素直じゃない恋の行方は?の件
今日はこの人達のややこしい恋の行方を先に。
息抜きのつもりでどうぞ。
(相変わらず、長いのはご勘弁を)
「フリード、お兄様とアレン、無事ハルクに会えたのかしらね?」
カシューダ王国からおよそ2か月ぶりで帝国に帰還したフリードとサロメはカルロス皇帝への報告の為、宮廷の廊下を速足で歩く。
「心配しなくてもあの二人なら大丈夫だ。それにカルロスに会えば聞けるだろう?ああ、そうだ。この報告が終わったらお前もちゃんとしろよ?」
「なんの事?」
「レイモンド。待ってるだろう?」
「嫌だ・・・ほんとに。急になによ、フリードまで・・・」
「お前、俺には嘘つけないだろう?早く言ってやれ」
「・・・待ってるって・・・本当に私なのかしら?シルフィーヌもハルクもそう言ってたけど・・・でも、それって・・・」
「それ、気づいてないの、お前だけ」
「え・・・?」
「みんな知ってる。レイモンドがお前待ってる事」
「嘘よ・・・だって、誰も言ってくれなかったわ?シルフィーヌが初めて私に言ってくれたのよ?」
「シルフィーヌ様は今までの俺達の経緯や事情が解ってないから素直に言葉に出来たんだ。気の強いお前に直接こんなこと言えるのはお前の兄弟と幼馴染の俺ぐらいだろう」
「フリードは家族と同じよ」
「ああ。だからな?レイモンドならお前を託してもいいと俺も思う。それに・・・」
「それに?」
「万が一ダメなら俺のところに来い」
「え・・・?フリード、それ、本気じゃないわよね?セル兄様いるじゃない?」
「本気だが?それにセルは悪友だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん?何だ?その顔は?とてもマヌケだぞ?かわいいがな?」
「あの、あのね?そのね?私、2歳の時からフリードとセル兄様見てるわけよね?」
「ああ」
「その私が言うのだから、っていうか、私の言う事は信じてるわよね?フリード?」
「もちろんだ」
「じゃ、今から言う事も信じて?そしてよ~く!聞いてよね?」
「?」
「フリードとセル兄様の関係は恋人。悪友じゃなくて恋人」
「違う。俺もセルもその様に思ったことはない」
「じゃあ、フリード、どうして恋人作らないのよ?」
「必要ないから。セルとサロメが側にいればいい」
「ほら、それ。私はフリードの何?」
「妹」
「そうでしょう?私もそれで納得。じゃあ、セル兄様は?」
「幼馴染の悪友」
「・・・ねぇ?私がもし、レイモンドと結婚したらフリードとこんなに一緒にいられないわよ?」
「わかってる。子供も出来るだろうし。楽しみだ」
「って!凄く気が早いんだけど・・・まだ、告白もしてないのに!って、違う、違う!あのね?フリード。お兄様もそうよ?お兄様も結婚したらその人の物になっちゃうのよ?だ~か~らッ!もう!この間みたいに抱き合って眠るなんて出来なくなるんだからね!?」
「あれは、いつもセルが勝手にだ。俺の本位ではない」
「でもね?いつも酔っぱらって素直になったセル兄様が安心して眠ってしまうのはフリードの腕の中だけなのよね?」
「・・・・・・」
「それに笑ってるのよ?気づいてないでしょうけど」
「ああ、セルだろ?泣いた後はいつもそうだからな」
「違う、あなたよ?フリード」
「・・・・・俺?」
「そう。セル兄様抱き絞めてる時のあなたよ。フリード?」
「う」
「嘘!って、まさか言わないわよねぇ!?この私が言う事に嘘なんてね?フリード。だって私を信じてるのよね?フリードは」
「う・・・・けどセルは」
「お兄様?もちろんフリードを愛してるわよ?自覚がないだけなのよね?それも二人ともって言うのがほんとに怖いんだけど?」
