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アスラ7の件

今日もよろしくお願いします!


「!」


いきなり背後から肩を叩かれたティッカは飛び上がった。

今、ドアをそっと締めて出て来たのはアイリーンの部屋だ。


ここは帝国が誇る豪華で壮大な宮殿の更に奥宮にあり昼間でも美しい庭園に囲まれた静かな皇族のプライベート区域(ゾーン)の一角でとっくに日付が変わった今の時間は人っ子一人いないだだっ広い暗い廊下が目の前に佇んでいるだけなのだ。


そんな場所で私は肩を叩かれている・・・まさか・・・ね?


恐る恐る振り返る。

と!髪を揺らした赤髪女がロウソクの炎に浮かびあった!

「ㇶィ・・!」

悲鳴を上げそうになって急いで口を抑える。

するとその女は手に持ったロウソク立てを更に自分の顔に近づけ覗き込んだ。

「!!!」

「ちょっとぉ?何で灯りも持ってないのよ?」

「な、なんだ!なんだ!・・・サロメ姫さんか・・・」

「迷ってないか迎えに来てあげたのに何よ?その幽霊を見たような顔は」

「いや・・・ぁ、綺麗だから迫力あるぅ、ほんと、心臓止まるかと思った。姫さんこそこんな夜中に侍女も着けず一人で出歩いちゃダメだろ?」

「大丈夫。ここは何重にも警護されてるから。それに私は宮中のどの衛兵より強いから心配しなくていいわ。それよりどうなのよ?お姉様の様子」

「ああ。気付け薬を進めると案外素直に飲んでくれたからね?それでハルク様の話を聞いていたら眠ってしまったよ。フフッ、本当にハルク様一番なんだね?姉姫さんは」

「そう・・・おやすみになられたのならいいのよ・・・」

そう言ってサロメは(きびす)を返す。

その横にティッカも急いで並ぶと二人は長い廊下を歩き出した。


「あの・・・やっぱり心配だよね?姫さんも」


「・・・私は小さな頃からこの帝国を守ってくれる英雄(ヒーロー)はハルクだってずっと信じて来たから・・・でもお姉様は・・・今のお姉様にとってハルクはそんな英雄(ヒーロー)の前に、大事な大事な旦那様じゃない?まして今回は伝説上最強の王だって言うから心配するなって言う方が無理よね?」

「そうだね」

「ああ、ティッカ。私はティッカがケチャから夢で告げられた通りにハルクの光が強くなってるって言葉、信じているわよ?」

「うん、ありがとうね?姫さん。ケチャの事、私の事、信じてくれて。本当に。本当にそうやってみんながお互いの事を信じて自分に出来る事を一生懸命する事が一番大事なんだよ。そしてそれが本来以上のもっと凄い結果を導くんだよ、きっとね?」

「だったらいいわね」

「うん。信じようよ、ハルク様の事、救出に向かったみんなの事」

「ええ。シルフィーヌの無事もね」

二人はお互いの瞳を見ながら頷き合う。

「ああ、それでケチャは?」

「姉姫さんに着いてるってさ」

「そうなんだ・・・なんだ・・・ところでティッカ?さっきから持ってるそれが気付け薬なの?」


先程から歩く二人に合わせてチャポチャポとティッカの右手に握られているビンから音がする。


「そう。姫さんも眠れないないならこれからいっぱいやる?」

「ええ?眠り薬なんて私には必要ないわ」

「眠り薬?いやいや、これだよ、これ」

ティッカはそのビンをサロメによく見えるようにロウソクの灯り近くに寄せる。

「え?これって・・・!」

「そう!タマリ国最強ウオッカ!眠れない夜とか憂さ晴らしには最高!身体があったまって、頭までハイになって、それで気が付いたら朝だよね!」

「最強ウオッカですって?本当にお姉様にそれ、飲ませたの・・・?って大変!お姉様、お酒に弱いのよ!」

「うん?大丈夫だったよ。確かに凄く真っ赤な顔で酔っ払っちゃってハルク様の話を楽しそうにし出したと思ったらケチャ抱き締めて寝ちゃったから。あれは朝まで起きないねー。それより帝国のお酒とどっちが強いか飲み比べようよ?」

「酔っ払って寝ちゃった・・・?あの、お姉様が・・・?そう・・?まあ?お姉様、お酒、弱いけど基本先に寝ちゃうから・・まあ、今回も大丈夫そうよね・・・たぶん」

「そう!ケチャもいるし。大丈夫、大丈夫。ああ!帝国のブランデーで凄くキツイのあるんだろう?どっちが強いかな?それに姉姫さんがのろけたハルク様の話、聞きたくない?」

「え・・・あ、おいしいコニャックが確かあったはず」

「いいね!いいね!じゃ、つまみは姉姫さんのハルク様好き好き話で!!」

「べ、別に、ハルクとの仲がその、どこまで行ってるかなんてその、別に聞きたいわけじゃないけど」

「いいからいいから」


こうしてサロメの部屋で酒豪女二人の酒盛り大会が朝まで続くのだった。






「ル・・・ルカ・・・!」

怒りで真っ黒に膨れあがっていくハルクの覇気の凄さに右腕に抱えられたレクサスが蒼白になり声を絞り出す。

その覇気は濃さを増すごとにウネウネとくねりながらハルクの周りでアメーバーのように(うごめ)く。


「レクサス!アレン、シルフィーヌを頼む!」

素早く立ち上がったルカがハルク目掛け、腰の剣を引き抜こうとして剣がない事に気づく。



「俺のミトラを返せッ!!」


ザワッ!!


