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束縛の件

遅くなりましたが今日もよろしくお願いします!

「ほら、亮」

そう日本語で名前を呼んだのはヘイワーズだ。

俺の顔の前に口を開けろとスプーンを差し出す。

先程から牛乳と砂糖をかけて荒く潰した苺を親鳥がひなに与えるように甲斐甲斐しく俺に食べさせてくれているのだ。


ここがカルマ国と知らされた俺が自分がさらわれた事に気づくのにそんなに時間はかからなかった。

ただその自分の迂闊さにショックを受け更に身体の脱力感に負け、俺はそのまま、また眠りに落ちたようだ。

そして再度目を覚ました俺のベットサイドにはヘイワーズがスプーンと皿を構えて待っていた。

ソロモン王もディーン王子も侍女さえいないがこの立派な部屋は多分、宮殿の一室だ。

まだ起き上がれず、身体の自由が効かない俺はこの状態で正直ベッドの上でおおいに焦った。

そんな俺にシルフィーヌ姫はソロモン王の客人としてこの国では扱われるので誰も危害は加えないから安心しろとヘイワーズに説明され、今のこの状況に至る。




「上手いか?本当は練乳があればいいんだがな?まぁ、砂糖と牛乳で勘弁な?」


「・・・」


カラカラの喉の奥に甘ずっばいイチゴの香りと牛乳の優しい味が広がる。

正直、今の俺にはこののど越しの良さはとてもありがたい。

だから黙ってさっきから素直に口を開けている。

前世でまだ幼稚園児の時、はしかで高い熱が続いた俺は水を飲んでも吐き出し、母を凄く心配させたそうだ。赤い顔で苦しそうに息をしていた俺にばあちゃんが練乳をかけた苺をスプーンで押し潰したものを与えたら奇跡的に食べたそうだ。

それ以来、大きくなっても食欲不振の時は苺と練乳をどっさり入れてミキサーにかけたシェイクが俺のご飯がわりになった。


だが・・・


「元気になったらとうきびも食べさせてやる」

目の前のヘイワーズがそう言って笑う。


「へ?」

「フフッ、焼きとうもろこし、好きだろう?」


ああ、大好物だ・・・!何で知ってる?!


「・・どうして・・・?誰、お前?」

「唯の(いち)ファンだよ。佐伯亮のな?」

「ファン・・?前世の・・・?その・・・」

「ああ?前世の名前ね?大木拓哉。って、知らないよな?だがそれが俺の前世の名前だよ」

「おおき・・・たくやさん・・?」


おおき・・・大木たくや・・・?


「ああ、覚えてないだろう?いいさ。一度しか手紙のやり取りをしていないしな?」

「手紙?」

「ああ。いわゆる、ファンレター」

「えッ?手紙くれたんだ・・・大木さんで?それに・・ん?え・・?手紙返した?俺」

「ああ。嬉しかったよ?まさか、返事くれると思わなかったから。フフッ」

「待って。俺、なんて?なんて返したの?あ、まさか・・・とうもろこし畑のやつ?北海道の?」

「!そうだよ!とうきび畑の話。俺の実家のとうもろこしの話!・・・まさか、本当に」


「ああ、あの手紙はホントに羨ましくてさ。だって収穫したては生で食べられるって書いてたから俺、想像したらもう、何がなんでも仕事終わったら北海道行くんだ!とうもろこし食べまくるんだ!って一馬に話してパソコンで思わず北海道ツアー検索したよ?そしたら収穫時期がちょうど夏休みだろ?仕事の予定が山ほど入ってて行けなくて。だけどさ?今、アントワートの庭にはさ?トウモロコシ畑があるんだって、」


えッ・・・?


俺の顔がヘイワーズの大きな両手で優しく包み込まれる。

そしてとても嬉しそうに笑うヘイワーズの顔が目の前にある。


お、おおぅ!!な、なんだ?急に!近い!近いッ!


「お前・・・本当に、本当に亮なんだな?」

「なっ、何だよッ!?今さらッ!」


い、いつの間にスプーンと皿をサイドテーブルに置いたんだよッ!

それになんだ?その、必要以上に男前な笑顔は!

本当にあの有名な執事漫画のセバス〇ャンそっくりだな?お前!

黒いきちんと切り揃えたサラサラの髪に切れ長の二重のモスグリーンの瞳。

高い鼻に乗せた鼻眼鏡はとっても似合っている。


ああ、そうか、今日は髪を下ろしてるからさらにセ〇スチャンなんだ! 

・・・やっぱ、男前だわ・・・こいつ・・・って、ああ、違う違う!


「離せよ!」

焦って顔を押し返そうとそう言った俺から素早くヘイワーズは離れると今度はベット脇で深く腰を折り頭を下げた。


「済まなかった!亮。本当に。知らなかったとはいえ、シルフィーヌにひどい事を俺はしてしまった・・・本当に申し訳ない!」


「え?あ、」


そ、そうだな?確かにお前のおかげで髪も短くなったし、その・・・結構、危なかったからな?

