そして・・・・!の件
明けましておめでとうございます!
(ま、まだ、言ってもいけますよね・・・?)
もはや地表の『天空の鏡』は消滅してしまった。
星空を写し込んでいた美しい水鏡だった湖面上の雨水は下からせり上がって来た火球の熱にやられ、完全に蒸発したのだ。
俺は自分の赤く腫れあがった右手を見下ろす。
今は熱さを感じない。
その手の平のすぐ下に燃え盛る火球があるのにだ。
その火球は水槽の中を漂うオレンジ色の巨大なクラゲのように俺の目の前で上昇が止まっている。
いや、湖面を飛び出そうとしているのになにかに阻まれているようなのだ。
見えないが透明なガラス状の蓋が存在するようにつっかえているようなのだ。
・・・?なんだこれは・・・?だが、今のうちに消す?
「消すんじゃない、呑み込め」
えッ?!この声って???
足下ばかり睨んでいた俺の右からそう聞こえたので急いでその方向に目を凝らす。
「ディーンか!」
セルフィが叫ぶのが聞こえる。
そこにはヘイワーズを抱き上げたディーンが立っていた。
それも蒼く発光して地表を滑るように移動してきた。
「お前、逃げたんじゃ!?」
後ろからそんなアレンの声も聞こえた。
「ふん。このままではこいつが死ぬからな?」
俺の金の球体の中に無理矢理入って来たディーンは両腕に抱きかかえたヘイワーズの顔を見下ろす。
「それにこの機会を僕が逃すわけないだろう?」
「お前よくもここに来れたものだな?」
ハルクが腰の小刀に手を掛ける。
「待って、一馬」
だが、そんなハルクの肩を押さえて止めたのはトマに抱えられ、ハルクの肩を握ってい紗理奈だ。
「今この火球を抑えてるのはディーン王子よ」
「なんだって?」
「ああ、そうだ。今、僕はこの湖面一帯に別の結界を張り、サンタクラークが発動する為の出口である結界の門を塞いでいる。だがな?シルフィーヌ」
「私?」
「ああ、良く聞け。こうして僕が結界を張れるのは持ってあと、1分だ」
「1分!!」
「だからいいか?シルフィーヌ、隕石が『結界の門』にぶつかったらお前が取り込むんだ。その強烈な衝撃をお前の印の『勾玉巴』にな?アイシスが消滅した今、お前の意志でお前の『勾玉巴』でその莫大な生命力を相殺してくれ。でないと山ごとぶっ飛ぶ」
「なっ、消滅しただって!?アイシス様がッ!?」
「ああ、今、ダグラス王と一緒にな?」
「なんで・・・アイシス様・・・」
「その事は後だ」
「あ、ああ、そうだな・・・時間がないな。取り込むって、それって、どうやれば?」
「地表に着いた手から全てを吸い上げるイメージを頭に描け。そしてバルト。シルフィーヌの体力が増幅しすぎないようにお前が逆にその体力を吸い上げて放て。お前一人では無理だから繋がってる後ろの皆にも放出しろ。特にレオリオ王子に向かって放つんだ」
「シルフィーヌから奪って、皆に押し付ける感じでいいか?」
「ああ、いいぞ。そうしなければシルフィーヌとお前だけでは爆ぜるからな?」
え!俺とバルト、ボンッ!?
「うおぉぉッいッ?!」
俺はディーンを睨み声を張り上げる。
無責任で怖い事言うなッ!!
「なんだ?やらなければ僕の結界が破られた途端に皆、火球の熱で一瞬で影も型もなくなるぞ?さあ、どちらがいい?シルフィーヌ?」
今度は一瞬でジュッ!!ってか!?
「っ!!」
「まあ?悩んでる暇はないな。やろう、リョウ君」
後ろから有無を言わせない命令口調のセルフィの声がした。
「グッ・・・!し、承知」
鬼、鬼、鬼~ッ!
セルフィにディーン!!助かったら覚えてろよッ!!
