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奪回3の件

よろしくお願いします!

「ええ。(わたくし)の小さなダビデ・・・さあ、いらっしゃい・・・」


アイシスの声でそう言って両手を広げたのは目の前のシルフィーヌだ。

目の前にいるのは間違いなくシルフィーヌなのにその声、その瞳がダビデの記憶の中の姉神を呼び起こす。

大きく煌々と輝く月を背負うその姿、そのまばゆく黄金に輝く瞳が生前のアイシスのようでとても神々しくてディーンは目を反らす事が出来ない。


「止めろ・・・君はシルフィーヌだ。姉神様はもういない。なぜなら・・・何故なら僕が・・・!」


そう言って否定するようにディーンが頭を振れば振るほど月の光の中に姉神のアイシスがハッキリと浮かび上がる。


「いらっしゃい、ダビデ・・・それ以上は言わなくていいの」


しかしディーンは一歩、二歩と後退(あとずさ)る。


「もういいのよ・・・?ダビデ・・・貴方は正しい」


「違う・・・・僕は・・・姉神様を・・・姉神様を犠牲にしたんだ・・・」


その言葉に姉神はゆっくりと首を振るがディーンはその姉神より更に激しく首を振り、自分の両手で頭を抱え叫んだ。


「僕は!・・・僕はッ!貴女がダグラスと逃げたと知った・・・それは・・・貴女が僕と兄神を捨てたんだと!!」


その場に崩れ落ちるように膝を折ったディーンは自分の髪をかきむしるように更に頭を抱えこむと首をうなだれた。


「そう・・・私があなた達を先に裏切った・・・約束を破ったのは私・・・」


悲しそうに震える姉神の声がそう答えた。


「違う・・・」


「いいのよ・・・?ダビデ、責められるのは私なのだから」


「違う!違う!違う!僕も姉神様の幸せを!アイシス姉様の幸せを兄神と一緒に一番に願って来た!だから・・・だからだから!アイシス姉様はそれでいいんだ!・・・ダグラスと・・・ダグラスと幸せだったんだろう?なら、なら・・・それでいいんだ・・・なのに僕は・・・僕の中にはそれを良かったと思う心と釈然としない、そう、僕達よりダグラスを選んだ姉様をどうして?と責めるとても身勝手な自分がいた・・・姉様は僕と一緒にソロモンをカルマの王にすると約束した・・・そう約束したのにって・・・!わかってる!姉様は悪くない!悪くなんてないよ・・・?そう・・・そうだよ?悪いのは僕だ・・・一人でも立派に兄神を、ソロモンを、このカルマの王にして見せると貴女に誓ったのに実際は!貴女がいなくなって僕は!・・・守れなかった!・・・ソロモン兄様を!犠牲に、犠牲にしたんだよ?!僕がこの手で!この僕の手で!ソロモンの、ソロモンの首を・・・!!そして・・・そしてあろうことか僕だけが、この僕だけがのうのうと!!生き残った・・・!」


「ダビデ・・・もういい」


「いい事なんて!いい事なんかないよ!僕は誰も守れなかった・・・だから僕は・・・貴女と兄様が亡き後、せめてこのカルマとこの地だけはと・・・」


「ダビデ・・・」


「それしか・・・それしか僕には出来なかったんだ。それしか僕の手には残らなかったんだ・・・そうだよ?僕に出来たのは意地だけでここを守る事だけだった・・・そして少しでもあなた達に、兄様に、姉様に・・・少しでも・・・クッ!」


「ダビデ・・・」


「・・・・それに」


目の前の姉神を見れず下を向いたままのディーンがまた言葉を吐き出す。


「それに!兄神があの時、命をかけてまで守ったのは貴女だと言う事を僕は知ったのはこうしてまた、兄神ソロモンのそばに生れた今だ。兄神ソロモンはその手に石を握って産まれて来た。そう、貴女の魂が入っていたあの石だ。その理由を兄上から僕は直接聞かされた。そして、兄神がソロモンとして再びこの世に生まれた意味も知った。貴女を蘇らせる為だけだと・・・それを聞いて僕は・・・その時僕は!そんな貴女がうらやましいと思った・・・そこまで愛された貴女に・・・同時に嫉妬もした。僕は!兄神を守れなかった自分の不甲斐なさに絶望したまま死んでいったのに。その想いを抱えたままこの世に生まれて来たのに!なのに僕はやっぱり兄神が目の前にいることがとても嬉しくて・・・今度こそソロモンを王にしてみせるのだと・・・ソロモンを絶対守るんだとッ・・・!!誰を犠牲にしても今度こそ絶対に、ソロモンを生かして見せると僕は・・・だからあの時僕は!貴女を・・・!!」


