サドンデスの件
なかなかの白熱戦だと思うよ?俺対バルト。
正直まともに剣で受けていたら身体が持たない。一刀一刀が本当に力強くて重くて手がちぎれそうだ。
俺、上手くかわしてはいるがやっぱりこの体格差、真向戦はダメだな。もう、息が上がって来ている。
まあ、バルトも息が上がって来ているがな。どこまで行っても互角みたいだな。
しかたない。俺は審判に向かって手を挙げ叫んだ。
「タイム!!」
「タイム有効!」
審判がバルトと俺双方に赤い旗を上げ休憩を挟む。
俺はその場で刀を投げ捨て手甲・足甲・胸当ての鎧もすべて脱ぎ棄て半袖・短パンに長ブーツと言うラフな格好になり両足首ホルダーに装備しているムチを抜き出すと両手に構えた。
場内の観客から歓声が上がる。俺は息を整える。
集中、いざ、参る!
審判が旗を振り下ろす。
「始め!」
号令が掛かるとともに俺はバルトの胸元目がけて突っ込む。両手のムチを唸らせ、体制を低くし、迎え撃つバルトの向かって左上から振り下ろされる剣を避け、ジャンプする。
しかしバルトの剣の切っ先は俺の顔の銀マスクを見事に真っ二つにした上、俺の右肩をかすめた。
いっ、痛いわ!!
しかし俺もすかさず剣を振り下ろしたバルトの肩を蹴り、空中で一回転して奴の背後に着地する。
その際、両手のムチを交差させ右手のムチはバルトの首に左手のムチは剣を握りしめるバルトの左手首に絡めつけている。
そう、俺は満身の力を込めてバルトを後ろに引き倒す気だった。
しかしバルトは空いてる右手で首のムチが締まるのを防ぎ、前倒しの姿勢を取ろうとした。
あの?首、もげるけど?
その時、審判が旗を振り上げ高らかに叫んだ。
「そこまで!!勝者、バルト・シュナイダー!!」
一拍、遅れてワーッ!!っと歓声が一気に沸く。
へ!?
なんで!?
なんでだ!?
俺がこのまま続けるとこいつ死んじゃうからか!?
俺はとにかくムチを緩め、振り返って片膝着いたままバルトの背中を見て唖然としていた。
向こうを向いてむせているバルトも訳わからないみたいだ。
そして俺は気が付いた。
あっ、俺、跪いてるわ。
闘技場の医務室に移動して手当てを受ける。
おおっ、右肩出血したわりには折れても裂けてもないな~。よし!セーフ。
縫った方が治りは速いのだが傷跡が残るのは女の子なので困るから縫わない方向で治療するとの事だった。仮面も割れちゃったけど顔に傷は奇跡的になかった。
まあ、でも、もうちょっとズレてたら鼻なくなってたな。ホント、セーフ!
治療は済んだが出血が相当あったので長椅子で仰向けに寝かされている。
今、決勝のルカ対バルト戦が始まったので医者達まで見に行った。
ので俺は医務室に一人で待ちぼうけだ。
なんか力が入んないや。ちょうどいい。一人になりたかったし。
いつもの熊さんの歌ハミングだ。
見たかったな。
いや、出たかったな・・・・・
負けた。
うーん、負けた。負けた。負けた。
うーん。
あんたバカー!?って耳元でリフレインしてるわ。
あー、今頃になって傷口相当痛いわ。
泣いてもいいかな?
まだ俺10歳なんで。
泣いちゃおうかな?誰もいないし。
今なら誰も来ないしな・・・・・・・
ハミングが詰まった。
涙もにじんできた。
俺は左手で顔を隠す。誰も見てないけどな。
すると急にその左手を持ち上げられた。
「カッコよかったよ。僕の勇者様」
優しく笑ったレオリオの顔が俺を見下ろしていた。
俺はびっくりして涙が止まってしまった。
そしてガバリッ!!と勢いよく起き上がった。
「ツッ!」
右肩、痛いわ!
「無理しないで」
レオリオが自分のマントを俺の頭からすっぽり被せ、左横に座ると両手を俺の腰に回し包み込み頭をレオリオの右胸に持たれさせる。俺はそうされても下を向いて顔を上げることが出来ない。
「・・・・あの!マント、このマント貸しててもらえますか?もうすぐ表彰式ですよね?レオリオ様授与するのでしたよね?行ってください」
「国王陛下がするから大丈夫」
えっ?今日、王いたっけ?
