すれ違う想いの件
今日は長い・・・すみません!よろしくお願いします!
「ああ。それとリョウ君。『ウロボロス』の二人の寿命で延命しようって手も、もう、無理だよ?」
「え・・・?な・・・」
「あいつらの『ウロボロス』は使命を果たし、『ウロボロス』では無くなったからね?」
ディーンはそう言って今度は俺の頬にキスをしようとして俺の顔を覗き込むと眼をぱちくりさせた。
「な・・・!ちょ、ちょっと、シルフィーヌ!?」
勝手に俺のシルフィーヌの口から嗚咽が漏れる。
勝手にボタボタと涙が溢れて頬を伝って、落ちて行く。
「おいッ!何、泣かしてんだ!ディーン!」
そんな俺をヘイワーズがディーンから奪回すると胸にそっと抱えあやす。
「泣くな、亮。大丈夫、大丈夫だから」
そう言って背中をトントンする。
「な、ウッ・・・クッ・・・いて、ぇいて、ぇなんかっ!えッ・・ヒクッ!いな・・・ぁああああ」
そうされるともうダメだ。
涙が堰を切るように頬をダラダラと伝って落ちていくのが止まらない。
自分が泣いている事実を認めたくなくて流れる涙を必死で両手で拭い去る。
けど、拭いても拭いても涙が溢れ出て喉からはしゃっくりが出て冷静に話しているつもりが言葉になってない。
ああ、ダメだ・・・
辛い・・・
「ディーン、亮の記憶があるとはいえ、シルフィーヌの精神はまだ12歳なんだ。それに女の子だ。もう少し丁寧に扱え」
「へぇ・・・?なんだ、意外とお子様なんだな?」
泣きじゃくるシルフィーヌの背中を見つめディーンはそう返す。
「亮?亮・・・よく聞いて。今の話しか方法がないわけじゃない。頭のいい亮ならわかるだろう?」
「う・・・?」
「よせよ、ヘイワーズ。シルフィーヌがいなくなるとソロモンも悲しむ」
「無理強いをしても続かない。心が壊れてしまう。だから、ちゃんと考えさせて選択させるんだ、本人に。でないと一生後悔するぞ。お前もソロモンも」
「ううっ・・・い・・やだ・・・」
「何が嫌だ?何で泣く?そんなに僕が嫌なのか?」
いきなり俺の背後からディーンが肩を掴む。
その手をヘイワーズが払う。
「止めろ。怯えさせるなと言っている」
「ヘイワーズ・・・お前、シルフィーヌが、前世の『憧れの君』がやはりいいんだな?」
「俺はソロモンの側にいる。それが俺の願いだ。だからシルフィーヌの気持ちは・・・解るんだ・・・」
「ハッ!立派なもんだねぇ?ソロモンは身目形が似ているだけのリョウ君の偽物だろう?おまえ、死にかけたのにまだ解らないのか?お前を助けたのは誰だ?この、僕だ!いい加減、わかったらどうだ!?ソロモンの、兄上の頭の中にはアイシスしかいない。もう、消滅した、死んだアイシスをまだ思っているんだ。一緒にこの国を守ると誓い、生きてる弟のこの僕やお前より過去の消滅した妹の事をまだくよくよと考えてる。だから、だから、身代わりのシルフィーヌを後生大事に連れ帰ったのさッ!」
「そんな事わかってる。いまさらディーンに言われなくてもだ。俺はアイシスが好きなソロモンでいいんだ。それで・・・」
「嘘だね。誰だって好きな人には振り向いて欲しいだろう?自分の事をわかって欲しいだろう!正直に言えよ!あいつは俺達の事なんてッ!・・・」
「・・・ディーン・・・お前」
「・・・くそぅッ!!」
そう、吐き捨てるディーンの声とドアが閉まる音が俺の背後で乱暴に響いた。
「やぁ?起きれるようになったんだねぇ?リョウ君」
中庭の色とりどりの薔薇を見つめて考え事をしていた俺はその後ろからの前世の自分の声に振り向く。
「ソロモン王・・・」
薔薇の花で彩られた生垣の門から顔を覗かせたのは前世の俺の顔のソロモンだ。
それもここに捕らわれて来てから久びさに見る。
気軽に手を上げこちらに向かって来るそのしぐさはやはりとても前世の俺だ。
「一人かい?リョウ君・・・?ヘイワーズは?」
「俺が一人になりたいと言ったらいつもここに連れて来てくれる。ここは安心だからって。仕事が溜まってるからここで待っとけってさ」
「ふーん?僕はサボりだ!ここは気持ちがいいからね?」
