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『アイシスの印』を持つ者の運命についての件

「シルフィーヌ、間違いなさそうだ」

旅行から一ヵ月が経とうとした時だ。

とうとうヒロイン、ミシュリーナが見つかったとルカに告げられたのだ。

「バルトとレクサスも明後日の午後一番にはこちらに着くそうだ。レオリオ王子と時間調整をしてくれ」

「ええ、承知しました」

「シルフィーヌ、泣いても笑っても明後日には片が着くだろう」

「はい。心配しないでお兄様。もう決めましたから。では行って参ります」


バルトに手紙で『王の印』の事を尋ねるとあっさりレクサスにも自分にもあることを教えてくれた。

そして二人は陛下に招集されたのだ。


そして俺はこれからレオリオにミシュリーナの事を話し、明後日一緒に会ってもらう約束を取り付けるのだ。



「レオ」

「ん?」

「少し真面目な話をしたいのですが・・・」


今日は王宮にお呼ばれの日で王宮の書庫で『王の印』についてレオリオと二人調べている最中だ。

王家についての文献は書庫の一番奥にあるのだがなかなか凄い冊数で二人で要領良くピックアップして調べているつもりだがお目当ての答えはまだ探せないでいる。

それでも二人とも本は好きなので意見を交わし合いながら同じ事を目的として調べるのはとても楽しい時間だ。


書庫の床に座り込み、本棚にもたれ分厚い本を3冊も広げて目を通しているレオリオが上段の本を取る為にある梯子(はしご)型の椅子に腰かけている俺を見上げる。

俺が膝に広げた分厚い本を閉じるとレオリオも本を閉じた。


「なに?」

「この間、レオは私が貴方との間に一線引いてるって言いましたよね?」

「・・・今頃何を」

「あれ、あってます」

「えっ?」

「今から言う事、信じろとは言いません。ですが今その理由とその話が事実かどうかは明後日に証明致します。聞いて下さいませんか?」

「・・・・・わかった」


俺はルカに話した事と同じ話をレオリオにした。あくまでここがゲームの世界だと言う事、俺には前世の記憶がある事、ヒロインの顔は俺だと言う事は伏せたが。



「そんな話を明後日証明すると?」


レオリオの眉が眉間に寄り綺麗な緑の瞳が揺らぐ。

凄く不機嫌な声だ。


「はい。明後日バルトとレクサスに会う段取りの時にそのレオの想い人となるミシュリーナも招いてあります。ですから一緒に、レオも一緒に会って頂きたいのです」


「僕がその女性に会ったら本当の運命の相手だと分かると言うのか?」


凄く低い声だ。


「ええ、分かります」


「あり得ない」


「彼女に『王の印』が有り、貴方が彼女を望むのなら私は契約を破棄しこの国を離れます」

 

