アスラ8の件
今日もよろしくお願いします!
「クッ!!」
「な、なんだッ?」
突然、睨み合っていたソロモン王の背後の神殿の天井が一面、閃光のように光った。
それは真っ暗な闇に音もなく炸裂した照明弾のようだ。
「ウニャニャッ!!」
「キャッ!!」
「グッ!?」
「ッ!?」
同時にソロモン王とハルクの苦しそうな声が神殿内に響く。
「?」
ハルクと一緒にソロモン王を見上げていたアレンは先ほどの強い光が両目にまともに入り、今もチカチカとして見えにくい。
だから何が起こったのかまったくわからないのだ。
それにソロモン王の声の前に猫と女の子の叫び声も聞こえたのだ。
「「重いッ!!」」
今度はソロモンとハルクの声が同時に怒鳴る。
「??」
ますますアレンはわからず必死に目を凝らしながら横に立つヴァルナと化したハルクに手をのばして確認しようとした。
「早く下ろせッ!ヴァルナ!ヤガー!お前もデカくなるな!重いッ!」
頭上のソロモン王がまた怒鳴る。
「んあっ、重いですわッ!ケチャッ!」
「ソロモン!俺は重くないわ!重いのはこのバカ女だ!」
と、また女の子と今度は知らない男の声がした。
「???ヤガー?それに馬鹿女だって・・・?まさか、その声、アイリーン!!って・・・まさかな?」
聞き覚えのあるその女の子の声にアレンがそう名を呼ぶと
「はい!アイリーンですわ!」
とソロモン王の肩越しからひょっこりと小さな顔が覗いた。
「え・・・?」
「あ、アレン様だ~ぁ!ごきげんよう、アレン様」
異常に赤い顔でメチャメチャハイなアイリーンだが、笑いながら小さく片手を振ったのは間違いなくアイリーンだった。
思わずアレンはハルクの肩を掴むとこっちもメチャメチャ揺さぶる。
「あ、あ、あーッ!!ハルクッ!アイリーン!アイリーンだッ!あれっ!ハルクッ!アイリーン!」
「や、止めッ!それにまた、揺するなッ、お前!見えてる、見えてるからアレン!」
だが、そのアイリーンの後ろに二つの光が迫る。
それは金と銀の光を放つとても大きな二つの目のようだ。
そしてそれはのっそりとアイリーンの肩越しに姿を見せた。
そう、それは大きな顔で赤い口から白い牙を覗かせた黒い獣のものだった。
「ハルク様ぁ~??んゥう?ふわわわぁぁぁぁ~ッ!、一馬ッ!」
嬉しそうにそう叫んだアイリーンがいきなり両手を大きく振るとその獣はアイリーンの白くて細い喉もとにその牙を剥き出すと大きな口を寄せた。
「アイリーンッ!危ないッ!」
叫んだアレンのその声に反応するかのようにハルクは放った黒い触手をソロモン王の体から一瞬で解き放った。
「!!!」
「オッ!」
「キャッ!」
アッと言う間にソロモン王とアイリーンとその獣が落ちて来る。
瞬時にアイリーンを受け止めようと駈け出すアレンの腕をハルクが掴む。
「!?」
と、そのアレンの腕の中にシルフィーヌが押し着けられる。
「!?」
そして即座に駈け出したのはハルクだ。
「???」
そのハルクの押し付ける力の強さにアレンはシルフィーヌを抱えたまま床に仰向けに転がった。
と、その転がるアレンの上に獣が降って来た。
「✕✕✕!!!」
今度は獣に押しつぶされる衝撃からシルフィーヌを庇い必死に丸まるアレン。
「「おいッ!危ないだろうがッ!!」」
だが、アレンの頭上でしたのはソロモン王ともう一つのこの声だ。
恐る恐る目を開けたアレンの目前には黒い毛並みに覆われた腹らしきものがあった。
落ちて来た獣がアレンの体のちょうどその上で大きな体を四つ足で支え着地していたのだ。
「あ・・・オスだ・・・」
一気に気が抜けたアレンのため息と出たつぶやきが聞こえたのか、獣は自分の腹の下にいるアレンを覗く。
「何見てんだよ?お前は!潰さないで着地してやったのだからサッサとそこどけよ!まったく、失敬な野郎だ!」
と、その金と銀の碧眼をギラつかせながらその口から言葉を吐いた。
「!、しゃ、しゃ、しゃべった!」
シルフィーヌを抱きかかえたまま必死で腹の下から這い出したアレンだがあまりの衝撃にその獣の側でヘナヘナとへたり込んでしまった。
それでもアレンは必死で心を落ち着かせ、知ってる知識を総動員させてようやくこの獣は黒豹だと思い至った。
うんうん、そうだ、
そうだとも。
確かにあの黒いしなやかな肢体の獣は俺の知ってる限り黒豹しかいない。
だが・・・だかな?デカいよな・・・?