「それでいいのよ?ダビデ・・・貴方は正しい」


「・・・・違う!!・・・僕はまた、自分ではなく今度は貴女を!!・・・ああ!なんて・・・!!」


「ダビデ。貴方はヘイワーズが生死をさまよった時、どうにか助けようとした。それはソロモンが悲しむからでしょう?」


「そんなのは!そんなのは・・・ていのいい、言い訳だ!」


「いいえ。それで良かったの、ダビデ。貴方が正しかったのよ?だから私は」


「嘘だ・・・嘘だよ!姉様は僕を恨んでいいんだよ!だって僕は!僕は!姉様が甦るとまたソロモンまで連れて行ってしまう、また僕は一人になってしまうって。だから僕は・・・だから僕は!貴女とダグラスを消してしまったんだ・・・!!そうだよ!兄様を・・・兄様を一番悲しませたのはこの僕だ!僕なんだよ!」



そう、声を絞り出すように叫んだディーンは両手で顔を覆うと地べたにへたり込んだ。






そんなディーンの両肩に後ろからそっと手が乗せられた。



「ダビデ、僕も君に約束をしたのだったな?」


その声に驚いたディーンが振り返るとそこにはいつの間にか歩み寄って来ていたソロモンが自分を見下ろしている。


「あに・・う・え・・・?」




「ありがとう、ダビデ。毎年ここにコスモスの種をまいてくれて」


「え・・・?あ・・ねさま・・・?」










「とーげーとげ!はい!アイシス姉様」

ダビデはたくさん集めたその『とーげーとげ』を革袋の中からかき出すとアイシスの大袋に移し返す。

「フフッ。とーげーとげ、ダビデの頑張りのおかげで今年もたくさん取れたわね?」

小さな時からそう二人が呼んでいるのはコスモスの種だ。

今年も色とりどりたくさん咲いたコスモスの花達は盛りを過ぎ、ダビデとアイシスの目の前には枯れた花畑が広がる。

その畑で毎年の事だがアイシスとダビデが中心となってコスモスの種を皆で集めているのだ。


「毎年取って、後生大事に蒔かなくてもこぼれ種で結構咲いてるけど?」

「ダメよ、ダビデ。毎年、綺麗に咲かせるにはちゃんと種を乾燥させて、ちゃんと土を耕して」

「ハイハイ。全部言わなくても来年の種まきも一緒に僕が手伝いますよ?姉神様」


そう言いながら枯れたコスモスを掻き分けてまた、弟のダビデはせっせと種を取っている。

あの舌足らずの可愛かったダビデが嘘のようにたくましく大きくなった今もこうして自分と一緒にコスモスを大事にしてくれるのがアイシスは素直に嬉しかった。


「ねぇ?ダビデ・・・」

目の前の種を取りながらアイシスは横に並ぶダビデに声をかける。

「ん?何、姉様?」

「覚えてる?私達の約束・・・」

「もちろん。兄神を王にする!」

「シッ!声、大きいわよ」

「ここにいるみんなはカルマの次期王はソロモンだと思ってるから平気だよ」

「フフッ・・・そうね・・・うん。けどね?私は貴方が王でもいいと思ってるのよ?」

「アハハッ、なら、姉様も女王になるから僕はまだまだ先だな?ではでは、女王様、この下僕に何なりとお言いつけをって、種取やらされてるか?アハハッ」

「冗談抜きでね?本当に私はそう思ってるのよ?兄神様には皆を従えさせる威厳があるけども貴方には皆に慕ってもらえる信頼があるでしょう?今日だって貴方が言うと皆喜んで手伝ってくれてるわ。だから私はこの国にはどちらの力も必要だって・・・だから」

「僕も兄神もずっと姉様の側にいる。ずっと。けどそのためにはまず、ソロモンが王にならなきゃ。まあ?ソロモンが姉様を、カルマの皆を守ってるのは今だってそうだからあんまり変わらないけどね?ああ、でもさ?なんかあった場合を想定して僕と約束しなおそうか?」

目の前にダビデの手が急に伸びて来ると小指を差し出した。

「お互いに何かあって離れることがあったとしても兄神をカルマの王にしてここで必ず守るってさ?まあ?何かなんて姉様にはないと思うけどね?ハイ!指切り。おやくそくだよ?アーシスねーさま」