「亮、大丈夫!」
「う、紗理奈は他人事だと思って!!」
「可能性は」
「無限大のウロボロスだろ!もう!わかったよ、承知した!」
「そう!信じましょう!バルトとレオリオ王子、二人の二倍の『ウロボロス』効果を!」
それって紗理奈?本当に効果二倍なんだよな!!
「ああ、後ろの奴らもバルト、レオリオ王子が放つ力に共鳴するからな?覇気に変換して、放て」
「ど、どうすれば!?」
レクサスが叫ぶ。
「『印』に雪崩れ込むその力を音に変えて放出する。頭でイメージしろ。呑み込んで、言霊に変換るイメージだ。そして喉の奥からそれを放て。言葉にしてな」
「皆で生きて帰る、必ず、帰る。そんな思いを言葉にすればいいのか?」
ハルクがそう言ってとディーンを見る。
「ああ、いいぞ・・・っ、ああ、限界だな、いいか?シルフィーヌ!」
「え!!ちょ、ちょっと、まだ、心の準備がっ!!」
「3!」
ディーンが顔を歪め叫ぶ。
「ちょッ!いきなり3!?」
大晦日カウントダウンの始まりかよッ!!
「2!1!」
なッ!
「0!」
南無さんッ!!
ドゴオオオオオオォォオオオオオオォンンンンンンンッ!!
俺の手の平に凄い衝撃が伝わったのと同時に湖面が大きく盛り上がる。
と同時にパリパリパリッと巨大な亀裂が縦横無尽に湖面を走る。
「「グゥッ!」」
ディーンと俺の口からは呻きが漏れる。
「「「うわぁッ!!!」」」
背後の皆の口々からも声が上がる。
それに合わせて透明なガラスが飛び散るように結界の破片が勢いよく舞い上がると亀裂の隙間から凄い光と熱が漏れ出して来る。
させるかッ!!
全部呑み込んでやる!
熱いのも、眩しいのも、このバカデカイ衝撃も!
まとめて吸い込んでやる!!
俺の手の平の下で結界の外に飛び出そうとしていたオレンジ色の光が同じ方向へと動き始める。
その燃え盛る炎と衝撃の塊は今、海の渦潮のようにグルグルと回り、巨大なオレンジの渦を巻く。
そしてその中心は俺の手の下に集まっている。
俺はバキュームだ、強力な掃除機だ!!
そう!俺のこの手の平はダイソ○の掃除機だッ!!!
その赤い俺の手の甲にバルトの手が重ねられる。
するとその上にもう一つ手が重ねられる。
それを合図に俺は声を張り上げる。
「レオッ!バルト!行くわよ!」
「「ああ!シルフィーヌ!!」」
「姫さん、まだ無理だよ?採掘場から正規の道で急いで戻って来ても今日の夜になるよ?丸二日は楽にかかるんだ。もうすぐ、昼食だしね?家の中で待ってなよ?」
ここはティッカの村に入る全ての道が見渡せる村の中にある小高い丘だ。
セルフィ達とは『巨石の谷』で別れてからもう二日経つ。
サロメは朝早くからここに来て立ったり座ったりをずっと繰り返しているのだ。
そんなサロメの様子を昼食に呼びに来たティッカが見かねて声を掛けたのだ。
「べ、別に。待ってなんてないわよ?ケチャ、そう、ケチャ、探してるだけなんだから。どこに行ったのかしらね?ケーチャー!」
「ケチャならとっくに夜の猫集会から帰って来て姫さんの椅子温めてるけど?」
ティッカの家に着いてからずっと、サロメはティッカの飼い猫のケチャを抱いて離さないのだ。
おかげでケチャは昼間はどこにも行けずサロメが眠った夜、やっと解放され外で羽根を伸ばしていた。
だが、朝になると飼い主のティッカのベットではなくてサロメのベットで寝ていたのがティッカにとっては少し不満なのだがーー
「え?あ・・・そう?」
「サロメ様!」
その声に二人が振り返るとサルトが丘を上がって来るのが見える。
