!


実は迷ったみたいなんだけどどうしようかな?」


「えっ!?」

「んっ?」

「マジ?」

「えっ?なんて言ったの?」

「いや、本当に迷ったのですか?」

「ん、そうだけどどうする?フフッ」


なんで呑気に笑ってるのかな?


「誰か迎えが来るまでここで君のことが聞きたいな?ああ、僕のこともなんでも聞いて?」

と言うなり地べたに腰を下ろし、ハンカチを取り出すと自分の隣に敷いてここにおいでとばかりに手でハンカチをポンポンした。


・・・・・・・

まあ?迷ったら仕方ないよね?無駄に動き回るより誰か探しに来るのは間違いないから待ってる方がいいわな。

王宮だから安全だし、話をするのはどこでも構わないし。


いきなり18歳のセリフ言われたらどうしようかと焦ったから、迷ったくらい don’t worryしんぱいないよだわ。


俺は素直に頷いてドレスを手で押えて上手く三角座りをした。ついでに足がヒールで痛かったのでヨイショッとドレスで隠しながら脱いだ。


クスッ、と王子が笑った。


あっ、はしたなかった?


「怖くないの?」

「?はい?」何で?

「僕と二人、こんなところで不安じゃないの?」

え~っ?ひょっとして王子は不安なの?

「ああ、大丈夫ですよ。あと、半時も戻らなければ私の父が探しに参りますよ。それも血相を変えて。何か私にはすごく甘いんです。激甘。もう、お砂糖に浸かっているみたいなんです。ああ、ダメ、耳からお砂糖が出そう!」

俺が耳を押えて変顔をしたら王子は吹き出した。

「シ、シルフィーヌ、ククッ、綺麗な顔が台無しだよ!」

「うふふ、王子様、笑ったぁ~!あははっ!」


二人でお互い顔を見合わせて笑い合う。


何かまだ子供だな。

綺麗って言われるより笑ってくれる方が嬉しいや。


「おしとやかじゃなくてごめんなさい。私はあんまり淑女らしくないんです。どっちかと言うと今が自然です」

俺が先に性格暴露だ。王子には本当の俺で接したい。今日はともかくお友達からだ。

「僕もごめん。淑女(レディ)の顔を見て笑ったりなんかして。でも、僕以外にはその顔はしないでね?」

「あら?やっぱり?兄にも言われます。やっぱりひどいんだ・・フフッ、でも必ず兄も王子様みたいに笑ってくれるからいいんです。フフッ」

俺は(ひざ)を抱えて笑った。

「兄上はルカ・アントワートだよね?」

「はい。自慢の兄です。王子様と同じ11歳です」

レオリオはちょっと耳を赤くしてそっぽを向いた。

「クソッ・・・」

ん?何だ?たまに腹黒王子っぽくならないか?こいつ?

「ん、いやっ、ルカは去年から我が国最大の格闘技大会、グランドマッスルに出てとても優秀な成績だと聞いているよ」

「恐れ入ります。セミヤング部門ではライバルはいないと申しておりましたが」

ルカは去年の15歳までのセミヤング部門で初出場の初優勝!それも得意のムチではなくて剣で勝ちました。その腕は大人顔負けだ。11歳で身長が170cmを超えているルカは我が兄ながら偉い、強い、美しいとメチャスペックが高いのだ。さすが乙女ゲームの攻略対象者!


「去年、そのグランドマッスルで初めて君を見たんだ」


王子は俺の顔を見つめて言った。


「えっ、あの時いらっしゃったのですか?」

俺もひょっとしたら王族として観覧しているのではと思って主催者側席を伺っていたのだが王子には気づかなかった。今年もチラッと見回したけどいなかったよね?

