セイラの件
今日もよろしくお願いします。
その夜。
カレブを連れてルカの部屋を訪れた。
ルカは長椅子に座り分厚い本を何冊も積み上げ調べものをしていた。
「出直します」
「いや、構わないが。なんだ?」
「ではすぐ済みますので。あっ、サルト、カレブとルカお兄様の後ろに並んで」
二人は顔を見合わせ長椅子の後ろに回りルカの両サイドに立った。
俺は三人の正面にテーブルを挟んで腰に手を当て鼻息荒くまくし立てた。
「ロト!どうして教えてくれなかったの!?伝説の勇者様の名前だと!もう!私知らなかったから、ずっと、伝説の勇者様参上!!みたいな事、やってた訳よね?!恥ずかしいわ!なんで?教えてよ!恥ずかしくてもうグランドマッスル出れないじゃない!」
怒りと恥ずかしさで俺の顔は真っ赤だろうが知った事か!
「シルフィーヌお嬢様はロト様ですから」
真顔でサルトが答えるとカレブも頷きながら
「伝説の勇者様を名乗っていいのはお嬢様だけです」と断言した。
はあ?何言ってんの!?訳わかんない事言ってんじゃねえーよ!!
「だそうだ。勇者が負けたからって八つ当たりするな。来年頑張ろうな?」
ルカも目を細めて言う。
何!?ルカまで何なの、その返し?おかしいぞ!!お前ら!!
「来年は出ませんから!!恥ずかしいの!!」
俺は思いっきり膨れた。
本当はリベンジしたいけどみんなに心配かけたし、ロトはもう恥ずかしくて無理だし!
「来年勇者様、ロト様、観客の皆様も楽しみにしておりますよ?シルフィーヌ様・・・」
何、その情報?サルト、その温かい目、止めてくれる?
「来年は怪我の無いようにしっかり対策を練って挑みましょう。我々がついておりますよ?シルフィーヌ様。何の心配も無用です」
いや、カレブ、なんで俺怒ってるか分かってるのか、お前?
「赤髪の魔王をムチで退治する楽しみは勇者様に来年まで残してやったんだから、また来年な?シルフィーヌ?期待してるぞ」
うんうん頷くサルトとカレブをバックにルカは黒い笑みを浮かべた。
・・・・・バルト、やっぱり魔王はルカだよ。
それからしばらくは王都で王妃教育を受けながら王宮通い。レオリオも忙しいらしく初日しかゆっくり話せなかった。おかげでと言うかあれから二人きりになることはなかったので俺の貞操は無事である。それでも毎日治療室にレオリオは時間を作って顔を出してくれた。俺も帰り際には「また、明日ね、レオ」と毎日頬に軽いキスのサービスをした。心配かけたせめてもの罪滅ぼしと溜められてまた迫られたら困るので予防だ。(何を溜めるかは聞かないで。俺も17年男だったからレオリオの気持ちわからなくはないからな)
まあ、毎日会えるのは俺も新鮮だし。
帰り際にレオリオが小さく手を振るのを見るとすごく寂しくなる。こんなんで婚約破棄された時大丈夫なんだろうか?まだ5年、あと、5年、俺の中で少しずつ少しずつ気持ちの整理をしていかなければな・・・ゲームの悪役令嬢みたいに嫉妬に狂って何かしでかすかもしれない。
本当に好きなのにな。ちょっと切ないよ。
「シルフィーヌ、明日はお父様と陛下にお礼を申し上げに王宮に行こうか。綺麗に治って良かったな。やっとお母様に会えるな。まあ、お父様はルカとシルフィーヌが居なくなるのはちょっと寂しいがな」
医者がもうバルトがくれた薬だけでいいでしょうと治療終了を告げた日の夕食の席での事だ。
お父様も忙しいのに出来るだけ夕食を俺達ととれるようにしてくれている。
そうか、明日には領地に帰れるのだ。
俺はお父様に頷いた。
「私もお父様と一緒に毎日いたいな・・・・」
ちょっとお父様ヨイショだ。
「レオリオ王子と一緒にいたいの間違いだよね?」
ルカがシラッと言う。
うっ、うるさいな!べ、別にそんな事いってないだろっ!
お父様は俺のヨイショに舞い上がりルカの声は聞こえてなかったみたいだ。
後ろに控えているサルトが笑いを噛み殺している。
サルト、後で覚えていろ、久しぶりの剣の稽古でギタギタにしてやるからな。
「ルカも明日は一緒に王宮に行くぞ」
「自分もですか?」
「ああ、将来の宰相様と話がしたいそうだ。王妃様がな」
王妃様の誘いは何かある。
俺はルカを盗み見る。ルカも俺をチラリと見て、
「分かりました」
と返事をした。
「まあ、傷が無事に治って良かったこと。とても心配したのよ?」
王妃が俺を見るなり声をかけた。
「ありがとうございます。これも両陛下のお心配りの賜物です。感謝申し上げます」
俺は恭しく淑女の礼をとる。
「うむ、将来の我が娘だと思うと当たり前のことよ」
陛下も笑顔だ。
今、俺、お父様、ルカは宮殿の玉座の間にて両陛下と対面している。
「本日、領地に帰らせますのでお礼をと。両陛下には貴重なお時間を頂きありがとうございます」
とお父様も俺と一緒に頭を下げてくれた。
王妃が俺の横に立つルカを見てにっこり微笑む。
「今日は息子のルカも一緒に連れて参りました」
「両陛下にはご機嫌麗しゅう。ルカ・アントワートでございます。本日は私もシルフィーヌのお礼を申し上げに参りました。ありがとうございました」
ルカが凛とした声で臣下の礼をとり頭を下げた。
ルカ、スゲー、かっこいい!!今日は白の正装だからいつもの二割増しだよ!!
普段着でも侍女達が鼻血出しそうなのに今日は後光射してるよ!
ほら、王妃様がお父様とルカを見て溜息ついてるよ。扇子で顔隠してね、王妃様。
陛下、微笑みのまま。読めない。さすがだ。
「キャウ!」
えっ?ハムスター踏んだ?
俺とルカが不審に思っていると王妃の玉座の後ろから5歳くらいの女の子が飛び出して来て、俺のドレスとルカのパンツの裾を掴んだ。
「セイラ!!待ちなさい!」
王妃がこの子に向かって窘めた。
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