「ほら、姫さんの事、みんな心配してんだ・・・まあ、仕方ないよね?ああ!どうせ、今日一日ここで待つのなら!」
「ん?ティッカ?」
「って、ここで頂くの?」
丘の柔らかそうな草の上に大きめのシーツを敷いてそこにティッカはサロメを座らせるとカレブと作ったサンドイッチを並べる。
「ああ。どうせ、昼から用事はないんだ。ここで食事をしてのんびり待とうよ?みんなの帰り」
しかし飲み物と手拭きを用意するとカレブは立ち上がる。
「私は皆さんが帰られた時の食事の手配を」
「ああ?それなら私も一緒に」
サルトも急いで立ち上がる。
ティッカがそんなカレブとサルトの手を引いてシーツに一緒に座らせる。
「カレブ、サルトも。多めに作ったんだからここで食べてよ?それに夕食は村の皆にもらえばいいし。村の皆はセルフィ様達が帰ってきたら絶対!ぜぇーったあいッに!その話を聞きたがるんだから!その為なら喜んでごちそうしてくれるさ?だからゆっくりここで昼食でも食べながら待つとしようよ?それに姫さんもここ離れないだろうしね?」
笑いながらそう提案してくるティッカにカレブとサルトは顔を見合わせる。
そして少し苦笑して二人は頷いた。
サンドイッチを眺めまわすサロメにカレブが手で掴んで食べれますよ?とサロメにサンドイッチを進めると今度はサルトがサンドイッチをほおばり、もぐもぐと食べて見せる。
そんな3人を見つめていたティッカが急に叫ぶ。
「そうだ!サルト!」
「なんでふか?ティッカじょおー?」
「それ、ティッカ嬢ってホント、照れる・・・けど、そう呼んでくれるの今だけだからそのままで頼む」
「ええ、もひろん。それれ、ウんッ、あ、やっと飲み込めた、失礼?なんですか?ティッカ嬢」
もう一口大きく口を開けてサルトがサンドイッチをほおばるとサロメも真似をして齧った。
「うん。あんたさぁ?セルフィ様に食い下がっただろう?あれって?」
「あ・・・美味しい・・・!ああ、それってティッカ?アレンの為よ。ね?サルト?」
サロメが気に入ったのかサンドイッチをもう一口齧りながら、話に入って来た。
「グッ!!」
思わずほおばったサンドイッチにサルトがむせるとカレブが背中をさすりながら代わりに答える。
「いいえ、シルフィーヌ様の為です。サルトは」
「うッ、う、や、止めれくらさい、カァレェフッ!ぐ!」
胸を軽く叩きながら反論するサルトにカレブはお構いなしに答える。
「サルトはシルフィーヌ様一筋です」
「「え・・・?そうなの?・・・なんだ・・・」」
その言葉にサロメとティッカはキョトンとした。
「や、止めて下さい!カレブ!そ、それに、どうしてアレン様が出て来るんですか?どうしてッ?!」
やっとサンドイッチを呑み込んでそれでも顔を真っ赤にしてサルトがサロメとティッカに向かって叫ぶのを見ておやッ?と首を傾げるカレブ。
「え?だって、ねぇ?ティッカ?」
「え?ああ、凄く仲が良かったからてっきり」
「な、仲が良かったのはシルフィーヌ様の話で盛り上がったからです!!他意はありません!」
ますます赤くなるサルトにサロメとティッカは疑いの眼だ。
「へーッ・・・そうなんだ・・シルフィーヌの事でねぇ?」
「ふーん?そうなんだ?サルトは自分ちのお嬢さん一筋なんだ・・・?そうなんだ?」
「そうか?ふーん、そうなのか?これは油断したな?」
「なッ!!カ、カレブまで!その目はなんなんです!?その目は!それに何を油断したんです!?」
三人のジト目に必死で言い返せば言い返すほど言い訳がましくなっていることに気付いてないサルトだった。
遅くなりましたが今年もどうぞ、よろしくお願いいたします!




