友達何人できるかなの件
今日もよろしくお願いいたします。
昨日は散々だった。あの後、優勝杯を手にしたルカが走って来たのでレオリオの返事は聞けなかった。
まあ、あれ以上キスとかなかったから助かったけど。
帰るまで、レオリオは俺の手を握っていたから機嫌は直ったのだろうと思っとこうか。
それからはアントワート家勢ぞろいで治療室に雪崩込んで来た。
まず、お祖父様がコスチュームをもっと布の多いモノにしろと怒られ(露出が多いと言うことですね)お祖母様に傷を負ったことを嘆かれ(顔守らなかった事がショックだったようだ)お母様に負け方を責められ(自爆ですね。はい、自爆)お兄様にはバルトを殺しそうになった事を窘められた(すごく反省)。
だけどお父様だけはみんなに怒られている間何も言わずずっと俺を見ていて最後に良く頑張ったなって頭を撫でてくれた。
一番怒られると思ったのに。
嬉しくってお父様にくっついて胸で涙拭いてやった。
まだ10歳だからいいよね。
それでまだ、王都にいます。別宅です。
肩の傷、傷跡が残らないように王宮の医師にかかるそうでほぼ毎日王宮通いしなければならないようだ。
将来の王妃様が傷物だったらダメってか?
それで通うのも面倒だろうと来賓扱いで王宮に泊まる用に陛下からお許しがあったらしいがお父様がルカが送迎すると言ってサッサと断った。陛下に逆らって大丈夫なのか?お父様。まあ、俺もルカも通いの方が気楽だが。
自室で王宮に向かう用意をしているとドアがノックされ俺に客だと告げた。
「シュナイダー伯爵家、ご次男、バルト様がお嬢様にお取次ぎを。突然の来訪なのでお断り致しますが」
カレブが門前払いの勢いで俺に伺う。
えっ?バルト来てくれたの?こっちから謝らなきゃなって思ってたからちょうどいいや。
「まだ、王宮に行くまで時間あるよね?中庭にお通しして。お茶の用意も」
「お会いになるのですか?」
「ええ。昨日の事、謝らなくちゃね?」
「・・・・・ルカ様はいかがなさいますか?」
「二人きりで大丈夫よ。心配無用」
俺が笑って言うとカレブが畏まりましたと出て行った。
あ、いるいる!本当にバルトだ!
「バルト~!!」
何か嬉しくって手を振って駆け寄った。
バルトが振り向き走って来る俺を見てギョッとしている。
なんだ、馴れ馴れしかったか?わざわざ俺を訪ねてくれたのが嬉しいしそれも昨日戦った相手だし!
そう、俺、昨日バルトと戦ってすごく楽しかったんだよね~!!
「アントワート嬢におかれましてはご機嫌麗しゅう」
バルトが礼儀正しく臣下の礼でお辞儀をする。
ああ、やっぱり首に包帯巻いてるな。
「あ、うん・・・苦しかったよね?」
バルトが頭を深く下げているので首の包帯に触れた。
自分がしたことだと思うと凄くいたたまれなくなった。
バルトが驚いて後にのけぞった。
「あ、昨日の感覚と同じ気分で触れてしまったわ。ごめんなさい」
俺は手を引いた。
「いえ、こちらこそ昨日は貴方に怪我を負わせてしまいました」
「いいのよ。大した事ないし。それにとても楽しかったのだから」
俺はバルトに笑いかけた。
「・・・・貴女のお父上も合意の上での事だから不問だと」
「そうよ。でも私は貴方を殺してしまうところでした。私はとても未熟者でした。お詫び申し上げます」
俺が頭を下げようとするとバルトは首を振ってそれを制し、
「いえ、私も未熟だったのです」
と言った。
そして右手を差し出す。
手のひらには綺麗な銀細工の貝型の容器が乗っている。
なんだ?
「当家で調合した傷薬です。貴女の刀傷には良く効くでしょう」
ああ、シュナイダー伯爵領は山岳地帯があるため珍しい薬草が手に入ると聞いている。
それにとても薬学が優れていて優秀な薬剤師がいるらしい。
「わざわざこのために来てくださったの?」
俺が両手を出すとバルトが頷きそっと容器を乗せる。
「ぜひ、お使いください」
「シュナイダー伯爵にお礼を申し上げます」
「いえ、これは私個人の物ですから、お気になさらずお納めください」
えっ?・・・そうなのか?いいのか?
