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ダラス国~アイシスとダグラス王~の件

今日もよろしくお願いします!

「気が付いたか・・・?」


自分が目覚めたのが豪奢(ごうしゃ)なベットの上だと気づき急いで上半身を起こす。

そんな私にベットの側に置かれたこれもまた豪奢な椅子に前のめりで座る人物がそう声を掛けてきたのだ。

耳に心地良いこの響きは私の好きないつもの声だ。

だが、自分からはその人の顔を二度と見る事はないと思っていた。

だから今も自分からは見ようとはしない。


「ここは・・・?」


「私の部屋だ。心配する事はない」


「・・・立派な部屋だ・・・まるで王宮のようだ・・・な?」


自分がいる場所を見極めようと目を凝らして見回すがやけにだだっ広くて白い壁が目立つ。

そんな白亜の空間に今はこの男性と二人きり。

とても静かだ。

見上げた天井も異常に高くて白い。

だが、その天井に一瞬で目を奪われた。


そこには長くて柔らかそうな金髪(ブロンド)をなびかせ、海のように青く澄んだ瞳で私を見下ろす美しい女性が浮かんでいる。

そ後光が射すその女性の背後には白く輝く大きく羽ばたいた翼があり、長い両手を差し出している。

そう、天井にはこちらから手を伸ばして受け止めようと思ってしまうくらい、今にも胸に飛び込んで来ようとするとても現実的(リアル)な天使が描かれていたのだ。

特に素晴らしのがフレスコ画で描かれたその表情だ。

とても女性らしく花が咲き誇ったような一度見れば忘れられないこぼれんばかりの神々しい笑みなのだ。


「私の城だ。ああ?驚いたみたいだな?フフッ、とても君に似ているだろう?」


私がずっと天使を見上げているのでそう言ったのだろう。


「似ている・・・?この天使が?どこが・・・?髪も瞳の色も顔も全く似ていないぞ」

「いや。この笑顔は君の笑顔そのものだ・・・この天使は我が先祖が聖地サンタクロスで見た勇者だ」

「勇者・・・?・・・まさかロトか?」

「ああ。まさに君だろう?アイシス・ロト・カルマ。カルマ族の美しい姫神よ」

「・・・これ(・・)が私の先祖だと知ったから興味を持って私にちょっかいを出したのか?だからこの私を(さら)ったのか?ああ?私の背にも翼があるか確かめたかったか?アーサーよ?いや、ダグラス王だったな」

「やはり私がダラス国王のダグラスだと知ったから婚約破棄か?」

「ああ。まんまと偽られたわ?さぞかし、面白かった事だろう?自分が狩る相手だとは知らず、口車に乗って愛を誓った浅はかな女だと・・・自分でもその軽率さにあきれ返ったわ。で?私をどうするつもりだ?やはりまずは手籠めにして翼があるかその目で確かめるか?」

「暴力で奪えるのならとっくにやっている。あいにく私の欲しいモノは君の体でも神と(あが)められた君の名声でもない」


いつの間にかベットの端に腰かけたダグラス王が一向に自分を見ない私の顔を無理矢理、覗き込み微笑む。


「君の笑顔が欲しい。いつも側にいて笑っていて欲しいのだ」


目の前にはとても美しい顔の青年王がいる。

白金(プラチナブロンド)の肩までの髪に瑠璃色の二重の瞳は私を写し、その口元は微笑みをたたえて。


「まあ?背中の翼はとても興味のあることだが・・・フフッ」


そう言うと逞しいその腕の中にそっと私を抱き寄せる。



この、優しい笑顔にごまかされてはならない。

私はこの男を即刻、狩らねばならないのだ。

この男はこの虫も殺さぬような美しい顔で平気で数々の国の指導者を殺戮し、数えきれない国を潰し、その国々の民の生死を左右してきたのだ。

この腕の中の温もりにほだされてはならない。

この者が犯した罪は『生きる為の道理』ではなく、興味本位で行われたものだ。

決して許せるものではない。


私は『因果応報(カルマ)の法』を重んじるカルマ一族の狩人(ハンター)

罪を犯した者は罰せねばならない。

それがこのロトの生まれ変わりと言われた私の宿命。


だが・・・


「ダグラス王、今、すぐ私を開放してもらおうか?」

「この腕の中から?」

「ああ。この国からもな?」


すると私を抱き寄せた腕に力を入れ逆に抱き締められた。


「嫌だな?それが出来ないから攫ってきたのだろう?私は君に誓ったではないか?『君しかいらない。永遠に私は君のものだ』と。君の笑顔が見られるのなら、私は全て捨てる。王位も国も弟さえも。それで君が私に笑ってくれるならこの命すら君に捧げる」


