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呑み込むもの5の件

今回は長いので2話に分けました。

よろしくお願いいたします!

「どういう事なんだ、レクサス?」

「そうだよ?どうなってるの、レクサス?」


さっきまでの記憶がさっぱりないハルクの一馬と今の状況がまったく呑み込めず、消化不良のシルフィーヌの俺が相変わらず無表情のバルトに抱きかかえられているレクサスに疑問をぶつける。

「それは僕が一番知りたいよッ!ヤガー、貴方にも聞きたいからッ!」

「おッ、(われ)もか?」

そう言って俺達の間に顔を突っ込んだのは相変わらず猫耳一馬のままのヤガーだ。


「むぅ・・・ヤガー、まだその姿・・・」


兄貴がピクピク動くヤガーの猫耳を睨みつける。


「素敵ですわ、ヤガー様。とても端正なそのお姿にそのお耳は相違(ミスマッチ)ですのに・・・なぜか(わたくし)、ときめいてしまいますわ。さすが獣神であらせられますわ」


兄貴とは対照的にハルクの左肩にまた担ぎ上げられたアイリーンが頬を紅潮させそう言った。

そのアイリーンの様子にヤガーの耳がピンッ!と立つ。

「見ろ、ハルクとやら。これが素直な者の感想よ」

と、どや顔で胸を張ったのだ。


「「クッ・・・!」」


しかめっ面の兄貴と我慢の限界に達した俺が同時に声を上げた。

「あ、ああッ!ダメだ!もうダメだよ、兄貴!勘弁してくれッ!」

俺はこらえきれずに大爆笑だ。


そうか、さっきまでの俺はこのヤガーの猫耳一馬にギャップ萌えをしてたんだ。

それにアイリーンまでとはな?

前世の姿でもアイリーンを虜にするなんて!さすがですよ、兄貴殿!

それも可愛いい猫耳姿、大威張り一馬なんてなッ!


「亮ッ!!笑い過ぎだッ!!」


ヒィヒィと息も絶え絶えに涙を流しながら笑うシルフィーヌに真っ赤な顔で怒鳴るハルク。その意味がわからず、頭を捻るアイリーンとヤガー。


「手遅れになるまえにさ?いい加減、次に進みたいんだけど?」


そんな四人にレクサスが静かに声をかけた。

バルトの腕の中にいるそのレクサスの表情は額には青筋が立ち琥珀の瞳が黄金のように光っていた。


あ・・・リアル能面鬼(ツー)・・・



そこからは俺達に不機嫌丸出しでレクサスが怒りマークを額に張り付けながら、ここに至るまでの経緯を手短に、それも要領よく話してくれた。ここは黙って聞かなければ後々、ルカにリアル能面鬼(スリー)が降臨する事を察知した俺は睨み合っている兄貴とヤガーを必死に黙らせ、どうにか今のこの状態の自分とこの現状をなんとか把握する。

そしてそれと一緒に俺の心も目一杯、打ちのめされた・・・

レクサスの『ミトラが、ミトラが、』を聞く度に俺は自分の両耳を塞いで今すぐ居なくなってしまいたい衝動を何度、ハルクの上着のすそを握って耐えたか・・・・

ミトラ、ヴァルナのアスラ兄弟がやった事とは言え、俺とはまったく違う人格のミトラがやった事とは言えだ、色々やった張本人はこのシルフィーヌの中にいる人格なのだ。

つまり、俺なのだ。

その事に俺は凄くいたたまれなくなった。


ああ、『穴があったら入りたい』とはこのことだ・・・


横で同じように聞いていたハルクも『ヴァルナが、ヴァルナが、』と変に落ち着いた声でレクサスが言う度、顔が引きつって青くなって行ったのだから同じ気持ちだと思っておこう・・・・



「と、とにかく、レクサス?その話で推察できる事はシルフィーヌとハルクは命の危険が迫るとミトラとヴァルナのアスラ兄弟に人格が入れ替わる。それに衝撃的な事が起こった時もだよね?」

「そう。僕もそう思う。だって、神殿の天井辺りからいきなりアイリーン姫とヤガーが現れ落っこちて来た時、ヴァルナは急いでアイリーン姫の元に駈け出してアイリーン姫を受け留めたんだ。そしてアイリーン姫を抱き上げ、連れて来たのはもうヴァルナではなくてハルクだった。さっきだってハルクはヴァルナだった。ヤガーが人型に変わる前は間違いなくヴァルナだった。僕はヴァルナかどうか、名前を呼んでちゃんと確認したよね?しかし『ジャガーに戻れ』と怒鳴って人型ヤガーに迫ったのはハルクだ。これも僕は名前を呼んで確認したし、今、間違いなくハルクだしね?ああ?ねぇ、ハルク?前回はアイリーン姫を助ける為にハルクがヴァルナの人格を押し退けて表面に出て来たんだってなんとなくわかるんだけど今回はどうして突然、人格が変わったのかなぁ?何かハルクにとっては『衝撃的な事』があったんだよね?」

「え・・・?あ、それは」

「それはさ?レクサス、ハルクはヤガーの姿があまりにも恥ずかぁ、むぐぅッ?!」

答えようとした俺の口をハルクの手の平が一瞬で塞ぐ。


(やめろ、バカ弟・・・アイリーンにばらすんじゃねぇ・・・!)