「あり得ないと言ってるだろう」


「そうありたいわ。でも私の印はアイシス王妃とは違ったわ」


そうなのだ。

レオリオの印が初代王アーサーのものならば俺の印はその王妃のアイシスのものと似ているはずだ。

しかし全く違うものだったのだ。


「君の印はきっとこれから変わる。気にしなくていい。僕と共鳴するのは間違いないのだから。それはどう説明する?」


「今お互いが魅かれ合ってるからだと思うわ」


「そんな僕が心変わりをすると?本当に?本当に思っているのかい?シルフィーヌ?」


「思いたくはないわ。でも、確かめないと。確かめないと先には進めない」


俺は声が震えレオリオを見る事が出来ずにうつむいた。


「君を抱いておくべきだった」


「ええ、抱かれて私の身体にあなたが溺れれば取られないかもって思ったわ。卑怯ね、私。惨めだわ。貴方は私を抱いてもきっとその方に魅かれるのよ・・運命ならばね」


情けなくて涙がこぼれそうだ。ギュッと手を握り締めた。


「いい加減にしろ!!シルフィーヌ!!」


レオリオが梯子に登り椅子に腰かけている俺を肩に担ぎ上げる。

そして素早く梯子を下りると俺を書庫の床に押し倒した。


レオリオが俺に覆い被さる。


「抵抗しないのか?」


凄く怒っている。今は書庫で二人きりだ。泣き出しそうな自分を押えるので精一杯で声も出ず誰にも助けを呼ぶことが出来ない。


「・・・好きに・・・すれば・・」


震える声を絞り出した。

怖くてレオリオの顔が見れない。本当に情けない。


「僕を見ろ、シルフィーヌ」

「・・・・・・・・・や」

「僕を見るんだ。シルフィーヌ」

「いや・・・・・・・・」

「見ろ!」

「・・・嫌よ」

「シルフィーヌ!!」


「嫌ったら嫌ぁ!もう!嫌ぁ!」

俺はレオリオを払いのけ両手で顔を隠す。


レオリオがそんな俺を見下ろしている。


「捨てるの!貴方はその人を愛して私を!」


「何を馬鹿な・・」


「貴方は私を捨てるのよ?こんなに私は貴方が好きなのに。もうヤダ!もう・・ずっと、ずっとよ、こんな気持ち。こんなに愛してるのに。貴方は取られてしまうの・・・もうやだっ!」


もうだめだ。

涙が溢れだした。

止まらない。キツイ、苦しい。一杯一杯だ。


そんな俺の背に手をまわすとレオリオは上半身を起こして俺を抱き上げ本棚にもたれた。

そして抱き締めて俺の背中をさする。 

涙で顔がぐちゃぐちゃな俺は興奮して泣きじゃくった。


「ひっく、ん、ん、うぅ、もう、ん、ムリっ」


「シルフィーヌ、シルフィーヌ、僕には君だけだよ?愛してるのは君だけだ。いつもいつも言ってるじゃないか。君しかいらないって。何でわからない?こんなに愛しているのに。君だけだよシルフィーヌ」


「うぅ、だって、ん、だって、んんっ」


しゃくりが止まらない。苦しい。


「シルフィーヌ、シルフィーヌ?君が隣に居てくれないなんて僕は何を守っていけばいいんだい?君がいないこの国なんかに僕は何も興味ないんだ。僕が必要なのは君といる未来だけ。だから僕と一生一緒に居て?僕は君が良いんだ。君しか無理なんだ。ね?愛してる。愛してるよシルフィーヌ」


「んんっ、ほ、ほんと、う?」


顔を上げるとレオリオの優しい微笑みがそこにあった。


「ん、本当」


レオリオが額をくっつけて笑った。


「す、捨て、ないでっ?」


「まだ言うの?そんな馬鹿な事。いい加減にしろ」


優しい声で笑いながら怒られた。


「う、うっ~ん!」

俺はまた顔を隠して泣き出した。


レオリオがハンカチを取りだし俺の顔に当てる。

俺はありがたく受け取り顔を覆った。


「かわいい。シルフィーヌ。もう、二度と僕が心変わりをするなんて思わなくていいよ?僕が君を嫌いになる可能性なんて皆無だから。君以外の人になんかまったく興味ないから。僕は君が嫌がっても君を手放す気は全くない。二度と国から出るなんて言わないで。君以上に僕が嫉妬深いのは分かってるはずだよね?今度僕から離れるなんて言ったら一生王宮に閉じ込めるから」


俺の涙がピタリと止まった。


「離さないよ。シルフィーヌ」


レオリオが笑って俺の頭にキスをして抱き込む。


・・・そうだ、こいつストーカーだった。


ひょっとしてルカ以上?

ルカ以上にこいつヤンデレ?


