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アスラ5の件

今日もよろしくお願いいたします!

「ああ、ここは・・・懐かしいな?ミトラ」


ヴァルナと化したハルクとミトラと化したシルフィーヌが神殿の入口に続く広い階段をゆっくりと上がる。

二人の目の前に迫る神殿はいくつもの高い大理石の円柱が建物の周りをぐるりと取り囲む美しい長方形型の巨大な建物だ。

肩に眠ったアレンを担ぎながらその大理石のなめらかな表面を手で撫でるとヴァルナは口元を歪ませる。

同じように気を失ったルカを肩に担ぎ上げたミトラも月光に白く浮かび上がる神殿を見上げる。

そしてルカの頬を撫でるとヴァルナのように口元を歪ませた。


「母じゃの宮殿だよな・・・?それもマリス島のだ。まさか本当にこいつが言ったとおり母じゃに逢えるのかな?兄じゃ」

そんな嬉しそうなミトラを見下ろしヴァルナはそのルカをミトラの肩から取り上げると自分の肩に担ぐ。

「貸せ。俺が連れて行く。お前、まだ力が上手く出せてないだろう?サッサとこいつを喰えばいいものを」

「だからぁ!そいつは喰わないの!それにそいつが俺を〝シルフィーヌ”って呼ぶから調子狂っただけだよ・・・そいつがそう呼ばなければ問題ないんだ」

ミトラが少し頬をふくらませて視線をそらすとヴァルナはそんなミトラの頭をポンポンと叩く。

「わかった。わかった。とにかく俺といればお前も昔の感覚を取り戻すだろうさ」

「兄じゃ!俺をいつまでも子供扱いするなよ!ったく!・・・ああ、兄じゃもそいつ、気に入ってるんだろう?なら、連れて帰るんだよな?じゃあ、そいつら一先ずここにかくまうか?確か・・・奥宮に隠し部屋があったはず」

そう言ってミトラが目の前の大理石の壁を片手で押すと高い軋み音を響かせ左右に割れる。

そうして開けられた入口から中を覗くと窓もないのか奥には静かな闇が(たたず)むだけだ。

わずかにミトラが立つ背後から差し込む月明かりで高い高い天井と冷たい大理石の床が見える。

その床の左右には一定の間隔をあけ、いくつもの白い柱が天井から垂れ下がるようにズラリと並び、ぼんやりと浮かび上がる姿は行き先を案内しているようだ。

ミトラがその闇に滑り込むように建物の中に足を踏み入れる。

なかの冷たい空気にも臆することなくミトラは真っ直ぐ歩いて進むとヴァルナもその後ろに続く。

長くて暗い回廊のような柱の間を見えているかのように二人は軽い足取りで進んで行く。


すると突然、前を歩いていたミトラの足が止まる。


ヴァルナも足を止める。


「兄じゃ・・・」


「ああ」


二人の行く先に忽然と現れたのは剣を構えこちらを向いている二つの人影だ。

その様子に二人は首を捻る。


「兄じゃがさっき見たアスラだよな・・・・?」

「ああ、そうだ。しかし・・・気配がしないな?」

「そうだな?気配がと言うか動いていない・・・?」


ミトラがそう言ってゆっくりと二人に近づくがまったく反応しない。

不思議に思いミトラはさらに近づくと動かない二人に思いきって手をかざす。

そしてその顔を軽く叩いてみた。


「!、兄じゃ!兄じゃ!こいつら息してない!それなのに温かい!どういうことだ?・・・止まってるけど生きてるみたい?」

「温かい・・・?固まってはないのか?」

「いいや?柔らかいよ・・・うーん?ここだけが止まってるようだな?」

「時間が止まってるだって・・・?まさか。ああ、やっぱりこいつらはディーヴァと一緒にいたアスラだ。だが、やっぱり知らん面だな」

「こいつらも俺達みたいに身体が変わってるのだろう。なら直接、魂に触れてみるしかないか・・・?しっかし、時間を止めるだって?それもここだけだって?うーん?術・・・術?術なのか、これ?こいつらだけ止められてんだよなぁ?そんな事、俺達には出来ないな?神である俺達にもだぞ?時間を止めて、俺達を瞬時にコスモス畑ごと飛ばしたんだよなぁ?この地にさ。こんな事が出来るさっきのディーヴァって・・・厄介だな、兄じゃ?」

