嘘の件
今日はほんとっ!長くてすみません!!
よろしくお願いします!
「ハルク様!お母様をお願い!シルフィーヌ、私と一緒に私の部屋に髪飾りを取りに行って欲しいの!」
「「承知!!」」
ミシュリーナの言葉に俺と兄貴はそう返事をすると兄貴はサルクドール男爵夫人を肩に抱き上げる。
「ミシュリーナ!ミシュリーナ!私と一緒に!どうか、ハルク様、ミシュリーナを!」
「お母様!私は大丈夫!無事戻ります!先に行って下さい!ハルク様!お願い!」
ハルクが俺に頷くと俺も頷き返す。
それを合図にハルクは入口とは反対側の窓から夫人を担いだまま軽々と外に飛び出す。
俺もミシュリーナの手を引き、火が迫る廊下に飛び出す。
目の前には熱風と一緒に火の粉が舞い上がっている。火はミシュリーナの部屋まで迫って来ている。
「紗理奈!調理室とか、水のある所どこ!」
「こっちよ!亮!」
火の手とは反対側にある調理室の方はまだ大丈夫そうだ。
俺は甕の中の水を頭から被ると髪を纏めてくくり直す。
横でミシュリーナもずぶぬれになりながら同じように髪を纏めると俺に頷く。
どうにかまだ触れるミシュリーナの部屋のドアを蹴破ると、目の前にヘイワーズが立っていた。
部屋は随分と荒らされている。
ヘイワーズは剣を真っ直ぐ俺に向けると構えた。
「やあ?やっと来たねぇ?待ってたんだよ?髪飾り、やっぱりここにあるのかい?」
「紗理奈!こいつは俺が相手をする!さっさと、持って逃げろ!!」
「さっきのようには行かないよ?シルフィーヌ。それに髪飾りは私にも必要なんだよ?ミシュリーナ。セスと交換だ」
「聞くな!ミシュリーナ!!」
「ほら?窓の外見ろよ?ミシュリーナ。おっと、動くなよ?シルフィーヌ」
「セス兄様!!お父様も!!」
窓の外には男達に抑え込まれ口にタオルを噛まされたサルクドール男爵と長男セスが荒縄で束縛され庭に跪かされていた。
2人はミシュリーナを見て呻いている。
「うるせぇ!!大人しくしねぇか!!」
2人を押さえている男達が乱暴に2人を黙らせる。
「ひどい事しないで!!わかったから!渡すから、お父様も返して!」
「いい子だ、ミシュリーナ。初めからそう言えばいいものを。さあ、早く出しなよ?でないと燃えちゃうだろ?」
ミシュリーナは急いで自分の部屋のソファの背もたれと座席部分の隙間に手を突っ込むと革袋を取り出した。
「なんだ?そんな所に隠していたのか?見つからないわけだ?」
「ほら!受け取りなさいよ!そして早く2人を解放しなさいよ!」
ミシュリーナがその革袋をヘイワーズに突き出す。
「中、見せて?お前に騙されるの、もう、嫌なんだよね?」
ミシュリーナはそれを取り出すとヘイワーズに投げつけた。
ヘイワーズはそれを片手でキャッチするとその髪飾りをマジマジと眺めニヤリと笑う。
「サッサと持って行きなさいよ!!そして早く返してよ!!お父様とセス!!」
「お前、バカ?全然、血の繋がってない奴らの命と王位継承権引き換えって?ほんとに」
ポケットに髪飾りを押し込むとヘイワーズは嘲るようにミシュリーナを見下ろす。
「いいから!!サッサと放せーッ!!私の家族なんだからーっ!!」
ミシュリーナがそう叫ぶとヘイワーズは俺に向けていた剣をミシュリーナの顔に振り下ろす。
俺は素早くその剣をミシュリーナの頭ギリギリで受け止めると思いっきり弾き飛ばす。
後ろに弾かれた身体をヘイワーズは床に片手を着き両つま先を踏ん張り止めると俺に飛びかかって来た。
凄い勢いと力で俺とヘイワーズの剣がぶつかる。
そして双方、お互いの剣をギリギリと抑え込む。
「お前ら!つくづく、ふざけてるよな!悪役とヒロイン、手ェ組んでるなんてな!?ああ、ムカつく!!おまけに他のゲームのヒーローまで呼んでくるか!?普通!!俺達の話に関係ない奴、つれてくんなぁ!!」
俺は素早くミシュリーナを片手で後ろに突き飛ばす。
そして逃げるように指示をしようと後ろを見ると火が部屋の入口を塞いでいた。
クソッ!!手遅れか!!