「君がいない表彰式なんて興味ないから」
いやいや、そりゃダメでしょ?公務でしょ?
「えっと、国王陛下いましたか?」
「さっき着いたから大丈夫」
「えっ?さっき?呼んだのですか?」
「君の方が大事だからね。それよりもう帰って休もう。僕が送るから」
・・・いいのか?それで?何か、それ違うよね?
いつものレオリオらしくないよ?すごく不機嫌だよね?
「・・・あのっ!レオリオ様・・・あの、ごめんなさい」
「何で謝るの?」
「だって・・その・・レオリオ様を心配させたでしょ?こうなるかもって思ってたでしょう・・・?」
「・・・・そりゃ、心配はしたよ?当たり前だよ。でも君は出ないと納得しない事もわかっていたからね。結果がどうであれ最後に君をこうやって抱き締めるのは僕だってわかってたから」
そう言うとレオリオは俺の腰をさらに強く抱き寄せた。
だけど俺の顔は見ない。俺も顔を見せない。
なんだよそれ?
なんだよ。
「私、鼻なくなってたかも・・・そんな顔じゃ、レオリオ様のところにお嫁になんかいけなかったわ・・・ね?」
「銀マスクの王妃様になってたかもね。フフッ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
「だから謝らなくていいよ」
「だってすごく怒ってる、ごめんなさい」
「・・・・・・・・・」
「レオリオ様・・・・?ごめんっ!?」
急に頭を抱えられ唇を塞がれる。
それも無理やり口を舌で割られ思いっきり、歯をなぞられ、舌が割り入って来る!
や!ダメ!シルフィーヌ、もう、絶対、お嫁に行けない!!
もう、無理!!絶対無理!!
人の口を貪るなーっ!息できないからっ!やめてもう~っ!お願いだから!
俺はレオリオの胸をドンドン両手で叩く。
レオリオがハッと我に返ると俺の手を押え、唇が離れた。
「止めろ!傷口が開く!」
「!!」
俺は驚いて手を止めた。
「ごめん、シルフィーヌ、怒鳴ったりして。肩見せて?痛いでしょ?」
「・・・・・肩は大丈夫・・です・・」
何か顔よけいに上げられない。急いでうつむく俺。
肩より心が痛いわーっ!10歳でディープキス・・・・婚約した日以降は清い付き合いだったのに・・・・本当に何にもなかったのに・・・またいきなりディープキスって・・・
それでなんでそんなに上手いわけ?普通13歳でそんなことする?王子様だから?王子様だからか?
ああ、もう、何かやだ・・・・
するとレオリオが、そんな俺の頭を片手で抱えて腰を抱き寄せた。
そして俺の顔を持ち上げ顔を真っ直ぐ見下ろすと吐き出すように言った。
「ああ、怒ってる。どれだけ心配したと思ってる?もう本当に君をめちゃくちゃにしたいほど怒ってるよ!君を失うかもって思って気が狂いそうだったよ!!」
「・・・・・・・・」
・・・・・・そうなの?
・・・・・・えっと、そんなに?俺、そんなに心配されてたの?
レオリオの頬が怒りで赤くなってきた。レオリオの綺麗な緑の瞳が揺らぐ。
「ほんと、君は僕の事何だと思っているんだよ!僕は君のいない人生なんて考えたくないんだ!君しかいらないって言ったよね!?」
レオリオの目頭が赤くなって涙が一筋流れた。
・・・・・・・
・・・・・・・・ああ、俺、やっちゃったな・・・
・・・・・・・・・俺、大切な人、泣かしちゃったな・・・
俺はそんなレオリオを真っ直ぐ見上げて両手でレオリオの頬を挟む。
「レオ・・・大好きよ。心配してくれてありがとう。そして泣かせてごめんなさい」
俺はレオリオの涙を親指で拭き取るとそっとレオリオに自分から口づけた。
そして俺は告げたのだ。
「レオリオ様、愛しています」と。
やっとグランドマッスルとバルトが書けました。
そしてシルフィーヌはこの通りとてもドジで王子はムッツリです。(シルフィーヌにだけですが)
こんな話でよければまた明日もお付き合いください。
読んでいただきありがとうございました。




