レオリオの件
どもっ!悪役令嬢兼ヒロイン顔のシルフィーヌです!
再来月8歳の誕生日を迎えるにあたって本日は我が国、王位継承権第1位のあの王子、はい、そうですね!将来、婚約破棄される確率100%の王子と今日はバラが咲き乱れる王宮の庭園でお見合いです!
いやぁ~まさに本日はお日柄も良く絶好の婚約日和ですなぁ~!って違うわ!!
もう、俺、朝から変にテンション高いし、動揺しまくりだわッ!
8歳で婚約するってわかっていたけど今から婚約破棄される確率100%の相手とわかっているのに会うってどうよ?無駄じゃね?もう、なんで無駄なのにこんなにおめかしして緊張してドキドキしてる訳?
ああ、帰りたい。
せっかくお母様が作ってくれたこの水色のフリフリドレスも無駄なんだよな、もったいない。
俺が言うのも何だけどすごく可愛いく仕上がっているのに、今日の俺。
まあ、見た目はヒロインだからな?可憐なお嬢様だわな。
うわっ、そうか!王子、容姿は好みかもな・・・・
はあ~、やっぱりここは最悪、型だけの婚約にする方向で上手くフラグ折りたい・・・・
間違ってもゲームの悪役令嬢みたいに一目惚れはしませんように!
それに王子の声、まだ転生前の俺の声じゃないから(王子は11歳だけど声変わりがまだと言う設定で子役俳優が声優をしていたんだ)妙な親近感はないと思うしな。
「やあ、待たせたかな?」
お、このカッコいい声は陛下ですね。うんうんゲーム通りの陛下来たーッ!俺も一緒に来た両親と共に礼をする。
この辺はシルフィーヌは悪役令嬢と一緒で気品があり、優雅に腰を折る姿は立派な淑女だ。
俺はゆっくり頭を上げる。
目の前に王子が立っている。
来た来た来たよ!はいはいはい!スチル通り、サラサラ白金髪の長髪を首元でまとめ、エメラルドのような深緑の瞳にすっきりとした眉の端正なとてもきれいな顔立ち。
ああ、横に立つ王妃様そっくりだな。身長は今の俺、シルフィーヌとあまり変わらないな。今の俺はゲームのシルフィーヌと違い結構、長身で伸び盛りなのだ。
なんか俺の事、すごく見てる?
なんか俺もまじまじ見てしまってないか?俺、失礼だけど目が離せられなくなってないか?
うわっ!!目が釘付けとか言う?
ゲーム世界の修正力?まさかの修正力、動き出した?
一目惚れの発動!?
落ち着け、落ち着け、俺!!
いや、頭は落ち着いている。けど、シルフィーヌの心臓、うるさいわ!!
ダメだ、女に転生してもうすぐ8歳、早すぎる初恋到来!?
王子もガン見だ。
俺の事、どう思っているんだ?
恥ずかしくって下を向いてしまった。
ダメだ!ダメだ!今、緊張して、吊り橋効果みたいになってるだけだ。落ち着け俺の中のシルフィーヌ!こいつは将来婚約破棄して違う女と結婚するんだぞ?
でも、でも、多分、今の容姿はヒロインだから好みだよね?このままヒロイン街道まっしぐらでめでたく結婚もあるかもよ?
うわ!最悪。頭と心で天使俺と悪魔シルフィーヌが言い争ってるよ。
「初めまして。シルフィーヌ侯爵令嬢、この国君主が子息、レオリオ・ディ・オールウエイです」
えっ?俺の声?まさか?
うつむいている俺の前に片膝を着き右手を差し出したレオリオ王子が下から大真面目な顔でハッキリと言った。
聞き間違えるはずがない。間違いなく俺の声だ。
うわぁ~ッ!!なんか、めちゃマッチしてるわ!
なんか俺の中でめちゃ理想だわ!俺の声、具現化したみたいだわ!
ダメだ、俺、鼻血と感動の涙が一斉に吹き出しそうだわ!
両手を頬に当て真っ赤になって固まっている俺に王子は差し出した右手をさらにグッと差し出し、にっこりと笑った。
反射的に俺も左手を差し出した。
「は、初めまして、私、シル」
「これはレオリオ王子、丁寧な挨拶痛み入ります。我が娘、シルフィーヌでございます」
「まあ!レオリオ、いくらアントワート嬢が可憐でも、いきなりのプロ―ポーズはダメよ?」
王子が俺の手を掴もうとした途端、お父様が俺の後ろから肩を掴んで思いっきり引いた。
と同時にレオリオ王子が差し出している右手を王妃様が閉じた扇子で押さえつけていた。
えっ?今のプロポーズなの?
お父様も王妃様も口元はスマイルだけど目が笑っていない。
何?今日は婚約者同士、初お披露目じゃないの?
「チッ!」
あれっ?何か下を向いてしまった王子の方から舌打ちが・・・・・
「失礼、アントワート嬢、良かったら庭園を僕が案内するよ」
華麗に立ち上がった王子は爽やか笑顔に俺の色っぽい声で誘った。
うん?ゲーム通りの王道王子様だよね?
何か腹黒王子設定とか入ってないよね?
少なくとも、いきなり、プロポーズとかするんだから、アダルト版はなさそうだよね?
そうだわ、この世界、同性婚ありでした。
「うむ、王妃自慢のバラ園だからな?確か迷路の方で珍しい種類があったな?」
「ええ、私の祖国から持って参りました可愛いバラですわ。アントワート嬢にぜひ見ていただきたいわ。レオリオ、案内して差し上げて。アントワート侯爵夫妻はお茶でもいかがかしら?」
王子が着いて来てと言うふうに先に歩き出した。
俺は両陛下に会釈して後に続く。
ええっ~、いきなりの二人きりですか?後は若い二人でとか言うやつですか?
ああ、俺の心臓うるさい。野郎に惚れてどうするんだ俺。
前を歩く王子の足下を見ながら心臓ドキドキで着いて行く俺。
こいつなんでいきなりプロポーズなんだ?そんなにシルフィーヌの見た目が気に入ったのか?
「大丈夫だからついて来て?」
王子が振り返り手を差し出した。
目の前に緑が生い茂った生垣で区切られた細長い道が現れた。11歳の王子と7歳の俺の身長では高い緑の壁に挟まれた通路にしか見えない。
あ、確か迷路とか言ってたな?迷ったら大変だわ。
「はい」って言ってしっかり手を握る。
あ、
うわっ!しまった、今、俺がドキドキしてるの手から伝わってないか?手汗とか、かいてなかった?恥ずかしい!
とっさに握った手の力を緩めると王子がしっかり握り返した。
思わず前を歩く王子を見た。
あっ、耳が真っ赤だ・・・・
俺だけ意識している訳ではなさそうだ・・・・
なんか・・・嬉しいな。
俺の心がすごく高鳴り暖かい気持ちで満たされる。
頭で拒絶しなければとわかっているのだがやっぱり心はごまかせない。
多分、いいや、絶対、今の俺はヒロインの顔をした悪役令嬢なんだ・・・・・
王子はきっと学園に入って本当のヒロインと出会った瞬間に運命を感じるのだろう・・・・
こんな淡い恋心なんかじゃなくてな・・・・
かわいそうなシルフィーヌ。かわいそうな俺。
でも、今この時だけでいい。
王子の赤い耳を信じたい・・・・・・とシルフィーヌの心が叫んだ。
長い話ばかりですみません。
読んで頂きありがとうございます。