奪回仕返の件
よろしくお願いします!
「か、一馬ッ?!アッ、アレン?!うわぁー!一馬ッ!!アレーンッ!!」
思わず俺は声を張り上げると右手を上げ、大きく振った。
ソロモンの背後の方から怒鳴り声が聞こえたので顔を上げると月明かりに照らされた3人の姿が目に入った。
そこにはヘイワーズと一緒にハルクとアレンの姿があったのだ。
来てくれた!
一馬が、アレンが、俺を迎えにッ!!
「シルフィーヌッ!シルフィーヌッ!」
アレンが俺の声に気づき名前を呼び手を振り返す。
俺は嬉しくて、もういてもたってもいられず駈け出そうとする。
「待って、シルフィーヌ」
今まで泣いていた腕の中のディーンが嘘のように引き締まった表情でそう言ってそんな俺をしっかり抱え直す。
「そうだ、待て、亮君」
俺を見下ろすソロモンも俺の肩に手を置くとそうやって俺を制した。
「お、お願い、二人とも。行かせて?話をしないとハルクとアレンが切り込んでくるわ。あの二人に話をさせて!」
ハルクが、アレンが、ここで剣を振り回せば誰かが倒れるまで決着がつかない。
そんなの、そんなの、俺は嫌だ・・・!
それによく見るとヘイワーズに一馬が詰め寄っている。
「お願い、二人とも!ヘイワーズが危ないわ!話してくる。そしてあなた達の事もちゃんと」
そう言って胸を押して腕の中から逃れようとする俺をディーンは無言で抱き上げると前世の俺の顔のソロモンと視線を合わせ頷く。
そして俺の瞳を見下ろしたディーンの口からその言葉が発せられた。
「その必要はない。僕は君を帰すつもりはない」
「えッ・・・?どういう事なの・・・?ディーン王子?どうしてッ!?私をオールウエイ国に帰してくれるのでしょう!?なら」
「オールウエイ国にはいずれ」
「ああ、いずれ。君のご両親に君がディーンの妃となってから挨拶に伺おう」
ディーンの言葉を前世の俺の声でソロモンがそう続けた。
それも俺の頭を撫でながら。
「ソロモン!?話が違うぞッ!!」
俺は思わず亮の声でソロモン王を怒鳴りつけていた。
「ああ、悪いな?亮君。僕も君が気に入ったんだ。このままずっと一緒なのは君もだよ?」
「なに言ってんだよッ?!違うだろ?!俺はアイシス様じゃない、あんたらに約束したのはアイシス様だろッ!?」
「君の中には僕の知らないアイシスの記憶があるみたいだ・・・なら、僕にとって君はダビデと同じで幸せにしなければならない人だ」
「シルフィーヌ、僕も君を僕の花嫁として大事にするから。そして絶対、幸せにする。さっき誓った事をこの満開のコスモスに、この新月にもう一度誓うよ。だから君も僕に永遠の誓いを。シルフィーヌ」
「ち、違う!違うよ、ソロモン!ディーンも!言っただろう?俺の、シルフィーヌの幸せは」
「りょーうッ!!」
ふいに一馬の興奮した大声が俺の名を呼んだ。
そちらに視線を向けると一馬の右手にはヘイワーズの胸倉が掴まれている。
「カズマーッ!一馬!俺は大丈夫だからッ!ヘイワーズを、ヘイワーズを傷つけないでくれーッ!!」
ソロモン王の視線も一馬に移る。
「放せッ!亮を放すんだッ!ソロモン王!こいつと引き換えだッ!!」
また興奮した一馬の声が辺りに木霊した。
「話は後だな。ディーン、しっかり花嫁を捕まえておけ。ヘイワーズを連れて来る」
そう言ったソロモンの瞳は月の光のように眩く輝いている。
そう、思った途端にソロモン王の姿がフッと、目の前から消えた。
なッ?