ちょっと落ち着いたわ。

ちょっと引いたわ。

ちょっと怖いわ。


「落ち着いた?」


「う、うん」

違う意味で気持ち落ち着いたわ。




「取りあえず、君が納得するならその?ミシュリーナ嬢?には会うよ。僕としては凄く不本意な事だけどね」


ハンカチから目だけ出してレオリオを伺う。

「・・・・でも、レオ、アイシスの印があったら・・・?」

「まだ言うの?あっても関係ないよ」

「運命否定するの?」

「シルフィーヌ!ねぇ、シルフィーヌ!しっかりして!僕がずっと一緒に居たいのは誰?」

「私?」

「そうだよ。7歳の時から言ってるのに。どうして君は暗示に掛からないのかなぁ?なんて君は鈍感なの?」


あ、レオリオにも言われた。く、悔しい・・・。


「む、私、鈍感なんですか?」


ハンカチから顔を出して抗議する。


「そんな泣き張らした顔して怒ってもかわいいだけだよ?フフッ、まったく、君って・・まあ、そこが好きなんだけどね。あのね?シルフィーヌ、運命なんてね?ないんだよ」


「嘘よ。だってレオ、私の事言ってくれたわ。運命の人だって」

「かわいすぎるんだけど、シルフィーヌ」

俺の頭を撫でまくる。


止めろ!


「もう、ちゃんと答えてレオ!それも暗示なの?」

「ああ、そうだよ。そうやって繰り返し囁くことで相手に思い込ませるんだよ。ちょっとした状況下に置いてちょとした事実を織り交ぜて。すると、もともと気持ちがそのことを都合よく解釈する事にあったから信じる方に傾くんだ。だってそうだろう?そう理由をつけてやると楽だからね?運命って言葉は全てを凌駕しないかい?『貴女が好きなのはすべてにおいて都合がいい』ではなくて『運命だから』って言って欲しいよね?」


「じゃあ、アイシスの印がある事実はどうするの?レオの印とアイシスの印を持つ女性が過去のアーサー王の事例から推測すると夫婦になる事が誰が見ても納得する事ではないかしら?」


「あった事実をどう解釈してどう信じるかはその人の置かれた立ち位置によって左右されるだろう?ねぇ?シルフィーヌ。僕は誰と居たいんだい?」


「私」


「そう、君だけ。僕の中で君だけを選択するのが僕の事実。都合が悪いこじつけは排除する」


「アイシスの印がある事実は変えられない。排除は無理よ」


「アーサー王の印は僕に似ているだけで全く一緒ではないだろう?それに印が変化するのは父上に聞いたよね?あの文献のアーサー王の印はいつ書かれたものだろうか?誕生の時?成人の時?戴冠式?はたまた結婚の時だろうか?アイシスは?王と結婚した時だろうか?王子が生まれた時だろうか?文献を二人で確認したよね?いつの印かは書かれてなかった」


「私の印もそのアイシスの印を持ってる女性の印にしても変化する可能性があると・・でも、それでも皆はまず、その印で判断するわ」


「だから言ってるよね?皆の判断が僕の選びたい事実じゃないって。僕の意志が君を選択するんだ。僕の気持ちが優先。曖昧なこじつけの『印がある』ってだけの事実は優先させない。優先するのは僕の気持ちだよ。シルフィーヌ」


「貴方の気持ちを優先させる事が事実だと言う事?んんっ・・?だとしたら、レオがミシュリーナに一目惚れをしてしまった時点でそうなっちゃうんだわ・・・・」

俺は下を向いてまたハンカチで顔を隠した。


「ねぇ?僕の一目惚れは何回あるんだい?僕のお姫様」

「だって、一目惚れはあるわ。・・・その、私が貴方に初めて会った時そうだったもの・・」


恥ずかしい、恥ずかしいぞ、これ・・


「だから僕の一目惚れは君だから。僕が先に君に一目惚れしたんだよ」

「えっ?そう、なの?」

ちょっと目線を上げてレオリオを見ると頬が紅潮している。


あ、レオリオでも恥ずかしいんだ。以外・・


「ちゃんと言ったけど?覚えてない?どうしても君の笑顔がもう一度見たくて調べたって」 


ああ、初めて会ったお見合いの時にそんな事言ってたよな?


