呑み込むもの3の件
今日も長くてすみません!
よろしくお願いいたします!
どうしてッ!どうしてこんな事になってるッ!?
バサリッ!
いきなり自分の頭上で大きな羽音がしてハッと我に返る。
「ほう?上手くその猫を捕まえたじゃないか?」
一馬だッ!
「兄貴ッ!無事だったんだなッ?ルカ達はッ?!」
「ああ、無事だが・・・。凄いな、お前達・・・よくこのサンタマリスを抑え込んだものだよな・・・?俺にも出来るのか・・・?」
俺は今、俺の遥か下の空間に浮かんでいる大きな黒豹と睨み合ってるので兄貴を見る事が出来ないが兄貴が感心した声で話しかけているのはいつの間にか俺の側を離れたレオリオとバルトの二人だろう。
俺はその、一馬の言葉でサンタマリスが音だけでなく動きも止めている事に気付いた。
こうなる少し前、俺はいきなり、黒板を思いっきり爪で引っ掻かれたような異音で叩き起こされたのだ。
それは胸の『印』に、頭に、身体に響き渡り、何とも言えない身体が勝手にもだえだすような感覚で俺はハルクの腕の中で跳び起きたのだ。
そしてそんな俺の目にいきなり飛び込んで来たのは荒れ狂う波飛沫といくつもの海上に浮かぶ竜巻だ。
ココハドコ?ワタシハダレ?
茫然自失、頭真っ白、思考停止状態な俺の耳に
「ミトラ」
と聞き覚えがある声と嬉しそうな顔が覗き込む。
あ、ハルクだ、兄貴だ、なら俺、シルフィーヌだ!
って、どうにか思い出す。
更に、辺りを見回す事5秒、レオリオとバルトを見つけ、嬉しくって思わず二人に手を振る。
けど、なんでなんで二人共、あんなに荒れ狂う海の上に立ってんの・・・?
それも無表情・・・???
それに・・・なんか視界に入る黒いモノが邪魔でって、・・・黒い翼???
ん?ん?ん?兄貴のか?
って、レオとバルトの後ろもなんか、黒くない???
ギィィイイイイイイイグワァアアアアォォオォン!!!
「ひゃあああッ!!」
またまた、さっきの異音だ!
一気に氷風呂の中に落とされたような、背筋が一瞬で凍り付くような、嫌な感じが俺の身体の中を駆け巡り俺は居ても立っても居られず、一馬の胸を押して空に舞い上がった。
ん・・・?えッ!?
俺って、まさか飛んでる?・・・ん?ん?ん?
うぉおおおお―――ッ!!
また!、また翼!また翼、生えてるじゃん?!
何でッ!どうしてッ!?こうなってんのッ?!
「ミトラ?」
兄貴がそんな俺を見上げて海上からそう呼ぶ。
『ミトラ』??誰?それ?
ギィギィギィィイイイイイイイグワァアアアアォォオォーーーーーン!!!
「ひゃあああッ!!ダメだ!、これッ!この音、ダメだ!兄貴!何だよッ!!これッ!!」
「ああ、サンタマリスのだな」
サンタ・・・マリス・・・・?
さ・ん・た・ま・り・す?
・・・・・・・
て、サンタマリスか――――――――ッ!?
おいおいおい!誰か冗談だと言ってくれ!!
「ああ。お前の後ろで回ってる、それだが」
そう、兄貴に聞かされてからの俺の行動は早かった。
まず、俺はサンタマリスのその嫌な音をとにかく止める為にレオリオとバルトの背後にまわり後頭部の『印』にいきなり触れると二人と共鳴する。
そして、俺、レオリオ、バルトから『金の蔦』を放出させるとそれで巨大な『金の網』を編み上げそれを凄い速度で自転しているサンタマリス目掛け放り投げた。
そこからはサンタクラークの時と同じように俺の『勾玉巴』にサンタマリスの生命力を吸い上げ、レオリオとバルト、二人の『ウロボロス』がそれを周りの自然に放出させてその自転するときに発する嫌な音を止めにかかったのだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、あんな音はもう耐えられないッ!!!
「お、さすがミトラ。じゃ、ここはお前らに任せた。俺はアレンを」
「!、アレンだって!?じゃあ、ルカはッ!?」
「一緒だ」
そう言って兄貴の気配が消えたが
ギィギィギィィイイイイイイイオォオォオォーーーーーン!!!
とサンタマリスが更に大きな咆哮を上げ、巨大な波を起こす。
「ぐわぁああッ!!キモい!キモい!キモい!ッて!言ってんだろうがッ!この野郎ッ!」
と俺はブチ切れた。
その怒涛のさなか、俺の視界の端を何かが霞める。
今の・・・
今のは・・・レクサス?
