シュナイダー城の幽霊の件
今日もよろしくお願いします!幽霊出てきますが怖くありませんよ。安心して読んで下さいね。
「二日酔いお二人組様、どうぞお召し上がり下さいませ」
「ひどーい、レクサス」
「ありがとうございます。レクサス様」
頭がガンガンするユリアと俺は同時にレクサスから二日酔いに効く特効薬なる青汁を受け取る。
ウゲッ、ニガッ!眉間にシワを寄せそれでも何とか飲み干す。
クスクスとレクサスが笑っている。
「お菓子で二日酔いなんて傑作だな。こら、ユリア、ちゃんと飲んどけ。残すな」
「うー、頭に響くから大きな声出さないで、バルトお兄様」
「ククッ、シルフィーヌもスコッチケーキ一つでとはな。お前は酒の入った物を食べるのを控えた方がいいな」
「うー、はぁーい、お兄様」
ここはレクサスの薬房だ。
バルトとルカまで一緒に着いて来たのだ。
どこまでシスコンなんだこの二人。
「明日、『太古の森』連れて行ってやるから早く治せよ?二人とも」
「うぅ、はぁーい」
二人で同時に返事した。そうだな。早く治さなきゃな。
「僕も薬草取りに一緒に行きたいんだけど?」
レクサスがバルトに聞いた。
「ああ、構わないよな?ルカ」
「ああ、もちろん。良かったら薬草の事、教えてくれないか?」
「是非。嬉しいです。何でも聞いてください」
「同い年だし、敬語は要らないよ。ルカって呼んでくれ。レクサス」
「あ、私も!私もシルフィーヌって呼んで。レクサスって呼んでもいい?」
「承知しました。ルカ、シルフィーヌ」
レクサスがにっこり笑った。
うーん、美形ばっかりだ。さすが乙女ゲーム。眼福、眼福。
レクサスの仕事場となる薬房は城の敷地内だが三棟からなる別棟の一角にあり、この三棟の中にはあらゆる『配合される物』が開発されている。
『配合される物』とは薬や化粧品は当たり前だがお酒に、たばこ、加工食品(主に軍事用、医学用、健康食用)それと火薬に爆薬、鋳造する溶融金属などもあたる。
シュナイダー領が軍事に必要な物を領内で全て賄えるように研究を重ねた賜物であるのだろう。
レクサスがいるこの薬房は名前の通り薬と化粧品関係だ。
中はとても清潔で明るく色々な草花の色彩と匂いが溢れている大温室を中心に研究室が連なっている。
その中でもレクサスは個人の専用室を持っていてこの年で一つの部署の長であるのだから凄く優秀なのがわかる。
他の棟もレクサスが俺たちに分かりやすく説明しながら案内してくれた。
「さすがだな。軍事に長けている基盤になる物は全てここで開発しているのだな」
ルカが関心しまくりだ。
「原材料は全て地産なの?」
俺も聞いてみた。
「いや、薬草以外はすべて輸入だからアントワート家には鉱石類をはじめ貿易関係でお世話になってる。なくてはならない関係だよ」
バルトも良く勉強しているな。
「お互い様だ。シュナイダー家の繁栄が我が国軍事面の強化となる」
「とても優秀な研究者が多いのね。レクサスをはじめとても素晴らしいわ」
「レクサスは特別だよ。本当に優秀なんだ」
「いやぁ、将来国を背負って立たれる皆様にお褒め頂けるなんて身に余る光栄です」
レクサスが照れてる。可愛いな。
「あら、レクサスは私達が褒めるよりユリアに褒められる方がやる気出るんじゃないかしら?ねぇ?ユリア」
ん、ユリア?
