ヒロインって誰?の件
今日もよろしくお願いします。
王妃様が今日は王宮に泊まるように言ってくれたがルカが待っているので帰ることとした。
着替えて部屋を出ると王族のプライベートスペースを抜けるまでレオリオが付き添って送ってくれた。
「本当に帰るの?」
角を曲がると王宮の事務官室というところでレオリオが俺を抱き締めて放さない。
「はい。また、明後日来ますから」
「帰したくないんだけど?」
「レオ?聞き分けて下さい。明後日、レオの緑のバラが欲しいです。緑の迷路連れて行って下さいね?」
「・・・・分かった。楽しみにしていて」
レオリオが唇にキスをしてきたのでキスを返すとやっと放してくれた。
「今日はゆっくり休むんだよ?」
俺の頬を名残惜しげに撫でる。
「ええ、もう大丈夫です。安心しましたから。では、また」
「ああ、シルフィーヌ、またね」
来賓室の扉を開けるとルカが手を広げて立ち上がった。
「シルフィーヌ!」
「お兄様!お待たせしてしまって!」
俺がその胸に飛び込むとルカが俺を抱き上げる。
「もう、大丈夫なのか?シルフィーヌ」
「シルフィーヌ、良くなったんだね?」
そんな俺をバルト、レクサスも覗き込んだ。
「待っていてくれたの?二人とも?ごめんなさい。ご心配をお掛けしました。この通り大丈夫。お兄様もありがとう。歩けますから」
ルカが俺を下ろすとバルトが俺の頭を撫でレクサスも俺の顔色を伺う。
「本当に顔色がとても良くなったね?うん。もう大丈夫そうだ・・・本当に酷い顔色だったからみんな凄く心配したんだよ?シルフィーヌ。バルトとルカはさっきまで落ち着かないで部屋をうろうろするし。宥めるの本当に大変だったんたから」
クスクスとレクサスが笑いながら言うと二人はちょっと頬を染めて目をそらした。
「普段元気なシルフィーヌが青ざめた顔で倒れていたんだぞ?そりゃ心配するだろ?しばらく会わない間に何かあったのかって考えるだろう?普通」
バルトが安心できないのか俺の肩にそっと手を回し寄り添う。
「ただの寝不足なの。ごめんなさい。バルト」
「それで?あのシルフィーヌは何だったの?あんな状態で異性に会うのは危ないよ?バルトなんか絶対無理だから。ベットに連れ込まれるから」
レクサスの言ってるのはルカが言ったフェロモンお化けの俺の事か?
「レクサス、止めろ。そう言うお前も男だろ?」
「ハハ・・ちょっと心が揺れたかな・・・」
「シルフィーヌ、言った通りだろう?お前の兄である私でもそう感じるくらいだ。これからは気を付けろ」
「えっ?やだ・・何言ってるの?そんな大袈裟だわ。でもどうしてそうなったか、わからないのよね?ん~そんなに効くならもう一度、そうね?レクサス試していい?」
レクサスの手を掴んだら俺のその手をルカが引き剥がす。
「止めろ、シルフィーヌ、本気にする」
三人に真顔で同時に言われた。
へ?冗談なんだけど?
