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信拠の件

よろしくお願いします!

「父神よ!私が兄神ソロモンと共に戦い、このカルマを守って見せる!今から私がセフィード王に戦いを挑み、誰が正義か、証明して見せる!」



今やこのサンタマリスの地は松明(たいまつ)を掲げ、武器を構えた幾万の兵士で埋め尽くされている。

だが、それ程の大軍勢なのに兵士達は静止画のようにピクリとも動かず、ただ静かに一点を見つめている。

そこにはこの聖地を守る神殿があり、今は生神と崇められるカルマ王がその一族とともに籠城しているのだ。

そしてその神殿の入口の前にはダラス国セフィード王が馬に(またが)り静かに佇む。

その王の背中を兵士達は固唾を飲んで見つめているのだ。


『神狩り』を下す、王の言葉を待ってーー


 

「ただの人間など、いくら束になったところでこの私や兄神ソロモンを倒せるわけがない!我がカルマに逆らうなど笑止!返り討ちにしてくれる!」

神殿の上座に優雅に佇むカルマ王は先程からそう息巻くダビデに少し右手を上げて黙らせる。

そのだだっ広い神殿の中に追いやられたカルマ一族の者達は父神の次の言葉を静かに待つ。


「ソロモン」


そう名を呼ばれたソロモンは一族とダビデに背を向け冷たい大理石に片手を着け、父神に向かい(ひざまず)いている。


「はい」

「・・・事の成り行きはわかっているのだろうな・・・?」


「全ての責任はこの(わたくし)に」


(こうべ)を垂れたソロモンの口から発せられた言葉に思わず弟神のダビデは叫ぶ。


「違う!父神!兄神だけに責任があ」


「黙れ!!ダビデ!!父神の御前である!!控えよ!」

ソロモンの口から出たきつい怒声に一瞬でダビデは怯む。


「父神よ、現状を打破して見せましょう。私のこの首で」


そう言って立ち上がったソロモンは父神にクルリと背を向ける。

父神であるカルマ王も何も言わずソロモンが神殿の入口に向かう背をじっと見つめているだけだ。

その様子に一人慌て声を荒げたのはやはりダビデだ。

「なにを兄神!父神!お止め下さい!セフィード王などこのダビデが」

そのダビデの言葉にカルマの他の一族からも賛同の声が上がる。

皆、口々にソロモン、ダビデと最後まで戦うと手に持った武器をカルマ王に掲げる。



「ええーい!静まれぇーい!!皆の者!全ての責任はこの私にあるのだ!」


神殿の高い天井に響き渡る迫力あるソロモンの声に皆は一瞬で黙り込む。

そしてその皆を見渡すソロモンの瞳は眩く黄金に輝く。

ソロモンがこうして命令を下せばその威厳に圧倒され、誰一人として反抗する事など出来ないのだ。

ソロモンのその存在はまさに生神と崇められたカルマ一族をも支配するものなのだ。


ソロモンは皆と一緒に固まるダビデの肩を掴み、神殿の扉へと向かう。

止めようと試みる者もいるがソロモンのその瞳から溢れる黄金の輝きが神々しくて跪いて道を開ける。

するとその場にいる一族の皆が次々と跪き道を開ける。

「来い、ダビデ」

掴まれ、引きずられるように連れていかれるダビデもその間をソロモンと共に進む。

そしてソロモンはダビデには最後の命令を下す。


「ダビデ、お前がこの首、セフィード王に差し出すのだ。そしてこの戦いを終わらせるのだ」


「い、嫌だっ!戦う!俺はッ!兄神しか認めない!カルマの王はソロモンだ!それが、それが姉神アイシスと俺の約束だ!」


そんなダビデの胸倉を片手でソロモンは掴むと軽々と自分の目の前に持ち上げ睨みつける。

「いいか?ダビデ。このカルマを背負うのはお前だ。お前が王となり皆を守って行くのだ」


そう言うとソロモンはもう片方の手で扉を大きく開け放つ。


開け放たれた闇の先には幾万の松明の明かりに照らされたセフィード王の光り輝く瞳があった。













「知りもしないくせに・・・!!そのような!その様な!簡単な事ではないわッ!!」

目の前にあるディーンのヘーゼルの瞳が怒りで光輝いている。


「ああ。そうだな?そんな簡単に言葉で言い表せるものではないのだろう。あんたは大事な兄を手に掛けたのだから。俺なら一馬をこの手に掛けられるだろうか?シルフィーヌなら愛するルカの首を刎ねられるのだろうか?たとえそれがオールウエイ国を守る事だとしても」

