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太古の森の件

今日も長くてすみません。

よろしくお願いします!

森って言ったのに、まるでジャングルだ!凄い!凄い!

「そこ、ぬかるんでるから足下気をつけろよ、シルフィーヌ」

バルトが手を引いてくれる。道なき道だわ。凄いな、ほんと一人じゃ完全に迷うわ。


「大きな獣はいるの?バルト」

「ああ、いる。黒豹(クロヒョウ)やトラ、イボ猪にヒヒ、こいつらのテリトリーに入ると面倒だな」

「うお~!ライオンキング!」


テンションアゲアゲ!


「ライオンキング?なんだそれ?」


あれ?ライオンいないのか?


「ねぇ?ロタリタの花って本当にあるの?」

「ああ、今からちょっと歩くけどな。ちょうど今、満開だよ。それで俺のご先祖様は花冠を作れって?」

「うん、その花冠をマーネスの谷に放り投げてくれって。バルトに似てたから全然怖くなかったわ」

「俺は見たことがないんだ。でも会えた人は良い事があるらしい」

「本当?うわ、なんだろう?何か起こるのかな?フフッ、すっごく楽しみなんですけど」


「お兄様~待って~」


遥か後ろの方でユリアの声が聞こえた。


あ、ユリアとレクサスの歩幅に合わさなくちゃな。


「ごめ~ん!ユリア~。気が焦っちゃって~!」


足を止め後ろに俺が叫び返した。

少し待つとまだ距離があるがユリアと護衛二人、ルカとレクサス、その後ろにサルトとカレブが見えた。


「違うの!レクサス植物見るたびに止まるからなの!」

ユリアがまた叫び返す。

「ごめん!つい確かめないといられなくて。あ・・・」


何かまた、レクサスがちょっと脇道にそれたゾ?ん?どこ、行ったんだ?


「先に行け!私も着いているから大丈夫だ!」

ルカの声だけ聞こえる。

どうもレクサスに手を引かれて道をそれたようだ。


「追いつくから先に行って~」

ユリアも叫んでる。


後ろを見ていた俺の手をグイッとバルトが引っ張った。


「大丈夫だ。俺の護衛達にとってここは庭みたいなものだから心配するな」


カレブが追い付いて来てレクサスがルカに色々植物の説明をしているとの事なので俺はバルトに着いて先に進むことにした。

しばらくはジャングルの色とりどりの花や虫、小さなリス類やサル、大型のオウムなどを見て驚いたり、感心したりして進む。

触ったら危ない木々などもバルトに教わりながら足下を見ると巨大なアナコンダが横断していて思わずバルトに飛びついた。

その大きさにびっくりしたわ。でも凄く楽しい!こんなものが近くにあるなんて、なんていい環境なんだ。毎日冒険だよな!抱き着いた俺が笑っているのを見てバルトも嬉しそうに笑った。


しばらく歩くと突然視界が開け、今まで蒸し暑かった周りの空気が爽やかな匂いに包まれる。

目の前に大きな湖が現れた。

湖の周りは一面真っ白だ。花だ。かわいい白い小ぶりな花が咲き乱れている。


「うわぁ!凄く綺麗!それに、ああ、バルトの身につけてる香水にも入ってる?」

「良く分かったな。これがロタリタの花だ」

形はクローバーの花で花びらの先端にちょこんとピンクのインクを落としたようなとても可愛い花だ。

ああ、やっぱり葉っぱが四つ葉だ。


「お兄様~!」

ユリアが追い付いて来た。


あれっ?護衛と二人だぞ?


