気合も勘違いも実力のうちの件
今日もよろしくお願いいたします!
「リタ?カレブいないの、さみしくない?それに結婚式も一年も伸びちゃったでしょう?」
朝、起きるとリタがいろいろ世話を焼いてくれ今も髪を丁寧に梳いてくれている。
「結婚式はお嬢様とルカ様が出てくれなきゃ嫌ですし、私もカレブ様も本当はお嬢様に付いて行きたかったのです。旦那様はカレブ様にお嬢様が戻られるまでこの邸の皆を守るように言って下さったのですがルカ様も旅立たれると言われた時、絶対、自分がルカ様を守るのだと言ってお供役を誰にも譲らなかったのです」
「・・・そう・・・カレブらしい」
「はい。カレブ様の事は誇らしいです。ただ・・・お嬢様もルカ様もサルト様も旅立たれて館が凄く広く感じます・・・とても寒々しいのです・・・」
ああ、そうだね・・・
ルカの部屋のドアノブ、何回握ってるんだろうな?俺も・・・いないのはわかってるのにな・・・
「二週間前に届いたミシュリーナの手紙ではまだ養女として引き取られたサルクドール男爵家にいるみたいね」
俺は封を開けずに保管していてくれていたミシュリーナの手紙を見せて俺の部屋に集まった皆と会議だ。
そう、俺は国を出る前に戻れば必ず会いに行くので居場所だけはこまめに知らせて欲しいとしたためた手紙をミシュリーナに出していたのだ。
「サルクドール男爵領はここアントワート領から北西に片道一週間はかかる山間部の合間にある。領地は広く隣国から続く街道もあり旅人や商人も行き交うなかなかの賑わいのある宿場町もある。それにサルクドール男爵はなかなかの商売上手だと聞いている」
バルトも一緒に俺の部屋の壁に貼ってある地図を使ってサルクドール領、シュナイダー領の場所を指で示して皆に説明してくれる。
「ではそちらに回ってからシュナイダー領に向かうとしようか」
俺の向かいに腰かけたハルクが顎に手をあて考えこむ。
「シュナイダー領には僕とバルト、アイリーンが向かうよ?そして帰りに僕達を拾ってよ?その方が能率的だよ?きっと」
「ああ、確かにセルフィの提案が正しいな。構わないか?バルト」
「承知。シルフィーヌを頼めるか?アレン」
「ああ、任せとけ。バルト」
ハルクの横に座るアレンがバルトを見て頷く。
「私はハルク様と行きたいのです、お兄様」
「アイリーン、仕事優先。ハルクはお前の元に必ず戻る。我慢しろ」
セルフィがすぐさまそう命じた。
「はい。承知いたしました。セル兄様」
少しハルクを伺いながらもアイリーンはそう即答した。
おや?セルフィは仕事に厳しいね?
有無を言わせないな?さすが、皇帝一家ご次男様。
しかし、ここで二手に別れたことがあいつに有利に働くとは誰も思っていなかった・・・
そう、あいつがこの国に来た目的がまさかこっちにあったとは・・・
「亮!飛ばすぞ!!」
もう、月が昇って来てるのに俺と兄貴、アレンは馬で荒野を駆けている。
それも昼飯かき込んでからずっと馬を走らせてる状態だ。
「何だよ!?アイリーンがいなければ昼夜を問わず、馬で移動かよ!?もうちょっと、俺を大事に扱えよ!一馬!」
「本当だぞ!ハルク!これでもシルフィーヌはお姫様なんだからな!」
「アレン、そいつは俺の弟なんだよ!!仕事スイッチが入ると俺よりタフだから気にするな!!」
「何だよ!?仕事スイッチって!?」
「本気モードだよ!!」
「だから!!それ、解らん!!」
「ああ、アレン!!いい!いい!もう、馬潰れるまで大丈夫だから!!」
「いや、馬が潰れそうだ!休むぞ!シルフィーヌ、いいな!ハルク!」
ああ、声、張り上げすぎて喉カラカラだし砂ぼこりだらけだよ・・・
それにやっと、飯にありつけるよ・・・
「ハルク、お前に厳しすぎないか?シルフィーヌ?」
俺は風呂上がりの髪をタオルで拭きながら中庭のベンチで夜風に吹かれ星を眺めていた。
そしたら同じくアレンが風呂から出て来て横に座った。
俺と同じように頭を拭きながらなのが可笑しい。
ここ、とってもいい宿だ。飯は上手いし、清潔だし、温泉もあるし、夕涼みが出来る中庭もあるしな。
ああ、温泉凄く気持ち良かったぁ~、これでフルーツ牛乳あったらオールオッケーだよな?