そしてアイリーンだよな?
いや、違うな。
大きな・・・猫?
・・・てか、もとい、黒豹か??
って、ちゃうちゃう、あんさん。豹は空に浮かばへんやろう?
って独りツッコミを入れる俺。
ッて、アイリーン!!、いつ来たの???
って、ちゃうちゃうちゃう、あんさん。今、そこ、大事なとこやないで~
問題は黒豹の背中に二人が捕まっとるとこやがな~
と更に自分に冷静なツッコミを入れる。
うん。そうだな。
そして恐る恐るそちらを確認する。
浮かんでいた。
間違いなく大きな黒豹が。
それもその背中にレクサスとアイリーンを乗せて。
そんでもって、この黒豹って・・・・
俺と同じ・・・??
サンタマリスの生命力、吸ってる???
て、ことは・・・?
て、ことはだな・・・?
こいつ爆ぜたら危ないじゃん!!!
即座に俺は『金の蔦』を今度は黒豹を捕えるために手の平から放出すると黒豹の顔に巻き付けたのだ。
そんでもって今だが
良かったよ、サンタマリスのあの、うるさいのがなくなって。
俺はサンタマリスに放っていた『金の蔦』を消し去った。
そして黒豹を捉えている『金の蔦』を更に太くする。
そう言えばいつの間にかレオリオとバルトの感じがしないと思ったら俺から離れたのだな・・・
なら、こいつを抑える為に吸い上げている生命力の量を調整しなくちゃな・・・
でも・・・俺は二人と間違いなく共鳴した・・・
二人の『ウロボロス』は俺の『勾玉巴』と共鳴したのだ。
あの時、サンタクラークの時、焼いて消滅させてしまったのではなかったんだ・・・・!
その事を確認出来た事が俺にとって今、一番うれしい事だ。
グルルルルッ!
蔦の先にいる黒豹が唸りを上げる。
こいつの鼻先には俺の『金の蔦』がガッチリと巻きついていて口が開けられないのだから唸るしかない。
それに俺はこいつの中からヒシヒシと感じるサンタマリスの生命力を俺の『勾玉巴』に吸い上げているのだから怒るのは当たり前だ。
一旦俺はそれを止める。
すると黒豹はその迫力ある金と銀の碧眼を光らせ大きく首を振ると身体をよじって『金の蔦』を振り切りにかかる。
「きゃぁッ!」
「わあっ!」
その背に囚われているアイリーンとレクサスが声をあげた。
「二人共ッ!すぐ助けるからッ!しっかりそいつに捕まってるんだよッ!早くッ!兄貴ッ!バルトもッ!こらっ!大人しくしないかッ!こいつッ!」
俺は手綱のように『金の蔦』を引っ張って黒豹を抑えにかかるが凄い力だ。
「「エッ!?」」
アイリーンとレクサスが黒豹の背の上で同時に声を上げた。
「ああ。わかったが。なんだ?元気になったと思えば人使いが荒いな?ミトラは」
兄貴がブツブツ言いながら黒豹の所に舞い降りて行く。
ミトラ?ミトラって何だよッ?さっきから?
それになんでみんな、そんな呑気に構えてんだよッ!?
「シルフィーヌ・・・?なの・・・?」
驚いた顔で俺を見上げるレクサスがそう尋ねた。
その顔はさっきまでルカの事を案じて泣き叫んでいたのだろう、涙でグチャクチャだ。
「亮・・・様?それに・・・一馬なの・・・?」
アイリーンもハルクを皆を案じていたのだろう、俺を見上げたその顔は真っ青で唇は震えている。
そしてその視線を自分の元に降りて来る兄貴に向け困惑している。
「そうだよッ!!当たり前だろう?一体誰に見えてんだよ!?兄貴!早く、俺がこいつ抑えている間に早く!助けろよ!バルトもッ!早く、助けてよッ!」
俺が声を荒げると頭上にいたバルトが俺の横をすり抜けるように黒豹の側まで落ちて行く。
俺は力尽くで綱を解こうとする黒豹に俺の中にある生命力を濃縮して逆にぶつけてやった。
「ギャウンッ!」
すると思った通り、衝撃が大きかったのか一瞬で動きが鈍り黒豹は大人しくなった。
そんな黒豹の周りに二人が降りて行く。
その舞い降りる翼の動きがとても美しくて、俺の目は釘付けとなる。
しかし・・・何で黒なんだ・・・?
そうだよ?どうして二人共、黒い翼なんだ?
自分が広げている翼を見上げる。
白だ。
うん。白だな?