「ああ・・・厄介だな。一息に喰っとけばよかった」

「あ・・れ?こいつ・・・?こいつ・・・?」

動かないアスラの片方、赤毛の三つ編みの男の両頬をつついていたミトラがその顔をまじまじ見て首をひねる。


「・・・どうした?ミトラ」


「こいつ・・・・・誰だっけ?誰だったっけ?なぁ?・・・」

そうしてもう一人、その横で同じく動かない白金(プラチナブロンド)の髪のアスラの顔を急いで覗き込む。


「ん?んん?・・・・・あ、れ、?こいつ・・・」


「ミトラ?知ってるのか?こいつら」


背後からそう尋ねるヴァルナの声が聞こえないのかミトラはずっと白金(プラチナブロンド)の髪のアスラの顔を覗き込んでいる。


「おい、ミトラ」

突っ立って動かないミトラの肩をヴァルナが後ろから軽く叩く。

が、いっこうに返事が返って来ない。


「おいおい?お前まで固まるな、ミトラッ!」


そのヴァルナの声にもミトラの身体は反応しないし振り返りもしない。


「おいッ!?聞こえてるかッ!?」

今度は肩を掴み大きな声でリアクションも大きくヴァルナはミトラの身体を揺さぶる。

すると

「・・・ハァル・・クゥ?」

そう、ミトラは声を発したがまだ振り返らない。


「・・・なんだよ?・・・お前までハルクって?俺はヴァルナだろうが?それにその声、女の声だぞ?」


「かず・・まぁ・・・?」


「おいおい、・・・声はミトラに戻ったがお前、なにを言ってるんだ?」


ミトラが、ようやく振り返った。

振り返ったが、瞳が黄金に輝いている。


「お前・・・?ミトラだよ・・な?」


いきなりそう言ったヴァルナの胸元をミトラは引き寄せると力任せに大きく揺さぶりながら絶叫した。


「一馬!一馬!一馬!どうしよう!どうしよう!どうしよう!俺!どうしようッ!?」


「な、なんだ!?なんだ!?いきなり!?」

あまりの激しい揺さぶりにヴァルナの肩に担いでいたアレンとルカが床に滑り落ちる。


「レオが死んじゃう!バルトが死んじゃう!このままじゃ死んじゃう!死んじゃうよッ!俺、どうすればいいッ!?一馬!!」

そう言って自分を見上げるミトラの瞳から黄金に輝く大粒の涙がボロボロと流れ落ちている。

「なっ、お前!落ち着け!とにかく落ち着け!」

「一馬!!教えて!一馬ッ!」

「おいッ!!止めろって!揺さぶるなっ!ミトラァッ!」

「どうしたらッ!?一馬!俺どうしたらいいッ!?・・・俺のせいだ!俺のせいなんだ!俺のせいで・・・俺のせいで、レオが、バルトが・・・一馬!!わあぁあぁぁぁぁぁッ!!」

そしてヴァルナの胸元を突然離すと今度は胸にしがみつき

ヴァルナの背中にしっかりと腕を回してミトラが号泣しだした。


これにはヴァルナも訳が分からず、仕方なしにそんなミトラの頭と背中を撫で、落ち着かせようとする。


「・・・ったく・・・?カズマって・・・?また、俺の事か・・・?なんなんだ?いったい?」


「か、かぁず・・ウッ、まッ!」

「・・・・・・」

「かぁずまっ!」

「ああ、ああ、なんだよ?どうしてお前は急に泣きだすんだよ?それにカズマってなんなんだよ?ん?」

「かぁずまぁ!かずまっ!」

「ああ、ああ、仕方ない・・・カズマでいいから。お前はなんで泣いてんだ?こいつらが止まってるのはお前のせいじゃないだろうが?」

「ち、違う。お、れの、俺のせい!俺、サンタ、サンタクラークで、ウッ・・・しくじった・・・しくじったんだ・・・!!」


そう言って胸から顔を上げたミトラの顔は泣きじゃくってぐちゃぐちゃで黄金の輝きも弱まり、瞳の色も青くなってきている。

同時にしがみつくミトラの腕の力も弱くなってきているのを感じヴァルナは腕の中にしっかりとその体を抱えなおした。

そして背中をあやすように撫でながら、

「サンタクラークだって?しくじった?サンタクラークに行ったのか?お前?」

ミトラを見つめて尋ねる。


「い、行った、じゃん!一馬、一緒に!行って俺達は彗星を破壊したよ?」

「破壊だって・・・?スイセイ・・・?」


一瞬、ヴァルナの頭の中に巨大な火の玉がよぎった。


「流れ星!!隕石の落下!奇跡の力だよ、サンタクラークの!」


また、大きな燃え盛る火の玉が空からも足元からも迫りくる映像が頭の中をちらつく。


「いん・・・せき・・?隕石・・・?落ちて来た?空から・・・?オレンジ色の玉・・・?」


突然、ヴァルナの中で凄い音を立てて熱くて苦しい巨大なオレンジが弾けた。


「そう!巨大なオレンジ色!・・・一馬、一馬、俺、うまくやったと思った。あの時・・・あの時、確かに俺はこの体に、シルフィーヌの『勾玉巴』に全てを取り入れた。けど、けど、それは苦しくて・・・熱くて・・・息が出来なくなって・・・俺・・・あの時、俺・・・レオに、バルトに・・・俺!、俺!」


シルフィーヌの両手がギュッとハルクの服を握りしめるとその感触に反応して勝手にヴァルナの口が動き出す。


「落ち着け・・・あれは・・・あの時は・・・そうだ、あの熱さは無理のない事だった。お前は、亮、よくやったんだ。俺達を助けた。俺達全部、みんなをあの灼熱の炎から助け出したんだ。お前は、俺を、アレンを、ルカを、セルをケガをしたフリードをレクサスをトマをそして、紗理奈を助け出したんだ。それはすべて、お前とレオリオとバルトが力を合わせてくれたから皆助かったんだよ、亮。亮、お前はよくやったんだ。よくやった亮」


そして腕の中の愛しい弟であるぬくもりを、生きてここにいるこのぬくもりを確かめるようにしっかりと一馬は亮を抱きしめた。

しかし、腕の中の亮は一馬のハルクである赤い瞳をシルフィーヌの青い瞳で見つめ返すと首を振り、顔を歪め、言葉を吐く。


「違う、違うよ?一馬。俺はしくじったんだ・・・俺は自分だけなら良かったのに・・・自分だけなら!俺はあのとき熱さに、苦しさに、身体に雪崩れ込む膨張感に耐えきれずレオリオとバルトまで道連れにしたんだ・・・!二人の『印』を焼いてしまったんだよッ!」




「「なんだって?」」



そう返した一馬の声とリンクするように固まったレオリオとバルトの背後の暗闇から声が響いた。













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