「違う。セルは子供が産めないし、俺も無理だ」
「・・・・・・・・なに、それ・・・?いえ、いい。聞かなかったことにする」
「いや、肝心なことだろう?俺はセルの子供が見たいし、俺も自分の子供が欲しい。だから・・・ムリだ」
「・・・・・・・・・・・・ある意味、一番、純愛だわ・・・フリード」
「ああ、カルロスへの報告は俺がする。先に済ませてから来い」
そう言って振り向いたフリードが軽くサロメの肩を叩くと更に大股で先を急ぐ。
「え?何、急に?なんの・・・あ・・・」
その行く先からこれまた急ぎ足で歩いて来るレイモンドが見えた。
フリードとレイモンドの二人はすれ違い様に無言で軽くお互いの肩を叩く。
そしてレイモンドはサロメの前まで来るとサロメの顔を覗き込み立ちはだかったのだ。
「レ、レイモンド?」
「お帰りなさいませ、サロメ姫。無事のご帰還、安堵いたしました」
宮廷の廊下の真ん中を陣取り、見つめ合うそんな二人を行き交う人々が足を止め伺う。
「あ・・・ああ、ええ、この通り・・・あ、お姉様は?」
「只今、ハルクと一緒にオールウエイ国での任務に就かれておりますがセルフィ様と明日にはご帰還される予定です」
「ああ、そう。そうだったわね・・・上手くいったんだ・・・お姉様。良かった・・・あ、では私も皇帝に報告があるので通してくださる?レイモンド」
周りのギャラリーが増えていくのが恥ずかしいのに前に立ち塞がり通してくれないレイモンドにサロメは少し苛立ち、つい、口調がきつくなる。
「私にはお時間を下さらないのですか?」
「え?」
「私には何も報告をくださらないのですか?」
「な、なにを・・・?レイモンド・・・?通して?」
「私の髪をもう引っ張る必要はないのですか?」
「なっ、なにっ?!レイモンド!こんなところで!」
「私はあなたの耳に触れたいのです、サロメ様。そして・・・」
「ちょっ、ちょっと!本当に!レイモンド、見てる、みんな!」
「では、失礼!」
レイモンドはそう言うといきなりサロメを抱き上げ、踵を返すと廊下を走り出した。
「ちょっ!!急に!なに!ちょっと、レイモンドって!!みんな見てるから!」
「少し、少しでいい。時間を。サロメ」
「ん?」
謁見の間の扉の取っ手に手を掛けたフリードの横をレイモンドが駆けて行く。
そのレイモンドの胸にはサロメがしっかり抱かれていた。
「あ!!フリードッ!!助けてッ!」
フリードは無言で大きく手を上げると扉の中にサッサと入って行った。
「って!裏切者~!!フリード!」
「舌を噛む、サロメ、少し黙って」
「どこ!どこに行くのよ!?レイモンド!」
「中庭。許可はとってある。話を聞いてくれ」
「・・・わかった・・・わよ・・・」
そう言うとサロメは黙ってレイモンドの胸にその赤い顔を押し付けて隠した。
宮廷の中庭中央には手入れの行き届いた人口の小池があり今は白と淡い桃色の水連が咲き誇り、深い緑の葉とのコントラストがとても美しい。
その横のベンチにそっとレイモンドはサロメを下ろすとその側にたたずむ。
「すまない。どうしても二人で話したかったものだから」
その言葉に下を向いたまま顔を上げられないサロメの顔は更に赤くなる。
「・・・こんな事しなくても・・・ちゃんと・・・その・・話・・・する気だったわ」
「そうだろうか?きっと、サロメ様にはもう必要ないのでは?私の言葉など」
「え・・・?」
思わずレイモンドを見上げるがそのレイモンドの瞳は小池に浮かぶ水連を見つめている。
「もう、必要ないとわかっていても思いはこの胸に積もっていくのです・・・だから」
