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上手く行ってるはずなのにの件

今日もよろしくお願いします!

「もうしばらく甘いものはいいわ」

「それは俺のセリフだ」


俺がお腹を押さえながら死にそうな顔で言うと隣のバルトも顔をしかめて言った。


「じゃあ、次、バルトの革手袋見に行こう!バルトにしっくりくるいいのあったらいいな」

「なあ、シルフィーヌ。俺からもお前に頼みがあるんだが」 

「ん?」

「兄上の結婚式に今度出席するんだがな?一緒に出てくれないか?」

「えっ?私でいいの?」

「ああ、もちろんだ」

「喜んで!わぁ、バルトのお兄様お会いしたかったの!辺境伯領も行ってみたかったし!」

「じゃあ、父上にまたアントワート家と王家に許可をとってもらうけどいいか?」

「ええ、お願い。私もお父様に帰ったらすぐ話すわ。わぁ、楽しみだわ・・・あ、ここ!ここみたいよ?バルト。こんにちは!」

店のドアを思いきり押すと奥から主人が顔を出す。

「これはこれは、シルフィーヌ様!わざわざお越し頂けるとは」

小さな店だが主人の腕がいいのでお母様が贔屓(ひいき)にしていていつもは屋敷に鞭の手入れに出向いてくれてるのだ。だから店に来るのは初めてだ。

「いいえ。こちらこそいつも来て頂いて助かっています。今日はこちらのシュナイダー様の手袋が欲しいのです。見せて下さる?」

「主人、既製品でも構わないのだがすぐに欲しいんだ」

「畏まりました。なかなかご立派な手でございますね?3日頂きましたらお届けいたしますのでこのようなデザインでシュナイダー様のオリジナルをお作りするのはいかがですか?」

「あら、いいわね。帰る迄には間に合いそうだわ?凄く格好いいからバルト様にぴったりだわ」

俺もバルトと一緒に主人が差し出した手袋を覗き込んだ。

「ああ、よさそうだな。揃いでアントワート嬢のものも頼む。色はどうする?一緒の黒でいいか?」

「えっ?いいのですか?」

えっ?買ってくれるの?ちょっとキョトンとした。

「ああ、武器構える時に使え」

バルトが口調はぶっきらぼうだがすごく優しい声で言う。


うわぁ、素直に嬉しいよ!


「では、ありがたく頂戴いたします」

俺も嬉しくて声が上ずりそうになった。


「じゃあ、それで。主人」

「畏まりました。早速、採寸に取り掛からせていただきます。お二人共どうぞこちらに、どうぞ」

何か主人の目が凄く生暖かいわ。




やったね!バルトからの贈り物だよ!


俺は嬉しくってバルトの繋いだ手をブンブン振りルカとレクサスに合流するために本屋に向かう。

「ありがとう、バルト。凄く嬉しいわ」

顔がニヤける~っ!

「革手袋なんか貰ってそんな顔するの、お前くらいだぞ?普通、女は指輪じゃないのか?」

「んふふ。そう?だってバルトとお揃いなんて格好いいじゃない?さすが女性の扱い上手いね!バルトは。モテるはずだよね~」

「・・・女性に贈り物するなんてユリア以外初めてだからな」


あれ?何でムキになってるの?