いや、デカすぎるな・・・?
それに何て言っても、ヒョウはしゃべらないよ!?
「ああ、アレン君。彼はヤガーだ」
その黒豹の背に跨りこっちを見てそう言ったソロモン王が小さく見えた。
ソロモン王は俺より背は低いと言っても180cmはあるだろう・・・
「ヤガーって・・・この黒豹のこと?」
恐る恐るそう言ったアレンに獣はまた不満顔で振り返ると
「クロヒョウだって?つくづく失敬で馬鹿な野郎だな?我は獣神、ブラックジャガーのヤガーだ」
「豹じゃなくて・・・ジャガーだって・・・?一緒だろ?・・・大きな猫だろ?」
「違う!あんな小さいのと一緒にするな!貴様、黙らないとその戯けた脳みそごと頭を齧るぞ?」
「まあ、ネコ科には違いない」
うんうんとソロモン王が頷く。
「ソロモン。わざわざ来てやったのになんだ?俺のその扱いは。それにいつまで乗ってる?降りろよ」
「なんだ?ヤガーこそ。久々に暴れたくなったから来たんだろう?この僕と。それに君にはお願いしたい事があるんだよ。助けて欲しいんだ、その少女と僕の弟を」
ソロモン王がヤガーの首を片手で撫でながらアレンの腕の中のシルフィーヌをもう片方の手で指さした。
そんなヤガーの体の向こうの少し離れた柱の下には同じく床に転がるハルクがいた。
「一馬ッ!一馬ッ!一馬ッ!」
そしてそのハルクの腕の中には嬉しそうにハルクの胸に赤い顔を擦り付けるアイリーンもいた。
落ちて来たアイリーンをハルクが床ギリギリのところでその身体で受け止めたのだ。
「アイリーン、無事か?」
そんなアイリーンの顎をそっと持ち上げハルクはアイリーンの状態を確認する。
「大丈夫ですわ。ありがとうございます・・・って?・・・ハルク様!血がッ!」
暗い中で見上げたハルクの額から一筋の血が目元に流れている。
「ああ。少し頭を柱に打ち付けたようだ。心配は要らない・・・だが・・・俺は何を・・・?ここは?」
アイリーンを抱えたままハルクは上半身を起こすと少し頭がズキリと疼いた。
「いけません、ハルク様。急に起き上がっては」
痛みに少し顔を歪めるハルクにアイリーンはポケットから取り出したハンカチで額の血をそっと拭う。
そんなアイリーンにハルクは自分の上着を素早く脱ぐとその上着でアイリーンをそっと包みこみその腕の中に更に抱き込んだ。
「?」
そうされてはじめてアイリーンは自分が白い絹のネグリジェ姿でそれも素足だと気付いた。
「あ・・・嫌ですわ、恥ずかしい・・・ハルク様、私、どうしてこんな姿で外に・・・」
「俺もそうだがアイリーンもどうしてこんな状態だかわかってないみたいだな?それに・・・酒でも飲まされたのか?アイリーン。大丈夫なのか?気分はどうだ?頭とかはガンガンしないか?」
もう一度ハルクはアイリーンの顎に手を掛け顔をマジマジと覗き込んだ。
「うーん、やっぱり顔が真っ赤じゃないか?・・・熱もあるんじゃはないか?ん?アイリーン」
すっかり酔いが醒めたアイリーンだったが真剣なハルクのドアップと心配してか、背中をさするハルクの大きな熱い手にその顔がますます真っ赤になっていく。
