それぞれの確認の件
今日もよろしくお願いします!!
「・・・・・・」
「おいで?早く、シルフィーヌ」
パトカーの回転灯のように俺の頭の中では危険ランプが点滅する。
「あのぅ・・・散歩、行きませんか?河沿いに素敵なカフェがあるそうですよ?」
レオリオの部屋のドアを半分だけ開け廊下から上半身だけ覗かせたまま俺はレオリオにそう言って笑いかけた。
「その前に確認したいんだ。来て」
何を確認するのかな?レオリオ君は?
「なんの確認でしょうか?」
「『印』見せて」
ダメだ。回転灯と一緒にサイレンまで鳴り出したぞ・・・
「・・・えーと、それは・・・」
「話を聞くより見る方が早いだろう?見るだけだよ?それ以上は何もしない・・・・・・つもり」
サイレン、MAXで鳴ってるんですけど!?それに最後の小さな声だけど、つもりって!?
「それは・・・構いませんが・・・でも、それって、私の言葉では無理なのですか?」
「僕なら戸惑いなく見せてくれるよね?シルフィーヌ?さあ、おいで?」
「『印』を確認するのなら私も一緒に。レオリオ様」
「私もよ?レオリオ王子。まだ、シルフィーヌは12歳なの。いくら婚約者とはいえその様な事、二人きりで行ってはいけないわ」
いきなりドアが大きく開かれたと思うとミシュリーナと腕を組んだサロメがそう言って俺の前に立った。
2人とも俺に無理やりついて来ていたのだ。
多分、こう言う事を想定して。
「・・・シルフィーヌと、妻と二人きりで話がしたい。失礼、サロメ姫にミシュリーナ姫、外してもらおうか?」
優しい声色で微笑んではいるけど瞳が輝きはじめてない?レオリオ君!?
「まだ妻ではないのでしょう?話だけならば初めにシルフィーヌが提案した散歩に出かけてはどう?」
「それに『印』を確認したいなら私達も同席するわ。心配しないで?シルフィーヌ」
ミシュリーナまで俺をかばって背中の後ろに俺を隠そうとする。
「それにねぇ?そんなモノ確認しなくてもシルフィーヌは貴方一筋よ?私が保証してよ?レオリオ王子」
「本当にね?レオリオ王子の話になると必ず顔を真っ赤にしてレオは素敵なのって、むぐうぅ!?」
うわぁあああ!!!なに、突然言い出すんだ!!!
「よ、余計な事言わない!!ミシュリーナ!!」
俺は急いでミシュリーナの口を後ろから両手で塞ぐ。
「そうそう、もう、恥ずかしいくらい、レオはとっても優しいの、今頃何してるのかな、早くレオの側に帰りたい、早くに会いたいってうるさいんだから」
「ああ!!止めて!サロメ!!聞かないで!レオ!」
こ、こいつら!急に何言い出すんだ!!
「ああ・・・わかった、カフェに行こう」
「え・・・?」
びっくりしてそう、声が聞こえた方を見ると頬を染めたレオリオがベットから立ち上がった。
するとサロメとミシュリーナ二人が顔を見合わせ頷き廊下に下がる。
そして俺の背中を押す。
レオリオはそうされた俺の前に来ると手を差し出した。
「シルフィーヌ、涼みに行こう。この部屋は暑いからね?」
そう言ったレオリオは頬を染めてとても嬉しそうに笑ったのだ。
そう、とてもその笑顔は俺の大好きな笑顔だ。
とてもかわいいんだ。そう、とてもだ・・・
「あ・・・・・・・はい」
ダメだ、馬鹿みたいに見惚れてた・・・
しっかりしろ、俺。
そして急いで俺の手を差し出したが凄く真っ赤だった。
「じゃ!早く帰って来てヨ?」
「ほんと、寝ないで待ってるからね?シルフィーヌ」
って、サロメとミシュリーナは振り向きもせずどちらも片手を上げてそう言うとサッサと廊下を歩いて行った。
歩いて行ったけど・・・ねぇ?部屋、そっちじゃないよ・・・???