「あ、ごめんなさい。まだ、ちょっと頭が痛くて。レクサス、先に失礼したいのだけど・・・」
「薬、分量足らなかったのかな?苦いけど我慢してもう一杯飲もうか?ユリア」
レクサスがユリアの頬に触れ体調の具合を確かめている。
「やだ、もう、治ったみたい・・・」
薬が嫌なのかユリアが首を振るが頭が痛いらしく顔をしかめる。
「バルト、ユリアを休ませてくる」
レクサスはそう言いながらユリアを軽々とお姫様抱っこした。
「ああ、頼む」
バルトがそう言うとレクサスが俺たちに会釈する。
ユリアが俺に軽く手を振るとレクサスはユリアを大事に抱えて連れて行った。
背丈、俺より小さいのにそこはやっぱり男の子だな。なんだ、LOVELOVEなのね。
「シルフィーヌはもう大丈夫そうだな」
「ええ。もう、大丈夫よ、お兄様。ありがとう。バルト、ユリアとレクサスが二人きりは心配ではないの?」
「ん?ああ、お互いその気になる様ならユリアはレクサスに嫁がせるらしいよ。家の家族はそう思ってるから大丈夫」
「ふーん、そうなんだ。ふーん」
「なんか、言ったか?ユリアの奴?」
バルトが俺に聞き返す。
「いえ。お兄様、残念ね?」
「なんで誤解されるような発言をする?」
「面白いから」
「バルト、こいつはこんなに性格悪いんだからな。止めておけ」
「バルト関係ないでしょ!お兄様の方が私の何百倍も意地悪なんだからね!バルト」
「どう返したらいいか悩むから兄妹喧嘩はやめてくれるか?」
「じゃれてるだけだ」
「じゃれてるだけよ」
「ハイハイ、仲いいんだ?ハイハイ」
結局ユリアとレクサスにはその後、合流出来なかったがバルトが他の棟の説明をしてくれたので興味深く見学を終えた。
お昼からはシュナイダー城の中を案内してくれた。
築約6世紀!本当に古い城でびっくりした。凄い装飾品にお宝どっさり。
特に地下が深くて広くて暗くて下まで行けない。どうも地底湖に繋がっていてその湖は『太古の森』の巨大な湖に繋がっているらしい。
地下、出そうだわ~って言うか、出るよな、間違いなく。
まあ?アントワートの本館でも築250年位で開かずの間とか、鍵の掛かったままの地下室とかあるもんな。歴史あるって凄いわ。
「ルカ、昨日よく眠れたか?」
「ああ、疲れていたからな。そういえば・・・?寝室で寝ていた時に顔を冷たい手で撫でられたような気がしたんだが誰もいなかったな」
「ああ、やっぱり出たか。シルフィーヌは酔っ払っていたから今晩だな」
「え?え、え、え、やだ、出るの?お化け・・・・やだ」
俺、お化けは嫌だよ~!!
「俺の先祖で歓迎の意味らしい。一度だけだ。軽く頬に触れるだけで見えない。冷たいのも一瞬だそうだ」
「やだ、無理」
「なんだ、怖いのか?」
バルトが俺の顔を覗き込む。
俺は怖くてルカの服を引っ張って頷いた。
「馬鹿にされるだろうけど怖いからヤダ」
「大丈夫だ、シルフィーヌ。少し冷たくてなんだろう?と思うだけだ」
ルカが笑いながら言って俺の握った手を服からほどき自分の手で握り返す。
「オレが着いててやろうか?」
バルトが頭を撫でた。
「う、馬鹿にした」
ダメだ。前世のホラー映画、オンパレードだ。
寝室のベットの横に顔を撫でながら見てるお化けなんて最悪だ。
見えないのは想像力が働いてよけいに怖いわ。
「なんだ。一人で眠れるのか?」
さらにバルトが聞いて来る。
別にからかっている訳ではなさそうだ。
「お兄様、今晩だけお兄様の部屋に行っちゃあ・・・ダメ?」
ルカの手を両手で握り締めた。
「わかったよ。今晩は私の部屋においで。バルトもどうだ?こいつが寝付くまでだがな」
「付き合うよ。色々話したいこともあるしな」
「うぅ、お世話掛けます」
すっぴんでネグリジェで素足な俺だが分厚いガウンを着ているから身体の線などは出てないのでバルトの前でも大丈夫だろう。
「リタ、おかしくない?」
「かわいいですわ、お嬢様。ガウンは殿方の前では決して脱がないで下さいましね?」
「わかってる。リタ、カレブとはどうだったの?」
「え?昨日は無事送って下さいましたが・・?」
「ふーん、そう。今日ももういいから、カレブに送ってもらって」
「はい・・・・?お嬢様」
リタがちょっと首を傾げてから頷いた。
あのヘタレ野郎、説教だ。
カレブと一緒にルカの部屋に向かう。
「カレブ、今日はお兄様の部屋に泊まるからリタ送ってあげて」
「・・・はい。承知しました」