「下がれ!!ミシュリーナ!安全な部屋の隅まで!!」
「逃がすか!!バカ女!!お前の家族、皆殺しだ!!このバカJKのヒロインもなっ!!」
凄い速度でヘイワーズが俺に剣を打ち込む。
俺も全てかわしているが後がない。仕方がないので剣で受け止め、しばしにらみ合う。
「ほう?女にしてはやるじゃないか?シルフィーヌ。さっきは油断したからやられたがな?」
「ハッハァ!!鼻折れてるくせに、偉そうに!!もっと、男前にしてやんよ?」
「おまえ・・・?お前、何で男の声なんだ?」
「え?知りませんわ?何の事でしょう?MyBoo?」
亮とシルフィーヌの声で言ってやる。
「声が・・・二通りだと?」
「それが!それが?どうしたの?マイダーリン?」
言い終わらないうちに俺は素早く腰を落とし剣を押す力を抜くとヘイワーズの足首目がけ、俺の足で思いっきり払った!
「!」
足を払われバランスを崩しかけたヘイワーズはそれでも素早く上体を立て直す。
すると俺の顔の横、ギリギリに背後から花瓶が飛んできた!
その花瓶を真正面から受けたヘイワーズは剣で真っ二つに叩き割る。
俺の背後に逃げたミシュリーナが花瓶をヘイワーズめがけ投げつけたのだ。
その隙に俺は片手を床につけ両足でヘイワーズの弁慶の泣き所を思いっきりドロップキックだ!
ヘイワーズが後ろに吹っ飛ぶと窓の下の壁に音をたてて頭を打ち付ける。
「クゥッ!!」
「ナイス!!ミシュリーナ!」
「グ、グッジョブ!!シルフィーヌ!・・・コホッ!」
「っけんなぁ!!お前ら!!殺してやる!みんな殺してやる!お前らぁ!!そいつら、殺れ!!」
ヘイワーズが立ち上がり後ろの窓の外に怒鳴る。そしてその窓の縁を掴むと素早く乗り越えた。
その窓にも火が移り覆い始めていた。
くそッ!!煙が酷くて外が良く見えない!俺達が飛び出すのは無理か!!
肺に熱風が入り込む。くッ・・・そう!!熱い!!息が詰まる!
「ミシュリーナ、来い!!ミシュリーナ!!ゲホゥッ!」
煙でむせ返る俺は後ろを振り向くと煙の向こうにミシュリーナが倒れていた。
ダメだ。熱を肺に吸い込んだのか?
俺は急いでミシュリーナに駆け寄ると抱き上げて一番火から遠い場所へと移動する。
しかしそこには隣の部屋へと続く分厚い壁が立ちはだかっている。
その壁を叩いてみるがとても頑丈だ。
それでも俺はその隣の部屋に続くその壁を壊そうと今度は剣を力任せに突き刺した。
くそう!くそう!くそう!
少しも壊れない!!
万事休すなのか!!ミシュリーナだけでも!せめて、ミシュリーナだけでも!
「くっそそそおおぅッ!!」
俺は満身の力を込め、剣を突き刺す。
と奇跡的に剣が突き通った壁が同時に音を立てて向こう側から破壊され、穴が開いたかと思うと石の巨大なハンマーが突き出て来た。
「うわぁ!!ウグゥ!ゲホゥ」
俺は思わず、咳き込みながらも床に寝かせたミシュリーナを抱き寄せると後ろに下がる。
しかしその後ろももう、火の海だ。
苦しい。苦しい、熱くて息が出来ない。目も煙が沁みる。
するとまた大きな破壊音と共に俺の目の前の壁に二つ巨大なハンマーが突き出した。
マジ、絶体絶命!?俺!?
「アレン!!」
ハルクが男爵夫人を担いで庭に飛び降りると外ではディーン王子とアレンが剣を交えていた。
その足元には多数の男達が転がる。皆、ディーン王子の手下のようだ。
「ハルク!!」
「そいつは俺に任せろ!!アレン、引け、そいつ、『印』持ちだ!!」
「どうりで。痛いと思ったよ!!このクソッ野郎ッ!」
アレンの肩からは血が流れている。その口元にも血がこびり着いている。
「アレンッ!!すまない、ご婦人、その木の下に隠れて」
ハルクは夫人をそっと降ろすと急いでディーン目掛け走り出す。
「邪魔するなよぉ?ハルク!!やっぱり僕は強いじゃないか?こいつも『印』持ちだよねぇ?でも、ほら、こんなに簡単だ?こんなに簡単に・・・ククッ、こいつはもう死ぬよ?ねぇ?ハルク?僕をバカにした罪だ。さよならだ、アレンとやら」
そうディーンが言うとアレンがその場で崩れる。
そして、ディーンがその胸に剣を振り下ろす。
「やめろーっ!!ディーン!!」
会いたかったよ・・・レオリオ・・・俺、短い付き合いだったよね?・・・けど・・大好きだったよ・・
ダメだ・・目が霞んで・・・
「「姫!!」」
って・・・えっ・・・!?
