アスラ6の件
今日もよろしくお願いします!
「「お前ッ!!」」
シルフィーヌとハルクはそう叫ぶと一瞬で離れ、同時に後ろに大きく飛び退いた。
固まったレオリオとバルトの背後から姿を現したのはソロモン王だ。
その顔は黒髪に黒い瞳なのに肌が白いせいか暗闇の中でもハッキリと浮かんで見える。
「リョウ君がこの二人の印を焼いてしまっただって?」
紅を指したような艶めかしい唇がその言葉を発し二人の方にゆっくりと歩いて来る。
「リョウクン・・・?って誰だ?また俺の事か?」
質問した声色とまったく同じ声色がそう返す。
「!?またミトラとヴァルナに戻ったのか?!リョウ君!ハルクもッ!」
ソロモンの歩みが急に止まるとそれに答えるように暗闇に紛れているシルフィーヌとハルクの黒い瞳がクリクリと動いた。
「ッ・・・!もう、もとのアスラに戻っただとッ!・・・・・・ならば、ならば仕方がないことッ!」
苦虫を潰したような表情でソロモンはそう呟くと腰から下げた剣をゆっくり引き抜きその黒い瞳を黄金に輝かせた。
同時にソロモンの周りにある空気がズンッ!と音を立てて揺らぐと身体から黄金の光が溢れ出した。
「オオッ!兄じゃ、やっぱり凄い、凄いぞ!あいつ!」
「ああ、こいつは喰い甲斐がありそうだぞッ!ミトラッ!」
バサリッ!!
ハルクの背後で音がすると黒い翼がハルクの双方に大きく広がる。
バサリッ!!
その横でまた羽音が響くとシルフィーヌの背中からも白く輝く大きな翼が広がっていた。
「ッウ・・・?!アイシスッ!」
そのシルフィーヌの姿にソロモンが唸るとその表情はとても苦し気に歪む。
「今度はアイシスだって?その名も知らんな?」
腕組みをしたシルフィーヌが音も立てず空中に浮かび上がると滑るように移動してソロモンの頭上近くまで来る。
「空はこの俺、ミトラ様の領域」
笑っているように口元を歪めソロモンを見下ろすミトラの瞳はグチャグチャに塗りつぶされた黒なのにソロモンと同じく黄金の輝きを放っている。
「そして海は俺のヴァルナの領域よ。だが闇があれば俺達アスラ属はどこにでも存在出来る。闇は我々の体の一部よ。ククッ」
真っ直ぐソロモン目掛け歩いて来たハルクもそう言って口元を歪ませると目の前で煙のように闇に溶け込んで行く。
「クッ・・・!!」
目前から姿も気配すらかき消したハルクを追う事を諦め、ソロモンは頭上に佇むミトラを睨み上げる。
その視線にミトラの口元は更に歪む。
「お前はもう俺らからは逃れられない。さあ?どうする、黒髪のディーヴァ?大人しく名前教えろや?今なら苦痛ではなく快楽を味あわせたままこの世界から解き放ってやるぞ?ククッ」
その表情はこれからソロモンをどう料理しようかと考え歓喜しているようだ。
「リョウ君。今、僕を喰ってしまうとこの二人も道連れだぞ?君はそれでいいのか?ハルクもそれで!」
振り返り様、剣を突き刺すように闇に切り込んだソロモンのその両腕を闇から伸びて来た手が掴む。
「!!」
「ククッ・・・俺は構わんがな?黒髪のディーヴァ」
するとソロモンの目の前の闇からニュっ!と黒目のハルクの顔がそう言って現れた。
剣を握るソロモンの腕をハルクの握力が容赦なくギリギリと締め上げて行く。
「ッう!・・・!リョウ君!君は本当にそれでいいのかッ!この、レオリオ王子とバルトの命は僕が握ってるのだぞッ!」
「ミトラ」
急に自分を押え込んでいた黒目のハルクが空中に浮かぶ弟に声をかけた。