「もう、まったく進まないんでレクサスとルカ様置いて来ました。花冠作るのよね?シルフィーヌ?」

「初めてなの、教えてユリア」

「そうだと思った。じゃあ、始めましょうか?」




「はい、どうぞ」

ユリアが俺の頭に花冠を載せる。

「シルフィーヌのはお兄様にね?」

「いいの?ありがとう。あんまり上手じゃないけどいいかな?」

「ん?上手よ。それよりマーネスの谷まで行くのよね?じゃあ、早く行かなきゃ今日中に帰って来れないわよ。お兄様と先に行って。私は護衛とルカ様とレクサス待ってるから」

「え?そうなの?じゃあ、先に行くわね」

「うん。気をつけてね」



湖のほとりの芝生に寝転がってるバルトの頭に花冠を載せた。

「バルト、お待たせ」

「ん、出来たか。ああ、良く似合ってるぞ、シルフィーヌ」

バルトは屈んで顔を覗き込んだ俺の前に起き上がると笑って言った。


「バルトの方がお似合い。男のくせに似合うなんてズルいわ」


いつもお花背負ってるから違和感ないわ。なんで武将スタイルなのに似合うかな?


「そうか?お前はとても可愛いいな」

バルトが俺の顎を持ち上げる。

コラコラ何をする。俺は人差し指でバルトの鼻先を押す。


「ハハハ、ありがとう。ユリアが先に行けって。マーネスの谷は遠いの?」

バルトが残念そうに立ち上がり

「そうだな。時間がないな。先を急ごうか」

バルトは自分と俺の頭から花冠を取ると腰の袋にしまい俺の手を引いた。




距離的にはそんなに遠くはないが標高が高い。高い分、近道をするため細い足場で急激な崖に張り付き横歩き移動だ。うひょ~っ、高さハンパねぇ、足すくむよ。ここ、絶対ユリア無理だよね?俺もかなりきついけど?お、さすがカレブ、着いて来てるわ。


「来い、シルフィーヌ!」


足下、道、途切れてるよ。ひゃあ!飛べってか?ここ、飛べって?


バルトが差し出す手を掴みジャンプすると俺をしっかり受け止めてくれた。

俺がケガをしたらまた何かバルトに(とが)めがあるかもと思うと凄く慎重になる。

やっと足場の広い場所に着くと巨木が谷間に向かって枝を張り出している。

その巨木から太い綱のようなロープが垂れ下がっている。その先端は人一人を巻き付けて上まで吊り上げる構造になっている。

ああ、上で滑車がついてるのだな。

バルトがそのロープに着いてる革の輪っかのベルトを腰に器用に巻き付けロープの先の輪っかに右足を入れる。


「シルフィーヌ、オレに捕まれ。カレブ、済まないが反対側のロープをいいと言えば思いっきり引っ張ってくれないか?その後はここでしばらく待機していてくれ」


カレブが上を見上げながらちょっと離れた反対側のロープのところに行くと手を挙げた。


俺は覚悟を決めバルトの胸に抱きつくとバルトが俺の腰をしっかり抱き込んだ。


「いいか?しっかり捕まっていろ。離すなよ」

「はい」


うわっ、どうなるんだ?メチャ高いけど、カレブ一人で持ち上がるのか?


ちょっと武者震いだ。

バルトがクスリと笑う。そして俺の耳元に囁いた。


「大丈夫だ。シルフィーヌ、俺を信じろ」

俺はバルトを見上げて頷いた。


「カレブ!いいぞ!!」


すると、俺とバルトが凄い勢いで上に引っ張り上げられた。


うわぁ!カレブ凄いぞ!お前力持ちだな!


アッと言う間に滑車がぶら下がっているてっぺんだ。ハハッ!遊園地の逆バンジーみたいだ!


あ、成程、そう言う事か!


巨木の反対側の枝に滑車が何個か上下、上下と着いている。

ハイハイ、中学校で習ったわ。力の分散で負荷を掛けないようにしているからカレブ一人の力でも俺達二人が軽々上がったのだな。


「怖くなかったか?」

バルトが俺を張り出した木の枝に捕まらせる。

足元は太い枝がしっかりしているので上に張り出した捕まった枝を伝って行けば良さそうだ。


「うん?すごく楽しい!」

俺は振り向いてベルトを解いているバルトに笑って言った。

「お前、本当に女か?これ、俺の部下でも結構泣くんだぞ」


そりゃ、そうだろうな?遊園地のアトラクション体験してなきゃこれは結構怖いわな。俺はこう言うの凄く好きだからな。


「泣かなくてお生憎様!」

俺は舌を出してベェーってしてやった。


その顔を見てバルトがポツリと言った。


「やっぱり、お前しかいないな」


何が?何かバック音大きくて良く聞こえないんだけど?