「そうなの?じゃあ、なおさら嬉しいな。そうだ、ユリアに自慢しよう!手紙書くから渡してね?」

「ああ、それなんだがユリアから手紙預かってるよ。後で渡すが、その・・慰めてやってくれないか?」

「えっ、何?・・・何かあったの?・・・・まさか?!」

「いや、体の事とかじゃないから」

「そう?本当に?良かった!・・・じゃあ、レクサスの事とか・・?まさかね~」

「・・・・そのまさかな」

「えっ!えっ!!本当?・・えーっ?うそ?凄くお似合いなのに・・えーっ、そうなんだ・・・・ユリア大丈夫・・?」

「ああ、まあ、2・3日は塞ぎこんでたけどな。ここに来る前には食事も取れてたし顔色も良かったよ。昨日のお前の方が酷かったぞ?」

「そう・・・なら良かったわ・・・だって失恋は辛いわ?眠れないし食事をしても砂を噛んでるようで食べるのもしんどいのよね・・・・」

「何だ?お前が失恋したみたいな事言うじゃないか?」

「だって私も昨日までそうなるんだって、王子に振られるんだって思って生きて来たもの・・・・」

思わずバルトの手をギュッと握りしめてしまう。

「何だそれ?」

バルトが俺の顔を覗きこむ。


俺は意を決して昨日心配させた責任もあるのでバルトにルカやレオリオに話した程度だが昨日ミシュリーナに会ってもらった理由を知ってもらう事とした。




「五歳の時から俺を知っていたのか?」

「まあね。バルトとは仲良く慣れると思っていたわ」

「それで?王子や俺も昨日のミシュリーナ嬢が好きになるって?それでお前を断罪するって?なあ、普通、昨日迄の俺とお前の付き合いではそんな事考えられないだろ?」

「だってみんな初めて会った時は5歳の時に見たままの容姿なのよ?それに私は王子の許嫁になってしまってるし、ミシュリーナ嬢はかわいいし、そうなるんだって思うの当たり前じゃない?」

「まあ、確かにミシュリーナ嬢は可愛いかったが」

「ハハハ、正直者め」

「あのなぁ?シルフィーヌ。少なくとも俺はお前を妻にと意思表示した時点で他の女に気持ちが行くはずないだろう?ましてお前を責めるなんてあるわけないだろうが」


えっ?そうなの?そんなふうに考えてくれてるの?


「ありがとう、バルト。そう言ってくれてとっても嬉しいよ」

「言葉にしなければわからないのか?お前は」


何でソッポ向くの?怒ってるの?


「だって」

「それで?昨日は王子に振られる予定だったのか?」 

「うん。そうなるんだってずっと思ってたから。だからね?失恋したら好きだった人の側になんか要られないでしょう?気持ちが無理だよね・・だからああ、みんなとも会えなくなるなぁとか色々考えちゃって・・寝不足になっちゃったのよね?心配させてごめんね、バルト」


「お前、今何て言った?」

バルトが立ち止まる。繋いだ手に引っ張られ俺も立ち止まる。人の往来が多い王都のメイン通りだ。

通行人の邪魔になる。


「えっ?だからただの寝不足だからって」

「違う、会えなくなるってなんだ?」


何?凄く怖い顔だよ?綺麗な顔だから迫力あるよ?


「バ、バルト、ともかく先に本屋に行こう。本屋。ね?邪魔になるから」

ここで言い合いも目立つからな。


俺はバルトを引っ張る。


「どこに行く気だった?」


歩き始めたが口調はキツい。


「今はもう行かないわ」


「今はと言った。いずれ行くのか?どこに?一人でか?俺に何の相談もナシか?」


「・・・・・・だって相談なんか出来るわけないわ」

今度は俺が足下を睨み付け立ち止まる。



「シルフィーヌ様!?」

突然呼ばれ体がびくついた。

顔を上げると目の前に紳士が立っていた。

「まぁ、ハルマー先生。ごきげんよう」

俺は急いで腰を折る。宮中医のハルマー子爵だ。俺の肩の傷を診てくれた先生だ。

「ごきげんよう。ああ、バルト様もご一緒でしたか。こんな所でお会いするとは。もう顔色は良さそうですがお加減はいかがですか?昨夜は良く眠れましたか?」

「昨日、シルフィーヌ様を見て頂いたのはハルマー子爵です」

バルトが臣下として俺に言う。

「まあ、そうでしたか。申し訳ございません、お礼も申し上げず。おかげさまで良く眠れました。もうこの通り、元気にバルト様と王都見学です」

「昨日の今日ですのでまだ無理はいけませんよ?食事もきちんと召し上がって下さいね?それと何か心配事が有られるなら私に話して下さいね。どんな事でも構いませんよ?話すと気は楽になりますからね?ああ、それと」