「シルフィーヌ?」
「あ、はい。行きましょうか?美味しい飲み物が頂けるそうですよ?」
「ああ」
しっかり俺の手をレオリオの手が握りしめていた。
「とても楽しいわ。しばらく会えないって思っていたのに私、今、レオとデートしてる。本当に夢みたいだわ・・・」
フリードが港の横に素敵なカフェがあったと教えてくれたのだ。
本当にここは河にしては大きな港で今も大きな客船や貿易船が所狭しと停泊している。
その横で多くの人々がテーブルを囲いジョッキ片手に賑やかに過ごしている。
おお、あっちでは生演奏もしているな?
そうか、昼間は屋外カフェで夜はビアガーデンになってるのだな。
まあ、酒が飲めない俺達は冷たいミント入りのレモングラスで再開を祝して乾杯だ。
「そうだね?この偶然に僕も凄く感謝しているよ」
俺の隣の席に座り、ニッコリ微笑むレオリオは背が伸び身体も少し引き締まって凄く大人びた。
でも笑顔は俺の大好きなレオリオのままだ。
「ん?どうしたの?」
「え、ああ、凄く大人びたのに、その、相変わらずその、笑顔が・・・素敵だなって。大好きだな、その笑顔がって、あ・・・」
何言ってるんだ、俺・・・ハズい・・・
「あ、ああ・・・改めて言われると何だか照れるよ?でも、ありがとう。君もその髪型、凄く似合ってる。素敵だよ。そしてまた美しくなった」
そう言ってレオリオは俺の髪を一筋掬うと顔を寄せ、額をくっつけた。
・・・あ・・・れ?俺、レオリオにいつもこんなキザな事言われてたのかな・・・?
「シルフィーヌ、僕も大好きだよ?会いたかったよ、凄く」
そう言うとそっとレオリオは俺に口づけた。触れるだけだがすごく優しい甘いキスだ。
あ、ちょっとミントの匂いがする・・・
そしてゆっくり顔を離すとニッコリと笑いかける。
「フフッ、今日は言わないんだね?いつもは急にしないでって怒るのに」
「あッ!人前ではしない!レオ!もうッ!」
「ああ!やっぱり僕のシルフィーヌだ。かわいい!!」
って俺に抱きつくとギュウギュウに抱き締め、思いっきりキスされた。
「ンンッ!!」
止めろ!!誰も注目はしてないけど、周りに人いるから!!って、レオ!!
お前はやっぱり、いつものレオリオだよ!!
「ちょっとぉ?見た?あの笑顔、ミシュリーナ」
「ええ、見ましたぁ?サロメも」
「ちょっと、何だか、モヤモヤしない?この、なんか、胸のあたり」
「え・・・あ、モヤモヤというか、その・・・意表を突かれた・・・?」
「そう!そうよね?何か、その、ズキューン?みたいな・・・?」
「え!!ズキューン?ズキューンって!!ないない、いまさらレオリオにそんな事!!絶対ないから!!」
「あ、私もないけど。レイモンド一筋だけど、あの笑顔はシルフィーヌ、惚れちゃうの無理ないわよねぇ?あんなに可愛い顔するんだ、レオリオ王子、シルフィーヌには」
「ああ、そうか・・・シルフィーヌだからか・・・そうだね?シルフィーヌだからだよね?」
「なに?どうしたの?ミシュリーナにはトマ王子がいるじゃない?あ、見に行こう、トマ王子の笑顔!!」
「え!!今!?」
「うん。見たいな?トマ王子の笑顔。私まだ見てないし。行こう!行こう!!」
サロメがミシュリーナの手を引っ張ると走り出した。
「サロメ!?何か、リョウに似て来たよ?そう言うとこ!あ、廊下、走っちゃダメ!!」
「どうしたの?怖い夢でも見たのかい、ミシュリーナ?眠くなるまで僕の部屋で話でもしようか?」
トマ王子の部屋のドアをノックすると白いシャツの胸元を緩めたトマ王子が出て来てミシュリーナの両手を掬いニッコリと笑いかけた。