「・・・ここ、とても暑い国とは思えないほど色んな種類の薔薇があるよな?それも大きくて鮮やかで美しい。けど、あっちにあるコスモス畑のほうが俺は好きだな。とても開放的だ」
「フフッ、王宮には似つかわしくない一角だろう?花畑だなんて」
香しい薔薇が咲き乱れる高い垣根に囲まれたこの場所はこの王宮のど真ん中にあり大理石で造られた観賞用の椅子が上品に2つ並べられ休憩スペースには持って来いだ。
その一つに座る俺の横に同じようにソロモン王は話しながらドカリと腰かけた。
まるでローマ法王のような立派な王衣を纏うその姿は前世の俺なのになぜか似合っているから不思議だ。
黒い髪に黒い瞳。黄みがかってはいるが肌は白い方だ。やっぱりのっぺりのどこから見ても日本人。
だって俺だから。
足を前に投げ出して両手を組み前のめりに座る癖まで俺と同じだ。
俺のデーターどこで集めたんだ?
おまけにわかっている事だが自分と同じ声だ。完全に俺の完コピだ。
自分で質問して自分で答えているような変な感じだ。
いや、実際、そうなんだから。
もし、垣根の向こうで誰か俺達の会話を聞けば何を独り言を言っているのだろうか?頭、大丈夫?と心配されるのがオチだ。
「いや?オールウエイ国王宮の裏にある丘には秋になればコスモスの花が、一面に咲くんだ。さすがにここほど色んな色や種類はないけど・・・ピンクと白でとてもかわいいんだ。それに花が咲いたら国民にその丘を開放して摘み帰ってもらうんだ。国民の皆はオールウエイ国の秋の行事の一つとして花が咲くのをとても楽しみにしているよ」
「・・・コスモスはアイシスの好きな花だ。ここにあるのはみな、あやつが旅の途中で集めて来たものだ。あやつが生きていた頃は国をひとところに置かなかったが初めに撒いたコスモスの種が不思議とこの暑い地に根付いた。コスモスは高山の花なのにな?それからはここにアイシスが色んな色の種を毎年来てはまいていた・・・だから・・・大陸から追われた時にこの地に国を置く事としたのだ・・・」
「アイシス様とダグラス王が二人でこの世界を離れた後?」
「ああ。聖地サンタフォールの奇跡を利用してオールウエイ国のある別空間へと無事逃げおおせた後だ」
「東のサンタフォールだって・・・?二人はこの地にあるサンタマリスの奇跡を利用したのではなかったのか?」
「僕はアイシスとダグラスをカルマとダラス国の追手から逃す為、わざと情報を操作した」
「ダラス国ダグラス王の弟セフィードに姿を消したダグラス王は聖地サンタマリスでカルマ国の狩人ロト、アイシスに処刑されると?」
「ああ・・・そして我がカルマ一族もアイシスを連れ去ったのがダグラス王だとわかるとただちにダグラス王からアイシスを奪回するために戦闘態勢でこの聖地サンタマリスで待ち構えたのよ。だが、軍を率いてこの地を目指す途中でダラス国セフィードの耳に入ったのはアイシスが聖地サンタフォールでダグラス王と共に果てたという僕が流した偽りの情報だった。その情報にセフィードは怒り狂った。よほど兄王を慕っていたのだろうな・・・我がカルマ一族はどの国の王族にも生神と崇められ、カルマに逆らう者なぞはいなかったのにダラス国セフィードはその力とその知恵で我がカルマ族をこの地、聖地サンタマリスに閉じ込めたのだ」
「閉じ込められた・・・?あなたほどの人が?」
「ああ。当時はまだ父神が存命していてね?父は僕以上にアイシスを愛していた。だから僕がしたこともアイシスの事も全てわかっていてセフィードの行いを利用してワザとこの地に留まり国を築いたのさ。それはカルマの一族にあるまじき行為、法を律する者が法を犯したと言う前代未聞の罪をこの地に留まり償う為に。そう、僕とアイシスが法を犯した事でカルマ族の権威は失墜したのだ。だからこの地でカルマ族はおとなしくダラス国に罰せられこの世界の行く末を見守るだけにしたのだ。全てをダビデ王に託して」
「ダビデ・・・?」
「ああ。僕とアイシスの弟のダビデ。ディーンが王になればその名を継ぐ」
ああ!そう言えばディーンの二つ名は『野放図のダビデ』だったな?
