皇帝立つ!の件
今日もよろしくお願いします!
「!!・・・・い、いないッ?!」
振り下ろした剣が空を切ったことで前のめりになり慌てたルカが声を上げた。
「!!ど、どこだッ!」
同じく前のめりになって慌てて体勢を立て直したバルトも振り返る。
するとそこには床に転がるレオリオ王子とそれを介抱するレクサスと開け放たれたドアが目に入った。
「「お、王子ッ!?」」
「バルト、ルカ!良かった、思ったより早く戻ってきてくれたんだ!その調子だと王子ももうすぐ戻りそうだよ。本当に大丈夫だからね?止まってるだけだから王子も。頭とかも打ってないからね」
そんな二人を見上げたレクサスがレオリオの頭を確認しながらそう答えた。
「「止まってる・・・?」」
「うん。ほら、王子ももうすぐだよ」
そう言ったレクサスと同時に目の前でレオリオが握りしめていた剣がレクサスの頭上に振り下ろされた。
「させるかッ!ディーン!!」
「うわぁ!!」
「「レクサス!!」」
レクサスが叫んだのとルカがレクサスの腕を引き寄せたのとバルトが王子の腕を掴んだのが同時だった。
「!?レクサスかッ!?」
目の前のレクサスの顔にレオリオも急いで剣を止めた。
「??・・・!!ディーンはッ!?」
へたり込んでいるレクサスとそのレクサスを抱き寄せているルカと自分の腕を痛いくらい掴んでいるバルトが自分を見下ろしている事で自分が床に寝転がってるのだと気づきレオリオは驚いた。
「ディーンは3分前にここを飛び出していきました。今、ハルクとアレンが追ってます」
レクサスが答えた。
「なんだって・・・?3分だって・・・?3分も時間が経ってる?それに僕はいつこの状態に??」
「なんだ今のは?レクサス。王子はレクサスが見えてなかったのか?意識がなかった・・・?」
「さっきまでルカもバルトも同じ状態だった。息もしていなければ目も見開いたまま。微動だにしない。けど体温は下がらないし、身体も硬くならない。まるでみんな、時だけが止まったようだった」
「時が止まっていただって?私の?」
「そう。ルカの。だから身体に何か異常はない?目が乾いて痛いとか、頭が酸欠でボウッとするとか?バルトも王子も」
「「「いや?」」」
「そう・・・。良かったよ・・・」
本当にホッとしたのかレクサスがルカの胸に持たれた。
「ただ・・・あいつが、ディーンの手が目の前に来たと思った途端に今の状態だ・・・まるで時を跳んだような変な感じだ・・」
そう言いながらレオリオが身体を起こしたのでバルトも手を貸す。
「なら、やっぱり・・・ディーン王子は時を止めることが出来るみたいだね?ルカ」
「時を?」
「止めただって?レクサス?」
「そうです王子、バルトも。サンタクラークの時もディーン王子は発動を遅らせた。そうだよ、ディーンはみんなの個々の時間を3分だけ、それもみんなを包む周りの空気と一緒に遅らせたんだ」
「今後はお前がこの椅子に腰掛けるが良い。セルフィよ」
帝国に急ぎ戻ったセルフィの報告を受け玉座の間でカルロス皇帝を取り囲んだ大臣達はざわめいた。
皆、口々に帝国への反乱であると、すぐさまカルマ王国に軍を向かわせるべきだと声が上がった。
だがその意見にカルロスは即答せず、人払いをし、その場にセルフィ、フリードだけを残した。
そしてゆっくりと玉座から立ち上がった皇帝カルロスは何を思ったか、セルフィとフリードの前まで来ると二人の肩を叩いてそう言ったのだ。
「フリード。お前もセルフィを支えて行け、よいな?」
「何を兄上・・・シルフィーヌ姫の件、全ての責任は自分にあります。即刻、軍を率いてのカルマに向かうのは自分であります。どうかその権限をこの私にお与えください」
