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エピローグ -セツナ-


 「バカねぇ〜。なんでお祓いしてもらわなかったのよ」

 「あははは……。まあ、よかったじゃない。いつでも来れば除霊してあげるって爺さんも言ってたし」

 「いいんですよ。俺は今の状態がけっこう気に入ってるんで」


 ここはとある病院の一室。

 あの事件の後、東さんと神島さんは相部屋で仲良く入院中。

 ただ、東さんは足の怪我だとして、神島さんはなぜか再会した時点でボロボロ。

 とんでもない悪霊に襲われたと(うそぶ)いていたが……。

 まあ、眉ツバもんだな。


 「でもさ、軽いとはいえ呪われたまんまなんでしょ?」

 「う〜ん。これって呪いって言うのかなぁ?」

 「ほら……けっこう痛そうだよ?」


 東さんが指差す先には、背の高いスレンダーな看護婦さんが俺の頭にヘッドロックをかけている姿。

 さらにお尻に座薬を詰め込もうと、俺のパンツを下ろし始めていた。


 「ほい、喝ッ!」


 神島さんの気合いで、看護婦さんは正気を取り戻す。

 ああ、ちょっと。いいところだったのに。

 正気に戻った看護婦さんは、平謝りをしてそそくさと病室を出て行く。


 「だけど面白いねぇ。あの"おとなしさん"と同じ、長身で貧乳の女性に虐められやすくなるとか。そんな呪いもあるんだねぇ。ああ、いや。呪いだから、かしかまはんかしら?」

 「元は同じ人ですからね。どっちもじゃないですか?」

 「いいんじゃないのチーコ? 本人はうれしそうだったし。なあ、バイトくん」


 うん。いや。えーと。どっちなのかな。

 俺はパンツを引き上げながら、まだ少し悩んでいた。

 これまでは女性から、あんなに密着されたことはなかったしな。

 これはこれでいいのでは?

 神島さんのお爺さんの話だと、現在の俺は長身の女性を興奮状態にしやすくなっているらしい。

 それならば勢い余って一線を越えちゃうことだってあるかもしれないし……。


 俺達は全員、かしかまはんの静寂の呪いを受けていた。

 しかし、それを中和してくれた存在がいるという。

 それがセツナ。

 彼女が俺達にかけた呪いのおかげで、かしかまはんの呪いは相殺されたそうなのだ。

 俺の場合は一度、狙われていたためなのか、ちょびっと残っちゃったけど。

 爺さんは言ってたな。

 呪いも有益ならば、それは御利益だと。

 人はそれを"祝福"と呼ぶそうだ。

 あんな闇の存在から生まれた怪物が、誰よりも清らかな心で行動し、最後に俺達を救ってくれたんだ。

 それは紛う事なき祝福。

 その言葉以外に、あの現象を表現できるものはありはしない。


 セツナに関しては……今はまだ東さんの前で話すことは出来ない。

 その話になった途端、彼女の涙は止まらなくなってしまうから。

 もう少し落ち着いてから、ゆっくり話そうと思う。

 せめて退院をするまでは、神島さんの優しさで癒やされてくれるといいのだが……。

 そんなこちらの心配を余所に、東さんは明るくお喋りを続けている。


 「そういえばさ〜。最後、なんでかしかまはんが来ちゃったの? 密議の時のかしかまはん対策は杜代もしていたはずでしょ?」

 「バイトくんの提案でね。あいつと同じ事をしてやったのさ。僕がボイラー室の制御装置を使って片っ端から電源を落としてやったんだ。地下湖の照明以外はね」

 「それを知らずに杜代は拳銃をぶっ放した。だから真っ先に一番大きい音を立てた杜代をかしかまはんは襲ったんです」

 「なるほどね〜。やっぱバイトくんやるなぁ〜。これからもウチで働きなよ!」

 「あはは……もうご免ですよ、あんなの。……と、いいたいところですが、お給料は良かったんで気が向いたら」


 しかし、とんでもない事件だったな。

 その後の警察の調べでは、杜代の遺体どころかセツナが棲息していた痕跡すら発見できなかったという。

 地下室で囚われていた11人の"おとなしさん"も、全て消え失せてしまっていたそうだ。


 虚賂棄転輪か……。


 誉響神代にまつわる全てを無に返すと言っていた禁術。

 その効果が現れたということなのだろうか?

 一瞬ではあったが不思議な光景が目に焼き付いて離れない。

 杜代は……あの造られた女性の顔と何を話していたのだろう。

 あの時の老人の晴れやかな顔は、彼の言っていた贖罪が成就した証だったのかもしれない。

 今となっては、その真実を確認することはできないが。


 そういえば俺も気になることがある。

 なんで東さんが巫女に撰ばれたのだろう?

 率直にその疑問をぶつけると、彼女は目元をもぞもぞしながら答え始める。


 「あ〜それはね〜。ほい。私、カラーコンタクトなんだ。元々、灰色の虹彩なの。祖先は杜代と同じなのかもね」

 「へぇ〜。珍しいですねぇ。なるほど。外国人の血が入っているならナイスバディも納得がいきます」

 「昔は虐められたりして嫌だったんだ……。でも、いい機会だし、このままでいってみようかな?」

 「チーコはどっちでもかわいいいよ」

 「え〜そうかなぁ〜。黒目も気に入っているんだけど〜」

 「はいはい。もうそろそろお邪魔しますよ。そうやっていつまでもイチャイチャしててください」


 俺はニヤニヤしながら病室を後にする。

 まったく……どうにも付け入る隙はなさそうだな。

 悔しいですけどお似合いですよ。お二人さんは。


 まあ、新しい出会いは呪いのおかげでアチラからやってきそうだし。

 ホラ。さっきの看護婦さんが、俺を見かけるなりダッシュしてきた。

 デカイ浣腸を握りしめて……。

 えっ? いや、いいのかな。こういうの。

 初めてだから、あんまりハードなのはちょっと……。


 この後に起きた事は誰にも言えないヒミツ。

 その日から俺は、長身貧乳の女性を"天敵"と呼ぶ事になる。

 今この時点では知る由もなかったが……。


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