「あ、あの、あのさ?まさかディーンも前世の記憶がある?いや、まさかの転生者?いやいや、まさかまさかのAIとか言う?」
「ブッブウゥー!残念、リョウ君、それは不正解。ディーンにはダビデの記憶が前世の記憶としてうっすらとはあるがこの世界の住人でアイシスと同じだよ。僕だけがこの世界のマスターでAIさ」
「そ、そうか・・・ちょっと安心した・・・でもさ?なら、ならさ?ん・・・?カルマはダビデが継いだ・・?だったら貴方は王にはならなかったの?マスターソロモン?」
「僕は処刑された。父神と一緒にダビデの手で」
!?
どう言うことだ・・・?
「だって、だってアイシス様は貴方の事をカルマの王と・・・?」
「ああ。アイシスがロトとして狩人だった時は僕が頭だったからね?父神の代わりに一族に命令を下していたのは全て僕だったからね?だから、だからこの地に閉じ込められた全ての責任は僕にあったのさ。それに僕はAIだからこの仮の肉体が滅んだところでどうとでもない。アイシスがいないこの世界には何も未練もなかったしね?ただ・・・そうだな?この世界の規律として存在していたカルマ王の父神を巻き込んだことだけは、そのことだけは・・・アイシスに謝れなかったな?・・・うん、それが唯一の反省点かな?まあ、その後はAIとしてこの世界を上から覗いていたしね?オールウエイ国を建国するアイシスとダグラスを眺めるのは楽しかったな」
マスター・・・スゲェ・・・マジこの世界の神だ・・・!
ん?あれっ?
「ちょ、ちょっと待って?貴方はAIでありながらこの世界の主人公格でもあるのでしょう?なら、『輪廻は繰り返す』・・・?だから?貴方は再びその姿でこの世界に生まれ出た?」
「ああ、アイシスを黄泉がえらせるためだけにね?」
それって、それって・・・!
「なら、なら、ダビデの生まれ変わりに・・・また・・・?」
また繰り返されるのならソロモンはもう一度ダビデに殺されるって事?
それは前世の俺がディーンに殺される?
それにこの国の王は半年前に死んだって聞いた・・・
まさか・・・まさか!
「まさかディーンは父王もその手で?」
「ああ、そうだね?フフッ。アイシスを失った今、僕の、ソロモン王の存在意義はこの世界には皆無だから構わないけど?」
何てことだ・・・何て・・・なら、なら!俺は俺を殺した奴の嫁になるってことかッ!?