俺も紗理奈も。


「謝って済む事ではないとはわかっている。だが、」

「あ、ああ!そうさ、謝られても・・・」 


どう対処すればいいか困り、焦る俺はその先の言葉を飲み込んだ。


そうだよ。こいつは紗理奈を殺そうとしたんだ。

なに、馴れ合ってんだ、俺・・・

こいつは敵なのに。


それでもヘイワーズは頭を下げたまま言葉を続ける。


「今、ヘイワーズの俺がこうして亮と話せるのはシルフィーヌの働きがあったからなんだ。だからせめてシルフィーヌが元気になるまで世話をさせてほしい」   


「ごめん(こうむ)る!このくらい、どうってことッ!」


俺は無理矢理ベットから上半身を起こし、立ち上がろうとした。


するとたちまち目の前がグルリと回る。


「へ・・・ッ?」

「無理するな」

そんな俺をヘイワーズが胸に抱き抱える。


うわぁぁぁ、気分悪い・・・平衡感覚がッ!平衡感覚がッ!


「うぇぇぇ・・・」

俺も思わずヘイワーズに胸にすがってしまった。

「ほら、言わんこっちゃない。大人しく寝てろよ?亮」

「う、うるさい!これくらい、だ、だいじょ・・・うぇぇぇ・・・」


おおぅ!!いきなりフリー〇ォールで急落下してる気分だ・・・最悪だぁぁぁッ!





「なに密着してんのさ?」


この声!


「ディーン。ノックなしか?」


だな?ディーン王子だな、って、クラクラして声の方向も確認できないよ・・・トホホ


「ヘイワーズ?いくら前世の『憧れの君』でも今は僕の花嫁だ。手、出すなよ?」

「そんなつもりはないさ。ただ、早くもとのシルフィーヌに戻してやりたいだけだ。こうなったのは俺にも責任があるからな?」


・・・・なに?俺って、そんなに重症なの?凄く不安になって来たじゃないか・・・!!


「何の・・・話なんだ・・・よ、ヘイワーズ?」

俺は掴んだヘイワーズを見上げる為に頭を上げるがまだ焦点が定まらない。

「亮はとにかくベットに。ほら、心配しなくていいから横になれよ?身体は時間が経てばもとに戻るから。な?横になろう」

「ああ、シルフィーヌ。君の事は僕が守るからゆっくり休むといい」


ベットに戻された俺は眼を開けらなくて頭を抱えてしまう。

なんだ・・・?これ・・・?ベットから起き上がれない程だなんて・・・

何でこんなに体調が悪いんだ?


俺、サンタクラークでどうにかなったのか?




そんな俺の頭を二人が両サイドからやさしく撫でる。


「や、止めろよ!気安く触んなッ!どうせ、俺、捕虜なんだろう!?」


俺は二人の手を押し退ける。


「いや?ヘイワーズから聞いただろう?ソロモンはシルフィーヌの容態が落ち着けばオールウェイ国に正式に送り届けると言っている。本当にシルフィーヌは客人扱いだから。心配しなくていいよ。まあ?送り届ける時に僕の妃として貰い受ける話も同時進行だけどね?」

ディーンがそう、サラッと返した。


「なッ・・?」


「止めろ、ディーン。ちゃんと俺が話すから。今言うな」

そんなヘイワーズの言葉を無視してディーンは俺を覗き込む。

「君。ずいぶん、自分が弱ってる事、自覚して焦ってるだろう?シルフィーヌの『印』はサンタクラークの生命力を上手く飽和させた。だが君自身が本来持っている生命力まで放出してしまったんだ。だから、連れ帰った」


はぁ?何だって!?


「『勾玉巴』の君はただでさえ、印持ちの中では一番寿命が短いんだ、なのに。このまま祖国に帰ったらシルフィーヌはもたないよ?そうだなぁ・・・?15歳まで持つかどうか?」


え・・・


「止めろと言ってる、ディーン」

「ヘイワーズ。リョウ君にはハッキリ言う方がいいのさ。でないと身体が動けるようになると自分の状態もわからないで逃亡するからな?なぁ、リョウ君?」


「う、嘘、言うなよ!!」

俺は再度、身体を無理矢理、起こして、ディーンの上着を掴む。

まだクラクラして焦点が定まらない俺の背中に手を回し身体を支えると、ディーンは俺の顎を持ち上げる。


「いいかい?リョウ君、良く聞いて?君を生き永らえさせる方法は結界を張り、君の時を止めるしかないのさ?そしてそんな事が出来るのはこの世界でソロモン王か、僕だけだよ?だからね?君は僕の側に一生いればいいだけの話だよ」


綺麗なヘーゼルの瞳が俺を見つめ微笑む。


「な、なんだよ!お前が・・お前が・・・ディーンが・・・!!」

そうしなければ助からないって言ったから!!


って、言いかけて俺はその言葉を呑みこむ。


い、いや、そうしなければみんな死んでた・・・

こいつの言う通りにしたから俺もみんなも生きている!



「そうだな?僕がシルフィーヌにそうしろと言ったからね?だから、僕が責任を取る。シルフィーヌ、安心して」


そう言って俺の額にディーンはキスを落とした。























ありがとうございました!



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