「その事よりミシュリーナ嬢の件、王子とちゃんと話したか?」
ルカが俺の顔を覗きこんでちょっと心配そうだ。
「はい。お兄様。ちゃんと話し合って無事解決いたしました。もう心配はないです。ありがとうお兄様のおかげです」
「そうか。上手くいって良かったよ。じゃあ、帰ってゆっくり休めばいい」
安堵したようにルカが笑う。そしてルカが言い終わると同時にバルトが俺を抱き上げた。
「きゃ!バルト!?大丈夫だから。歩けるから下ろして」
「いい。ルカ、俺が馬車まで連れて行くよ。シルフィーヌ、ちゃんと捕まってろ」
「ああ、頼むバルト。じゃあ、レクサス、帰ろうか」
「うん。シルフィーヌ、バルトの不安を解消してあげて」
レクサスがクスクス笑いながら早く行けとバルトに手を振る。
「えっ・・なあに?・・バルト?・・・・」
俺もバルトの胸は安心するし、まだ体が怠いので大人しくバルトの首に手を回しバルトの瞳を覗き込む。
バルトがしばらく俺の顔をじっと眺めてから真面目な顔で言った。
「お前、王子と寝てないだろうな?」
「なっ!?なにそれ!女の子にそんな言いかたって!」
「大事な事だろう?まあ、俺はお前に子供が出来ても子供ごと奪うだけだが。しかし、そうなったらお前が不本意だろう?」
「もう!バルトったら!子供が出来るような事はしていません!もう・・・そんな事心配してたの?」
何だよ?なんでこんな事バルトに報告しなければならないんだ。実際危なかったけど・・・・その気だったけど・・・・
「ああ、心配していたよ、凄くな。お前は王子に迫られると嫌とは言えないみたいだしな」
「もう!お兄様ね?またバルトに余計な事言ったのは・・・・あのねぇ、バルト?求婚してくれたのは聞いたわ。でもね?私はバルトと一生一緒にいたいのはそんな色恋沙汰じゃあなくて何でも話せる旧知の友として側にいて欲しいのよ?それって結婚相手を手に入れるより難しいと思わない?」
「シルフィーヌ。俺がお前を妻として望む事は無理な話なのか?俺の印を確認してくれ。俺も王子とまったく変わらない。それって俺にもお前を愛する資格があるって事だよな?一度でいいんだ、シルフィーヌ、俺を試してくれ。愛しているんだ」
凄く優しい声と切ない顔で言われる。
す、凄いよ、バルト!バックにお花が!お花が咲き乱れだよ!?
「・・・・・えーと・・」
久しぶりのバルトはやっぱり格好よくて見とれてしまった。
俺、顔、すごく赤いかも・・・
「ああ、いいな。その反応」
バルトがニッコリ笑った。
「もう・・!バルト、ずるいわ!そんな顔。見とれちゃったじゃないの・・・・」
抗議しても間抜けな顔してるんだろうな、俺。顔、すこぶる熱いわ。
「ハハハ、正直者め」
俺を抱き抱えた腕に力が入る。たくましい腕だ。安心して身を預けられる・・・
「あと、さっき言った倒れる前の色っぽいお前な?正直、王子から今すぐ奪いたくなるくらい俺を惑わせた。理性が飛んだ。止めてほしい」
「またまた~?フフッ。でもバルトだったらいいわよ?試してみる?」
わざとバルトの顔を両手で挟んで笑う。
おいおい、バルトまで何言ってるの?ちょっと笑っちゃうぞ?
「止めろ。本当にこのまま抱くぞ」
うわ、マジ顔で凄まれた・・・・何で怒られるんだ?レオリオにも怒られたし・・・
「やだ・・バルト、冗談だったら・・怖いわ・・・」
「他の男には絶対するな」
・・・何?こいつら。
レオリオもルカもバルトも。真剣、独占欲強いわ!別にいいじゃないか?俺の人生じゃないか?
なんだよ?人を尻軽女みたいに言ったな!
「酷いわ、みんな。私が誰でも誘惑するだらしない女みたいな言い方・・・もう下ろしてバルト。歩くわ」
俺は膨れてバルトの胸を軽く押した。
「バカ言うな。そんな事は言ってないし思ってもいない。ただ・・お前の事が心配なだけだ・・あんなお前を見て何も感じない男はいない。だから・・心配させるなシルフィーヌ。黙って捕まっていろ」
バルトが俺をしっかりと抱え直す。
心配って・・・そうだ俺、皆に心配掛けたんだった・・・・
「・・・・バルトのバカ」
俺は下りるのをあきらめ小さな声で言いながらも顔をバルト胸に擦り付けた。
心配させたのは俺が悪かったんだから・・・
バルトは何も言わず俺の髪に顔を押し付けた。
次の日は朝早くからミシュリーナを訪ねた。お昼からはバルト達と王都で買い物に行く約束があるからだ。
「早くからごめん、ミシュリーナ」
「いいえ。来てくれてとっても嬉しいわ、亮様。それと私が覚えている範囲だけだけど『セブンズ・ゲート』のキャラとか書き出しておいたの。はい、どうぞ」
ホテルのミシュリーナの部屋で二人、他は誰もいないので話しやすい。護衛にカレブが着いて来てくれているがドアの向こうで待機だ。
ミシュリーナがお茶と一緒に紙を差し出す。
おお、日本語、漢字だ、ひらがなだ、カタカナだ、懐かしい!
