それを手に入れるのは誰の件
今日もよろしくお願いします!
その輝きがあとどれくらいの時間とどれ程の威力で落下してくるのか、俺達はその不安に慄きながらその星を見上げる。
「さあ、お前達。あれが何かわかるか?」
ソロモン王はディーンが抑えているヘイワーズの肩を掴んで下がらすと黒のマントを翻して俺達に向かって歩いて来る。
俺達とは対照的にソロモン王は余裕の笑顔でそう尋ねる。
「〝サンタクラーク″・・・と呼ばれている隕石だよな?」
「ピンポーン!そう。オリジナル亮が言う通り、隕石は当たり。だけど、〝サンタクラーク″はここだ」
レオリオの目の前、お互い剣を構えて間合いを取るにはいい距離まで近づいたソロモン王は立ち止まると自分のブーツの踵でコツコツと足下の白い地表を蹴る。
「ここ・・・?ここだって?この場所が?」
レオリオの後ろに立つ俺も塩の積もった地表を見下ろす。
「ああ、そうさ。ここに現れるんだ。いや、違うな?呼び寄せるのだな」
「呼び寄せるだって?・・・やっぱり、あの隕石がここに降って来るって事だよな!?」
俺は宙を見上げ一際輝くその星を睨む。
「まあ、落ち着けよ?オリジナル亮。お前達もあの隕石と一緒にこの山ごと吹っ飛ぶのはごめんだろう?なら、ミシュリーナ?」
ソロモン王の視線が一番小さなミシュリーナの紗理奈に移る。
「えッ!?あッ、私?」
「そう、君。君の持ってる髪飾り。ルビーと翡翠がはめこんであるだろう?それが鍵なんだ」
「鍵?」
「そう、鍵。『天空の鏡』を開ける鍵」
「『天空の鏡』を開けるですって・・・?まさか・・・?この塩湖を開けると言うの?」
「おや?理解が速いな。そう。そう言う事だ。その鍵は支配者の僕か、子孫の君にしか扱えない。タマリ族、長にしか〝認証″出来ない仕掛けがある」
「認証・・・?あッ!まさか、私の掌?だったら指紋認証って事?」
「もっと精密。生きてる君の手しか認証しない。サーモグラフィ付きで血液が流れている君の血管の細部の位置まで読み取って認証するのさ」
「なんだ?その最新の銀行の隠し金庫に着いていそうなセキュリティは・・・?」
ハルクが忌々しげにそう返す。
「嫌だな?ゲームにはつき物だろう?ちゃんと条件をクリアしないと先には進めない。君達がタマリ族女王のミシュリーナを連れて来たのは正解。そして、『ウロボロス』」
「「なんだ?」」
レオリオと同時にそう答えたバルトが腰の剣を引き抜き歩いて来るとレオリオと並び構える。
「おやおや?『ウロボロス』が2匹も紛れていたとは?以前はアーサー、いや、ダグラス王だけだったのにねぇ?・・・マザーは僕にも試練を与えるのかねぇ・・・?」
「『ウロボロス』はマスターコンピュータのお前には扱えないはずだ。お前のプログラミングの中には存在しないデーターだろう?」
俺はしっかりとソロモンの視線を捉えそう答えてやる。
「ハッハアッ!!僕を誰だとッ?オリジナル亮?『ウロボロス』なんて過去のダグラスで学習済みさ?ダグラス、君は天候を操れるだろう?その力、今ここで大いに発揮してもらおうか?バルト、君もだ。時間がないから早急に雨を降らせこの干上がった塩湖に水を貯めてくれないかな?ではさっそく始めて貰おうとしよう。悪いね?オリジナル亮、シルフィーヌを生贄に使わせてもらうよ?」
ソロモン王がそう言い終わらないうちに俺の目の前のレオリオとバルトが同時に崩れる。
「なッ!?」
そして俺の目の前いっぱいに笑った前世の俺、佐伯亮の顔が現れる。
「「させるかッ!!」」
俺の頭上で激しい金属音が鳴り響く。
振り下ろした剣を握り笑ったソロモン王が俺の目の前にいる。
同じく剣を構えたハルクが俺の一歩前にいる。
そのハルクの横にはルカも剣を構えていた。
その二人の剣が交差してソロモン王が俺の頭上ギリギリに振り下ろした剣を受け止めていた。
「ああ、速いね?ハルクにルカ。さすが僕の支配下では一番のヒーローだ、ハルク。ルカもさ?可愛いい妹の事となると命がけだ。でも、邪魔しないでくれるかな二人共?でないとみんな死んじゃうよ?」
「・・・レ、レオッ・・・?バルトッもッ!?」
俺はソロモン王の足下の地面に突っ伏している二人が信じられずに声を上げる。
「ああ、オリジナル亮?心配しないでいいよ?二人は峰打ちだから。だけど君のシルフィーヌの肉体は今すぐ切り刻むけど?」
その言葉に反応するように突っ伏している二人がかすかに動くと小さな呻き声が聞こえる。
良かった!生きてる!二人共ッ!