「なんだ?兄じゃ?」
「お前、こいつ喰らっちまうとこいつの言う通りあいつらの肉体もお陀仏かも。いいんだよな?お前、顔見て泣いてただろう?」
意外な兄の言葉にミトラは固まっている二人を見下ろすと黒い瞳をクリクリさせる。
「ハァ?泣いてた?俺が?冗談、ヴァルナ。こんな顔は知らんし。それにこいつらもアスラ属だから肉体は知らんが魂は滅びることはないし。そんな事で時間稼ぐな黒髪のディーヴァ。早く名前言えよ?言わないなら俺がその首を引き抜いて、直接魂に聞いてやろうか?」
「聞け!リョウ!あの二人は君の最愛のレオリオ王子とバルトだ!二人は今の君、シルフィーヌの許嫁だ!それすら忘れてしまったのか!?君は!」
ミトラの言葉に被せるようにソロモンが叫んだ。
「・・・レオリオ王子?んー?バルト・・・?許嫁?あの二人が俺の許嫁?・・・よせよ、俺は兄じゃと違って可愛がるなら女の子がいい」
「シルフィーヌッ!!シルフィーヌッ!!二人は君の祖国、オールウエイ国の王子、レオリオと君の大事な親友のバルトだッ!!シルフィーヌッ!!」
また違う声が固まった二人の背後の暗闇から聞こえて来た。
なぜかその声にミトラの力が抜ける感覚に襲われる。
「?」
不思議に思いその方向にミトラが目を凝らすと一人の小さな人影が白い円柱の間をこちらに向かって走って来た。
その人物は栗色の柔らかそうな肩までの髪を揺らし、琥珀の大きな瞳を輝かせて必死に駆けて来た。
「オッ・・・!かわいい・・・」
「ハルクッ!止めて!」
いきなり大きな声で怒鳴ってハルクの手を掴んだのはレクサスだ。
綺麗な琥珀色の瞳でキッ!とハルクの黒い瞳を睨むとハルクの手をソロモンの腕から引き剥がしにかかる。
「おや?・・・子供だな?こいつは」
「ああ、とってもかわいいディーヴァだ。女の子だよ、兄じゃ」
頭上でそう言ったシルフィーヌをすかさずレクサスは睨み上げると顔を真っ赤にして怒鳴った。
「シルフィーヌッ!何言ってんだよッ!!僕は男だろう!それに二人共何やってるんだよッ!ハルクもッ!早く!この人から手を放してよッ!!」
「どうして出て来たッ!下がれッ!!」
そんなレクサスに今度はソロモンが怒鳴る。
「王!僕だって!みんなを助けたいんですッ!!」
「?」
またシルフィーヌと呼ばれ軽い脱力を感じ、首を捻るミトラ。
ミトラはそんなレクサスを見つめ直し、首を捻り切ると元に戻してため息をついた。
「なんだ・・・男か。つまらん。可愛いのになぁ・・・残念だなぁ?本当に男ってか・・・?」
そんなシルフィーヌのつぶやきにレクサスは更に顔を赤らめるとヒステリックに叫ぶ。
「まだ!言ってるの!シルフィーヌッ!」
「オッ、耳いいな?それにシルフィーヌって呼ぶなよ?また調子狂うだろうが?」
「シルフィーヌッ!シルフィーヌッ!シルフィーヌッ!」
「ああ!!うるさい、うるさい!!黙れよ、チビッ!兄じゃ、手、放してやれ!!」
「ああ」
「うわぁッ!!」
「!!」
突然、ハルクに腕を放されたソロモンとレクサスが弾みで尻もちをついた。
「ああ、大丈夫か?」
そんなレクサスをハルクがそう言って摘まみ上げると片腕に抱き上げた。
「「!!」」
「黒髪のディーヴァ、お前は動くなよ?じゃないとこの首、もいじゃうぞ?」
同時に床に転がったソロモンの首には背後からシルフィーヌの腕が回っていたのだ。
「止めろ!ハルク!その子には手を出すな!」