バルトを見上げると少し顔が赤い。
・・・・・・・まさかな・・・・・
「ありがとうございます。とても嬉しいです。大事に使わせていただきます」
「いえ」
あれ、普通だよな?良かった・・・気のせいだな。じゃあ、
「お茶でもいかが?って今二人だけだから、昨日みたいに普通に話してよ?肩こるわ」
さっき別宅の侍女達がお茶の用意をして頭を下げて中庭から出て行ったのだ。
この邸宅の中庭は要人と個人的に話ができるように人払いをしてもこの庭を囲んだ四方八方を護衛が常に警備しているので安心なのだ。
俺はバルトに笑いかけテーブルに招く。
バルトも頷いた。
「ねぇ?いつ、アントワートのルカの妹だと気づいたの?」
「まあ、話した時に薄々そうではないかなと感じてはいたが・・ハッキリ顔を見た時は正直、驚いた」
「なんだ?私ルカと似てるのかしら?」
「そうだな。立ち振る舞いがとても良く似ているな。昨日戦った時にもそう感じた。それに毎年ルカ応援しに来ていただろう?だから顔は知っていたんだ」
「ああ、なるほど!そう言うことね」
俺はバルトの向かい側でお茶をすする。
「それに」
バルトが可笑しそうに肩を揺らして続ける。
「何?何かまた馬鹿にするの?」
「えっ?いや?だって、お前『ロト』って!」
バルトがまたククッてカップを両手で押えたまま笑い出す。
お茶、こぼすなよ。
「ロトってさ、伝説の勇者様の事だろう?」
「!」
えっ?バルト、何で知ってるんだ!?
「なんで!?なんで知ってるの!?なんで!?」
「何で知らないんだよ?伝説の勇者様の名前なら当たり前だろ?創世記にも出て来るし?絵本で読まなかったか?」
・・・・・・
・・・・・・・なっ、なっ、なーにーっ!?そうなの?そうなの?そうなの?ゲーム制作会社の陰謀なの?それとも俺と同じで勇者と言ったらそのネーミングしかないでしょう!!的なノリ!?
あ、絶対、絶対、後者だわ!
ちょっとまて、ちょっと待てよ、ん?じゃあなに?俺ってマジで『勇者様参上!!』ってやってた訳!?
マジ?マジか・・・・・・・ないわー、もう、ダメだわー、なんか、もうね、昨日からなに?ショックが大きすぎて俺、完全に消えてしまいたいんだけど・・・・・
「おい、大丈夫か?本当に知らなかったのか?」
俺はガックリと項垂れたまま小さく頷いた。
「ごめん。衝撃がひど過ぎて耐えられそうにない。とても無理だわ・・・恥ずかしくてもういなくなりたい・・・」
遠い目をして小さな声でつぶやいた。
「まあまあ、話聞けよ。じゃあ、伝説の勇者がどんなだか知らないのだろう?」
えーっ、知ってるよ。あの剣+盾+鎧兜セットは欲しいよ。
「ロトは女で金髪と青い瞳のムチ使いなんだ」
「はぁ!?」
「それで赤い髪の魔王をやっつけるんだよ。なっ?俺が面白いって言った意味わかっただろう?」
「あー、そう言う事・・・・」
「さらにお前、本当に途中からムチ出すし。もう俺ここで負けたら一生、魔王って呼ばれるっ!て思ったらなんか意地になっちゃてさ・・・・笑えないよな?」
そ、そ、それは、本当に、
「おまけに昨日の決勝戦ではルカに峰打ちされた瞬間、耳元で『妹に本気になるなよ。遊びだろ?』って囁かれた」
ま、ま、まったくもって、ほ、ほ、本当に、
「兄妹で本当に申し訳ありません!!」
俺は両手をテーブルに着き頭を突っ伏した。
「んっ?いや、いや、違う、違う。俺もお前ら兄妹と戦ってすごく楽しかったんだよ」
バルトがすごく嬉しそうに笑った。
今日も読んで頂きありがとうございます。




