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奪回2の件

今日もよろしくお願いします!

「ソーモンあにさまいっしょ?」


色とりどりのコスモスの花が生ぬるい風を受けていっせいに同じ方向を向く。


「ん?」


その花達と同じ方向に首をかしげまだ舌足らずの小さなダビデが僕を見上げ尋ねた。


「もーいわない。ソーモンあにさまいっしょ。アーシスねえさまいっしょ」

「・・・ダビデ」

「いっしょ。アーシスねえさま、んー・・・たーへん?」

「そうだよ?兄様もね、大変。困るんだよ?」


「・・・・・じゃ、いー」

繋いだ手を握り締めダビデがそう言って下を向く。


そんなダビデをアイシスがその場にひざまつくと抱き締めた。

「ごめん・・・ごめんね、ダビデ・・・間に合わなくて・・・」

「んー?ねーさま、ダメ。僕、なーてないよ?」


ダビデは繋いでいた僕の手から手を放すと自分を抱き締めて泣くアイシスの顔をなでて一生懸命に涙を拭いている。

だがダビデが拭いても拭いても流れ落ちるそのアイシスの涙に父神なぞこれからのシナリオに構わずサッサと切り捨てるか?と言う気持ちが沸き上がってきた。

あやつはダビデの母の命をこのサンタマリスに捧げ、自分が奇跡の力を得ようとしたのだ。

まだ奇跡が起こる暦ではないと星読みの賢者が止めたのに僕とアイシスがこの地に戻る前に勝手に儀式を行ったのだ。

しかし、しかしだ。

止めた星読みの賢者や一族の者達の予想に反し、サンタマリスのこの地はその大地に母神の血を十分に吸い上げ、その命と引き換えに年老いたカルマの王に若さを与えた。


そうだ、今すぐ僕が排除すればいい・・・


そうだあやつは若返ったとはいえ、今の僕なら十分、互角に戦える。

もし、刺し違えたとしてもこの二人の側に、王として、まして父として置いておくよりはマシだろう。

だが・・・だが・・・もし今、僕がいなくなれば、この二人は・・・・



「だけど、だけどね?ダビデ。兄様がカルマの王となればずっとここでソロモン兄様が言う通り、母神様と一緒にいられるわ?ね?兄様」

「そーなの?ソーモンあにさま?」

アイシスとダビデが僕を見上げる。






そうだ、あの時。

僕は、僕は何と答えただろう?





「ソーモンあにさま?あにさま・・おかお、こわい・・・」

そのダビデの言葉にハッとし、アイシスが僕の手を急いで掴む。

「兄様、戦う時はこのアイシスも一緒です。ダビデも一緒です。私達、三人はいつも一緒です。だから今は私とダビデを守って下さい」


「いっしょ!ソーモンあにさま、アーシスねえさま、ダビデ、いっしょ!ずっと、ずっと」

ダビデも僕に確認するかのようにまた僕の手を両手で掴むと一生懸命に引っ張る。


「ずっと!」


「ずっと?」


生ぬるい風が僕の頬を撫でる。

月の光をあびて僕を見上げた真剣なアイシスとダビデの瞳は輝いている。

僕はその瞳の中に何かを見出して自分の声が聞き返しているのが聞こえる。


するとダビデが僕の手を痛いほど握りしめていた両手を放す。


そして、


「おやくそく」


そう、小さな小指を突き出して小さなダビデが言った。






僕は何と答えたのだろう?










「「シルフィーヌをどこにやった!!」」


レオリオとディーンが同時に叫ぶ。

驚愕しながらもお互いから離れる為に後ろに飛び去りながら。


「・・・何だと?」

腰から剣を引き抜き、構えたレオリオが問い返す。

寝室に入り同じく剣を構えたバルト、ルカ、レクサスもその横でディーンを睨む。


「どこだ!どこにやった?!」

だがその4人の様子に怯むことなくディーンはそう叫びながら飛び降りたベットを確認し、更にキョロキョロと薄暗い部屋を見渡たす。


「どう言う事だ・・・?ここに、ここにやはりシルフィーヌはいたのか!?ディーン王子、答えろ!」

そんなディーンの様子に今度はルカがそう叫んだが、ディーンはその言葉を無視し、一人ブツブツ言って考えている。

「答えろ、ディーン王子、シルフィーヌはここにいたんだな!?」

瞳を輝かせたバルトも痺れを切らし問いかけるがディーンは4人をまったく見ようとしない。


「どこだ・・・?いや?まさか・・・兄上・・・か?」

すると急にそう言ったかと思うとディーンは広いベットに片手を付くと軽々とそれを乗り越え、寝室のドアに丸腰で突進する。

剣を構え、その前を陣取る4人などいないかのように。


あわてたバルトとルカが剣を同時に振り下ろす。

ディーンを止めようと一歩前に踏み込んで。


「邪魔だ、どけ!」

そんな二人の額にディーンは手をかざす。

「「なっ!!」」

二人の体は二人の意に反し、剣を振り上げたまま、急にガクリと止まる。


「お前もだ!」

止まったルカとバルトの間を抜けたディーンは剣を振りかざし前に立ち塞がったレオリオの額にも素早く手をかざすと固まったレオリオを素手で押し倒し一目散に部屋のドアに向かって走って行ってしまった。