そうだよな?俺がアイシス様にもらったのはこの白い翼だよな・・・・?
って言うか、なんで二人にも翼生えてんの・・・???
ん?んんん?
レオは・・・?
俺は更に夜空を見上げる。
今は静止しているサンタマリスを眺めるように、遥か頭上でレオリオはその黒い翼を左右に広げ優雅に佇んでいる。
そうだよな?バルトが黒ならレオリオも黒だよな?やっぱり・・・
「ハルク様ッ!ハルク様ッ!ハルク様ッ!」
アイリーンの声に俺は急いで視線を落とす。
そこには両腕をしっかり兄貴の首に回したアイリーンの姿が見えた。
その様子にまた俺の口から安堵の吐息が漏れた。
その横でバルトがレクサスを抱き上げているのも確認したからだ。
まあ、とりあえずは皆、助かった・・・
だが問題はこいつだな・・・?
俺は自分の背から降ろされる二人を眼で追っている黒豹を眺めた。
「よくぞ、よくぞ、ご無事で・・・ハルク様!」
ヴァルナはそう言って自分にギュウギュウと抱きついて来るこの女に変な既視感を感じ、
「んんっ?ああッ?何だ?馴れ馴れしい女だな?よせ。そんなにしがみつくな。それにお前もハルクか?」
と不満声を出した。
そう言われてはじめて自分が必死に抱きついていたことに気付き、恥ずかしくて抱きついた一馬の首から腕を緩めると身体を離しおずおずと視線を上げるアイリーン。
「あ、申し訳ございません!つい嬉しくて・・・あの、一馬」
アイリーンはまた、自分がハルクと呼んでいたからだと思い小さな声でそう改めた。
だが目の前にいるハルクはそんなアイリーンを感情が読み取れない顔で眺めている。
「あ、あの、一馬?」
どうしてそんな無表情なの?と首を傾げるアイリーン。
そこにあるのは間違いなく愛おしい恋人の顔なのだが何かが違うのだ。
「・・・今度はカズマか?ミトラと同じ呼び名だな?まあ、いい。それよりお前、俺に名を教えろ」
「・・・・はい?」
その一馬の言葉が呑み込めずアイリーンはその顔をマジマジと見つめる。
すると今度はヴァルナがさっきから自分を見つめて赤くなったり、笑ったり、キョトンとするこの女の目まぐるしく変わる表情が不思議で瞳を見開き首を傾げる。
そしてその見開いた赤い瞳の奥が黒いのを見たアイリーンは今度は震える声で訊ねた。
「・・・一馬・・・?一馬・・・ですよね?目をどうにかされましたか?」
「バルト・・・?ねぇ?バルトなの?僕がわかる?」
同じくバルトの両腕で持ち上げられて高い高い状態のレクサスがそのバルトの顔があまりにも無表情なのがとても気になって話しかける。
「・・・・・・」
「ねぇ?バルト。バルトなんだよねぇ?本当に。君の瞳、半開きなうえに黒いからわかんないけど、アスラになってもバルトだよね?背中に黑い翼があるのは・・・この際、仕方ないとして僕の事を助けてくれてるって事はバルトなんだよね?・・・ね?ね?・・・・ね!ってば、ね!バルト!いいからッ!とにかく返事しろよッ!」
レクサスが一生懸命にバルトの顔を両手で挟み、ガクガクと揺さぶるがバルトは返事をするどころかその瞳すら動かさない。
「・・・・・・」
「エーーーッ!?なんで、バルトッ!!って、シルフィーヌッ!!」
お?
「急になになにッ?!レクサス!」
「ん?」
兄貴が俺を見上げ怪訝な顔をする。
「ヴァルナッ!」
レクサスが今度は兄貴に向かってそう叫ぶ。
「なんだ?ディーヴァの子供」
兄貴がそう、即答した。
「「え"?」」
俺とアイリーンがハルクを見つめ間抜けな声を出す。
ヴァルナ???
「ヤガーッ!!!どうしよう!呑気にシルフィーヌに捕まってる場合じゃないよ!」
レクサスが絶叫する。
ヤガー???
と、
「そうか?我の出番かの?」
え"・・・・・
その声がしたのは黒豹がいたところのはず。
だが・・・
???
「あ・・・れ?か・・・ずま?・・・」
そこには俺の『金の蔦』を片手で握り締めて笑っている一人の黒髪の青年、
佐伯一馬の姿があった。
長文ご拝読いつもありがとうございます。
この度、台風被害に遇われた皆様にはこの場を借りてお見舞い申し上げますと共に一日でも早く穏やかな心で普段の生活が過ごせます様に心からお祈りいたします。