「い、いえ、ハルク様、・・あ、大丈夫です、大丈夫。ハルク様こそ、また血が」
「また様が付いてるぞ?アイリーン。それに二人の時は一馬だろう?」
「あ・・・はい。一馬」
「ん。アイリーン」
「って、いつまでやってるの?二人共?」
そんな二人を腰に手を当てたアレンが見下ろしていた。
「!、アレン?いつからそこに」
「!、アレン様!?」
急いでアイリーンがハルクから離れ、ハルクの横で正座をする。
だがまだそのアイリーンの顔は真っ赤だ。
「さっきからいたが・・・?ああ、二人共、自分の名前、言ってみろよ?」
「さっきからって・・・なら早く声、かけろよ。それに名前だって?ハルク・ワズナーだが?今更なんだ?アレン」
「アイリーン、アイリーン・ダグラスですわ。アレン・サンダー様?」
「そう。そうだよな?今更な?ったく!!忘れてたのはお前だよ、ハルク!この、馬鹿が!」
そう言ってアレンはハルクの額に手をかざすと笑いながら思いっきり弾いた。
「って!何するんだ!アレン」
「あ!ハルク様ッ!大丈夫ですか!?アレン様、酷いわッ!」
ハルクの額をアイリーンが急いで撫でる。
「大丈夫だ、アイリーン。こいつの頭は石頭以上のダイヤモンドヘッドだからビクともしないよ。言っとくが俺の方がこいつの頭突きで死にかけたんだからな?」
「頭突き?死にかけただって?アレンが?」
ハルクがアレンの言葉にキョトンとした。
「おーい、大丈夫そうか?」
ソロモン王の声が聞こえた。
「!、ソロモン王の声?!アレン!」
「大丈夫だ、ハルク。いいから。これから何があっても俺を信じてそこにアイリーンと座ってジッとしているんだぞ?いいな?ハルク」
そう言ってアレンがハルクの両肩を上からムンずと押さえつけると真剣な眼差しでハルクの顔を覗き込んだ。
「いいな?ハルク?俺を信じろ」
「あ、ああ。そんな事は当たり前だが?アレン」
ハルクも真剣な眼差しで頷き返す。
「アイリーンも。大丈夫。心配はいらない。俺を信じるハルクを信じろ。いいな?」
アレンがその真剣な眼差しを今度は横に座るアイリーンに向けるとアイリーンもハルクの手を掴んで頷いた。
それを確認したアレンがソロモンに向かい叫び返す。
「ああ!!大丈夫だ!いつもの、もとのハルクだ!ソロモン!ヤガー!」
「ヤガー?誰の事だ?それにもとの俺って・・・?」
アレンの言葉に首を傾げながらアレンが叫び返した方角にハルクとアイリーンは目を凝らす。
すると暗闇の中から金と銀の光がゆっくりと近づいてきた。
「「?・・・」」
暗闇から姿を現したそれは巨大な双眸をもつ四つ足の黒い獣で、その上には黄金に輝くソロモンが跨り、更にそのソロモンの腕の中には目を閉じたシルフィーヌが抱き抱えらえていた。
「亮!」
「亮様!」
ハルクとアイリーンの口からその名が呼ばれた。
台風10号とっても不安です。
去年の21号が凄く怖かったので。
皆さんも出来るだけ安全な場所で無事に過ごされますように。
今日もお読み頂きありがとうございました!