「ソロモンッ!亮に手を上げた事、許さんぞッ!」
「ソロモンッ!我が妹へのこの仕打ち・・・許すまじ!」
ハルクとルカはそう叫ぶと一気にソロモンの剣を弾き返す。
その勢いにソロモン王は後ろに飛ばされるが相変わらずの余裕の表情で軽く地面に着地すると上唇をぺろりと舐めた。
「邪魔だなぁ?本当にお前達はバグの分際でさぁ?ああ、その場からみんな勝手に動くんじゃないって言ってなかった?僕は余計な殺生はしないけど常に効率的に事が運ぶようには考えているからさ?邪魔なモノは排除するよ?」
そう言うとハルクとルカに剣を向けるその瞳が金色に輝く。
「待ちなさいッ!ソロモン。今、みんなに手を出したら私はこの鍵を飲み込むわよッ!!」
突然、俺の横に立つミシュリーナの紗理奈が右手で髪飾りを握り締め頭上にかざしたかと思うとソロモンに大きな声でそう叫んだ。
同時に剣を引き抜いたトマがそのミシュリーナを庇う様に盾となる。
「おや?ミシュリーナ、言っただろう?マスターの僕もそれを扱えると。だからお前がそれを飲み込んだら即、真っ二つに斬り裂いて胃袋から取り出すだけだ。そのお前の周りの雑魚達も一緒にな?」
「亮のその顔と声で怖いこと平気で言わないでよッ!じゃあ!取引よ!マスターソロモン!貴方がこのゲームでの最終攻略者になる方法を教えてあげるわ!」
「ほう?面白い事を言うな?ミシュリーナ。ゲームの最終攻略者にだって?それはいつもこの私なのに。本当におかしな事を言う奴だな、お前は?余計なバグだ。・・・ああ、それにマザーの事も知っていたな?」
「自分が最終攻略者だって言い張るなら貴方がHAPPYになるのでしょうね?なれなければ田代優弥の意志は果たせないってこと、貴方、わかってるのかしら?そして出来るのかしらただのソフトの貴方が。膨大なデーターから学習してもプログラムの中で想定される事は所詮、想定されたクリア方法でしかない。奇跡と呼ぶにはほど遠い。なぜなら貴方は今回みたいに『ウロボロス』が二人いる意味も解ってないじゃないの!」
「学習出来ない想定されていない奇跡だって?バカな。そんなものは初めから組み込まれていない時点でこの世界での結果は出せない。それに最高の攻略法は全て僕の中にある。それこそ最高の確率のね?君達が奇跡と呼ぶのは確率が最も0に近いもので上手く事を成し遂げた時起こる事象なのだろう?そんな確実性のない希少なものの方が僕から言わせれば皆無だ。僕ならば何億回も試された膨大なデーターの中からより安全で一番確率の高い攻略法で確実に駒を先に進める。ああ、違うな?駒を先に進めるのではなくて先回りをするのがこの僕だ。なら、ミシュリーナ?僕がここで『ウロボロス』に天地を操る状態に精神を追い込む手っ取り早い方法に間違いがあると?」
「シルフィーヌを亡き者にしてレオリオとバルトの『ウロボロス』に強い怒りを与えるのでしょう?AIソロモン。確かにそれが手っ取り早いわね?強い怒りで二人はその天候をも操る力は発揮するからね?しかしそれはこの世界の最終攻略方法であってはならないはずよ!ソロモン!なぜならそれは、この物語のBATENDなのよ?この『バウンダリー』の世界ではあってはならない事なのよ!ソロモン王!」
「お前・・・?誰だ・・・?」
「貴方のやり方ではヒロインは救えない。独りよがりのその方法ではヒロインはおろか、最終、誰も幸せに出来ないのよ?田代優弥が提示したバウンダリーの意味を理解出来てないなんてとんだ愚か者ね?|マスターソロモン。賢者が聞いてあきれるわ!!」
小さなミシュリーがソロモンを指さし叫ぶ。
「なんと・・・なんと、無礼な!!バグの分際でこの余にその様な罵詈雑言、許すまじ、ミシュリーナッ!!」
「無礼者は貴様だ、ソロモン」
セルフィがソロモン王の後ろに一瞬で移動して首に剣を突き付けていた。
そのセルフィの背後にぴったりと背を張り付けたフリードがソロモン王の背後に控えていたディーン王子とヘイワーズを相手取り睨みつけていた。
そしてそのフリードと一緒にアレンも並び剣を構えていた。
「おやおや?お前は確か・・・殺したはずだがな?」
アレンを見たディーンが手に持つ剣を構える。
「お前こそ腹に開いた風穴が寒いんじゃないのか?ここで会ったが100年目・・・今日の俺様はこの間とは一味違うからな?」
アレンが剣を構え直すとディーンは馬鹿にしたように笑う。
「ふふん?お前の相手なぞヘイワーズで十分だ!」
そう言い終わらないうちにディーンの剣はフリードに突き刺さっていた。
ソロモン、お口悪くてすみませんです。
ありがとうございました!