「フフッ・・・セルフィ。とても良い顔だな?もとより皇帝としての素質があるのはやはりお前。いい加減、代わってくれないか?フリードと言うとても優秀な伴侶も手に入れた今なら容易い事ではないか?・・・」
「私なぞ兄上の足下にも及びません。それに皆が自分なぞ認める訳がないととっくの昔に申し上げた事ではございませんか?」
「そう仕向けたのはお前自身であろう?父上は見破っていたぞ?『帝国はお前達兄弟で守るのだ』と申された。いい加減、狂者のフリは止めてお前本来の姿を皆にさらしてはどうだ?」
「兄上、それこそ買い被り過ぎだと申したはずです。それに私は父上に『兄上がいて兄上が造る帝国なら守って行く』と答えたはず。自分とフリードだけなら国なぞ必要ないのです」
「・・・フフッ、そうか・・・?気持ちは変わらぬか・・・?しかしな?今回は私が出て行かねばならぬであろう?歴史ではそうなっているからな?カルマの生神を狩るのはこの余の宿命よ」
「ええ、確かに。ならばカルマの王ソロモンを捕らえてここに連れて参りましょう、このセルフィが。そして皇帝の足下に跪かせて見せましょう」
「まあ、待て。お前達もあの王と戦い感じたであろう?あれは一筋縄ではいかぬ相手よ。正直、真っ向からぶつかっても勝ち目はない。伝説のソロモン王ならな・・・?ハルクの力技とお前の知恵、余の能力を併せても捕らえられるかどうか・・・?」
「やはり閉じ込めるしかないのでしょうか?『ウロボロス』の二人は水で檻を作りその中に捕らえようとしました」
顎をしゃくりながら考え込むカルロスにフリードはサンタクラークの出来事を報告する。
「『水の檻』か・・・確かに水は時を上から下に流し決して逆行させぬ・・・伝説のソロモン王ならば時を操るからな・・・」
「時を・・・?確かにカルマの第2王子ディーンは結界を張った。それは時を遅らせたという事なのでしょうか・・・?」
そう、話すフリードに頷いたセルフィもカルロスと同じように考え込む。
「結界、結界、結界か・・・?結界と言うよりは・・・んー?時を切り取るのだろうなぁ?カルマ族の能力とやらは・・・?」
「時を切り取る???のですか?」
「ああ、フリード。しかし・・・ならば水・・・まさに水か・・・・?」
しばらく天井を見上げ考えあぐねていたカルロスの顔が急にニンマリとほくそ笑む。
そしてセルフィに向き合ったカルロスの瞳が揺らぎ始めた。
「セルフィ」
その兄の視線にセルフィも頷き返す。
「ええ、兄上。ソロモン王を迎え撃つのは」
「「聖地サンタフォール」」
同時にそう言って頷いた二人の瞳は輝きだしていた。
「・・・・・・」
「ハルク・・・あれはどう言う状態なんだ?」
ディーン王子を追いかけて来たハルクとアレンの目の前には巨大な月が輝いている。
それに向かい満開のコスモス畑の中に佇むソロモン王の背中とお互いを抱き合いながら泣いているディーン王子とシルフィーヌが見える。
初めは畑の真ん中にポツンと立っているシルフィーヌを見つけたハルクの一馬は、前を駆けて行くディーン王子に続き自分がシルフィーヌを奪回すべくその畑に駆け込もうとした。
なのにーー
気が付けばアレンと一緒に丘の上からその3人を見下ろしているのだ。
「アレン・・・花、咲いてたか・・・?」
「ああ、咲いてはいたよ?ハルク。だがあんなに満開じゃなかった・・・どうなってるんだ?ここはハルク?」
「どうなってるだって?・・・聞きたいのは俺だ、アレン。本当にここは何なんだ・・・?」
「なぁ?」
背後からの突然のその声に二人は素早く振り返ると同時に剣を構える。