その真剣な言葉に、必死に私を逃そまいとするその強い腕の力に抵抗出来ない自分がいる。


しかし・・・

「今なら」


「今なら?なんだ?アイシス?」

「まだお互い逃げる事が出来る」

「逃げる?君から?私が?なぜ?有り得ない。私は君無しでは生きる意味がないのだ」

「私と添い遂げる事も生きる事ではないではないか?」

「なんだ・・・それも知っていたからか?・・・そうか・・・フフッ、だからか?だから私から身を引いたのか?」


私とダグラスには(つがい)の証だとされる『印』がある。

だからお互い愛を誓ったのだ。

なのに現実は違った。

私がダグラスを愛すれば愛するほどダグラスの寿命を奪うのがこの私の『印』の本当の役目だと聞かされた。

愛しい番を死に追いやるのが自分の『印』だと知らされて私は呆然とした。

ただでさえ狩らねばならぬ相手なのに、さらに酷い、私にはとても直視できない現実を叩きつけられたのだ。


「自分の腕の中で安らかに眠っている(つがい)の命を自分が奪うなど真っ平ごめんだ」

私は下を向いてダグラスの胸を強く押すと無理矢理身体を離した。


人が真剣に悩んで決断した苦渋の選択を鼻先で笑われたようで腹が立ったのだ。

それに勝手に私をここに連れて来て自分はダグラス王だとヌケヌケと認めた事にも凄く怒りがこみあげて来た。


「私はそなたなぞ知らぬ。ここにも来ていない。帰る」

急いでベットから飛び降りると部屋から出る扉に向かう。

ダグラスも立ち上がり私の背後を追う気配がするが無視だ。

「ロトも、この天使も愛してはならない相手を愛した事実を知っているか?」

背後から手を掴みそう問いかけるが私は止まらない。

「・・・バルティスはロトが葬り去った。歴史ではそうなっている」

「ならどうして私がいるのだ?」

「・・・?知らんな」

扉の取っ手を握った私の手に背後からダグラスの大きな手が重なり扉を開けさせない。

「このダラス国の基礎を作ったのはその二人だ。つまりこの私はロトの末裔でもある」

「まさか?・・・また私を騙すつもりなのか?放せ!」

「そしてこの二人にも『印』があった。君と私と全く同じ『印』があったのだ」

「放せと言っている。それに嘘はもう、十分だ!『印』があったなら添い遂げる事など出来ないではないか!たとえ自分が罰する為に余生を奪わねばならない相手でも、愛してしまったら!愛してしまったら、自分の手で殺すことなど・・・この手でなど!出来るわけがない・・・こんな事、こんな事を私に言わせてお前はそんなに面白いのか?私の心を持て遊ぶ事が・・・ッ!」


扉を引こうと力が入る自分の手を止めるダグラスの手の甲に涙が落ちる。

それもぽたぽたと音を立てて次から次へとダグラスの手を濡らす。


すると後ろからまたやさしく、しかししっかりと身体を包み込むように抱き込まれる。

「ああ、アイシス・・・私の愛しい君。一人で悩ませて、一人で悲しい想いをさせて本当にすまなかった」


そして更に私の耳元でダグラスの言葉が囁かれる。


「だが全て事実、事実なのだこの話は。ロトとバルティスの二人はその後、余生を添い遂げ子供も三人残している。だから、だから心配しなくていいのだ、私の大事な姫よ。荒業(あらわざ)ではあるが全て解決する策があるから私も君を探し当てたのだ。だから君に、私は求婚したのだ。だから、どうか、アイシス、私を信じて欲しい。そして私に誓って欲しい。君の余生を私にくれると。私とこの世界を捨て違う世界で共に生きると。どうか、アイシス、私の妻に」



その真剣な願いに、切ない叫びに、嘘だと否定して逃げ出すことも私には出来たはず。

だがその言葉に私は全て持っていかれたのだ。


私の心をーー









ハハッ・・・

なんてこった・・・

俺がレオリオやバルトの寿命を縮めるとは・・・


頭をフライパンで殴られたような不意打ちに俺は叫び出したくなった。

過去のアイシスと同じように。



「間違いなくシルフィーヌとレオリオ王子、バルトの『印』についても同じ事が言えるのですね?アイシス様」

ミシュリーナの紗理奈が話し終わったアイシスにそう、もう一度確認する。

「いかにも」


「なら、アイシス様、亮を呼んで下さい。今から解決策を考えるのよ?亮。二人の寿命を縮めないで済む方法のね?ダグラス王もバルティスも添い遂げられたのだから。亮、出て来て」

(リョウ、サリナが、皆が呼んでるぞ?)

(え?あ・・・嫌です、アイシス様!何か泣いてしまうから・・・それに無理です俺、二人とも大事なんです。だから俺・・・嫌です)

(何を聞いていたんだ?そなたは。グチグチ言ってないで早く行け!)

(またっ!!アイシス様!嫌だって!言ってって、うぉう!)

嫌がる俺を表に突き出すようにアイシス様がシルフィーヌの身体の主導権を無理矢理、俺と入れ替えた。


「亮?」

目の前にはしっかり俺の両腕を掴み真剣な顔で見上げるミシュリーナがいる。

「・・・うー、紗理奈、俺、やっぱり二人とは結婚しない・・・」


「は?・・・亮?・・・何言ってるのよ?」

「嫌だ・・・紗理奈。出来ないよ・・・そんな保障すらない話、信じられるもんか!」

「しっかりしなさい!あなたが決断しないでどうするの!?」

「嫌だから!俺のせいで早死にしてしまうんだろう!?レオリオもバルトも!」


「心配しなくていい。それで正常なのだよ、亮君。それが普通の人間の寿命なのだから」


背後から聞こえるその声に俺達は一斉に振り返る。


「「セルフィ様!?」」








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