わぁ!ダメだ。俺、やっぱり凄くみんなに心配かけたんだ。


「あ、ありがとうございます、ハルマー先生。もう本当に大丈夫です。本当に。ああ、そうだ!先生、レクサス様お会いになりました?」

「昨日、先生に色々な話を聞いてましたね」

バルトが子爵に尋ねると先生は頷いた。

「はい。とても聡明な少年ですね。倒れていたシルフィーヌ様に怪我とかがないか先に確認して様子を報告してくれたのは彼です。あの歳で落ち着いてあれだけ人を診れるのはたいしたものだ。ああ、今日は一緒ではないのですか?」

「そこの本屋にいますよ」

バルトと俺は同時に答える。

「丁度、私も本屋に用で来たのですよ。お邪魔でなければ私もレクサス君に挨拶したいのですが?」

「レクサス、喜びますよ。昨日、ハルマー先生の話ばかりしてましたから」

バルトがニッコリ笑いながら子爵と歩き出す。


ああ、こうしてレクサスはハルマー子爵家に引き取られるんだな。

良かったな、レクサス。上手く行きそうだな。



あれからかなり時間が経っていたのにルカとレクサスはまだ本を見ていた。

ハルマー子爵とレクサスが仲良く本談義に入ったのでルカが本の清算をするのをバルトと手伝う。


「シルフィーヌ、疲れてないか?」

「大丈夫よ、お兄様。さっき、バルトとケーキ食べたから。美味しかったのよ、ね!バルト」

「ああ。いい、シルフィーヌ。俺が持っていくから」

バルトが俺が持とうとする本を取り上げる。

「助かるよ、バルト」

「どうせ大半はレクサスのだろう?送る方が良さそうだな」

「そうしようか。だけど本当に良かったな?シルフィーヌ。バルトが来てくれて。こいつ最近、食事もろくに取れてなかったからな」

俺を見てルカが苦笑する。

「そ、そんな事なかったわよ。お兄様。余計な事言わないで」

「わかったわかった。すまないがバルト、シルフィーヌを先に」

「ああ、馬車に連れて行くよ」

そう言うといきなりバルトが俺を抱き上げる。

「わぁ!バルト、下ろして。ここはさすがに恥ずかしいから」

小さな声で俺は急いで言うとバルトも素直に下ろしてくれた。

うわっ!本屋の人みんなガン見だ!只でさえ目立つのに止めろ!


本屋を出て馬車が停めてある路地に入るとバルトが軽々と俺を抱き上げた。

「バルト、重いからいいよ!荷物もあるし」

「お前の一人や二人くらい全く問題ない。それより俺を置いて一人でこの国を出ようと思っていただろう?」

「えっ!えっ、えっと・・・・違う・・わ」

何かうつむいてもぞもぞ言ってる俺。

「まだ不安なのか?まだ一人で勝手に決めるのか?まだ俺の言ってる事がわからないのか?」

「バルト・・・・」

「何で俺に相談しない?俺は一生何があってもお前の側に居るって言ってるだろう?!勝手に決めるな!」

「も、もう、怖いよ、怖いから止めてよ!バルトのバカ!」


ダメだ。涙が溢れてきた。

何かもう昨日から色々でシルフィーヌの心では耐えきれそうにない。


「何でも一人で背負い込んで、挙げ句の果ては一人で逃げ出すお前のほうがバカだ。シルフィーヌが大バカだ」 

「うっ!ひっ、ひどい!ひどい!ひどいよバルト!何で?何で?うぅっ!そんな事ないもん!何でそんな事言うのよ!もう・・・!なん・・・で・・うぅっ!」


あ~あ、シルフィーヌの未熟精神崩壊・・・


俺はバルトの胸に顔を押し付けると泣きじゃくった。


帰りの馬車で待っている間、泣きつかれて俺は眠ってしまった。

そんな俺をバルトはずっと膝に乗せ抱き締めていた。


レクサスの恋の相手はもうちょっとしたら出てきます。

まあ、皆さんが想像している通りかも?・・・

今日も読んで頂き感謝です。

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