「どうして僕もその時殺さなかったのか?不思議だねぇ?まあ?自分と同じ力を持ってるのはあいつと僕だけだからまだ利用価値があったのだろうね?」
ソロモン王は空を見上げた。
何もかもどうでもいいような薄ら笑いを浮かべて。
「って、リョウ君?」
俺は思わず立ち上がりそんなこの人の胸倉を力一杯掴んで叫んでいた。
「冗談じゃない!!あんた!自分の言ってる事わかってるのか!」
「なんだい?急に?」
「あんたは今、この国の王様なんだろう!?なんで簡単にこの国の民を見捨てる!?あんたはカルマの法を重んじるこの世界の規律なんだろう!?正義の味方なんだろう!?アイシス様が愛してやまないカルマの王の中の王なんだろう!!なんであんた、なんであんた、そんなに今の立場に責任感じないんだよ!!あんたを信じて着いて来た人達を守らないんだよ!?」
目の前にある自分の顔がそれでもヘラヘラ笑ってるのが無性に腹が立った。
「それはダビデの役目だ。僕もアイシスも父神もいなくなった後、あいつは一人でこの国を守ったんだ。カルマの威信と尊厳を守り、一族を守って存続させたのはあいつなんだ。だからそれは僕の役目ではない。この国の真の王は弟のダビデ王のディーンさ。あいつなら大丈夫だ」
ソロモンの目の前にあるシルフィーヌの顔はきっと怒りで瞳が爛々と輝き凄い形相なのだろう。
なのにそんな俺の怒りにもこのひとは平気だ。
「あんた、ヘイワーズを捨てるのか?」
胸倉を掴んだ手に力が入る。
「ヘイワーズ・・・?」
「あんた、ヘイワーズがあんたの事を想ってるのがわかってないのか?」
「それは・・・ククッ」
ここでまた笑ったその顔にもう俺は限界だ!
その顔面に素早くグーパンチを繰り出していた。
「おっと、僕のオリジナルは乱暴だな?」
だが素早くソロモンの左手がその手を掴んでいた。
「ク!あんた!それにディーンもなんでこの国にシルフィーヌを黙って置いてるのかわかってんのか!」
「花嫁とする為だろう?それにヘイワーズは僕の容姿が好きなだけだよ?」
「お前!お前はやっぱりただのAIだよ!ヘイワーズの、ディーンの覚悟がわかってないよなッ!!」
「何、騒いでんだ!亮!止めろ!」
いきなり俺の手をソロモンの胸倉から外したのはいつの間にやら来たヘイワーズだ。
ソロモンもヘイワーズを確認すると俺の手を放した。
「ソロモン王、お怪我は?亮が無礼な真似を。申し訳ございません」
「・・・・いい、ヘイワーズ。話をしていただけだ。それにもう、シルフィーヌは部屋で休ませるがいい」
それだけ言うとソロモンは優雅に王衣のマントを翻し、その場から立ち去ろうとする。
「待てよ、ソロモン!まだ話の途中だ!」
「亮、お前、まだ熱っぽいな?王の仰せの通りに」
ソロモンの肩を掴もうとする俺の手をヘイワーズがそう言って素早く握り締めると今度は俺を抱き上げようとする。
「!だ、大丈夫だ!放せよ!ヘイワーズ!」
「亮、身体、早く直さないと帰れないだろ?大人しく言う事聞くんだ」
「ほっといてくれ!」
「いいから。ベットで休もう」
本当にこいつは世話焼きだ。お前は俺の母親か!
俺はヘイワーズの腕の中で無駄だとわかっていながらもジタバタ抵抗を試みるがすぐに疲れてきた。
「・・・・・・・・・・ああ?ヘイワーズ」
「!は、はい。ソロモン王」
「!」
あ、まだいたのか、こいつ!
ソロモン王が薔薇の垣根に手を掛け、背中を向けたままヘイワーズに話しかける。
「リョウ君、オールウエイ国に明日、帰そうか?」
「え・・・?それは・・・」
「え・・・え!帰る!俺、帰るよ!ソロモン!ヘイワーズも!」
「亮、亮、待ってくれ。それはお前の『勾玉巴』の問題が解決してからの方がいい。それにディーンが言っただろう?今帰ると言う事は結界を張ってシルフィーヌの時を止める方法を選ぶことだ。亮はディーンの花嫁になる覚悟が出来たのか?」
「悪いがディーン王子とは結婚しない。結界を張って時も止めない。俺の運命は俺が決める」
今月はガッツリ仕事につかっていて亮君や一馬が話してくれません・・・
更新スローになりそうです・・・ごめんなさい。
長文読了ありがとうございました!




