馬鹿は死ななきゃ治らないの件
今日もよろしくお願い致します!
「レオッ!、レオッ!?」
俺はうずくまるレオリオの横に屈むと急いで肩を掴み顔を覗き込む。
バルトも急いでレオリオの側によると後ろから支える。
ハルクもアレンの肩を抱えている。
「クゥッ・・・だ、大丈夫、シルフィーヌ、バルト・・ただ、顔が引っぱられるように皮膚が突っ張ってるみたいなんだ・・」
「ああ・・・ハルク、俺もだ・・・何か傷跡が突っ張るんだ・・・それも強烈に・・・クッ!」
「アレン、俺の肩に捕まれ。ほら、ああ、そうだ・・・ん?」
そう言ってハルクが顔を歪めるアレンを抱き抱えた時に自分の左手を見て目を見張る。
「まさか?・・・傷が、傷が消えて行く・・・?亮!!見ろ、傷が消えたぞ!!」
ハルクが俺に向かって広げた左手の平を見ると確かに親指の根元にあった俺が5歳の時に噛んでつけた傷の跡が綺麗に消えている。
「なんだ・・・!?それ!まさか、回復したとか言う・・・?レオ!レオの顔も見せてッ!」
するとゆっくりと顔を上げたレオリオの頬にあった酷い青あざは俺の目の前で薄い黄色になっていき徐々に綺麗な肌へと変化していく。
「「うそッ・・・!」」
俺が叫ぶとミシュリーナの紗理奈も同時に叫んだ。
「「どうしたッ!紗理奈!」」
「亮!一馬!私の手の甲にあった小さな火傷の跡も何か痒いなって思ってたら綺麗になってるの!あ、掌も綺麗だわ。あんなにまめや節のあるギスギスした手だったのに」
「ああ、ハルク。俺も今は痒くなってきている・・何か、かさぶたが剥がれる前みたいに強烈に傷が痒いんだ・・・」
アレンが顔を歪めながらそう言う。
「古い傷なのに今頃、新たに皮膚が生まれ変わっている?自然治癒能力が急に高まったって事?それも異常な速さで・・?いや、もとの何もなかった状態に戻るなんて考えらえない・・・」
レクサスが額を抑えながらつぶやく。
すると最後尾のフリードも声を上げた。
「セル!俺の左二の腕の火傷が治っているぞ!」
「なんだって?!子供の時からあるあの大きなケロイドがだって・・?」
「ああ、ほら見ろ!セル。綺麗なものだ!」
フリードが自分の左腕の袖を捲り上げ、先頭のセルフィにも見えるようにロウソクランタンで照らした。
「なんだ・・?ここは?生憎、僕には傷が無いのでわからないが・・・ただ、背中の『印』が先程から疼くな?」
「ああ、セルフィ。私も傷がないからわからないがこの横穴に入ってから右胸の『印』に何かがじわじわと浸透する感じだな・・・?」
「私も疼いているな」
セルフィとルカとトマが周りを見渡しながらそう言う。
「俺は頭の『印』に凄く響く。まるで酔ってるようだな・・・?酒に酔った感じではなくて船酔いに近い」
「ああ、バルト。僕も眩暈がするな」
「バルト?レオもなの?」
俺は二人がそう言ったのでバルトとレオリオの間に割り入って二人を支えるように急いで肩を抱いた。
「あっしはなんもねぇですよ?」
一人つっ立っているダモイは皆の言葉にまったく解らねぇ?と首を捻ねった。
「トマ、あなたは大丈夫なの?気分は悪くはないの?」
「ああ、少しだけね?ミシュリーナ。君の方が心配だ」
トマはそう言ってミシュリーナ抱き寄せたが逆にミシュリーナがトマの腰を支える。
「僕も目眩がひどい・・・ルカ」
「レクサスおいで。ん・・・?ああ、レクサスの『印』を見てもいいか?」
屈みこんだレクサスをルカが抱き上げるとレクサスが自分でそっと前髪を掻き揚げた。
レクサスの眉間の上にある『印』は血管を波打たせハッキリと浮かび上がっていた。
「やはり共鳴してる状態のように見えるのだが?レクサス、どんな感じだ?」
「あ・・・確かに。共鳴してる時と同じだけど・・波紋が広がるように頭に響くんだ・・ごめん、ルカ、本当に気持ちが悪いんだ」
レクサスはそう言ってルカの首に手を回し苦し気な顔をルカの胸に押し当てた。
「ああ!確かにリードの大腿部の内側にある『印』を触ってる時のようだ!!」
「止めろセル!場所は言うな!」
セルフィが納得顔で叫ぶと赤い顔のフリードが声を上げた。
「太もも!?それも内側ですってッ!」
「ミシュリーナ?いけないよ。淑女が大きな声でそんな事言っては」
トマも赤い顔で興奮するミシュリーナを嗜めた。
「すまない、シルフィーヌ。寄りかかってしまって・・・君は大丈夫なのかい?」
もう完全に綺麗な傷がない顔に戻ったレオリオが肩を抱く俺に尋ねると反対側のバルトも聞いて来る。
「本当だ。お前、大丈夫なのか?俺も凄くクラクラしてるんだがな?」
「ん・・・?いえ、全然平気なのですが・・・?ん?」
あれ?ちょっとまてよ・・・?