それでもソロモンは捕まったレクサスを助けようと叫ぶ。
「うるさい、黒髪のディーヴァ。俺達は子供は喰わない」
ハルクがめんどくさそうにそう返す。
「「え!?」」
無理矢理大理石の床にうつ伏せにネジ抑えられたソロモンとハルクの腕に抱えられ、今度は顔を青くしたレクサスが同時に声を上げる。
「子供は喰わない。解放だ。当たり前だろう?」
さらにソロモンの首に手を掛け力で押さえつけるシルフィーヌもそう答えた。
「それに子供の願いは叶えてやるものだ」
更にそうも付け加えた。
「え?子供・・・僕、子供?」
「子供だろう?どう見ても?」
黒い瞳のハルクの顔を間近に見て更に青い顔になるレクサスがそう呟くと当然、と言うようにハルクが頷き頭を撫でた。
「いや!ハルク!いやっ!シルフィーヌ!僕は、僕は君の!シルフィーヌの大事なルカの!シルフィーヌの大事な兄上の許嫁なんだから!だから、シルフィーヌが僕の妹なんだからッ!」
「だからッ!名前呼ぶな!それにルカのだって?お兄様のって・・・あ・・・れッ?兄じゃ?ルカとアレンって言ったディーヴァ、どうした?」
「そこの床に・・・ん・・・?どこだ・・・?」
ハルクが周りの闇をキョロキョロと見渡す。
「シルフィーヌ」
いきなりミトラの耳元で名前が呼ばれる。
「!!」
するとミトラの両足の力が急に抜け、ガックリと膝を着ける。
「!!なッ、何だッ!!」
そして背後から押しつぶされるように広げた翼が両サイドから抑え込まれる。
それを合図に力の抜けたシルフィーヌの手からソロモンが素早くすり抜けると今度はシルフィーヌの首を逆に抑え込む。
「クソッ!何だッ!」
ミトラは自分の翼を羽ばたかせようとするが持ち上がらない。
「クソッ!重いッ!クソッ!!」
「ルカッ!!アレンッ!!」
レクサスが声を上げた。
シルフィーヌの両翼に体重をかけ抑え込んだのはいつの間にか忍び寄っていたルカとアレンだった。
「クソッ!!放せえェぇぇッ!!乗るなッ!」
「シルフィーヌ、お兄様だ、シルフィーヌ。いい子だから、大人しくしてくれ、傷つけたくない」
「シルフィーヌ、アレンだ。安心しろ、すぐに戻してやるからな?俺がお前もハルクも!だから、大人しくしろよ、シルフィーヌ」
「クソッ!クソッ!!クソッ!!乗るなーッ!!止めろーッ!!」
「「「シルフィーヌ!!」」」
「!」
ルカ、レクサス、アレンが大声でその名を叫ぶとシルフィーヌの背中の白い翼が一瞬で消えた。
そしていくつもの白い羽根が空を舞うその中でシルフィーヌが大理石の床に顔をうつ伏せていた。
抑え込んでいた翼が急に消えたことでアレンとルカはシルフィーヌと同じ、冷たい大理石の床に放り出されたが急いでそんなシルフィーヌに手を伸ばす。
「「シルフィーヌ!シルフィーヌ!どうしたんだ!?しっかりしろ!」」
「リョウ君、リョウ君、しっかりしろ!」
ソロモンがそんなシルフィーヌを急いで抱き起す。
が、シルフィーヌはソロモンの腕の中で青い顔できつく目を閉じてぴくりとも動かない。
「貴様らァアアアアアアアアアアアッ!!」
地の底から湧き上がってくるようなハルクの声が神殿中に響き渡る。
そしてその声を発したハルクの姿はレクサスを右手で抱きかかえたまま、闇より黒い漆黒の煙を怒涛の如く体から吹き出していた。
さてさて、怒ってしまったヴァルナを宥められるのは・・・?
レオリオとバルトは役に立たないしな。
今日もお読みいただきありがとうございました!