「あの日は他の用事が立て込んでいてルカの事を聞いて駆け付けたのだけど結局、最後の試合も表彰式にも間に合わなかった。遠目にルカが優勝杯を片手に会場を後にする後姿を演技場の通路で眺めていたんだ。すると急にルカが屈んで両手を広げたと思ったら肩越しに君が、満面の笑顔の君が現れた」


ああ、あの時はルカが勝ったのが嬉しくて抱き着いたんだ。

一生懸命応援しすぎて次の日声出なかったっけ。


「君はとても嬉しそうだったので目が釘付けになってしまった。ルカもすごく嬉しそうに君に優勝杯を渡すと君は大事にそれを抱えルカと一緒に話しながら帰っていった」

「あの日はすごく嬉しくて私も10歳になったら出場するんだってお兄様に宣戦布告しました」

「えっ?そうなの?」

「はい!」


フフッ!10歳になるのが待ち遠しいわ!

王子はキョトンとした顔で俺を見て話を続けた。

「初めはルカの許嫁かと思った。気になって調べてもらったら妹だと。それを聞いたらどうにかもう一度君の笑顔が見たくなって父上にお願いしたんだ」

「?去年の話ですよね?」

「そう、去年の話。その時は母上が母上の祖国の姫を僕の婚約者にと押していたんだ。その姫は僕の従妹(いとこ)でまだ2歳なんだ。かわいいけどそんな気にはなれなくてね。良い王に成れるよう何事にも精進して国民に仕えるから妃だけは自分で娶らせてくれと父上に頼み込んだんだ」


ああ、そんな事情があったからさっきの王妃様の態度なんだな。


「国の中から妃を選びたいとね」


国際結婚は嫌ですか?俺もとっても嫌です。特に隣国エロエロ王は絶対ナシの方向で。


「去年の話ですよね?じゃあ、私と今日会うまでにいろいろな妃候補とこのようにお話を?」

「違う。順番からいくと我が国で次期王妃候補に上がるのは侯爵令嬢の君が一番だ。それに父上から君の父上にお願いをしてくれたんだ。しかし、侯爵は君が8歳になるまで待ってくれと言われた」


ん?んん~っ?お父様、まさかの反対派?・・・まあ、今日の話が出た時に俺、確かに渋ったけど、それ、一ヵ月くらい前の話だしな?まあ、俺5歳の時からルカが好きだから王子様とか要らないからって言ってたから初めからお父様も乗り気じゃなかったのか・・・・?


「・・・・・父が失礼な事を。申し訳ございません」

「いや、そうじゃないんだ。僕の方も君に会う準備が出来てなかったからちょうど良かったんだ」

「準備?」

「君は兄上を尊敬しているだろう?自分もせめてルカのように君に認めてもらえる様になろうってちょっといろいろ頑張ってるつもり」

「・・・・・・王子様?私はまだ8歳になるただの子供です。3年も先に産まれて経験を積まれている貴方の方が尊いに決まっているではありませんか?それに貴方が私を選ぶのですよね?」


嘘だけどね。俺の頭脳年齢は前世合わせてもうすぐ25歳だからな。ま、精神年齢はシルフィーヌとあまり変わんないけどな。

だけど俺はこいつが王道王子で頑張り屋で自分の心にはとても素直なのは一番知っている。何より俺に会う為に今日まで待っていてくれた事、シルフィーヌに気に入られようと努力していてくれた事が素直に嬉しかった。


王子が視線を()らす。

あ、口調きつかったかな?まずいな?


「ありがとう」

王子は言うとこっちを向いて少しはにかんだ。

ふふっ、やっぱり素直だな。

「いえ。生意気申し上げました」俺も微笑んだ。


「シルフィーヌ、君はちゃんと物怖じをせず、僕に君の考えで意見してくれる。君は僕に欠かせない人だよ。これからは僕の側で一緒にこの国の事を考えてくれないか?もちろん僕の妃として」


その言葉に俺の中のシルフィーヌは舞い上がる。うるさいぞ、心臓。俺も結構気を良くしてしまっている。


当初の目的は達成だな。王妃教育を網羅しておけば最悪、ヒロインが急にシルフィーヌとバトンタッチしてもその補佐役を名乗り出てヒロインに仕えれば、婚約破棄後もこの国で過ごせるかもしれない。それで最終お一人様でも文官ぐらいには留まれるように王子様といい関係を保てばいいのだ。

ここで約束するのは得策だよな。しかしだ、もう一つ保険をかけようか?






読んで頂いてありがとうございます。

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