「あ!あのっ!今、平気な人、手を上げて!」
ハルク、セルフィ、フリード、ミシュリーナ、ダモイが手を上げた。
「私も大丈夫だ」
レクサスを抱き上げているルカも返事をする。
ぐったりしているのはアレン、レクサス、トマ、レオリオ、バルトだ。
「んんっ?なんで同じ『印』持ちなのにこんなに差が出るの?ダモイは普通の人だからわかるけど、ミシュリーナもわからないし・・・?」
「ねぇ?何かさっきからずっと胸の奥に響くんだけど・・・?水の落ちる音?私だけ?何だろう・・・?」
「普通の人はあっしだけだって?何なんだよ?旦那らは?それにあっしには何も聞こえねぇですよ?お嬢」
「ああ、そうね?聞こえる。さっきからずっと聞こえる。だんだん大きくなってるわ。そう、まるで水琴窟の音色のようだわ。それも私は自分の胸の奥から聞こえるわ。とても優しく響き渡る。いい気持ちだわ」
「水琴窟の音色だって?シルフィーヌ?それにいい気持だって?僕はダメだ・・・ズゥゥゥンと眉間を圧迫して頭を揺すられているようだ・・・」
「眉間・・・?レクサスも『印』が鳴り響いているのね・・・?そうか!『印』の場所!レオもバルトも後頭部だから頭に直接響くから強烈なんだわって、アレンはどこに『印』があるの?」
「ああ、アレンは口内の上顎から喉にかけてなんだ」
痒みに耐えてハルクに抱きついているアレンの代わりにハルクが答える。
「え!?口の中にあるの!?アレンって!!」
そんな設定、有りかよ!?
どうりでアレンの怪我の介抱をしていた時、『印』を見つけられなかったはずだ。
「でもトマは左上腕だろう?どうして頭に響くんだ?」
セルフィが尋ねるとトマが頭を抱えて答えた。
「私の『印』は合計3つあるんだ。両耳の裏に1つづつ。小さな物なんだがね?」
「「「え!?」」」
セルフィと俺とミシュリーナが声を上げた。
複数だって?そのパターンもあるんだ・・・ついていけねぇ・・・
「旦那方がその調子じゃあ、あっしは心配でこの先は進めねぇ。今なら引き返せますよ!そうだ!それがいい!!」
変に興奮したダモイがロウソクランタンを掲げとてもいい案だと一人うんうんと頷く。
「とにかく、サンタクラークには近づいてるようだね?ここでモタモタしていてもダモイが言うように大潮に呑まれるだけだ。体に異常がない者は気分が悪い者を助けて先を急ぐ方が良さそうだ」
セルフィがそう言うと皆が頷き、そして一斉にダモイを見て先を促す。
するとダモイが最後尾のフリードの方向を見て指さし叫んだ。
「誰かいる!!」
「どうしてティッカッ!!それを言わないのッ!?今すぐフリードを連れ戻すわッ!行くわよッ!」
サロメはそう叫ぶと自分の馬を狭い崖路にも構わず方向転換をしようとする。
「ここで馬を戻すのは無理です!サロメ様!」
「村で待てとのセルフィ様のお言いつけです!サロメ様!」
そんなサロメを背後のサルトと最後尾のカレブが立ちふさがり行かせようとはしない。
「ええぃ!!サルトッ!どけ!!黙れ、カレブッ!」
「落ち着きなよ!!姫さん!!あたしの言う事は信じないんだろう!?あんたは!!」
「そのような迷い事!!信じてなぞいるものか!!だが、命にかかわるなら話は別!!」
「伝えたよ!!」
「えっ?」
ティッカのその言葉にサロメは振り返る。
するとティッカはサロメを見据えて言った。
「私はあの人に全て言ったよ!!村に来たあの人に真っ先にね!!『あんたはセルフィ様の身代わりなんだ。『源』に行けばセルフィ様はそれを一度、なくさなければ手に入れられない。あんたはセルフィ様の為だけに、その為だけに産まれて来たんだ。自分の命を、自分の愛おしい人の為に捧げられるかい?』ってね!!」
「・・・じゃあ、じゃあ、なんて・・・?なんて答えたの!?フリードはッ!!ティッカッ!!」
馬の手綱を握り締めている自分の手に目線を落としたサロメが気丈に聞き返す。
「聞かなくてもわかってるだろう・・・!?姫さんは!!」
「いいから!!なんて言ったのよ!!言いなさいよ!!」
だが、その声はきつい語尾なのに震えている。
「『そんな物いくらでもくれてやる。だがな?俺は死なない。俺がセルを一生守るからだ』」
「・・・・・・・・・そうね・・・馬鹿なフリードらしいわ・・・」
「「サロメ様・・・」」
「ああ?さすが姫さんだな?そう、馬鹿は死ななきゃ治らないからな?そう、サロメ姫に伝えてくれってその、リードって人がさ?」
そう言ったティッカの背後には大きな満月が煌々と輝いていた。
皆様、台風21号、大丈夫でしたでしょうか?
今回私の地元はいまだに爪痕が残っていてなかなかハードな一週間でした。
また、北海道の皆様も大変な現状だと思われます。
この場を借りて心よりお見舞い申し上げます。一日でも早く普段の生活に戻れます様に。
今日も読んで頂きありがとうございました。