俺の耳元に顔を寄せたハルクが小さな声で(すご)む。


うーん・・・そうか?・・・そうだよねぇ・・・?

普通、一馬にあの猫耳はないかぁ・・・?

自分が()()だったらスゲー、ショックだわ・・・

俺でも羞恥心全開で居ても立って居られなくなって、速攻でやめさせる為に人格チェンジするわな・・・


「一馬・・・?急にどうされましたの?」

そんな様子のハルクにアイリーンが心配して声を掛ける。


うーん、仕方がない。兄貴の気持ちはわからなくはないしな。


と、言う事で俺はそんな一馬にコクコクと小さく頷く。

するとやっとハルクの手が俺の口から離れた。



「心配ないから、アイリーン。レクサスも。ハルクはアイリーンがヴァルナに喰われるかもと本能的に察知してそれを防ぐためにだな、必死で人格を入れ替え(チェンジ)させたんだよ。うん、そうだよ、絶対にそうだよ。な?一馬?」

「あ・・・ああ、もちろんだ」

ハルクが急いでレクサスに頷き返す。

「・・・へぇ・・・?そうなんだ・・・?それはすごいね?愛の力だね?ハルク?」

ちょっと驚いて、だけど感心したような声を上げたレクサスの視線を逸らしながら

「え・・・?いや、まぁ、そうだな・・・」

と、バツが悪そうに兄貴が答えた。

「まあッ、まあッ、一馬ったらッ・・・!」

それを聞いたアイリーンだけが頬に両手をあて真っ赤になって小さな声で『どうしましょう』と嬉しそうに照れていた。


・・・・・・・幸せオーラ、全開だね?アイリーン・・・




「ああ、亮。ミトラもヴァルナもお前と俺の『人格』ではなく、同じ肉体の中に存在するもう一つの『魂』らしい」

「もう一つの『魂』だって・・・?それって、レオリオの中にいたダグラス王と同じパターン・・・?」

「ああ。ソロモン王の話ではヴァルナ、ミトラと名乗った俺達を見たヘイワーズが『アスラと呼ばれる古神(いにしえがみ)だ』と教えたらしい。以前、お前の(オールウエイ)国でミシュリーナである紗理奈が危険にあった時、怒りに我を忘れ、剣を振り回した俺と亮の状態を見た紗理奈が『まるでアスラだ』と言っただろう?」

「ああ、覚えてる・・・。けどそれはまた違うゲームの設定だし・・・まさか本当にこのゲーム世界で取り入れられていて俺達の中に取り込まれているなんて」


「ゲームの設定だって?」

「ゲーム世界・・・ですか?」

レクサスとアイリーンが首を傾げる。


「ああ・・・って、いや、レクサス、アイリーンも。それは全て終わったらちゃんと話すよ。しかし今は俺達、佐伯兄弟が知ってる様々な世界の要素がこの世界ではごちゃまぜになっていると思っていてくれ。だから今、こうして皆の意見を取りまとめて何が正しいのかを探っているのだと理解して欲しい」

「様々な世界・・・ヨウソ??・・・よくはわかりませんが一馬がそう仰るなら私は待ちますわ」

「僕は今すぐ教えて欲しいけど、今は聞かない。時間がないからね?」

二人が少し複雑な様子だが直ぐにそう返してくれた。


「すまないな、二人共。終われば必ず。それでだ、亮。ソロモンは『ウロボロス』もこの世界の管理者(マスター)である自分が知らなかった時点で『アスラ』だと位置付けた。現にその通り『ウロボロス』であるバルト、レオリオ王子は波にさらわれ、海底に沈み行く自分の身体に危険を感じ、俺達と同じ『アスラ』であるこの姿となったのだから」

そう言って兄貴がバルトの背後に広がる黒い翼に視線を移す。

しかし虚ろな顔のバルトは相変わらず半眼で皆の視線を浴びても頷きもしなければ声も出さない。


俺は遥か上空で浮かんでいるレオリオを見上げる。

相変わらず腕組みをしてサンタマリスを眺めている。

俺がさっきからここに呼び寄せようと名を呼んでも無視なのだ。


「・・・・・」


「どうした?亮?」

「えッ?・・・あ、いや・・・。それで?レクサスはシルフィーヌも昏睡状態のまま海に落とされたのだから身の危険を感じたアスラのミトラが目覚めたのだと思ったんだよね?だって翼が生えているしね?」

「そう。まさかシルフィーヌだったなんて・・・?どうしてシルフィーヌが目覚めたのかな?」


「それは(われ)が海に落とす前にシルフィーヌ姫の『印』に我の生命力を補給したからよ」


「「「「エッ?」」」」

俺、一馬、レクサス、アイリーンが一斉にそう言ったヤガーに注目する。

その視線を浴びながらヤガーが当然だろうと言う顔でうんうん頷きながら更に続ける。


「いくら何でも普通の人間があの高さから落とされたら海面に叩きつけられ木っ端微塵だ。だからな?我が後生大事にだな?更に『印』の中にあるアイテムを全て引き出してまで肉体強化もしておいたからな?シルフィーヌ姫は今、こうして立派な翼を背に生やして我の隣に並んでいる訳だ。感謝しろ」

腰に両手をあて、後ろにそっくり返りそうなデカい態度でヤガーがそう豪語した。
















良かったら続きもどうぞ。

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