「亮でいいよ。良かったらミシュリーナの前世の名前も教えてくれないか」
「ああ、はい!田代紗理奈、紗理奈です、亮、よろしくね?」
右手を差し出され俺はその手をぎゅっと握った。
「ああ、紗理奈、よろしく。これ、とっても分かりやすいよ。正直、まったく、全然、覚えてない。あの頃は受験と両立で駆けだし声優だったのに何本か仕事が一気に入って・・そうそう、俺ラジオやり出したのもその頃からだし・・ってごめん言い訳か」
「フフッ、あのラジオで初めて亮の声聞いたのよ?病院のベットでいつも聞いてたわ。楽しかったわ」
「え、そんな時から?・・そう、そうか・・あんな拙いしゃべりでも聞いてくれてたんだね・・嬉しいよ」
「ずっと楽しみでずっと聞いてた・・・亡くなるその日まで。私、小さな頃から難病でね・・19歳迄生きたの。奇跡だって。親には辛いだけの奇跡よね・・」
「・・病気はしんどいよね・・」
「周りの人がね?いっぱい心配掛けたから・・・・あ、ごめんごめん、こんな話じゃなかった。亮は転生初めて?」
「ああ、俺は17歳で地震にあって津波で自動車ごと攫われて気が付いたら5歳のシルフィーヌ。びっくりしたよ?女だし、こんなかわいいんだから、焦ったわ」
「そうそう焦るよね?私なんか初めての覚醒は断罪の途中。もう死にたくなったわ・・だけど死ねないのよね・・・」
「うわ、ガチ詰んでたんだ。でもさ、トマ王子との結婚は幸せだったんだよね?それって7回全部?」
「そう、7回ともトマと結婚。いつだってトマは私に幸せをくれたわ」
「じゃあ、なんで転生繰り返してるの?やっぱり紗理奈はレオリオとハッピーエンドにならなきゃこの輪廻を抜け出せないんじゃない?」
「いいえ、違うと思うのよ?ヒロインに生まれ変わった転生者もいたけど二度会った人はいないの。それってレオリオと幸せになったから転生してないのよね?つまり始めから決めた攻略対象者とちゃんと結ばれたからじゃない?だからなのよ。だから私の運命の人であるトマと今世ちゃんと結婚してあの人を幸せにしたいの。レオリオに捨てられた私じゃなくてね?初めから私がトマを選んで結婚するの。いつもいつも捨てられた私と結婚なんてトマに申し訳ないわ・・」
初めに決めた攻略相手と結ばれなければいけないってことか?
それも成り行き上そうなったりとか仕方なくなったじゃあなくて、自分で決めて自分で攻略しなければ終わらないって事か?
「紗理奈が許せなかったんだね?ずっと後悔してたんだね?」
「ええ、ええ、そう。いつもレオリオに惚れる自分が許せなかった・・いつも、貴方じゃあない、トマよ!って会うまでは思って挑むのよ?でも気がついたら虜になってる。そしてひょっとすれば今世は上手くレオリオと結ばれるかもしれないって欲が出るの。バカよね?だから・・・・昨日は会って良かったわ。全然レオリオに何も感じなかった・・凄く清々した・・もうトマだけの事考えていいんだって・・安心したわ」
そう言うとミシュリーナはちょっと悲しそうな顔で笑った。
ああ、俺もそうだ。
ずっとそう思ってこの世界を生きてきたから紗理奈の気持ちは痛いほどわかった。
俺も昨日はレオリオだけだと思った・・だが・・・・
思わずミシュリーナを抱き寄せ頭を撫でた。
紗理奈は静かに俺の胸で泣いた。
その涙は嬉しいからか悲しいからか俺には解りたくなかった。
解ってしまえば選択しなければならない・・・・
今の俺にそれは出来ない。レオリオを手放す事もバルトの側を離れる事も・・・
「落ち着いたわ、亮。ありがとう」
「うん。貴重なミシュリーナの泣き顔いただきました。垂れ目がとってもかわいいね!」
俺がミシュリーナの鼻先を押さえておどけるとミシュリーナがヘニャリと可愛く微笑む。
「フフッ、じゃあこれでトマに迫ろうっと!」
「腹黒ヒロイン」
「お人好し悪役令嬢」
二人で吹き出した。
読んで頂きありがとうございます。