俺のその言葉に額をくっつけて睨み上げていたディーンの瞳が見開く。

そして俺の胸倉を掴んでいたディーンの手が離れ、自分の頭を両手で抱えベットにうずくまるとディーンの口から次から次へと呪文のように言葉が漏れ出してきたのだ。


「刎ねた・・・?僕が・・・?兄上を?違う・・・俺は・・・俺が始末したのは父神だ・・ソロモンを兄神を手に掛けるなど・・・」


「・・・・・?」

思わず俺はそんなディーンが心配になり手を伸ばす。


「俺が・・・?俺が?この俺が兄神を?!・・・ソロモンに!手に掛ける事なんて出来るわけがない!父神が、あやつが俺達の父でありながら自分の為に、自分の命を守る為だけに俺達だけならよかったものをカルマの者をみな縛ったのだ。その古い言い伝えでいかにも自分がこの世界の王でもあるように兄神ソロモンの力を利用し、『印』持ち達をも支配し続けたのだ。しかしダグラス王が、ダグラスが、その『印』持ち達をいとも簡単に殺戮して行く姿にあいつは恐怖した。いずれたどり着く『神狩り』の最終目的は自分だと恐れおののき、『カルマの法』が正義だと振りかざし兄神ソロモンを、姉神アイシスを自分を守る盾としたのだ!だから、だから、俺は・・・俺は!セフィード王の前でお前が欲しかったものはこれだろうと!」


「これだろうと?」


「ああ、差し出したのさ!首を!」


「誰の?」


「誰の?誰のだって?そんなの決まっている!俺が切り落としたのは!・・・切り落としたのは・・・」


「ディーン・・・?」


「俺が・・・?・・・嘘だ・・・俺がそんな事・・・?!嗚呼ッ!!何てことを・・・!何てことだ!!ソロモン・・・!!」


ベットにうずくまったディーンの手が今度はギュッとシーツを掴むと身体を震わせる。

そしてその口からは言葉にならない嗚咽が漏れだした。




ソロモンは知っていたのだ。

ダグラスが実行し、セフィードがもくろんだ『神狩り』の最終目的は何か。

そして最後に狩られるのは誰であるか。


すべて知っていて最愛の人を狩らねばならないアイシスを呪縛から解き放ち、

同時にアイシスを切り殺さねばならないダグラスをも(かせ)から解き放ち、

カルマ一族の者達をも生神から解き放つためにセフィード王にその首を差し出したのだ。


ソロモンは解っていたのだ。

セフィード王が何を望んでいるのかを。


俺は目の前にある震える背中をそっと撫でた。


そうか・・・

ディーンにはダビデの記憶が断片的にしかなかったのだな・・・

そうか・・・




「ディーン・・・ディーン?良く聞いて。ソロモンを、兄神を手に掛けたのは貴方の意思じゃないよ?」


俺は亮の声で、そう、ソロモンの声で話しかける。


「ダビデを僕がそう仕向けたのだ。お前に術をかけて」


「・・・・・・なに?・・・・」

そう反応したディーンの背中の震えが止まる。


「僕が声で人を操れるのは知っているだろう?だからあの時、僕は君に術をかけた。君がカルマの王としてカルマの皆を守る為に何が最善か?君が何をすればセフィード王の溜飲が下がるのか」

「俺が・・・する・・・?」

「ああ。君でなければ出来なかった。敬愛する兄を奪われたセフィード王と同じ気持ちを分かち合えるのは君だけだ」

「敬愛する兄・・・?」

「ああ。だから・・・・・」

「セフィードもダグラスを・・・?」

「そして君は僕の思い通り、その後カルマを、一族の者達を、この地に落ち着かせこの国を守り抜いた。立派にこの僕の意思を継いでくれた」

「・・・・・違う・・・カルマの王はソロモンだ」

「そうだな?僕だな」

「ああ・・・兄上しかいない。だから僕は・・・だから僕は、あの時いらない父神も排除した。それは僕の意思でやったことだ。そんな僕に皆は・・・一族の皆はついて来てくれた・・・皆、いつかこの国にソロモンを・・・カルマ王として・・・迎えるのだと・・・」

「ああ・・・そうだな・・・?」


俺は控えめだがリズムをつけてディーンの背をトントンとあやす。

ディーンがこのまま眠りに入って行けるように。


「・・・約束を・・・兄上」

「ああ」

「約束を・・・思い出して・・・くれ、兄上・・・たのむ・・・よ?」

「ああ。そうだな」

「・・・あにう・・・え・・」




よし!寝たな!

よしよし!


俺はうつ伏せで突っ伏し、寝てしまったディーンにシーツを掛けるとそっと寝室を抜け出す為に寝室の扉の取っ手を引く。


仕方ない、今日は隣の部屋のソファで寝るか・・・

俺が悪かったしな・・・

仕方ない・・・


そしてディーンの様子をうかがいながらそっと、ほんとにそっと、扉を閉める。



よし!

上手くい


「リョウ君」


!!!!!!

「うッ!くぅぅう!ぐッ!」

俺は急いで両手で自分の口を塞ぐと自分の叫び声を押し込めた。


すっごく焦りながら後ろを振り向くと今から俺が寝ようと考えていたソファにソロモンが座り手を振っている。


なんで、なんでッ!こいつも俺の部屋にいるんだ!?









ちょっとシリアスバージョン続きで・・・

おっと、アレンと一馬が早くしろと言ってるので次話出したいんだけどな・・・


今日もお読みいただきありがとうございました

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