その穴からダリとゼータの声がする。
急いで俺はその穴に頭を突っ込むと、ダリとゼータがその穴の向こうの隣の部屋にいた。
「早く!!姫!」
「早くこちらに!!」
「ダリ!!ゼータ!!」
俺は先にその穴にミシュリーナを押し込むと待ち受けたダリがミシュリーナを受け取った。
そして、次に俺が穴に頭を突っ込むと待っていたゼータが俺を引き抜き、その肩に担ぎ上げ廊下の外に走り出した。
「クハッ!!」
「アレンッ!!」
アレンに振り下ろされたディーンの剣は素早く繰り出されたアレンの剣で受け止められ、その剣の切っ先はディーン王子の脇腹を貫いていた。
「いい気になんなよ?この、クソガキがぁ!」
アレンのその言葉にディーンの目が見開き、アレンの頭をわし掴みにすると上を向かせる。
「うぅ・・?なんだ・・・と?この!死に損ないが!!」
「死に損ないは貴様だ!!ディーン!!」
ハルクがディーンに飛びかかるとディーンはアレンの剣を脇腹に刺したまま、後ろに跳んだ。
そしてアレンをハルクに投げつけたのだ。
ハルクはアレンを受け止める。
その隙にディーンはアレンの剣を脇腹から引き抜く。
「くっ!!」
「アレン!アレン!大丈夫か!アレン!」
ハルクはアレンをしっかりと胸に抱きかかえる。
「早く・・・追え、ハルク・・」
「もういない。それよりお前・・」
背後にいたはずのディーンは影も形もなかった。
ハルクはアレンの顔を撫でる。
「俺、やっぱり、お前の足手纏いかな・・・?」
「もう、喋るな、アレン」
「・・・俺、こんな俺がお前の側にいるのは迷惑かな・・?ハルク?」
「・・・もう、喋るなよ?アレン・・・」
「なぁ?・・・ハルク、俺は死ぬまでハルクと一緒だよ?・・・な?」
「アレン・・・ったく、お前は・・・こんな時に!ああ、わかったよ?」
するとアレンがガバリと起き上がりハルクの胸倉を掴んだ。
「え?わかった?本当に?本当に?俺、一生、ハルクと一緒にいるから!よし!言質取ったぁ!!よしッ!」
「ああ、わかったよ。ほんと、アレン。それより凄く元気だよな?お前」
「ああ、うん。くさびかたびら、着けてて良かったーぁ!!俺、初めてこれ、着けてて良かったって思ったわ!ああ、うん。ほんと、良かった!」
「どうりで・・・重いと思ったよ?お前。まあ、ちょっと、ズタボロだけどな?」
サルクドール男爵の館は全焼は免れた。
街の人々が駆け付け使用人達と一緒に消火活動を手伝ったので火は思いのほか早く鎮火したのだ。
危機を感じたサルクドール男爵夫人がヘイワーズが館を訪れた途端に自分を囮にして素早く使用人達を裏から逃がしたのだ。そして、その使用人たちが途中で異変を感じ引き返した、ダリとゼータを見つけ助けを求めたのだ。
もちろん、アレンもそのヘイワーズ達の集団に出くわしサルクドール家に馬を取って返していたのだ。
また、男爵と長男セスもダリとゼータ、それにサルクドール男爵家次男、サバンが駆け付け、2人を抑えていた男どもを叩き切り無事救出していた。
けど、ディーンとヘイワーズ二人は取り逃がしてしまった・・・
「ミシュリーナ?貴女も家族も館の人達も本当に無事で良かった。でも、その・・館と、それに、髪飾りは残念だったけど・・でもね?」
「え?シルフィーヌ?これ、なーんだ?」
ミシュリーナの手には緑の翡翠と赤いルビーが光る髪飾りが乗っていた。
「え???」
「ヘイワーズってほんと、馬鹿よね?本物、見た事ないのよね?きっと。あれ、ガラス玉で作った偽物!!いい気味!!オーホホホホホッ!!」
あ、悪役令嬢だよ?紗理奈・・・
いつも長文、飽きずに読んで頂き本当にありがとうございます!
感謝です!!