「やっぱり、お前がいい」


だから何?滝?水の音がするな?


「シルフィーヌ、足場、先に行く程細くなってるから気を付けて進め」


ああ、先に進むのか?


「了解!」


俺は前を向いて慎重に進む。ある程度の所まで来ると後ろからバルトが俺の腰を片手で抱き込む。


「ここで、枝にまたがって座れ。大丈夫、俺が後ろから支えるから」


「はい」


って凄いぞ!下、やっぱり滝?さっきから聞こえてた音この滝の音?

うわあ!高い、高い!


バルトが俺の後ろで枝にまたがって座る。俺の腰にガッチリと両手を回すと身体を安定させた。


そして真正面を向いた俺の目の前に広がった世界は絶景だった。


俺はその壮大なスケールに息を吞んだ。


足下の絶壁から流れ落ちる壮大な滝の水しぶきが太陽光に反射してマーネスの谷に大きな虹を掛けている。そしてその膨大な量の水が落ちて行く先は深緑の巨木が生い茂る太古の森を左手に巻き込み、曲がりくねった川が輝きながら見え隠れし、先ほどのロタリタが咲き乱れる湖へとつながっている。その湖は海のように広く青く澄んだ空へとつながり水面がキラキラと輝いている。そしてその先にはアルプス連峰のような壮大な雪山が霞んで見える。


滝から吹き上げる風が俺の髪を優しく撫でる。


ああ、凄く気持ちがいい。


俺、初めてかもしれないな。

初めてこの世界に転生して良かった、この景色が見れて良かったと思ったのは。


「バルト・・・何か、今さ・・凄く感動して・・・・・上手く言葉にならないや・・・」

「高いから怖くないか?」

「ううん、大丈夫だよ」

「そうか、気に入ったか?」

「うん、うん、とっても・・・・・ありがとう、バルト。連れて来てくれて」

「・・・・・・・・」


「あのさぁ・・・」

「ん?」

「私に悲しい事があった時にまたここに来ていいかな?なんかさぁ?この感動を思い出したらそんなちっぽけな事で悩んでた自分、笑い飛ばせそうだからさ」

「ああ、いつでも俺が連れて来てやる」


・・・・・・それは無理かな・・きっと俺は嫉妬に狂ってヒロインをいじめてバルトに断罪されるんだ。

そんな女、バルトは絶対願い下げだよ・・・きっと。嫌だな・・・・ずっと友達でいたいのにな。


「シルフィーヌ、そんな時が来た時は何も言わずに俺の言う事に頷いてくれ」


えっ、やっぱり俺、断罪されるのか・・・・嫌だ嫌だ嫌だ。


「・・・・いや、大丈夫。一人で来るよ。一人で乗り越えなきゃダメなんだ・・・」


「何で一人なんだ?俺はいつでもお前の側にいる。頼ればいい」

「ダメだよ。その時バルトはバルトの大事な人を優先しなきゃダメだからさ?」


悲しいけどバルトはヒロインを守らなきゃいけないからな。

バルトは正義の人だからな。


「・・・・今、一番大事なのは間違いなくお前だよ。シルフィーヌ」

バルトの俺を抱き抱える両手に力が入る。


「そりゃ、今はそうでしょうよ?ここから落ちたら私間違いなく死んじゃうからね?」


俺は宙ぶらりんな足下を見た。


うわ、高い!高い!本当、今更ながら凄くて身震いするわ。


「お前さあ?本当、鈍いな」


「鈍くない!バルトとは一生友達でいたいの!嫌なの!嫌われて離れるなんて嫌なの!」



「俺は一生お前の側にいる。それがどんな形であってもだ。俺がお前を守る」



あれ?あれ?あれ?ちょっと待って?このセリフ・・・・

今のセリフってヒロインに愛を誓うバルトバージョンじゃないですか?