「えっ?え?なになにッ?!どうしてみんな止まってるの!それに僕は無視!?」

固まった3人を見て、中途半端に剣を振り上げたレクサスがそう言ったのはディーンがドアの向こうに消えた後だった。




「マジか・・・?」

「さっきからそればっかりだぞ?ハルク」

「マジで、この宮殿には誰もいない。どうしてだ?アレン」

「ああ、ほんとにな?それについては俺が聞きたい。ハルク。昼間は所狭しと色んな人種の人々で溢れていたのに・・・今は人っ子一人いないなんて」

ソロモン王の部屋からシルフィーヌの部屋に向かい二人は話しながら広く、暗い回廊の真ん中を堂々と歩く。

その二人の声と二人の足音がドーム型になった天井に反響しとても大きく聞こえる程、宮殿の中は静かなのだ。

「・・・・・腑に落ちんな・・・」

足を止め腕を組んでハルクが考え込む。



バタンッ!!



急にドアが乱暴に開けられた音が廊下に響き渡る。


「あ!ディーン!!」

アレンが今から向かうシルフィーヌの部屋を指さし叫んだ。

ハルクも同時に顔を上げると確かに突き当りにあるシルフィーヌの部屋からディーンが勢いよく飛び出して来た。

そして一瞬こちらを見たディーンと視線がぶつかる。

しかしディーンは二人を無視し、回廊の角を曲がると視界から消えた。

「追うぞ!!アレン!」

「え!?シルフィーヌは?」

「多分、亮はここにはいない!ディーンが向かう場所だ!」

「なんだって!?」

そう言いながらも二人はすでに走り出していた。


「あ!ハルク!アレン!」

二人がシルフィーヌの部屋の前を通り過ぎようとした時、その開け放たれたドアの中から名を呼ばれた。


「「レクサス!!」」

「ディーンを追って!!シルフィーヌは多分、そこにいるから!!」

「やはりか!」」

「承知だ!レクサス!」











「兄様、貴方は約束したのです。小さなダビデに。この場所でこんな夜、こんな月の晩に」



「そうだ・・・僕は約束した」

「そう、約束した。この(わたくし)にも」

「ああ、アイシス。もちろん君にも」

「そう、その言葉をもう一度、兄様」




「兄上!!あにうえッ~!!」


急いで駆けて来たディーンは大きすぎる満月に向かいコスモス畑を見降ろせる場所にポツンと立つソロモンの背中を確認すると声を張り上げた。

しかし、その呼びかけにソロモンは応えない。

こちらに振り返りもしない。

「?・・・あにうえッ~!!ディーンです!!あにうえッ~!!」

更に呼びかけながら急いでソロモンの元に向かう。


「何を、何をしているのです、兄上!宮殿に結界を張ったままではありませんか!それに曲者まで忍び込んでおります!」

駆け付けたディーンは急いでソロモンの足下に(ひざまつ)くとソロモンを見上げ報告をする。

しかしソロモンはこちらを見ない。

「?」

不審に思ったディーンはソロモンが見下ろしているコスモス畑に視線を移す。

「!、シルフィーヌ!」

思った通りシルフィーヌもソロモンと一緒にいてまだ深い眠りについていないことにディーンは安堵し立ち上がる。

「兄上、シルフィーヌを連れてきます!」

そして兄の返事も聞かずにソロモンを後にするとコスモス畑に佇むシルフィーヌに掛け近寄る。

風に吹かれ月を背にしたシルフィーヌを見てディーンは思わず嬉しくて手を差し出した。


「シルフィーヌ、やっぱり君もここにいたんだね?さあ、おいで、僕の元に。そして僕の手を取って僕を受け入れて欲しい」


「・・・・・・」


「僕は決めたんだ、シルフィーヌ。永遠に君を守り、永遠に君を愛し、この国で君を一番、一番幸せにして見せる。だから僕の愛しい人、どうか、この手を取って誓って欲しい」





「一番幸せ・・・」



「え?」

しかし、目の前のシルフィーヌは何も言わず、背後のソロモンが自分の言葉に反応し言葉を発した事にディーンは驚き振り返る。


「ええ」

すると今度はシルフィーヌがシルフィーヌの声でも、亮の声でもない声でそう返した。


「シルフィーヌ・・・?いや、誰だい・・・?その声・・・まさか」


「・・・ダビデ・・・かわいいダビデ・・・(わたくし)のダビデ・・・」

振り返ったディーンは目の前のシルフィーヌの口から漏れた声色に手を伸ばしたままで固まる。


「あ・・・姉神・・・さま?」













ど、どうにか間に合った・・・

ちょっと場面が行ったり来たりで上手く分かってもらえているでしょうか?


今日もお読みいただきありがとうございました!

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