さすが治安のいいオールウエイ国だよね。
「ええ?前世からあんなんだよ?兄貴は。アレンにもダンにも部下にもあんなんじゃん?」
「いやお前、今、侯爵令嬢だろ?次期王妃だろ?女の子だろ?酷い扱いだぞ?それに、そんな格好でこんな所で一人になるな。また変な奴に襲われるゾ」
「オオッ!アレン、心配してくれてんだ?ハハッ?嬉しいねぇ」
「まあ・・・な?バルトに頼まれてるからな?」
「アハハ、サンキュッ!アレン、大好きだよ」
「・・・・・・それより、お前さ?どーすんだよ?この先」
「えっ?なになに?どうもしないけど?ちゃんと一年、お仕事したら帰るよ?」
「お前、とぼけるなよ?ハルクも俺にちゃんと言わないし。俺にも『印』があるから凄く気になるんだよ?『印』を背負うと言う事はなんか使命があるはずだろ?お前やお前の国の『印』持ち達の使命ってなんだ?俺はお前とバルトの『印』の関係の話をセルフィから聞いたんだ。ハルクの話もな?今から会うミシュリーナって女の子もそれに関係あるんだろう?」
「・・・・・・ああ、そうだよ。だから、セルフィはわざとバルトとアイリーンを外したのさ。それにハルクが急ぐわけもそうだ。アレンは変に感がいいよな?それに・・・アレンが心配してる事は多分、当たってるんだろうよ・・・けどな?俺達兄弟もそれについて、またそれを乗り越える手段についてはまったく検討がつかないんだ。だからミシュリーナの知識と記憶が必要なんだ。それも早ければ早い方がいい」
ああ、なんて大きな満月なんだろう。
俺は月に話しかける様に夜空を仰ぎ見ながらアレンに答えた。
「俺とフリードの『印』はもう二重の円が浮き出ている。つまり、もう使命を果たしたと言う証拠だ。だが、ハルクは変わらない。セルフィもカルロス皇帝もだ・・・まだ、何か大きな使命が残ってるのだろうか?俺は使命を終えた俺やフリードは本当にハルクやお前、バルトの助けになるのだろうか?」
「何だよ?アレンらしくない。いつものアレンでいてよ?その為に駆けつけてくれたんだろう?それにあんな兄貴と8歳の時から一緒なんだろう?正直、めんどくさくないか?ハルクって」
「6歳からだ・・・・」
「え、マジッ!?アイリーンより長いじゃん?腐れ縁~っ!!ハハッ、凄いよ?アレン。よく飽きないよな?まったく・・・フフッ、兄貴はいい幼馴染みに恵まれたよ。ダンといい、レイモンドといい」
「・・・・確かにめんどくさいな、ハルクは・・・俺の言う事、素直に聞いた事がない。いつも斜に構えて貴族としての体裁をすっ飛ばす。だから社交の事に関しては今でもレイモンドに注意を受けてる。俺としては慎重派で貴族の誇りを重んじるレイモンドの言う事が正しいと思うけどハルクは気にしないでサッサと事に及ぶんだ。だからいつも俺は板挟みでハルクの擁護ばっかだ。その点、ダンは要領がいいし、柔軟だからさ?そんなレイモンドをちゃんと宥めてハルクにもちゃんとダメな事はダメって言ってちゃんとフォローもする。けど俺は小さい時からハルクしか見てなかったから変にハルクと一緒なら何も怖くなくて大丈夫だなんて変な安心感もあって・・・実際、ハルクも俺もいままで嘘のように何事も上手く乗り越えてきたんだ。だから余計に変な依存心がついてしまってるのは自分でもわかってるさ。だから、だから余計に今回ハルクがお前とこの国に行くって言った時は焦りしか無かった。変に胸騒ぎがして居てもたってもいられなかった・・・」
「・・・・・ならさぁ?アレン?ちゃんとハルクがこの使命を、この運命を乗り越えるとこ、一緒に乗り越えてよ?弟の俺からもお願いするよ?」
「お前さぁ?弟のくせに俺より酷いよな?なんの根拠も無いのに、お前なら乗り越えられるってハルクに押し付けるわけだ?お前、楽観主義者か?」
「ちがーうっ!!アレン!そこは嘘でも大丈夫!!って暗示かけなきゃダメだろう?人間なんて思い込み!俺、出来るかも~っ!お前と一緒なら絶対大丈夫!!って気合の問題だよ?自分でもさっきアレン言ったじゃん?そう言う根拠のない勘違いと自身、スッゴク、力になるんだからね?」
俺は笑いながらアレンの額に軽くデコピンをしてニカッって笑って見せた。
「って!・・・って・・・何だよ?・・・お前もハルクも・・・いつも俺に任せとけって、策もないくせに胸張るからさ・・・絶対、ホラ吹きだよな?お前ら」
「うるさい、アレン!自己暗示と気合いだ、気合!気合いがあれば何でも出来るーッ!!てな?、アハハ」
「・・・今回の事は気合で乗り切れたら苦労はしない。この博打打ち兄弟め」
アレンが俺の頭を肘で小突く。
「ふん。くっ付いて来たアレンも一蓮托生、ご愁傷様、あきらめな?ハハッ」
俺も負けじとアレンの頭を軽く押す。
「ああ、もとよりその気だよ。だから俺はここに居る・・・だからなぁ?お前さぁ・・・?」
急にアレンがその俺の手を引くと俺を胸に抱き寄せた。
「ん?」
俺はアレンを見上げた。
するとアレンの真剣な顔が俺の目の前にある。
これって、今、どう言う状態?俺?
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