「なぜ・・・?そんな・・もう、必要ないなんて・・・?さっき、私の耳に触れたいと言ってくれたのでは?って、あ・・・!」
自分の失言に気付き、また急いでうつむくサロメ。
そんなサロメにレイモンドは信じられない言葉を告げる。
「貴女はもう違う人を愛し始めているのでしょう?聞きました。まただ・・・あの時と同じ」
「はぁ・・・?ちょっと・・・?レイモンド・・・誰?それ?」
「カルロス皇帝から話がありました。以前からサロメ様を望まれているハルス中立国、サマイ殿下が明日いらっしゃいますので護衛を頼むと。サロメ様がサマイ殿下なら嫁いでも良いと言われたと。確かに、確かに、あの方はハルクのような美しい銀髪だ。ハルス中立国なら国としても申し分ない。それにとても出来たお方だ。あの方ならサロメ様を優しく包み込む抱擁力もあるだろう。それに何より貴女が望まれるなら仕方がない。だが・・・だが・・・側妃などとは・・・」
「誰・・・?それ・・・?」
「だから、ハルス中立国のサマイ殿下です!以前、オールウエイ国レオリオ王子と見合いをされた後、次に見合いをされた方です」
「・・・ん?・・・え?・・・あ!!いた!そんな方!けど、違う、違うの!レイモンド!」
「え?」
「あれは私、レオリオ王子に腹が立ってて、ついでにって、ああ、違う!とにかく、見合いをしたのはお姉様とハルクを早く結婚させたかったからよ。だって、妹の私が先に嫁ぐって話が出たらお姉様にも他国から見合い話が沢山舞い込むじゃない?そしたらハルク焦るかなって・・・だからお兄様には嫁ぐ気はないけど考えては見るからって話しのお見合いなのよ?だからないわよ?その方は絶対ない。断じてない。だって、あの方、正妃に側妃も5人いらっしゃるのに『君は僕の最高の恋人だよ』って私の耳に」
「耳に何をされたんだ!まさか!」
いきなりレイモンドはサロメの両肩を掴むと揺さぶる。
その真剣なレイモンドの瞳にサロメは驚きを隠せない。
「え・・・?いえ、耳元で囁いただけ・・・よ?だから、断ったのよ?そんな沢山の方が愛するお方はご遠慮申し上げますって・・・」
「そうか・・・ならいい」
そう言うとレイモンドは本当に安堵したのかサロメの肩から手を放し顔を反らした。
そんなレイモンドの右手を今度はサロメが素早く掴む。
驚いたレイモンドを今度はサロメが真剣に見つめた。
そして肩まであるレイモンドの金髪を摘まむとチョイ、チョイ、と引っ張ったのだ。
レイモンドの瞳が驚きに見開く。
「私、ハルクに振られたの・・・って、嘘」
「え?」
「・・・本当は初めから相手にもされてないの・・・だからもう、忘れる以前の問題。でもハルクは憧れだからちょっと夢見ちゃったのね?フフッ・・・でも、でもね?レイモンドは違うの・・・」
「ええ??」
「貴方が何も言ってくれなくなって、貴方が耳、引っ張ってくれなくなってから私・・・」
「・・・サロメ?」
「なんかね?・・・その、なんか、毎日あなたに会う事がなくなって、その、毎日の目的って言うか張り合い?そう、、うーん、なんかね?それがなくなって、その・・・」
「サロメ?」
「その・・・ああ!もう!耳、私の耳!早く引っ張りなさいよ!レイモンド!そして早く言ってよ!」
「『早く忘れて僕の所においで』って!」
「早く忘れて僕の所においでって?」
2人同時に発せられたその言葉にサロメは真っ赤になり、レイモンドの胸に抱き着いた。
そしてそのサロメを満面の笑みのレイモンドが抱き締めた。
サロメもフリードも素直じゃないし、不器用なんです。
今日もこんな話にお付き合い下さりありがとうございました!