「おっと、物騒なモノはしまいなよ?俺は何もしないし、丸腰だよ?」
そこには両手を上げたヘイワーズがいた。
「お前!よくもシルフィーヌを!」
アレンがそのヘイワーズの喉に剣を突き付ける。
するとそんなアレンには目もくれずとても落ち着いた声のそれも穏やかな表情のヘイワーズがハルクに話しかける。
「俺はどうなってもいいが、あの3人を引き離すのはもう少し待ってやってくれないか?今しばらく二人から亮を取り上げないでくれ。頼むよ、佐伯一馬」
「なんだと!?貴様、亮をさらっておいてヌケヌケと!!お前、思い出したぞ!お前は大木拓哉だろう!?」
剣を捨て、ヘイワーズの胸倉をハルクである一馬はいきなり掴むと怒鳴った。
「オオキタクヤ・・・?誰だ、それ?」
アレンが剣を引きながらそう一馬に尋ねる。
「前世のストーカー野郎だよ!!亮のな!!」
「ストーカー・・・野郎???」
アレンが首を捻る。
「違う。誤解だ。佐伯一馬。全てが誤解なんだ。俺は亮が好きなだけなんだ」
「何が誤解だ!!今、認めたよな、お前?亮の事が好きだって。だからってずっと、亮につきまとって言い訳ないだろう!?それに変な手紙を送ってたのもお前だろう!?亮が優しいのをいい事に旅行にも連れ出そうとしただろうが!?」
「違う!本当に、本当にだ。ファンレターは一度しか書いてないし、俺が君にチケットを、北海道旅行のチケットを二人分渡そうとしたのは本当に君達兄弟を俺の実家のとうもろこし畑に招待したかっただけなんだ」
「ホッカイドウ・・・?チケット?」
アレンが更に首を傾げる。
「俺達兄弟をだって?お前、あの時、そんな事言ってなかったじゃないか!」
「言わせてくれなかっただろう?君が!僕を見るなり今みたいに胸倉をいきなり掴んで怒鳴ったのは君じゃないか!佐伯一馬!」
「お前がずっと亮の周りをウロウロしていたのは知ってたからな?亮の事、色々調べていたから亮の好物がとうもろこしだって知ってたのだろう?亮が良く立ち寄る本屋とかでお前を何回も見かけたよ?お前、亮を連れ出すタイミングずっと待ってただろう?実際、事務所のみんながお前の事をストーカー認識していたからな!」
「それは・・・確かに亮の事は・・・その、仕事で・・・」
「仕事?仕事だって?何の!?」
「え・・ああ、いや・・・」
「言えよ!やましい事がなければ言えるだろう!」
「・・・・確かに、その、確かに亮を好きになったから受けた仕事かもしれない・・・その、亮のデーターを」
「亮のデーター?」
「ああ。ソロモンのキャラ作りの為に、よりリアルな亮のデーターが欲しかったんだ・・・自分は田代監督の会社、『アートワクワクス』のグラフィックデザイナーだったんだ」
「グラフィックデザイナーだって!?『アートワクワクス』の・・?嘘つくなよ!!お前なんか知らない、見た事ないぞ!」
「あ、ああ。そうだろう。君達と正式に挨拶をする予定になってたのはこの『バウンダリー』の制作発表の場での予定だったんだ。僕は亮が好きでこの『バウンダリー』から初めて『アートワクワクス』の仕事に参加させて貰う事になったんだ。だがその日はあの地震のあった日で・・・僕は君と君の事務所の人達に凄い勘違いされてたから君達の後方の車両でその現場に向かって着いてからちゃんと挨拶をするようにと田代監督にも言われていたんだ」
オオッ、ギリギリセーフ!
平成最後の・・・となりました。
という事で年号が変わっても終わらないこのながーいお話・・・
本当に、本当に、読んでいただいている皆様には感謝しかありません!
そしてプロットが甘い作者は平謝りしかございません!
こんな話ですが令和もよろしくお願いいたしますです!