「あのさぁ?カレブ?いい加減さぁ、リタ幸せにして欲しいのだけど?」
俺は前を向きながら廊下を歩き後ろを着いて来るカレブに声を掛ける。
「仰っている意味が・・」
「あら?じゃあ、帰ったらすぐお父様に言ってリタの結婚相手探してもらおうかな?」
「・・・・それは困ります」
ルカの部屋の前に着いたのでカレブがドアをノックするとサルトが出迎えた。
「じゃあ、帰るまでに仕留めろ」
俺はドアが閉まる前にカレブに親指を立てて言ってやった。
「仕留めろって、シルフィーヌ様・・・」
カレブが困った顔でサルトに同意を求めた。
「?」
サルトがキョトンとした顔で俺を見ているが構わず俺はカレブに手を振ってドアを閉めた。
「何です?シルフィーヌ様?」
「カレブはリタを送るから帰らせたのよ」
「ああ・・なるほど」
サルトも頷いた。
ほら、見ろ。みんなそう思ってるよな。
「シルフィーヌ、おいで」
ルカが自分の横の一人掛けのソファを薦める。
サルトがひざ掛けを用意してくれた。
ルカの前には机を挟んでバルトが腰掛けていた。
「今晩は、バルト。今日はわがままを言ってごめんなさい」
「いや、構わない。レクサスからシルフィーヌにこれを」
バルトが蓋付きのガラスコップを差し出した。
俺はソファに座り受け取る。
「よく眠れるそうだ」
「ありがとう。あ、ハーブティーみたいね。ん、あ、甘くて美味しいわ」
眠れるならありがたい。お化けに触られても気が付かないほど深く眠りたいや。
「後でベットに運んでやるから安心してくつろいでろ」
ルカが言って俺の頭を撫でた。
「はい」
俺はソファに持たれ三角座りをすると足を斜めに流してひざ掛けを腰まで掛ける。
「えらく素直だな?」
斜め前に座るバルトが俺を見てクスッと笑った。
ああ、かっこいいなバルト。白のラフなシャツに黒のパンツの部屋着なのに背中にお花が咲いてるよ?
ちょっと俺はぼんやりしてきた。
「昨日あんまり眠れなかったから早く眠って明日に備えたいの・・・・太古の森、早く行きたいの・・・」
あれ・・?すごく・・眠いな・・ダメだ・・まぶたが落ちて来た・・・
「ああ、連れて行ってやる、シルフィーヌ」
「うん・・・・お願い・・・バルト・・・」
あれ・・?バルトの顔・・・・二重に見えるぞ・・?あれ・・?バルトお兄様と話しているのに・・あれ?女の人?バルトそっくり・・・こっちに来る・・・なに?・・・・・ああ、そんなに冷たくないな・・・え?ロタリタの花冠?・・・・谷?ネス?マーネスの谷に?・・・ああ、わかった、きっと。
「おやすみ、シルフィーヌ」
ルカの声が聞こえたような気がした。
目覚めると大きなベットに寝かされていた。
まだ、早い時間じゃないかな?隣のベットを見るとルカが寝ている。良かった。ツインルームで。
あれ?バルトは?
寝室からそっと出るとバルトが長椅子で横になっていた。
お、良く寝てるな。
俺はそろそろと近づきソファの横の絨毯に座るとバルトの顔を下からマジマジと覗き込んだ。
綺麗な寝顔だな?男のくせに。
マジックあったらパンダにしてやるのにな。
そういや、昨日の・・・?うーん、やっぱりバルトにそっくりだった。
でも女の人だったし・・・やっぱり、寝ぼけてた?
「・・・・・・・ん・・・・」
お、バルトが寝ぼけてるぞ。
ムフフ、可愛いなぁ~・・・・ダメだ、シルフィーヌ、やっちゃダメだ!けど・・・
やっちゃおーッ!!
「おはよ!バルト~!!」
俺はバルトの鼻を摘まんで顔を覗き込んだ。
「?!」
バルトが驚いた顔で俺に鼻を摘ままれている。
「アハハ、早く森に連れて行って?」
「・・・・おはよう。シルフィーヌ、よく眠れたか?」
バルトは鼻を摘まんだ俺の手を持ち上げて離すと笑いかけた。
おっ?こんな時も爽やか君か?ではではこれならどうかな?
今度は空いてる右手でバルトの鼻を摘まもうとしたが簡単にバルトに捕まった。
「身体はデカいのにやることはユリアと一緒だな?」
バルトが呆れながら言う。
「同い年だもーん。あーあ、残念!」
俺は両手をバルトに捕まれバルトの胸に身体を乗り上げ万歳状態だ。
「お前さあ?いくら何でも無防備すぎ。そんな恰好でこんなことするな」
あ、しまった。俺ネグリジェだわ。
バサッ!と頭の上にガウンが落ちて来た。
「馬鹿妹!バルトの言う通りだ。男を襲うな!」
ルカが起きて来て怒られた。
長くてすみません。今日も読んで頂きありがとうございました。