「あら?あら?小さなダビデにアーシスねーさまってお願いされたら仕方ないわね?でも私がいなくなることは想定外って失礼じゃない?私だって求婚されてカルマを離れる事があるかもだし」

「ないない!絶対ないよ!」

「どうして?」

「百戦錬磨のカルマのロト様には誰も敵わないって兄神様が。それでも天下のロトに手を出す勇気がある男がいれば見て見たいって」

「まあ!兄様!か弱きそれもうら若き乙女によくも!まさか、ダビデ?貴方も!」


急にダビデが後ろにひっくり返ると腹を抱えて大声で笑いだした。


「か・・・か弱き乙女!か弱き乙女って!!アハハッ!誰?それ、誰の事!?アハハハハッ!」


「もう!ダビデ!!」












「ありがとう。ダビデ」

いつの間にかアイシスもそう言ってディーンと同じようにコスモスの花の中にひざまついていた。

そしてその胸にディーンを抱き締めていた。



「あ・・・ねさま?」




「ダビデ、僕も君との約束を果たさなければ」


大きな手がディーンの頭を撫でるとソロモンがそう言った。

「え・・・?」

アイシスに抱きしめられ後ろを見上げられないディーンの声は掠れている。

「僕も君に指切りをしていたのだったな?」


「・・・・そうだよ・・・指切したんだよ・・・ここで、兄神は僕に笑って」




『ソーモンあにさま・・・ソーモンあにさま・・・いっしょ・・・』


ふいに小さな自分が兄を呼ぶ声が辺りにこだまする。


すると3人の周りのコスモス達の茎や葉が凄い速度で伸びだした。

そしてつぼみをつけたかと思うとたちまち膨らみ、そのうちの一つがぽんッと弾けるとピンク色の花を咲かせた。

その音を合図に次々にコスモス達がぽんッ、ぽんッ、ぽんッ、と音をたてて3人のまわりを色とりどりに染めてゆく。




「そうだ・・・こんなコスモスが満開に咲く夜に僕はここで君達に約束をしたんだ・・・」



   



   『いっしょ・・・・・・ずっと、ずっと』



ソロモンはその手でディーンの髪をクシャリと優しく掴む。









「君達を幸せにする。この世界で一番、一番、幸せにだ」


僕の両手を痛い程握りしめる小さなダビデとアイシスを見下ろし僕の口からはその言葉が勝手にこぼれ落ちていた。

正直、用意していなかったそのセリフに自分が少し驚いた。


「私達が幸せになるには兄様も幸せでなければいけませんわ?」

その僕の言葉に泣きはらした顔のアイシスがダビデの右手を握りしめ、金色に輝いたその瞳で僕を見上げる。

すると小さなダビデもその両手で僕を引っ張り、

「ソーモンあにさま、アーシスねーさま、しあわせ。ぼくもしあわせ?」

「そうよ、ダビデ。私とダビデと兄様がずっと一緒にいることがしあわせなのよ」


「ずっと一緒だって?」

そのアイシスの言葉に僕は耳を疑う。


僕がこの場所にいるのはほんの少しの時間だけ。

この世界が上手くまわっているか確認の為だけに僕はこの地に降りた。

この身体を選び、ソロモンとして。

ただ、ほんの気まぐれに、ただ、ほんのテストとしてカルマの国を選びカルマのソロモンと言うキャラを借りただけだ。



「そー!」

ダビデがまた一生懸命に僕の手を引く。

「ずっと?」

「そー!いちばん!ずっと、ソーモンあにさま、アーシスねーさまいっしょ、だから、おやくそく!」





    『おやくそく』





「ああ、僕は君にダビデ・・・君と指切りしたことを守らなければな?君は僕とアイシスが出来なかった事を代わりにやってくれたのだから」


「あに・・・うえ?本当に・・・一緒・・・?」


「ああ、一緒にダビデ。一緒に君とこの国を守って君を一番幸せにしなくてはな?」





俺の胸の中で、シルフィーヌの胸に抱かれたディーンが声を出して小さな子供のように泣き出した。



アイシス様は思い出をーー

断片的な思い出だけど、

俺の中に、シルフィーヌの『印』の中に、しっかりとーー


その想いを、


伝えてってーー


そう言うように残して行ったのだーー















今日も長くて真面目な話最後まで読んでいただきありがとうございました!!

で・・・いつ奪回するんだ!!って、

作者の私が思ってますです。ハイ・・・(反省)




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