「な、なんで!?私はレオリ」

「俺の腕の中で他の男の名を呼ぶな。好きだ、シルフィーヌ」


バルトが後ろからきつく抱き締め俺の頭にキスを落とす。


「え・・・いや、違うの!バルト、お願い聞いて?」

俺は驚いたが動くわけにはいかない。


「もう、何もしない。今は臣下としてお前を守るから。俺が成人した時にお前を貰う」


「え?え?え?何かやっぱり違う!私の気持ちは?ねぇ?バルト?私の気持ちは聞いてくれないの?」


首をどうにか捻ってバルトを見上げると俺に優しく笑いかけ、凄く色っぽい声で言った。


「聞いてやらない。俺のものにする」


・・・・・・おい、それは女性の人権を軽視した女性蔑視(べっし)だぞ。

パワハラだぞ?モラハラだぞ?・・・なのになんでときめくかな・・・俺・・・・・・


「・・・・ごめん、なんか、凄いこと言われてない?私」


「お前さぁ?そこ、男に口説かれてその返し、色気まったくないな?」


「だって、そんな事バルトが言うなんて思ってなかったし。それに私ものじゃないし。バルトは好きだけど恋愛とかじゃないし。そんなので友達やめたくないし・・・」

俺は前を向いて小さな声でブツブツ言った。


「ククッ。まあ、今はそのままのシルフィーヌでいてくれ。お前が無防備に無邪気に笑うのが好きなんだ。それと確かにもの扱いは嫌だよな?結婚を申し込む時は正式にシュナイダー家次期当主として申し込むから」


「え?バルトのお兄様は?」

「兄上は近じか辺境伯の姫を娶られあちらを継がれるのだ」


「そうなんだ・・・お兄様も優秀な方ですものね。バルトがあのお城の当主になるのね。凄いことね」


俺は感心してしまった。本当、凄いな。


「ああ、どの国にも負けない態勢でお前を迎え入れよう。だから安心して嫁いで来い」


「んー、だからね?その時は私の気持ち聞いてね?」


「わかった。その時はその気にさせてやる」


何か強引なんだけど嫌じゃない。

なぜだろう?やっぱり男だったらバルトみたいになりたいって憧れるからかな?

友達でずっと居たいと思う自分がいるのは確かなのだ。夫にするのはレオリオだけだと思っているのにバルトも側から離れるなんて考えられない自分がいる。


ダメだ、こんな中途半端な気持ちでバルトに向き合うのは。期待させるなんて絶対ダメだ。


「バルト、やっぱり私」


「花冠、腰の袋から出してくれ。シルフィーヌ」


「あ!はい」


革袋から花冠を取り出すとバルトに一つ渡し自分も一つ持った。


「俺が先に投げるからその時に俺の事を祈ってくれないか?俺がいかなる時もこの地に帰ることを」

俺は大きく頷いた。

「私が投げるときは?」

「お前の幸せを祈るよ」


バルトがブーメランのように花冠を投げた。

花冠は美しい流線で弧を描きマーネスの谷に吸い込まれて行く。


バルトがケガもなく無事この地に帰って来ます様に。大事な家族のもとに絶対、帰って来ます様に。


俺は手を2回叩いてもう一度手を合わすと頭を下げて祈る。


「お前、面白いことするな?」

「え?あ!」


しまった!これじゃあ初詣だ。


「ハハッ!本当、お前といると飽きないわ」

バルトが俺を落ちないようにぎゅと抱き締めるが身体揺れてるし!笑うのやめろ、落ちるだろうが!

「い、いいの!バルトのご先祖様に一生懸命祈ったからいいの!」

「ああ、わかった、わかった。じゃあ、今度はシルフィーヌな?」

「はい」


俺が花冠を投げるとバルトが耳元に唇を寄せ囁いた。


「俺がお前を絶対、幸せにする」と。






読んで頂きありがとうございました。

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