「あ、言ってました」


「興味をもっただけだったらその時に今度また会ったら運命かもって自分に言い訳して一旦引くよね?でも僕はそれができなかった・・そうだよ。僕は言い訳も出来ない程君に完全にやられたんだよ。夢中になったんだよ」


レオリオが真っ赤になった。


・・・・・・

かわいい・・・・凄く、可愛いや・・・・


「レオ、大好き」


思わず俺は抱き着いてレオリオの胸に頭を擦り付けて甘えていた。




「やれやれ、やっと機嫌が直ったみたいだ。僕のお姫様は」


「はい。ちょっと明後日・・・怖くなくなったみたいよ?」


「僕も楽しみだよ。バルトともう一人の『王の印』を持つレクサスに会うのがね」


そうだ。バルトとレクサスに会うのは俺も凄く楽しみなんだ。


「レクサスとても綺麗なの。レオ、好きにならないでね?」


レオリオを見上げた。

あ、しまった。顔、今、凄く不細工だよな。


「シルフィーヌ以外は興味ないよ。部下は仕事で判断するだけだし」 


お?この顔見てもそう言うんだ。

どんだけシルフィーヌマニアなんだこいつ。

そうなの?男には興味ございませんか?ほほう、ではアダルト版はなさそうだな・・・・

そうだよな?それだったら先にルカに惚れるよな・・・・


「何?また、変な事考えてない?」


「えっ、いえ、レクサス本当に綺麗だから。レオがどちらもいける派だったら絶対敵わないなって」


「シルフィーヌ、はしたない」


「あっ、はい。申し訳ございません」


レオリオが余りに紳士だったので図に乗りました。反省。



「かわいいよ、シルフィーヌは。君はどんな表情も豊かで目が離せないよ」 


「・・・・」

やっぱりマニアだ、こいつ完全にマニアだ・・・・


「さてと、さっき、好きにしていいって言ってたからどうしようかな?」

レオリオが俺を不適に見下ろす。そしてニヤリと笑った。


えっ?何だその笑い・・・


「えっ!何?やだっ、それ空耳だわきっと・・そうよ、空耳よ?レオ」


「私の体に溺れさせるとかなんとか聞こえたけど?どうするのか教えてよ?シルフィーヌ」


「は、はしたないわ!レオ!」


俺はレオリオから放れようとジタバタする。


「逃がさないよ、シルフィーヌ。大好きだよ」


うわ、止めろ!そんな色っぽい顔するな。

抵抗出来なくなるだろ!


「レオ、止めましょう?ねぇ、レオ?」


うわ、ダメだ、俺、本当にレオリオのこの顔に弱いんだ。


「愛してるのは君だけだ。シルフィーヌ。だから僕も愛して」

レオリオが俺を腕の中に閉じ込める。


「君だけ。僕のシルフィーヌ」

耳許で囁かれるととてもうっとりとしてしまう。

前世の俺の声なのにな・・


力を入れず優しく抱いて優しく口づけられる。

ゆっくり啄み蕩けるようなキスを繰返される。

俺は気持ち良くて体に力が入らなくなりレオリオの胸にもたれ掛かる。するとようやく唇を放してくれた。


「残念だけど今日はこれで我慢しておくよ。会えなくなるのは嫌だからね。愛してる、シルフィーヌ。だから」


「?」


「明後日、浮気しないで」 


「えっ?私がするの?!やだ、ないから。レオこそ絶対嫌よ?」


レオリオがクスリと笑って俺を抱き締める。


「絶対ないよ」


本当かな・・・・だといいな・・・・ハハッ


いよいよ次回はヒロイン?のミシュリーナの登場です!

キリの良いところまでと思ったら凄く長くなりました。

読んで頂き感謝です!ありがとうございました。

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