「なッ!?ソ、ソロモンッ!!」
今度は慌てた一馬の声が響いた。
そしてそこにはヘイワーズを一馬の腕から取り上げたソロモンがいた。
そのソロモンの前には地面にうつ伏せに倒れた一馬がいた。
えッ・・・?え、
「一馬ッ!?一馬!!カズマぁあああ!!」
俺は抱き上げているディーンの腕の中で暴れていた。
一馬のもとにどうにか駈け出そうとして。
しかしそんな俺を易々と抱え直したディーンが俺の耳元で囁く。
「落ち着いて、シルフィーヌ。兄上が術にはめただけだ、殺しはしない」
「ハルクに何をッ!!」
今度はそう怒鳴ったアレンがソロモンに斬りかかる。
が、アレンも剣を振り上げたままガクリとその場に止まったのだ。
「アレン・・・!う、うそッ!アレン!アレンッ!!」
二人のその様子に何もできない俺は叫ぶしかなかった。
「ッゥ!!アレンに何を!ソロモンッ!!」
背後を盗られた気配に振り向くハルクのその胸を強く押したのは瞬時に移動してきたソロモンだった。
何の抵抗も出来ず、いきなりハルクは地面に直立不動のスタイルでうつむけに倒れた自分が信じられない。咄嗟に首を捻り、顔の直撃を避けたハルクだが胸をまともに地面に打ち付け、軽い呻きが漏れた。
そのハルクの様子にアレンが叫びソロモンに斬りかかったのだろう。
前のめりで倒れた身体はピクリとも動かず、ハルクはアレンがどうなったかを確認できない。
どうにか動く頭を必死に持ち上げ、ハルクは叫んだ。
「人の心配をするより自分を心配したらどうだ?佐伯一馬。もうじきお前の時も完全に止まるぞ?ほら、ジワジワと首も動かなくなって来ただろう?僕としてはもう、このまま君の心臓の動きを永遠に止めてもいいと思ってるのだがねぇ?シルフィーヌの亮君が悲しむとディーンも困るしな?とりあえずは保留ってことで?ククッ。命拾いだ、お前もこいつもな。だがな?佐伯一馬。シルフィーヌは、亮君はこちらで貰い受ける。カルマの次期王、ダビデの妃としてな。そして皇帝カルロスに伝えるがいい。再びこの世界を治めるのはこのカルマだとな」
「なにを!!亮をか・・・ぇ」
完全にハルクの動きが止まった。
「ソロモン王・・・」
腕に抱き上げたヘイワーズが自分を硬い表情で見上げていることに気づきその場に下ろす。
「ああ、ヘイワーズ。怪我はなさそうだね?良かったよ?」
そう言って肩をぽんと叩くとソロモンは戸惑っているヘイワーズに微笑む。
「あ・・・は、はい、怪我はありません!い、いえ、自分のことなどはどうでもいいのです。しかし、今言ったお言葉、私も、この私も信じて着いて行ってもいいのですか?」
「ああ、もちろん。このソロモンとオリジナル亮君にお前はついて来るのだろう、ヘイワーズ?いや、大木拓哉だな?」
「え・・・?どうしてその名を!?それは前世の私の名前です、ソロモン王・・まさか、亮が・・・?」
「ああ。マスターコンピュータである僕の中心回路にはこのゲームの中での『キーワード』が出て来るとそれが何であるかと捕捉の情報が流れるんだ。オリジナル亮君がお前の前世の名前を僕に教えてくれた。するとその名前が『キーワード』として僕の中に現れたんだ。この『バウンダリー』の世界を造った田代優弥と同じくこの世界に必要な人物だと。大木拓哉もこの世界を具現化させた一人だと」
「この世界に必要な人物?具現化させただって?・・・いや、確かに映像としてソロモンをはじめとする新しいキャラを田代監督の注文通りデジタル化したのは私ですが・・・完全に完成させる前に私は・・」
「うん?このソロモンを造ったのは間違いなく君なんだろう?なら最後まで面倒を見て貰おうか?」
「えッ・・・?」
「最後までこの自分が降り立った世界を、このソロモンがこの世界からいなくなるまで一緒に眺めればいいさ?ああ?このソロモンを側で見守ると言うのがお前の本心と言うものなのだろう?」
そう言ってソロモンがクスクスと笑う。
その笑い方は自分がプログラミングした創作物なのに前世の亮そっくりに本当に楽しそうに笑うのだ。
「・・・・・・良いのですか?」
「良いも悪いも先の帝国との大戦で祖国を失ったお前がディーンに着いてこの国に初めて来た時にいきなり僕の前に来て『死ぬまでソロモン様のお側に』と言っただろう?『わざわざ助けて連れて来たのは僕なのにどうして兄上なんだ?』ってディーンが続けて言ったのを覚えているよ?フフッ」
「あ・・・そうでした。確かにそうです。祖国では王位継承権などほど遠い、名ばかりの末弟王子で誰にも必要とされなかった私には、あそこには・・・何もなかった。なんでそんな立場に転生したのか、まったく意味が解らず気がついた時には帝国との戦いを迎えてしまっていた。私の前世の知識も、私の『印』もあるだけでなんの役にも立たず祖国の皆は殺されて行った。私は、あの時本当に途方に暮れ、自分を殺せる相手を待ってる事しか出来なかった。そんな私を見つけたディーンが剣をむけたままお前の『印』はもう使命を終えたのかと聞いたんです。まだだったら、『印』があるからにはお前は誰かの役に立つんだ、だからお前のその『印』の意味を知るまで生かしてやるって、ディーンは私をあの戦場から、崩れていく城から連れ出してくれたんです。それなのに私は・・・貴方に、亮に逢えてあまりにも嬉しくて・・・ああ、そうだった。私はディーンに助けて貰ってばかりだ・・・」
「そうだな?お前は本当に僕ばかり・・・フフッ、まあ、いいさ。間接的にこれからディーンを僕と共に支えてくれ。ああ、他の奴らも来たようだ。行くぞ、ヘイワーズ」
「え?」
ヘイワーズが振り向くと4人の人影がこちらに向かって来ていた。
やっと令和初投稿出来ました!
しかし、明日は鯉のぼりなのに暑かったり、寒かったり、雹が降ったり。
皆さんも体調には気をつけて下さいね。
今日もありがとうございました!