「いえ・・・いい。おやすみを言いたかったの。トマ、おやすみなさい」
「ん?そうなんだ?じゃあ、明日早いから、ぐっすり眠るんだよ?おやすみ、ミシュリーナ、サロメもね」
素直に部屋に引き返す廊下を歩く二人。
「ちょっとぉ?ミシュリーナ、凄い色気よねぇ・・・トマ王子の笑顔・・・ハルクといい勝負だわ」
「ああ、うん。そうなの。トマの笑顔はいつも優しいの。うん。ちょっと、安心した。いつものトマで。私の大好きな笑顔で・・・安心した・・・」
「なに?レオリオ王子と比べたの?」
「うん。正直比べた。だって、私に向けられた笑顔じゃないのに凄くビックリしたの・・・とても優しくて。でも・・・違うんだって。トマの笑顔は私をちゃんと見た私だけの笑顔なんだって・・・安心した」
「・・・・・私もレイモンドの笑顔みたい・・・」
「え?サロメ?」
「なんか、無性に笑顔みたいな、私。だって、皆、凄くカッコいいんだもの・・・レイモンドだって」
「・・・・・あ、じゃあ!!」
今度はミシュリーナがサロメの手を引っ張る。
「なんだ?ミシュリーナ?って、それにサロメか?お前寝てなきゃダメだろ?」
「アレン、おやすみなさい。それが言いたかったの。ね?ほら、サロメも」
「ん?ああ、おやすみ、ミシュリーナ?ゆっくり眠るんだぞ?」
ドアを開けこれまた胸元のボタンを緩め、頭をタオルで拭き拭き出て来たアレンがミシュリーナの頭を撫でながらニッコリ笑う。
そしてサロメの額に手を当てると
「ああ、熱、下がったみたいだな?でもお前もあんまり出歩くな。早く寝ろよ?サロメ」
って言ってついでにサロメの頭も撫でた。
「おやすみ、サロメも」
「・・・・・おやすみなさい、アレン」
「フフッ、何だ?まだしんどいのか?まあ、その方が素直でかわいいがな?」
「・・・・・」
またまた部屋に引き返す廊下を歩くサロメとミシュリーナ。
「サロメ、ほら、やっぱりアレンはレイモンド様に似てるわよねぇ?いいなぁ、綺麗な兄弟で!!」
「レ、レイモンドの方がかっこいいわよ?その男らしいし・・・アレンは綺麗すぎるのよ・・けど・・・」
「うん。そうだよねー?笑った顔はどちらも素敵だよね?フフッ、思い出した?レイモンド様の事?」
「・・・・・もうッ!寝るわよ!!ミシュリーナ!」
「え?リョウ、待ってるわ」
「野暮よ?それ、ミシュリーナ。それこそ、野暮なんだから!!」
「レオ、?そっち、宿とは逆だから。ねぇ?もう、帰りましょう?」
「ああ。でも、もう少し。ほら、こっちの方が河を上がって来る風が吹いて涼しいよ?」
俺の手を引くレオリオは上機嫌で歩く。
少し酔っているのだ。
そう、先ほどのビヤガーデンで、俺達の様子を見た隣の団体がビールを奢ってくれたのだ。
どうも俺達は新婚夫婦と勘違いされたみたいだ。
俺は飲めないと断ったのだがその横でレオリオはそう言われた事が嬉しかったのか隣の団体客が一斉にレオリオのジョッキに乾杯をするとググっと一気に飲みほしてしまった。
俺はレオリオがすぐ寝込むのではと思い、急いでその人達にお礼を言い、レオリオの手を引いてその場を離れたのだが意外や意外、レオリオは凄く陽気に酔っ払って俺の手を引き今も河辺をブラブラと歩いているのだ。
「もう、本当、二人でこのまま暮らそうよ?今からさ?」
「え?レオ?何言ってるの?」
「僕は君さえいればいいんだ。君さえいれば・・・愛してるよ。シルフィーヌ、君だけだ」
・・・ちょっと、レオリオ・・・声、低くない!?
そう言って振り返ったレオリオの瞳は爛々と輝いていた。
俺の頭の中でサイレンがうるさく鳴り出したーー
今日もありがとうございました!!