ハルクが叫んだのとそう音を立てた黒い触手のような覇気がシルフィーヌを抱き上げたソロモンに襲い掛かったのは同時だ。

咄嗟にルカが先程ソロモンが床に落とした剣を見つけると素早く構えた。

だがそのルカの腕にもハルクが吐き出した覇気の触手が一瞬でまとわりつくと剣と一緒にルカを跳ね飛ばす。


「ルカッ!」


そのルカを受け止めようと手を伸ばしたアレンの体にもハルクの触手は伸び、巻き着くと宙に持ち上げアッと言う間にハルクの左腕の中にアレンを落とした。

「!!」

ハルクの腕がしっかりと自分を捕らえた。

しかしアレンは必死でその腕を引き剥がしにかかる。

「放せ!ハルクッ!放せよ!」

そう怒鳴りながらアレンは目の前のハルクに視線を向けて驚く。

いつの間にか青い顔のシルフィーヌが自分と同じくしっかりと反対側のハルクの右腕の中に抱えられていたのだ。


「な!」


急いでアレンはその腕に抱えられていたはずのレクサスを探す。

そして、シルフィーヌを抱えていたはずのソロモンも。

だがハルクの周りの漆黒の闇がより濃く広がって見えない。

焦りながらキョロキョロと周りを見渡すアレン。


そんなアレンの横でハルクが腕の中に取り戻した弟の額に口づける。

しかし目をきつくつむったシルフィーヌの手はだらりと下がったままだ。


「クゥッ・・・ミトラッ・・・」



「ヴァルナァァァ!」


アレンは背後に聞こえたその叫びに振り向くと同時に頭上の暗闇から眩い光を放ちソロモン王が降って来た。

両手で剣を振りかざすその姿は間違いなくハルクを真っ二つに叩き切る気だ。

 

「!ハルクッ!」

思わずアレンはハルクとシルフィーヌに覆い被さった。



しかしアレンの体に衝撃は来ず、代わりに頭上でそう叫んだソロモン王の怒声が響く。

「おのれぇぇ!ヴァルナァ!」

「!?」

顔を上げたアレンの目に映ったのは空中で四方八方から伸びた大小いくつものバルナの触手に身体をがんじがらめにされて身動きが取れないソロモン王だ。


「アレン」

しかしハルクはそんなソロモン王に構いもせず、アレンに声をかける。

いつの間にかハルクの腕からアレンの体は解き放たれていて自分がハルクの首に手を回し抱きついていたことに気付き急いで離れる。

だが、ハルクはそんなアレンにも眼を向けずひたすら腕の中のシルフィーヌの顔を見つめたままだ。


「アレン・・・教えてくれ」

「あ、ああ、ハルク、なんだ?」

「どうしてこいつ、起きないんだ?」

「あ!ああ、そうだった!!シルフィーヌ!!」

急いでアレンもシルフィーヌの頬に触れる。

だが、その頬は本当に冷たい。

「シルフィーヌ?・・・おい!シルフィーヌ!、お前、また?また仮死状態なのかよッ?!」

「また・・・?また、仮死状態だって?」


「ヴァルナ!!リョウ君を、ミトラを助けたいだろう!!」

頭上のソロモン王が苦し気にそう叫ぶ。


そんなソロモン王をハルクは睨み上げる。

その顔は高い鼻にしわを寄せ、白い犬歯をむき出し、真っ黒な瞳から赤い輝きを(ほとぼ)らせ、まるで獣のような形相だ。

アレンはこんなハルクの姿を見たのは初めてで軽い衝撃を受ける。


ソロモンとハルクの視線が火花を散らす。


「や、止めろ!止めろよッ、ハルクッ!今揉めてる場合じゃない。シルフィーヌの命の方が優先だろう?!なぁ!?ハルク」

アレンがハルクの肩を掴むとその一触即発の空気を止めに掛かる。


「フッ、ヴァルナ!今、ここ、サンタマリスの奇跡がもう間もなく発動する。君もこの力を利用してミトラ君を助けたいだろう?」

「サンタマリスの奇跡だと・・・?」

「ああ。もうすぐ奴が導かれると、始まる。君はミトラ君を助けたいだろう?じゃあ、僕を降ろすんだな?」






目を覚ましたケチャは部屋の天井の一角が揺らいでいる事に気付きその金と銀の碧眼を凝らす。


(お呼びか)


そしてアイリーンの両腕の間から抜け出そうとしてまた、ギュッと抱きつかれる。


するとケチャは自分を抱いて丸まった状態で寝むってしまったアイリーンの顔が目の前にあるのをいい事にその赤い頬に顔を摺り寄せた。


「ダメ・・・一馬・・・」


ひげがこそばゆかったのかアイリーンは目をつむったままそう言うとクスクス笑いながら腕を緩め自分の顔を撫でた。


(やれやれ・・・誰がカズマだ?)


アイリーンの腕から解放されたケチャは一度全身で伸びをするとさらに強くなる天井の揺らぎに黑いしなやかな身体を向き合わせた。


するとその揺らぎははっきりとした眩い光に変わり、ケチャにスポットライトのように降り注ぐ。

するとケチャはその光に(くる)まれるようにふわりと身体が浮かぶと天井に向かってゆっくりと登っていく。


と、その時、突然ケチャの黒い尻尾に痛みが走る。


「!!!、ウニャッ!?」



「もぅッ、一馬ったらぁ・・捕まえたぁ~ウフッ」


赤い顔のアイリーンがベットに起き上がり笑いながらケチャの長い尻尾の先を引っ張っていた。



(は、放せッ!バカッ!)



するとアイリーンの部屋が光に包まれた。

辺りには眩しい光が漏れ出たがほんの一瞬でもとに静まり返った。

だが、その後のアイリーンのベットの中はもぬけの殻だった。





酔っ払いアイリーンとケチャコンビ、

さてさて、うまく働いてくれるかな?


今日も長文最後までお読みいただきありがとうございました!

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